第33話 スカウト
十数分すると、ミリアに呼ばれたギルド職員たちがやってきた。
四人の男たちを回収し、事情聴取をするギルド職員。
その中に今日の朝、琉海のことを貴族と勘違いしていた女性がいた。
銀髪で眼鏡をかけている姿は、できる秘書のように見える。
彼女は一人ずつ事情を聴取し、紙にメモしていく。
そして、順番が琉海に回ってきた。
「えっと、あなたが四人の冒険者を一人で倒した人ですか?」
メモをめくりながら確認し、顔を上げた。
琉海と視線が合う。
「あれ? あなたどこかで……あっ、あなたは今朝の貴族の少年! あれ? でも何でこんな場所に――というか、その服装はどうしたの? まるで平民の服装なんかして……」
ころころと表情を変える彼女。
「だから、俺は貴族じゃないって言ってるでしょう。この町にも人探しで来たんですよ」
「へえ、そうなんですか」
信じてくれたのかわからないが、詮索してはこなかった。
「じゃあ、話しを戻しますけど、あの四人の冒険者を倒したのは、あなたで間違いないのかしら?」
仕事モードになったのか、真面目な顔で聞いてくる。
「間違いないけど、何か罰則でもあるんでしょうか。正当防衛だとは思うですけど」
正当防衛という言葉がこの世界で通用するのかわからないが、琉海は無実を主張した。
「罰則はないわ。見てた人から聞いた限り、あなたはあの女の子を守ろうとしたんでしょ」
彼女はミリアに視線を向ける。
ミリアは母親に抱きしめられていた。
「見ていて気分がいいものじゃなかったんで」
「そう」
「じゃあ、これで俺の事情聴取は終了ですか?」
「ええ、そうね」
「それじゃ、俺は部屋に戻らせてもらいます」
琉海は軽く会釈をしてその場から離れようとした。
「ちょっと、待って。もう一つ聞きたいことがあるの」
「なんでしょうか?」
「あの四人は、評判の悪い冒険者だけど、腕の評価に狂いはないはずよ。つまり、C級の冒険者四人を一人で倒してしまうなんて、少なくともB級以上の実力がないと難しいのよ」
「何が言いたいんですか?」
何者なのかと聞いてくるのだろうか。
琉海は次に発せられる言葉を予想する。
面倒なことになれば、この町にもいられなくなる。
「冒険者には登録されていないみたいだけど、冒険者ギルドに加入する気はない? あなたの実力なら、お金に困らないぐらいの大金を稼ぐことができると思うわよ」
冒険者へのスカウトのようだ。
冒険者ギルドも優良な人材はできるだけ抱えておきたいのだろう。
とはいえ、まさか、スカウトされるとは思っていなかった琉海は一瞬迷ったが、目的の足枷になる可能性が高いと判断した。
「お断りします。ギルドに加入したら、召集を受けた場合、拒否できない規則ですよね。俺は、人を探しているので、加入する気はありません」
きっぱりと断る琉海。
「そう。まあ、いいわ。気が向いたら教えて。私はシーラ。よろしく」
シーラは握手を求めるように、右手を出す。
「はあ、よろしく。俺はルイです」
「ルイね。よろしく」
琉海はため息交じりに握手をした。
握手を終え、琉海が部屋に戻るため階段を上がろうとしたとき――
「あ、そういえば、明日、ギルドに来るのよね」
「行きますよ」
「目的は何? ギルド加入する気ないなら、来てもしょうがないと思うけど」
「それは明日話しますよ。まだ、色々と仕事が残っているようですからね」
琉海はそう言って階段を上った。
その後ろ姿を見て、「ちょっと気になる子ね」と呟くもシーラはすぐに仕事に戻った。
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