九話 し、師匠の教えを…

火口内〜


「さて、そろそろあがるとしようかな」


「カース〜」


「ん?上からか」


バサッ




「あ、師匠。一体なんの用で?」


「ラゴルにこれを届けてって言われてね。はい」


「何これ、マイク?」


「そうよ。ラゴルが魔王軍でラジオ配信しよう!ってことになってるみたいで幹部一人一つずつマイクを買ってきてくれてね」


「ラジオ配信するってのは聞いていたけどそれぞれ専用のマイクまで…オレも何かしてみたいな〜」


「それでね、アタイとカースで一つのプログラムを作ろうと思ってるの」


「し、師匠とオレで!?…でも、何をするんだ?」


「それが悩みどころなのよ。パフォーマンスとかなら炎のショー一択なんだけど…」


「まあ、それは言えてる。…なら観光名所の紹介とかどうだ?一応オレら飛べるんだし色んなところ行ってレポートしていけば…」


「あ、それ良いわね!枠が昼間しかなくて時間的に丁度良いかも!」


「夜中は枠埋まっているのか?」


「セラがASMRするんだって」


「確かに、セラの声は良い声してるしファンとかも増えそう」


「で、カース。この後暇?」


「まあ、することはもう無いかな」


「なら、一緒に特訓しようよ。アタイら強くならないといけないからさ」


「そうだな…なら、あの山奧で木の生えていないギャップを見つけてそこでしよう。あそこなら誰にも危害を加えることはないだろう」


「じゃあ、そうと決まれば早く行くわよ〜」


ヒュン


「わあ、待ってよ。師匠〜」


バサッ




「ねえ〜まだ着かないの〜」


「おかしいな〜もうすぐのはずなんだが…」


「カーマ、本当にこの道で合っているのか?」


「合っているはずなんだよ。でも全然先の景色が変わらないんだ」


「カーマ、浮いてるんだから上の方まで飛んで見てくることとかできないの?」


「ほう、その手があったか。ちょっと待っててくれ」


「少し休みましょう。長袖で来たの間違ったかもしれないですね。すごく暑いです。ひとまず水をどうぞ」


「モイストシャワーってこういう時にすごく役立つ魔法だよな。ゴクゴク…はあ、生き返った〜」


「なんとか持ち堪えれそうね」


「まだまだオイラは倒れやしないぜ!体力には自信があるからな」


「ならその自慢の体力で誰か一人ぐらいおんぶしてよ」


「ん?それなら別に構わないが」


「本当に!?」


「ああ、でもソニアって音速ならすぐそこまで行けるんじゃないか?」


「今走ったら疲れて敵が来た時に戦えなくなるじゃないの」


「足が音速でも疲れちゃうんだな」


「ほら、背中乗れよ」


ライキがしゃがんで準備してくれた。


「ありがとうね、ライキ」


「よいしょっと」


「おーい、上まで行って見てきたぜ〜」


「で、結果は?」


『………』



「方向逆でした…」


『ズコ〜』


「何してんだよ…はーい、皆さんお捕まりくださーい」


『はーい』


ビューン




「はい、振り出しに戻った〜てか、なんで俺ら山登りなんかしてるんだろう?」


「それは、あれよ。山の頂上で売っているめちゃくちゃ美味しいと評判の温泉卵が乗ったトン丼を食べるためよ」


おんぶされながらソニアが答えた。


「それだけの噂があるならさぞかし美味しいんでしょうね。もう、待ちきれません!」


「カナはやっぱり食べることが大好きなのね〜」


「ひとまず、先を急ごう。体が持たなくなる前

に」


「そうね、さーライキ。アタシを頂上まで運んでいくのだ〜」


「へいへい」




「さっ、着いたわよ。カース」


「はあ、師匠速すぎ」


「あ、あの辺りのギャップなら十分特訓できそうね!」


「で、なんの特訓する予定で?」


「勿論戦うのよ!」


「えっ!?」


「至ってシンプル。アタイとカースでどっちが強いか勝負よ!」


「流石に瀕死寸前状態にはしないよな…」


「そ、そんなことしちゃったら特訓の意味が無くなっちゃうじゃない」


「んで、ルールとかは…」


「勿論そんなの無いわよ。なんでもありの3分勝負よ!」


「3本勝負じゃ無いのね…」


「じゃあいくわよ!よーい、始め〜!」


「えっ、ちょ!」


「それ〜!」


ボボボ…


火球が飛んできた。


カキン、カキン、カキン


「槍を回転させて弾くなんて…やるじゃない。なら、これならどう?」


ボボボボボ…


火球が大きくなっていく。


「そーい!」


「グッ…」


カキン、カキン、カキン…


「さっきと同じ手にはかからないわよ」


パチン


バチバチバチ!


さっきまでの火球が指パッチンと共にかなりの量の火の粉になって弾けた。


「うわああ!」




「はい、アタイの勝ち〜」


「…師匠強すぎ」


「まだまだだね。まず守りに優先しちゃってるもの。だから一回も攻撃出来なかったんじゃない?」


「…!ドンピシャすぎて何も言い返せない…」


「今度特訓する時は、守ってばっかりいないで攻撃することも大事ってことは頭に入れておくのよ」


「は、はい…」


「てなことで、アタイはもう帰るけどカースはこの後どうするの?」


「オレはちとヴァース討伐軍団の様子見でもしておくよ。色んなことが起きそうだし」


「あ〜、ヴァースをやっつけたあの四人グループね。ま、頑張ってね」


「ありがとう、師匠」


ヒュン


「さーて、師匠との特訓の成果あの少年どもに試してみるか〜」




「ね〜まだなの?ね〜ライキ〜聞いてる?」


「まだっぽいぞ…てかいつまで負ぶってれば良いんだ?」


「え、勿論頂上までよ。ライキ体力に自信あるって自分から言ったじゃないの。あ、もしかして疲れてきちゃった感じ?」


「…!つ、疲れてねーし。はあ、言ってしまった限りは仕方ないか…」


「ドンマイ、ライキ」


「あ、先が見えてきましたよ〜」


「ほ、本当ですね。急ぎましょ!早くしないと先に食べてますからね〜」


スタッスタッ…


「あ、ちょ!待ってくれよ。この状態で走るの辛すぎる〜!」


「さ〜頑張れ〜ライキ〜」


「はあ、はあ…皆さん速すぎませんかあ〜!?」


後ろの方からリナさんの声が聞こえる。


「リナさん、良い機会なんだからダイエットしなさいよね」


「おんぶされてる人にそんな事言われても説得力が無いですよぉ!」


「しょうがないわね…ライキ、ここで下ろして」


「お、おう」


「さ、リナさんアタシの手を握って」


「握りましたけど…一体何を?」


「さあ、いくわよ〜!」


ビューン!


「ヒェ〜!ちょ、速すぎますよ〜!助けて〜!」


ビューン!


「わああ!…ってソニア!?」


先に走っていたカナを追い越していった。


男ども三人はあまりにも速すぎて唖然としてしまった。


「結局、ソニアが一番体力あるんじゃないか?」


「そうだよな」




「ふう、着いたわね〜リナさん、どうだった?」


「あふぇ〜…」


目が回ってフラフラしている。


「あ、ちょっと勢い良すぎたかな」


「ソニア〜」


ソニア達が着いて少し経った後、カナが頂上に到着した。


「はあ、はあ…は、速すぎますよ…」


「はあ〜やっと着いた〜」


「どうしたのユウ。もう疲れてるの?」


「ソニアはさっきまでライキに負ぶってもらっていただろ…」


「はあ、疲れた〜」


バタッ


ライキはうつ伏せになって休んでいる。


「ライキ、そこだと直射日光で暑いだろ?あっちの日陰の方行こうぜ」


カーマが指を刺した方向に木造の小屋ぐらいの建物があった。


「あれがソニアが言ってた食堂なのか?」


「うーん、そうっぽいわね。まっ、試しに入ってみましょ!」


(でも良い匂いがするし確かめなくても大丈夫だと思うんだけどなあ…)


「じゃ、行ってくるわね」


「行ってら〜」


コンコン


「すみません、今ってお店開いてますか?」


「はい、勿論。何名様ですか?」


「一、二、…五人です」


「五名様ですね。こちらへどうぞ〜」


ソニアがジェスチャーで俺らに伝えてきた。


〈大丈夫だったわよ!ほら、早く来て〉


〈え、なんて言ってんの?もう一回言って〉


〈だーかーらー、大丈夫だったから行くわよ!〉


〈はっきりしてくれ。何言ってるか分からん〉


〈はっきりしてるじゃないの!こっちひとまず来てちょうだい!〉


〈分かった〉


「さて、皆行くぞ」


「いや、さっきのジェスチャー会話なんなんだよ」


「はい、お冷です」


「ありがとうございます」


「ご注文はお決まりですか?」


「ここの名物、トン丼の温泉卵乗せを五つで」


「かしこまりました〜お爺ちゃん、トン丼五つ〜」


「よっしゃ、任せとけい」


ジュ〜


「お姉さんのお爺さんがここを営業しているんですか?」


「そうですね〜私は祖父母に育てられてきましたので…もうお婆ちゃんはいませんが、親孝行的な感じでここで働いているんです」


「そうなんですね、てかこの見た目からにして随分と長くしているみたいですけど…」


「あ〜この店有名なのは有名なんですけど、見た目が古いせいか中々場所を見つけられない人が続出しているんですよね…」


「そのせいか、最近売り上げが悪くてねえ…リフォームするお金も無いんだよ」


「うーん、どうにか出来ないのかな…」


「まあ、ワシらのことは気にせずにゆっくりして行ってくれ。はい、トン丼五つお待ちどうさん」


「ありがとうございます」


「じゅるり…」


カーマが食べたそうにこちらを見ている。


「では…」


『いただきます!』


カナが素早く食べ始めた。


「いつも言ってるけど、詰まらせないでよね」


「モグモグ…お、美味しいです!美味しすぎます!!」


やはり頬張ってるのがリスに見えてしまう。


「モグモグ…本当ね、疲れた体に凄く染みるわ」


「おっちゃん、これの作り方って教えてくれたりとか…」


ライキがふと、何か思いついたようだ。


「教えられないわけではないが、何するんだい?」


「これをオイラの村でも広める事が出来るかもしれないんだ。一つ空き家があってそこで二つ目の店を建てれば…」


「でも、そんな都合良くなるようなものでは…」


「大丈夫、オイラの街に飲食店というものがほとんど無いんだ。だからこそ、そこで繁盛させるチャンスなんだよ」


ライキが言ってることはあながち間違っては無さそうだ。


「じゃあ、一つの案として検討させていただくとするよ」


「でも、そこの村ってどの辺りにあるんでしょう?」


「そういえば、俺達も行ったことなかったな」


「それならまた今度、店員さんと一緒にアタシ達もライキの故郷に行ってみましょうよ」


「そうだな」


「では、これが私の連絡先です。そこの村に行く時が来ましたら連絡お願いします」


「分かりました」


「アタシがお会計済ませておくから先に下山してて良いよ」


「じゃあ頼むわ」


ドスン…ドスン


「な、なんだ!?」


「なんかすごく暑くないですか?」


「本当ですね、急に暑くなってきましたね」


「もしかして、クーラーの故障かな…」


「ちょっと、裏行って見てくるぞ」


「分かった〜」


「うわああ!」


「な、なんだ!?」


「裏からですね、行ってみましょう」




「おいおい、そんな驚かないでくれよ。オレは悪い奴じゃねえって」


「お前のような悪魔がこの店になんのようだ!」


「お爺ちゃん、どうしたの!?…!」


「あ、さっきの…」


「下がっておけ、この悪魔は危険だ。焼かれるぞ」


ソニアがふと言いかけたが、お爺さんに止められた。


「オレはこの店じゃなくて、コイツらに用があって来たんだよ」


「オイラ達のことか?でも、何故場所が分かって…」


(発信機がついていることはまだ気づいてないようだな。良かった)


「とにかく、アタシ達になんの用?」


「それが…」




「えっ、アタシ達と手合わせを願うって!?」


「ああ、オレはただの悪魔じゃない。強い奴を求めて戦う悪魔なんだ。ただし許可が降りなければ戦うつもりもないし、襲わない。お前達、魔王軍幹部の一人を倒したらしいじゃないか」


「うーん、こう言ってるけど皆どうする?」


「まあ、良いんじゃないか?絶対に殺さないと補償があるのなら」


「ああ、殺す気は全くない。普通にオレの実力を試したいだけなんだ」


「よーし、なら広いところに行こうぜ。お爺さん、ちとこの悪魔と軽い運動してからまた戻ってくる」


「だ、大丈夫か?怪我はするんじゃないぞ」


「安心してくれ、こっちには心強い味方がいるんだ。なっ?」


「まっ、そうだな」


カーマの方を見た。


「お、おい。俺が復活魔法を使えるから心強いってか?勘弁してくれよ」


「で、どこで戦うんだ?」


「後少し先に行ったところに木が一切生えていないギャップがあるんだ。そこで頼む」


「一人で戦うって結構自信があるんですかね?」


リナがふと疑問に思った。


(グッ、リナが相手になると流石に敵わねえ…なんとかしてボコられないようにしないと)


「ウン、戦う際オレはお前達を殺す気はない。だから、オレのことも殺さないでほしい」


「そんなのとっくに分かってることだよ。特訓でフルボッコにする奴がどこにいる…」


「………ッ」


カナの目力が強い。これはやばい。


「かっ、カナ。今回はフルボッコにしたらダメだからな」


「それは分かってますよ!でも、怪しい…」


「エッ!?」


「さっきから思ってましたけど、どうやって私達の場所を特定したり、私達が幹部を倒したことがあるってことが分かっているとか色々怪しいです」


「そ、そんなのアタシ達も大分有名になった証拠だよ。そんな仕組んでたりとかするなんて。ねー?」


「うん、オイラも魔王軍の様にそんなことする奴には見えないぜ」


「でも、私は今日以外での何処かで会ったことがある様な気もしなくはないんですよね…」


「リナさん、多分人違いだよ。魔王軍幹部がこんなにスルスル自ら出てくる様じゃ明らかにおかしいでしょ?」


「…なら今回は人違いってことにしておきましょうかねぇ」


(ふぅ、なんとかバレずに済んだ〜)


「じゃあオレから先に行くぜ〜オラッ!」


ズドン!ゴポゴポ…


槍を刺した地面からマグマが溢れ出してきた。


「ま、まずい。マグマは水では消せないよな?」


「いえ、私にかかればこんな事…」


リナさんが余裕そうな表情で答えた。


「えいっ」


指先から氷と水の混ざった魔法が放たれた。


ジュー…カチン!


「えっ、マグマが凍った!?」


「私の魔法は属性の効果を無視して攻撃できまして、そのおかげでマグマ自体も凍らせることができるんですよ〜」


(…やっぱリナには敵わないか)


「次はこっちから行くぜ!」


「!ライトニングハンマー!」


「クッ…」


カキンカキンカキン


槍の回転で雷攻撃を受け流した。


「嘘だろ、全然効いてない!」


「!ハリケーンブレード!」


ヒュン、ヒュン…


悪魔は風魔法を全て飛んで躱した。


「か、風の方向性が読まれた!?」


ビューン


「不意打ちだ!」


「!シャドウハンド!」


ガキン!


「…クッ」


槍で攻撃を受け止めている。


ジュー


「熱っちー!!」


槍がマグマの如く発火した。


「ふー、ふー!」


「なんだ、火傷か?この攻撃は耐熱じゃないからな(笑)」


カーマが笑いながら、教えてくれた。


「言うなら先に言ってくれよ!」


「これで終わりか?もっと楽しませてもらお…」


シュン


「とりゃ!」


ザシン!


「…ッ!」


ソニアは悪魔にそこそこのダメージを与えた。


「や、やるじゃないか…っオレはお前達には今の段階ではやっぱ勝てないんだな。特訓に付き合ってくれてありがとうな。これはお詫びの印だ」


そう言うと悪魔は俺に宝玉を渡した。


「何これ?」


「まあ、そのうち分かるさ。じゃあこれにてさらばだ!」


バサッ


「変な悪魔ね〜でも、強くなろうとすることは良いことじゃないの?」


「ああ、悪魔だからって悪いやつだらけってことはないみたいだな」



「帰ってきました〜」


「怪我はないですか?」


「ああ、少し火傷したぐらいだから大丈夫ですよ」


「す、すまない。悪魔だったもんだからちょっと喧嘩腰になってしまって、お客さんを巻き込んでしまったな」


「いえいえ、僕達が引き起こしてしまった事なので」


「悪魔が出てきたらそうなるのは普通のことよ。お爺ちゃん、今日はもう休んでて」


「あ、ああ」


「てか、お店にまで迷惑かけちゃってすみません」


「大丈夫ですよ、お客さんが来てくれるだけで私はとても嬉しいですから!」


少女はニコッとした笑顔で微笑んだ。


「それでは!ご来店ありがとうございました〜」


「ありがとうございました〜また来まーす!」


皆で手を振って見送った。


「あの子も頑張っているのね〜」


「そうですね…てか、もう夕方じゃないですか!ささっと戻って花火の準備をしないと!」


「ほ、本当だ!すっかり忘れてた!」


「ん、花火?」


「ライキ、詳細は後だ。まずホテルに戻ろう」


「お、おう」




一方、カースは…


「は〜、やっぱアイツら強いな〜」


(今のままではダメだ。今のままでは…)









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