七話 魔王軍!?いや、違うか…

「どこだここ?」


「ここはワシが作った空間だ」


「機械の主か!?」


「いかにも。ワシの名はヴァース。魔王軍幹部の一人。破壊王ヴァースだ」


目の前の頭蓋骨から返答が来た。


「……幹部!?」


「そうだ。さあ、このクエストを受けたのなら、ワシの相手をしてもらおう!」


ボボボボボー


小さな頭蓋骨から大きな剛腕を持つゴーストらしきものが出てきた。そいつの目は黄色く光り、全身が紫色のオーラで覆われている。


「幹部だが何だか知らんが、やってやろうじゃないか」


「まっ、挑戦したからには逃げるわけにはいかないからね」


「木端微塵にしてやります」


「こいつ、結構強いが大丈夫か?ステータスがバカ高いぞ。特に攻撃力と魔力が桁違いだ」


(カーマが言うのなら、間違いないだろう)


「だが、ここで諦めるわけには行かないし、このまま放っておけば何が起こるか分からないよな」


「皆さん、お気をつけてください!」


「皆の者、能力値は低いかもしれんが一応冒険者だ。戦ってこその冒険者というものだろ!」


「オー!!」


「こいつを倒せば、懸賞金ガッポガッポだ」


ちょっと本音が漏れている金髪少年もいるが、冒険者達は一致団結した。


「戦う前に一言。ワシは、物忘れがひどくてな。色々ややこしかったり辛いと思うがよろしく頼むぞ」


「エッ…」


親切な対応すぎるので皆、戸惑ってしまった。


(挨拶から始める幹部なんかいるんだ。急に襲ってくるイメージしかない見た目だが)


「えーっと、まず朝飯食ったかも覚えていないな。腹が減った…なあ、この辺りにレストランはないか?」


戦うことすら忘れて自身の食事の話をしている。


「レストランならあっちの街にあるぞ」


冒険者の一人が山の方を指差して言った。


「そうか、わざわざ場所を聞いてすまんな」


スタッスタッ…


ヴァースが帰ると、結界が消えた。


「あれっ、普通に帰っていったんだが」


「あいつ、マジで忘れているのか?」


「やったー!どういうことか分からんけど撃退したぞ!」


「あ〜、懸賞金が〜」


金髪少年以外皆、歓喜で満ち溢れている。


「ヤッター!ヤッター!」


「ん?何故あいつらはあんなに喜んでいるんだ?まあ、良いや。帰るか」


シュン




魔王城〜


「ただいま戻りました…って魔王様は?」


スタスタスタ…


「おっ、ラゴル!魔王様を知らないか?」


「魔王様なら出かけているぞ。しばらくは帰らないらしい」


「ラゴル。お前が今、魔王軍を仕切っている感じか?」


「そうだ。現状、この魔王城にいる幹部は俺ら合わせて八人中三人。だが、死神のセラはこの部屋に引きこもってるし、それ以外は旅行に行ってやがる…おい、そろそろ出てきたらどうだ?」


「えー、だるいんだけど。どっちみち今、外に出るのは無理。夜まで待ってくれない?」


「何か理由でもあったっけか?」


「理由ってレベルの問題じゃないよ!私の服の構造知ってるくせに…」


「悪い、忘れていた」


(何故そんな服の構造にしたんだ。ったく、魔王様は)


「そんな構造あったか?そんなこと記憶に全くないのだが…」


「ヴァース。アンタ、馬鹿すぎて私にはお手上げよ。昨日言ったばっかなのに」


「ていうか、お前。帰ってくるの早すぎやしねえか?ちゃんと目的は果たしたんだろうな?」


「…アアアアアア!忘れていた!レストラン!」


ベシッ!


「グヘッ!」


「違うわ!アホタレ!何がレストランだ!初心者の街に行ったんじゃないのかあ!?」


「アッ!何でワシ、堂々と帰って来ているんだああ!」


「俺が聞きたいわああ!」


ドンドン!


セラがドアを強く叩いた。


『ヒッ!』


「うるっさいわね!気持ち良く寝れないじゃない!私の部屋の前で大声出すんじゃないわよ!」


パチン


ワープさせられた。


「…はあ、やっとぐっすり眠れる」




グ〜


「やっぱ腹が減っているのは事実なんだよな…」


「だがお前。レストラン行ったところで何も食えねえだろ?主食が人の魂なんだからよ」


「…なら、今から戻って腹一杯、食えなくなるまで食らってくる」


「その前に一つ、絶っっっ対に弱点をバラすなよ。いいな!?」


「…分かった。じゃあ、行ってくる」


ヒュン


「大丈夫かな、アイツ」




ドドドドドド…


「ん?」


「はああ!」


「うわっ!」


ズドーン!


「あぶねえ」


思いっきり飛んだ後、上空からヴァースが攻撃してきた。


「ハア、よくもこのワシをレストランに案内させやがって…」


(いや、案内してと言われてしただけだから普通だと思うんだが…)


「ま、まあ良いだろう。実力者をポンポン出す源の街、初心者の街の冒険者どもを倒して実力者を出せないようにしてやる。さあ、やられたくなければ全力で来るがいい!」


『うぉー!』


「待て、まだ行っちゃダメだ!」


「うんうん。ワシは、闇攻撃しか効かん。そんなことも知らずによくかかってこれる度胸があるものだ…」


ジーッ…


カナもライキもソニアも皆、冷たい目でヴァースを見る。


「…よし、皆の者!闇属性攻撃だ〜!」


『お〜!』


皆、闇属性攻撃の準備を始めた。


「アアアアア!また言ってしまったあああ!何ということだ!ペラペラペラペラ、毎度毎度!絶対に弱点をバラすなと、ついさっき言われたばかりなのに!」


「かなりのお調子者で幹部には見えないけど…よし、弱点が分かったなら今だ…」


「皆の者!総攻撃だ!」


「はあああ!」


冒険者の皆が一斉に攻撃しだした。


スパッ…


「あれ、当たらない…」


「こちらから!ハア!」


シュン…


「攻撃が当たらない?弱点なはずだし体に当たっているはずだぞ…」


(ヴァースに当たった途端攻撃した冒険者たちはゆっくりになっている気がする…まさか!)


「皆!一旦離れて!」


声をかけるが皆、戦いに集中していて聞こえていない。


「はあああ!」


「まだ気づかないとは愚かだな。そろそろ、ワシの力を見せてやろう。ハァ!」


ヴァースにオーラを纏った大剣の様な尻尾が生えてきた。更に、背中から龍の頭の形をした表情がそれぞれ違うレーザーらしき物が二つ生えた。


「行くぞ…」


ズバズバズバッ…


「えっ?……うっ!」


バタッ…


周りにいた冒険者五人を素早く剣の形をした尻尾で斬った。


(速い。一瞬で五人も…でも、血が出ていないし、皆眠っている。しかも斬った直後、時の歪みみたいなのがあった。何故だ?)


「…これで終わりか?」


後ろを振り向き不吉な笑みで睨んできた。


ビューン


「喰らえ…」


「ん?」


「!シャドウハンド!」


ドガーン!


「ぐああああ…フ、フハハハ!良い打撃だ。その闇の力は…貴様、ただの冒険者ではないようだな」


火力の一番高い技を打ったが、全然効いていなかった。


「クッ」


ビューン


(…見かけでの判断はダメだ。幹部としての実力は確かだ)


「なあ、ユウ。オイラ、雷魔法しか使えねえから何もできねえ。どうすれば良い?」


「ライキはひとまず、ヴァースの誘導を頼む」


「分かった…さあ、こっちに来い!幹部!」


ライキは、ヴァースに向かって遠くから挑発した。


「ナメているとこうなる事を知ると良い。フン!」


ザン!


(斬撃波!?)


「お、おい!聞いてないぞ!遠距離攻撃は、はんそ…」


「危ない!」


ザザーン!


「ありがとう、ソニア」


「アタシがアイツを誘導する。ライキは、闇属性の攻撃が出来ない人達の避難をお願い」


「分かった」


「ふむ、貴様も素早さに関してはただ者ではないようだ。だが、どれぐらいそのスピードを保ち続けられるかな? まあ、貴様にはこれを…喰らって貰おうか」


ギュイーン!


手から紫の炎を出して、溜め始めた。


ビューン


「!シャドウハンド!」


ガキン!


「また同じ手を、哀れだな小僧。これならどうだ?」


(また腕が増えた!?まずい…)


「!カオスフォール!」


「カナ!」


「グッ。ぐわあああああああ!…と見せかけて」


「!龍反撃ドラゴ・リ・ヴァース!」


(何っ、魔法がレーザーに打ち消された!?)


「良い手だったが、惜しかったな。今度はこちら側のターンだ」


ギュイーン


打ち消した魔法を吸収した。


「えっ?」


「!龍射撃ドラゴ・キャノン!」


「リフ…」


ズバババババーン!




「ゲホッ、ゲホッ。煙で前が見えない。カーマ、敵は見えるか?」


「ああ、見えてはいるが…それにしても、俺らの相手にはまだ早すぎる。何故こんな所に幹部が」


「どうすれば、勝てるんだ…」


「光です」


「カナ!」


そこへ、カナがさっきのレーザーで焦げかけた服の状態かつ千鳥足で来た。


「ゲホッ、アイツはゴーストなんですよね。もしかすると、ここの空間に呼び出したのにはまた別の訳があるのでは?」


「…そうか!」


「私がリナから買った魔法攻撃力倍率ポーション。これ10個あるんですが、これ使って……すれば幹部でも流石に倒せるのではないですか?」


「でも、アイツは闇属性攻撃しか効かないんだよな…でも試す価値はある」


「さっきからゴチャゴチャと。喋れなくなるまで砕いてやろうか!?」


「!シャドウハンド!」


ガキン!


「また同じ手で来るとは、貴様は馬鹿なのか?」


「さあ、どうかな?今だ、いけー!」


「分かりました!闇の破壊神など光の力で消し去ってあげます!シャイニング…」


ボー…


倍率ポーションのおかげか、光魔法なのに炎のような膜が張った。


「フレア!」


「なん、だと…唯一口に出さなかった弱点を見破られた。一体どうやって!?」


「そこで、はい、教えましょう…っていう奴がいるかぁ!」


ドガーン!


油断した隙を狙って攻撃を当てた。


「グフォ!」


「今だカナいっけー!」


「はあああああ!」


「魔法などまた、この手で吸収してやる!」


ギュイーン!


ダダダダダダーン!


「うわああああああ!何故だ…」


そこでヴァースの一部の記憶が蘇った。


【「ヴァース、あなたの魔法吸収能力はあらゆる魔法を吸収することができます。ただし、油断は禁物です。光魔法は…」】


「…はっ!この吸収能力、あのメガネ野郎…光だけは…ま、まだここで終わってたまるかああ!まだあああああ…」




これにて、魔王軍幹部ヴァースとの戦いは終わった。


ヴァースに操られた龍はまた違う場所で管理しているらしい。


解放するためにはバースを倒したときに現れた宝玉のような物。これが必要らしい。


今は亡き冒険者達がヴァースに襲われた時、血が出ていなかったのは、カーマ曰く斬ったわけではなく中の魂を奪ったというのが正しいとのこと。


あの後、カナがヴァースにトドメを刺したため俺らのパーティーは他の人よりも多めに懸賞金が与えられた。これで家が買える。


「この、頂いたお金で家を建てるぞ!」


「ついにオイラの狭い家から広々空間の家に住めるのか〜」


「やった〜!どんな家にする?」


「私は、お風呂と寝床さえあれば問題ないですが…」


「うーん、ならこれをこうして……よし」


木の棒を使って地面に設計図を書いてみた。


「なんか雑だけど、こんな感じの家なんかどうかな?」


「いいね、アタシは大賛成!」


「うん、キッチンも完備してる。満足だ!」


「かなり良い見栄えの家になりそうですね!」


「よーし、建築家を呼んで建ててもらおう。しばらくゆっくりしようぜ!」


第一章完!







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