第18話 襲撃!

 村は騒然としていた。


 村人たちは口々に『奴ら』が来たと言う。


 慌ただしくなっている中、ついに村の入り口に敵が駆け込んだ。


「やれ」


 平坦な声で隊長が号令を出す。


『うおおおおおおぉぉぉ』


 部下たちが、野太い声で雄叫びを上げた。


 そして、男たちは馬上から槍で村人たちを襲いはじめた。


『きゃああああ』


 女性陣は悲鳴を上げ、逃げ出す。


 一生懸命走っても馬上にいる者から逃れることはできない。


「はははは!」


 弄ぶかのように執拗に追いかけ回し、疲れ果てたところを背中から一突き。


「くそ……」


 村人側もただやられるだけではなかった。


 男性陣の中からは、勇敢に戦う者もいた。


 ただ、技量の差は歴然だった。


 いままで、村人たちが相手をしていたのは、魔物相手のみ。


 人間相手の経験が著しく乏しい村人たちでは足止め程度にしかならず、数回の剣戟で倒れ伏す。


「邪魔しやがって」


 女を追いかけて楽しんでいたところに水を差され、気分を害した男は亡骸に向かってそう吐き捨てた――


 瞬間、その男の眼前に火球が飛んでくる。


「ぐおッ!」


 馬上で大きく避けることができず、顔に火球が直撃した。


「うがあああああああ!」


 顔面を火だるまにされ、落馬した男は、服まで引火した火を転げまわって消そうとする。


 しかし、火は全く消えず、男は次第に動かなくなった。


「誰だ!」


 近くにいた仲間が辺りを探る。


「不意打ちとはいえ、低級魔法の火玉でそんな大げさじゃな」


 杖を突きながら歩いてくる老婆。


 その老婆の周りには五つの火球が浮いていた。


「魔法を使える奴がいるなんて聞いてねえぞ!」


 地面に転がる仲間の亡骸に一瞬視線を向け、顔を引きつらせた。


 自分も同じ道を辿るのかと想像したのだろう。


「こんな老婆でも、それなりの修羅場をくぐってきたのじゃ、そう簡単には死なんぞ」


 ヤンばあが杖で地面を軽く突くと、浮いていた火球が男たちに飛んでいく。


「くそがッ!」


 罵声を飛ばすが、男たちには逃げの一手しかなかった。


 魔法の使える者とそうでない者にはそれだけの差がある。


 魔法使いに勝つには接近戦を挑むしかない。


 相手が魔法を準備した状態では近づくのは無謀だ。


 逃げ惑う侵略者たちを放たれた火球が追う。


「その火玉は追尾式じゃ、逃がしはせん」


 再び、ヤンばあが魔法を行使しようと杖で地面を突こうとした。


 瞬間、後ろに影が落ちる。


 ヤンばあが気づいたときにはもう手遅れだった。


 後ろから一瞬で近づくことに成功した副隊長の男が短刀で一閃。


 首を跳ね飛ばした。


「こんなババアに何を手こずっている! さっさと任務を遂行するぞ!」


『は、はい!』


 ヤンばあの死によって男たちを追尾していた火球は消え、副隊長の叱責に全員が表情を硬くして応じる。


 男たちは他の村人を始末するため散開した。


「さて、隊長はどこに行ってしまったのやら」


 副隊長は村人の悲鳴が聞こえる中、やれやれと頭を振った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る