第46話 時差
「これがこの世界に来て経験したことよ」
静華は話し終えると、カップに口を付けた。
「ちょ、ちょっと待ってください」
静華の話を聞いて琉海は混乱していた。
「どうしたの?」
静華は気づいていないようで首を傾げた。
それもそうだろう。
琉海はこの世界に来て、何日過ごしたのか教えていない。
「静華先輩はこの世界に来て、八ヵ月経つんですか?」
「ええ、そうよ。それがどうしたの?」
「俺がこの世界に来てから、まだ、一ヵ月も経ってないんですよ」
「……え?」
「静華先輩が八か月前。俺が大体一ヵ月前。誤差が七か月もあることになります。そして、そんなことがあり得るとしたら――」
「もっと前にこの世界に来ている人もいるかもしれないってこと?」
琉海の推測と同じことを静華も考えたようだ。
「その可能性もあるかもしれません……」
正直、この情報は知りたくなかったかもしれない。
(静華先輩がこの世界にいるということは、雫や刀香、郁人もこの世界に来ているのだろう。いや、もしかしたら、これからなのかもしれない)
「そういえば、高木先輩は一緒じゃないんですか?」
静華といつも一緒の彼女がいないとなんだか、違和感がある。
「梨々花の居場所はわからないわ。私がこの世界に来たときに一緒だった人以外で、会った人は琉海君が最初だから」
「変なこと聞くかもしれませんが、この世界に来る前は高木先輩と一緒だったんですか?」
「ええ、そうよ」
「飛行機から落ちたりとかしてませんよね」
「うーん、記憶にないわね。それがどうかしたの?」
「いえ、なんでもないです」
つまり、この転移現象は個人個人の距離は関係なく。
飛行機から落ちた琉海と同じわけでもない。
無作為に選ばれ、転移されているということだろうか。
静華と出会えたことは奇跡に近いのかもしれない。
「それで、琉海君はこれからどうするの?」
「俺は、アンリを助けないといけないんで……」
琉海は申し訳なさそうに言うが――
「いいわ。私も手伝うわよ」
「え? でも、静華先輩もやることがあるんじゃ」
「うーん、なんて言えばいいんだろう。琉海君と一緒のほうが、私の目的も達成できる気がするのよね」
静華は顎に手を添えて言う。
女の勘というやつなのだろうか。
だが、答えは別のとこから降ってきた。
「なるほどね。この娘(こ)も面白いわね。彼女も《トランサー》みたいね」
トランサー。
静華の話で琉海が初めて聞いた言葉だったが、エアリスは《トランサー》を知っているようだ。
「この娘の能力は《超直感》といったところかしら」
「すごいわね」
エアリスの回答に驚く静華。
「伊達に高位精霊をやっていないわよ。昨日の戦闘で琉海の攻撃を躱せていたのも、その能力のおかげといったところかしら」
「ええ、そうよ」
静華は頷いた。
あの先読みの動きは、超直感によるものだったらしい。
エアリスはさらに指を一本立て、
「ちなみに、ルイも《トランサー》なのよ」
「「……え?」」
静華と琉海の声が重なる。
そして、静華は自分と同じ反応をした琉海に視線を向けた。
視線から琉海がなぜ驚いているのだろうと思っているのが読めた。
「いや、俺も初めて知ったから……」
琉海はエアリスにどういうことだと視線で訴える。
エアリスは自分が選んだ自慢の宝物をお披露目するかのように大仰に話しだす。
「ルイの能力は完全記憶でしょうね」
「いや、それは昔からだから」
「昔からとかは関係ないわよ。《トランサー》になれる素質のある人間はいずれ能力を開花させるわ。特に、魔法を具現化させることのできるこの世界では、開花させやすいのは確かね」
「それ、説明になってないだろ」
「つまり、《トランサー》になりにくい世界で才能を開花させることができたルイはすごいってことよ。そして、それを見抜いた私はもっとすごいってことね」
エアリスは自画自賛する。
話が脱線しはじめたので、琉海は咳払いをして、話を戻す。
「それで、静華先輩はその超直感で俺と一緒に行動する方がいいということでいいんですか?」
「ええ、お願いするわ」
「私も異論はないわよ」
こうして、静華は琉海と共に行動することになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます