第19話 強者

 村の入り口が騒がしくなった頃。


 アンリと琉海は逃げる準備をしていた。


「これとこれ、鞄に入れて」


 アンリに従って、琉海は手を動かす。


「アンリのさっき言っていた『奴ら』って何者なんだ?」


「『奴ら』はこの村を潰そうとしている国の手下たちのことよ」


「この村、国に狙われてるのか!?」


「ええ、この村が原因で自然は枯れたとかいう噂がその国には流れているみたいで……」


「でも、今までは平気だったんだろ?」


「ええ、社の結界で村も守られていたから、この村に近づける人間は限られていたのよ。それがこの前に消えたっておばあちゃんが言ってたわ」


 社の結界とは、おそらく琉海とエアリスで破壊したあの結界のことだろう。


 あの結界は近くのこの村も守っていたようだ。


 そして、同時に村に入ったとき、琉海も警戒されていたことを思い出した。


 琉海がその国の人間だと思われたのだろうか。


「あ……ッ!」


 そういえば、村に入ったとき、『道に迷って』とか言って誤魔化したのを思い出した。


「どうかした?」


 琉海の声にアンリが反応した。


「ああ、いや何でもない」


 そもそも結界があったのならば、道に迷うどころか、入ることさえできないはずだったのだ。


 琉海はそこまで思い至ると、村に住むことができたのは、かなり幸運だったのかもしれない。


 そんな思考をしつつも、アンリの指示で手を動かしていると――


 ガシャンッ!


 玄関から何かを壊す音が聞こえた。


 琉海とアンリはその音に肩をびくっとさせ、二人は動きを止めた。


 姿勢を低くし、玄関の物音に集中する。


 すると、靴で破片を踏む音が聞こえてきた。


 足音だ。


 そして――


「誰かいないか? ……返事はなしか。まあ、何か――」


 声と足音が止まる。


 数秒して再び足音が響く。


「いや、誰かいるな。早く出て来い。面倒なのは嫌いだ!」


 琉海はハッタリだろうと一蹴し、静寂を貫く。


 アンリも動こうとはしなかった。


「はあ、簡単には出てこないか。そうか、なら仕方ない」


 男の声が聞こえなくなった瞬間――


 バヂッ! という音が聞こえ――


 琉海たちの頭上を真横に切り裂く光が見えた。


 そして、壁が燃え出した。


「キャッ!」


 突然の発火にアンリは声を出す。


(やばい、今の声で見つかったかもしれない)


 琉海はアンリの腕を掴み、走り出した。


 玄関は得体の知れない男に塞がれている。


 庭から逃げられるが、玄関側を背にしなければならない。


 これはリスクが高い。


 逃げるなら、玄関から遠く、姿を見られない方法が最善。


 そこまで思考を巡らせ、琉海たちは裏口から逃げようと走った。


 家屋が燃え、煙で視界を塞がれるが、間取りはわかる。



 裏口に辿り着くと、琉海は慎重にドアを開け、微かに開けた隙間から外の様子を探る。


「どう?」


「大丈夫そう」


 琉海は頷いて扉を開けて飛び出した。


 誰もいないのを確認し、すぐに村を出ようと最短ルートを駆け出そうとしたとき――


「やっと、出てきたか」


 頭上から声がした。

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