第35話 攫われる!
『それで、これからどうするの? この町にあの男たちは来てないみたいだけど』
「どうするかな。近くの町か村に行って聞き込むしかないとは思うんだけど……」
頭に直接聞こえてくるエアリスの声に言い淀む琉海。
『ルイはこの近くのどこにどんな町や村があるか知っているの?』
「いや、まったく知らない。そこが一番の問題なんだよな」
『じゃあ、地図を買うしかないんじゃない?』
「そうなんだけど……」
エアリスの言っていることは最もなのだが、そこには問題があった。
実は昨日、制服から平民向けの服に着替えた後、地図を買いに雑貨屋にも行っていた。
雑貨屋では地図も売っていた。
雑貨屋の亭主が切り盛りする受付の棚の奥にしまっていた。
実物を見せてもらうことはできなかった。
この世界での地図はかなり効果なもので商品を傷つけられたり、盗難に合う可能性を警戒しているようだ。
そして、その貴重性から値段は馬鹿高かった。
金貨二枚。
琉海の手持ちは銀貨七〇枚ほど。
銀貨一〇〇枚で金貨一枚相当なので、銀貨一三〇枚足りない計算になる。
一度でも現在地の周辺の地図を見せてもらうことができれば、
地図なしで人から聞いた情報を頼りに町を転々とする方法も考えたが、全体図がわ
からない中、闇雲に探すのは効率が悪く時間もかかる。
一種の遭難者と変わらないのではないかと、琉海は思ってしまった。
つまり、今一番欲しいのは金だ。
昨日の夜、ずっと考えていたのが、賊を捕まえて懸賞金を得るという方法。
この方法に必要な手配書は手に入った。
後はどこに懸賞金のかかった賊がどこにいるかの情報だけ。
幸いにも『賊狩り』がこの町の近くに来ているということは、賊が近くにいる可能性が高い有力な情報だ。
「賊が隠れ家にしている場所は地道に情報を集めていくしかないな」
琉海は情報を集めるために冒険者が頻繁に出入りする酒場や宿で聞き込みを始めた。
***
琉海が賊の情報を集めはじめてから、三日が経った。
「お客さん。こちらの宿に泊まっていきませんか?」
ミリアが店前で客引きを行っていた。
琉海の客引きに成功してから、ミリアは自信を持てたのか店先での客引きを頻繁に行っていた。
「こちらの宿では朝夕食が付きまして銀貨二枚となっています」
積極的に話しかけ、断られてもめげずに客引きを続けている。
そんなミリアが客引きをしている大通りで二人の男が大声で叫び取っ組み合っていた。
「ふざけんなッ!」
「殺すぞッ!」
冒険者がまた喧嘩しているのだろう。
二人の男を横目に通り過ぎる人たち。
誰も止めようとかはしない。
これがこの町の日常だからだ。
できるだけ巻き込まれないように距離を保ち、横切る。
ただ、日常であるとはいえ、注意は集まる。
どんなことで火の粉が飛んできて巻き込まれるかわからないからだ。
ミリアもそちらに意識が向いていた。
そのせいで、後ろに立つ影に気づけなかった。
そして――
「…………ッ!?」
突然、現れた男に路地裏に引き込まれてしまう。
暴れるも相手の方が力が強く、すぐに拘束されてしまった。
「んーーんーーッ!」
大声で叫ぼうとしても口元を覆われて大声を発することもできない。
「少し黙っていろ!」
首の後ろを叩かれ、ミリアの意識は飛んだ。
店先の大通りで少女が消えたことに気づいた者はいなかった。
奇しくも、周りにいた者たちは別の場所に視線を奪われていたのだ。
誰にも知られることなく姿を消してしまったミリア。
彼女はどこへといったのか知るものはいなかった。
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