第36話 捜索

 賊の情報集めは芳しくなかった。


 冒険者たちも探しているようだが、発見までは至ってないようだ。


 中には、もう『賊狩り』に狩られているんじゃないかと言っている者もいたが、それはないだろうというのが、大多数の意見だった。


 狩られた後なら、手配書がギルドから消えているはず。


 いまだにギルドの掲示板には三日前と変わらず手配書が並んでいる。


 琉海は朝から昼までを聞き込みに費やし、その後、情報を元に町から離れた場所に隠れ家がないかを探していた。


 今日も成果はゼロ。


「そろそろ見つけられないと、まずいかもしれない……」


 残金も銀貨数枚。


 時間が過ぎれば、それだけアンリを追うことが難しくなる。


 この後のことを考えて宿に戻ろうとしていると、知っている人が慌てている姿を見つける。


 宿の女将であり、ミリアの母親だった。


 忙しなく辺りを見回している。


 琉海はどうしたのだろうかと思い近づいた。


「あ、あの、娘を見ませんでしたか?」


 走っていたのか、息が荒い。


「ミリアですか?」


「はい。さっきまで店の前で客引きをやっていたみたいんですが、どこにもいなくて……」


 ミリアの母親からは焦りの色が浮かんでいた。


 普段はこんなことはないようだ。


 不穏な感じがした。


 その不安を現すかのように空も曇り出す。


「俺も探してみます」


 琉海とミリアの母親とで手分けして探すことになった。


 ミリアが店の近くから離れることはほとんどないようで、どこかに出かけるときは必ず母親に声をかけてから出かける。


 これが約束になっているようだった。


 何かが起きたとしか思えない


「エアリスも探してくれないか?」


『構わないわよ。あの女の子を探せばいいんでしょ?』


「ああ、頼んだ」


 琉海は実体化したエアリスに頼み、さらに二手に分かれて探索する。


 この町内であれば、離れても契約が切れることはないようだ。


 外に出てしまったら、どうなるかわからないとエアリスに忠告されているので、気を付ける。


 通りを歩く人に聞いたりしたが、ミリアを見た者はいなかった。


 嫌な予感がさらに深まる。


 すると、通りを歩く人の会話が聞こえてきた。


「おい、ちょっと前にあいつらを見かけたぞ」


「あいつら?」


「ほら、冒険者ライセンス剥奪された馬鹿な四人だよ」


「ああ、やりたい放題してたからな。でも、よくこの町で出入りできるな。あいつら、もうこの町じゃどこの店にも入れないだろ」


「そのはずなんだよな。」


「じゃあ、なんでまだいるんだよ。なんか悪さでも考えているのか?」


「かもな。なんか、宿の女がどうたらとか言ってたけど……」


「懲りねえな。次、何か見つかったらライセンス剥奪どころじゃ済まされないだろ」


「ああ、牢獄行きだろうな」


「元C級冒険者でもギルドの後ろ盾がないとここまで落ちるんだな。言動には気を付けたほうがいいぞ」


「お前もな」


 そんな会話をして二人は笑っていた。


 ライセンスを剥奪された冒険者。


 四日前に宿で騒ぎを起こしたあの四人のことだろう。


 そいつらがこの町にいた。


 なぜ?


 そして、その四人組が発していた『宿の女』。


 ミリアがいなくなり、元C級冒険者の四人が現れた。


 点と点が線に繋がったような気がした。


 おそらく、ミリアを誘拐したのはその四人だろう。


「ちょっといいですか? そのライセンスを剥奪された冒険者たちってどこに行ったか知ってますか?」


「ん? ああ、あっちだったよ」


 男たちは琉海を訝しんでいたが、愛想笑いを浮かべて丁寧な口調を意識したおかげか、親切に教えてくれた。


「ありがとうございます」


 琉海は銀貨一枚をその青年に手渡して、走り出す。


「エアリス、聞こえるか?」


『なに?』


「ミリアの居場所がわかったかもしれない。こっちに合流できるか?」


『わかったわ。すぐに戻る』


 ある程度離れていても琉海とエアリスは念話のようなことができる。


 あの青年たちの話だと、四人組の男たちはミリアのいなくなった場所から離れていく方向に歩いていたのを目撃している。


 見かけたのはさっきとのことだったので、おそらくミリアを連れ去ったあとの目撃情報だろう。


 そうなると、奴らの潜伏先は、歩いて行った方向だろう。


 そして、この町で隠れることはあの四人組では無理だ。


 冒険者ギルドから追放され、信用を失った者達を客として迎えるとなると、その店も相応のリスクを持つ必要がある。


 少しこの町を歩いただけで、噂されるような奴らだ。


 大金を積まれて何とか交渉できるかどうかだろう。


 大金を手に入れて奴らを客として扱った瞬間、他の客は遠のく可能性がある。


 客が遠のけばその店は潰れるしかなくなる。


 百害あって一利なし。


 そして、この町である意味有名人となっている四人が、この町内で隠れ家を用意す

るとは思えない。


 琉海は四人の立場になって考え、大金を払ってまでこの町に留まろうとは思えなかった。


 そこまで考えて――


 じゃあ、奴らはどうやってミリアを攫ったのだろうか?


 衆目を集める四人ではミリアを誘拐するときに見られてしまうだろう。


 しかし、ミリアが攫われたと知っている者は誰もいない。


 見た人全員に口封じができるだろうか。


 いや、あの四人が姿を見せただけで噂が広まるのだ。


 口封じは少数相手なら可能だろうが、ミリアが攫われた場所は店先の大通り。


 人通りが多い場所だ。


 大勢に口封じができるほどの何かを奴らは持っていない。


「追いついた」


 上からエアリスが落ちてきた。


 家屋の屋根伝いに走ってきたようだ。


「それでどこにいるのかわかったのかしら?」


「おそらく、町の外。とりあえず、走りながら説明するよ」


 琉海はそう言って走り出した。


 エアリスも琉海と並走して走る。


 走りながらエアリスに先程の二人の男の会話を話した。


 そして、琉海の推測も併せて説明した。


「なるほどね。それで、四日前にルイが倒した男たちは何が目的なの?」


「さあ? まあ、ミリアを攫ったのだから、あの宿への脅迫か、ミリアへの復讐かな」


 エアリスに推測を言ってみたものの、あまりしっくり来ていなかった。


 全力疾走している速さで町中を駆けるも琉海たちは、息が切れることはなく走り続けた。


 これでも力を抑えて走っていた。


 次第に門が見えそこを通過する。


 そこで琉海は足を止めた。


「町の外に出たけど、ここからどうするつもり?」


 エアリスの言う通り、ここからどこへ向かえばいいかは、確証がなかった。


 だが、この三日間、賊のアジトの可能性が高い場所は情報としてかき集めていた。


 この東の入口からだと、洞窟やら川辺などもあるが、おそらくそこにはいないだろう。


 東側には、どっかの貴族が建てた屋敷があった。


 しかし、その屋敷は魔物によって廃墟と化し、その魔物が住み着いているらしい。


 何と言っても厄介なのが、その魔物がC級冒険者以上じゃないと倒せないほど強いようだ。


 ただ、その魔物は屋敷を縄張りにしており、町に危害を加えることもないため、近寄らなければ、特に問題がないらしく、屋敷は放置されているようだ。


 賊のアジトにしようとしてもそれだけ強い魔物が番人では、近寄ろうとしないだろうというのが冒険者ギルドの見解だった。


 それらをエアリスに説明して琉海は推測を話す。


「おそらく、あの四人は、その屋敷の魔物を退治して屋敷を手に入れたんだと思う」


 C級冒険者の実力を持つ四人。


 そのC級冒険者なら倒すことができる魔物が住み着いて近づく者がいない屋敷。


 この二つが重ならないとは思えなかった。


「居場所のない連中が見つけた城ってわけね」


 会話をしていると、ポツポツと水滴が落ちてきた。


「雨が降ってきたわね。はいこれ」


 エアリスはいつの間にか創造していた黒のローブを渡してくる。


「ありがとう」


 雨が激しくなる前に着る。


「行くぞ」


 琉海はそう言って走り出した。

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