徒惚れ

 中庭の木々達は常々美しいだけのアカを散らしている


 誕生から今生までを抑えた躰で伝えて逝く かれる事もない、言の葉をハラハラと落としてゆく 枯れ首に手をかけながら秋が来る旅路を想う 飽きもせずに新しい芽吹きを懐く、

 高揚を齎しながら。

 瞳を閉じて巡る季節の色は鮮やかだったが 消せやしない過去を軽く抱いているだけなのだろう 思い出から作られた心を、捉えては離さないこの景色を ひとびとは美しいと上塗りしていく、未来のために 寒々しい空とはまるで未だ抜けるように 青い飛行機雲が尾を惹いていく

 地上に留まらせるコントラストが描けない程眩んで 心ばかりが躍ると枯葉も廻るのだと皆も知っている 本来の未来とは夢にしか表せない ゆるぎないものであれと今今が腐っては 嘘を固めながら空に翔けてゆく 何を思い此処に身を置いて居るのか、とんとわからぬまま


 誰だって信じたいものだけを着せて魅せて欲しいもの 丸裸のマネキンに花を咲かせる為だけに 人は虚構を犯し続けては飾り立て現実を生きる偶然を標す


 喪服の如く凄艶に影を瞬がせたウエディングブーケのいろは 宿り木と似通(にかよ)いさまよい往くが、 春になったら僕は生まれるだろうか 誰かの手によって接ぎ木されるよう 祈理を籠めて

 段々畑に奔るただひたすら光の帯に 摘まれた死は遠ざかる 帰り道は閉ざされ追うものはない未来だけがある 不安を呼び覚ます自由、 暗闇があたたかく蔽う、 奮い立たせて希望と置かれて

 烙印を圧(お)された肩胛骨が滑落する 言葉を無くてなお息を求めて空を仰ぐ 瞳を輝かせ天を降らす星屑の雨 切りつけられたように羽を失くせば切望の淵 孤独を呼び覚ます 求めてやまないもの だれか、その瞳がおそろしい


 呼び鈴は伏せたまま朝に、新たな翼が栄える、現実にひっついたままの 凍りついて外れない、影は 夕暮れを紗と纏って秘を延ばしたから。


 易しいかな、 おちてゆきたい 最期の海へ 返り咲くども、我が身の名は 「アダ」

 一縷の始点を外しては、脆くも一線を描く、

 空を翔る十字架。

 あれは鳶の群れ、追ってゆかなければ、 差路を含む瑠璃色の、あなたへのちかみちだ  

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