地下街の住人は多様な力業で成り立っている。私は人工の生き血を掃除に使い、人生の半分を棒にふった。深緑の木立が永遠の帳となって野望を果たそうとする。私は彼に問う。

「階段のアーク灯は影を恐れている。それは吸血ヒルで、乱暴な日本人形なのだ」

ふと気がつくと、木立は回転した紫色の肉体となっていて、やがてぶよぶよとした骨の中に沈みこんでいった。アヒルはこうして世に放たれた。答えて曰く、

「それは捻転する蛇と同じ作用素だ」

 地上に出るとヤマシギの叫びと海水温のこだまで溢れかえっていた。一発の銃声。果てのない振動がアヒルを貫き、彼は地に落ちた。先達の小劇場は異様な物体で、南アフリカの金色が収穫の時期を迎えていた。およそ一万キロの距離をどうやって移動するか、私は長いこと悩んでいた。アヒルの脚立はせいぜい三千キロの長さしかなく、焼けただれた地方の自治体は無下に扱えない。

 南アフリカはいま夏真っ盛りで、一体の幽霊が砂漠で絵を捨てている。王家の墓が描かれた一枚のプロパガンダが幽霊の目に留まり、それを持ってバーに入った。神官たちが逃げ去り、孤独な人望を持て余した不発弾の上に座り、レーゾンデートルを注文した。雨が降り始め、プロパガンダはふやけたミミズになる。テーブルに置かれた飲み物を一気に飲み干した幽霊はまばゆい光線に包まれ、辺り一帯を巻き込んだ。

 その光は私の元まで届き、パイプが銀杏の原型となる。南アフリカは近場に引っ越し、その代わり、月が、絵画的な痙攣を催して、一生を終えることとなった。アヒルの翼はアウトバーンで自滅し、帰ってこなくなった。



気泡のついた信頼関係に自暴自棄となった彼女は神社で賽銭を積む。白濁とした円環に輪ゴムの勢いをのせてカラスは雪を食む。彼女の美しさは毒蛇の卵巣で見た者が動けなくなるほどであった。ある日、夕方ごろ、自動車を引き連れた工事者が不意に彼女を見てしまった。白痴の左腕は深刻な愛玩動物で、黄泉への生贄だった。彼女は綿毛の情熱を以ってアリと敵対した。咬みつかれた男はその傷に千石の潮流を知り、労働の看板をアリの巣穴へ投げ込んだ。彼女の美貌に心を奪われながらもその首のなめらかさとナマコの運河を失わなかったその男は、今日まで生き続けている。



 密集した山科の公園で熊の手が虚空を引き裂く。背中の傷は男を殺すには十分な不動点であった。ある種の連続性は彼を不動点へと導いた張本人で、彼はそれを恨んだ。灰になりながらも熊は神を信じた。しかし罪は許されず、男と共に新しい命として水夫の元へと旅立っていった。

 水夫は大木の蒸気と雷の弱さがあった。彼らは水夫に挨拶をした後、「陰謀」の書き方を学んだ。

 水の原子に出ると、彼らは化学反応を起こし包丁のように傲慢になった。鮮烈な青い模様が目印にもかかわらず荒野の奥地に彼らの心理の浅はかさを設置した。水夫はこれを憂い、団子とくずもちを蛾の幼虫に見立てて踏みつぶした。それは目玉となって垂れ流しただけの魂となる。彼らは水夫に感謝し、ミリューを失くした。

 何年も経つと彼らと水夫は花形の関係になり、水に浮かんだアルコールの固形物となった。ファーレンハイト氏は彼らの関係を羨望のまなざしで眺めるので、水夫は記憶とノートの断片を埋めざるを得なかった。彼らは大慌てで埋め合わせようとしたものの、ビー玉と頭のないマネキンで作られた八つ手ムカデしか拵えられなかった。それでも水夫は心から喜び、天啓に従い縁と絆に道を譲った。



 私は半分に割った鉄製の道化師を一本の糸によってナマクラにしようと試みた。精霊は私の助手として働いてくれた。その翅はイチジクで覆われ、胴体はしがらみで結ばれていた。私はまず糸を縛ることによって精神の煙草に火をつけようとした。精霊は私の命令に従って竹藪をシャボン玉にしているだろう。徐々に糸は解放され巨大なビスケットとして道化師の内臓になった。動くたびにボロボロとこぼれるこれらの臓器は望遠鏡にみえる。精霊がもどってきて、道化師にシャボン玉を飲ませるとそれは瞬く間にはじけ、気がつくと硝煙の香りがした。哲学的なその香りは道化師の鼻だった。私は飽きてしまい、残りの作業を精霊に託した。幼稚な幕間に膿んだエチュードが混ざってしまうことにうんざりしてしまったのだ。精霊は真面目な性格だから私の言いつけ通りにやってくれるだろう。じきに全てが明らかになる。化け猫のような新章を書くためには決して避けられない暗雲がある。



何の面白味もないこれらの連作は宇宙遊泳の不自由さで牛の角のやましさである。稚拙な山姥が塔の中腹で事物をはぎ取り逍遥の悲しみに列をなす。雨が降る日。洗濯された金物。安い芝居のからくりが私の脳内でくつろいでいる。山姥はロウソクと同義で、吹けば消えてしまう。私は奴を殺さないように精一杯の目くらましをしながらそっと近づいた。頭に赤いしめ縄が打ち付けられ、髪はストレートとは言い難い野草。およそ八十前後であろうと思われる。服装は詐称していて彫刻と版画がそれである。甘さが滲んだその鼻先に汗が見える。はぎ取った物をナイフで濡らそうとするので私は思わず止めた。隔てたライオンが口からぬかるんだ化粧を吐き出した。山姥は驚いて火口の指先に落ちてしまった。しばらくの間、闇と静寂がゆったりとまどろんでいた。

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