第21話 弱肉強食
「はあ、だんまりか。なら――」
男は飽きたのか、落胆したのか、つまらないものでも見るかのようになった。
瞬間、琉海の視界から男の姿が視界から消え――
「がはッ!?」
胸部に異物が突き刺さる感触と共に吐血した。
何をされたのかわからない。
気づいたら血を吐いていた。
そして、貫かれていることに体が気づいたのか遅れて痛みが押し寄せて来る。
混乱の中での激痛は、頭の中の思考がすべて『痛み』に変わった。
痛みはすぐに熱さとなり、痛覚がプツンと途切れた。
血液と共に体から力が抜ける。
(やばい、このままだと……)
アンリの悲鳴も後ろから聞こえたが、体は動かなかった。
致命傷となっているのだろう。
琉海の支えとなっていた男の剣が体から引き抜かれて地面に倒れ伏す。
地面に真っ赤な血の池が広がっていく。
「ルイ!?」
「喚くな。うるさい」
鎧の男がアンリに何かしたのか、それ以降アンリの声は聞こえなかった。
「はあ、全く。魔力の高い女って聞いてたから、もっと楽しく戦えるのかと思ったんだが、蓋を開けてみれば、ただの何もできないガキ二人じゃねえか。もっとおもしれぇ任務をやらせてほしいもんだな」
男はそう呟き、「よっと」と声が聞こえた。
おそらく、アンリを担いだのだろう。
アンリは生け捕りにするつもりだったのだろうか。
琉海は自分の弱さに気づかされた。
日本ではこんなことはまず起きない。
明らかに違う文化形態。
今回のことでこの世界がどんな世界なのかわかった。
命を繋ぐものは金なんかじゃなかった。
金で何とかなるのは相手が常識人のときだけだ。
そんな常識人は相手にいなかった。
金なんかよりもこの世界で必要なものがあった。
この世界で最も重要なのは圧倒的な武力だ。
弱肉強食の世界。
自分は弱者側だった。
自分の思考がまだ日本の感覚のままでいたのだと思ってしまう。
真っ先に武力の強化に着手していれば、この状況も変わっていたのかもしれないと後悔する。
ただ、その後悔ももう遅い。
男が遠ざかる足音が視界を失った暗闇の中で反響する。
視界が塞がり、思考も闇の沼に侵略されそうになる。
琉海はそれに抗うが、抵抗も虚しく思考が闇の沼に引きずり込んでいく。
意識の糸を手離さないようにするがそれも次第に薄れていく。
この感覚には覚えがあった。
飛行機の時と同じ感覚だ。
(俺は死ぬのか……)
(ヤンばあ、すみませんでした)
頼まれていたのに守れなかったことを心の中で謝罪し、死を直感しながら、琉海は
意識を手放した。
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