第42話 再会

 昨夜は、エアリスに静華を見てもらって琉海は床で寝た。


 何かあれば、教えてもらうことになっていたが、何も起こらず朝を迎えた。


 琉海が起きて部屋から離れている間に静華の瞼が開いた。


「…………ッ!」


 知らない天井を目にして何かを察した静華は飛び起きた。


 咄嗟に自分の体を確認して、裸にドキッとするが、何かされた形跡がないのを確認すると、ホッと息を吐いた。


 静華の記憶は敵に組み倒され、意識を飛ばされたのが最後だった。


 その後、何があったかわからない。


 服は脱がされているが何ともなさそうだった。


「それに、ここは……どこ……?」


 静華は簡素な部屋を見回した。


 どこかの宿だろうか。


 どうやって逃げようかと考えていると、ガチャっと扉が開く音がした。


 手元に武器はない。


 いつでも飛び掛かれる態勢で待ち構えた。


 部屋に入ってくる姿が見えた瞬間に、静華は動こうとしたが、顔を見て驚く。


「琉海……くん……?」


「目が覚めたんですね。会長」


 琉海はマグカップを持ってやってきた。


「色々聞きたいことがお互いあると思いますけど、これを飲んで落ち着いてください」


 中身は紅茶に近い飲み物だった。


 静華はカップを受け取り、一口飲む。


 暖かさが体に染み渡り体の緊張がほぐれていく。


 心がここまで安堵しているのは飲み物だけではない。


 知っている人に出会えたからだろう。


 再度、カップへと口を付ける。


 琉海は落ち着くまで無言で待った。


    ***


 琉海から受け取った飲み物をある程度飲み終わると、静華は辺りを見回した。


「どうかしましたか?」


「えっと……私の服はどこにあるかしら?」


「え…………?」


 琉海は静華が裸であることを知らなかった。


 服と言われて疑問を浮かべたが――


「あッ……!」


 思い当たる人がいた。


 おそらく、女将さんだろう。


 昨日の内に、濡れている上着だけを脱がしてもらったはずなのだが、全部脱がして

しまったようだ。


 おそらく親切心で服を洗ってくれたのだろう。


 今は朝。


 まだ乾いているとは思えない。


 琉海は静華の服装を鮮明に思い出し、『創造』した。


「え? なにそれ……」


 突然、光の粒子が集まって生み出された服を見て、静華は驚く。


「このことも含めて話す前にこの服を着てください」


 琉海は『創造』で作り出した服を静華に渡し、一旦部屋を出た。


 数分すると、静華から入室の許可をもらい、入る。


 そこには、紫を基調とした色のスカートとシャツを着ている静華がベッドに腰かけていた。


「その服は仮なので、あとで着替えてくださいね」


『創造』で作り出したものが、琉海からどれぐらい離れたら消えてしまうかわからない。


「会長が来ていた服は、おそらく、この宿の女将さんが洗濯してくれていると思うので」


「そう、わかったわ。それよりも、さっきの魔法は何? あんなの見たことないのだけど」


「そうですね。じゃあ、まず俺のほうから、今日まで何があったのか話します」


 琉海はそう言って、この異世界に来てエアリスと出会い、村が襲われ、生き残り、アンリを探すためにこの町に来たことを話した。


「……なんだかすごい経験をしてきたのね」


「そうですね。日本じゃありえない体験はしているかもしれないですね」


「その精霊のエアリスって娘(こ)は、この部屋にいるのかしら?」


『呼んだかしら?』


 琉海の中にいたエアリスが姿を現す。


(お前は俺以外に見えないんだから、出てきてもしょうがないだろ)


『そんなことはないわよ。マナを大量に私にちょうだい。そしたら、見えるようにできるわ』


 琉海はそんな話聞いてないと思いつつ、マナを生成し、エアリスに送り込んだ。


 すると、静華の視線が琉海の隣に向いた。


 エアリスを視認したようだ。


「はじめまして。私はエアリス。高位精霊にしてルイの契約精霊よ」


 握手を求めるエアリス。


「あ、はじめまして。私は藤堂静華と言います。よろしく」


 静華はエアリスの手を握り、握手を交わした。


「……綺麗な娘ね」


 静華が小さく呟いた。


 その声は琉海には届かなった。


 エアリスが他の人間に見えるようになったことには驚いたが、話しを進ませようと琉海は咳払いする。


「それじゃ、会長。次は会長の番です」


「その前にその会長ってのやめないかしら? ここは学校じゃないし、地球ですらなさそうだし」


「そうですね。では、藤堂先輩で言いですか?」


「えっと……できれば下の名前がいいかしら……」


 しおらしく言う静華。


 なんだかその雰囲気が学校で会長だった静華とイメージと差異があった。


 首を傾げるも琉海は了承した。


「わかりました。静華先輩」


「……静華先輩か……まあ、いいかしら」


 小声で静華の声は聞き取れなかった。


 静華は仕切り直して話を続ける。


「じゃあ、私がいままでどうしていたか話すわ」


 そう言って静華は真剣な顔になった。

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