朔夜

「けれどね。」

 君はひたすら早熟の無花果を皿に並べているだけで、こちらには目もくれやしない。無論食べる気も無いのだ。

 同罪なのだ、なら悪い子だ、ねえ。私達の思いは重なることもなく、ただおおわれている、誰もいない牢獄に、君に囚われて、ただ、青臭い開花に広がる宇宙を愛していた、これも自然の冥利だろう。


 ピン留めされたルリタテハは今でもひうひうと息を吸っては吐いて、新しい酸素が産まれる前に生を殺している。何度でも繰り返される延命装置に救いを与えては神と玩んでいるらしい。

 それはメトロノームみたいな喘鳴のコトゴトと煮込まれたトマトチャウダー。君の好物だったもので更生された君自身に、至れり 尽くせり


 あけましておめでとうございます

 これは八月なのです


 皆生まれ変わるような、願いを抱くそんな気分で、梅雨は終わりそうもない。緩やかに向かい合う死に誰も見向きもしない、そんな夏であったらよかったのに。いつまでも湿ったままの、足元の影に怯えては、

 満開の花々が嘲笑っている。

 くだらない言い訳で自分を正当化する。

 ミライはどうしたってきれない縁で繋がれ、紅い明いだけの希求が腫れ上がって弾けるまにまに(種の保存)だれかとソコにいるだけなのだ。

 大気圏外に君の灰をばらまいてしまえるよう。今、簡単なペットボトルロケットに詰め込む、現われてもいない、腐った箱庭を波間に打ち上げるか。

 秘密の扉を見開いて

 きみの口紅が可愛らしい模様を紡いで為す、ティッシュ上の

「………あゝ」

 再生機能がイカれたデッキのブラシで神をも落書きに透かす、僕らは嘘を呑み込んだまま永遠に此処で頷き合おう。

 

 まるであの世とこの世の境目でぴんと張った臓腑をつついたみたいね。真っ赤な身を見透かすよう。もう、もう、睾丸が転がった、あ、あ。 けたたましくわらいあいて!

 

 まじまじと空っぽの君に縫い合わせる。沙羅に昇華された粘液が全て梳かすまでどれほどの時が必要だろうか。実に改変されたものは喰らわねば意味も無いのに見つめてくれようか、最後のときまで。

 

 食卓に灯された蝋燭に揺らぐ君の瞳の奥に胡蝶がいることを確かめる為に、

 無花果の中に眠る思い出も何も、幾重にも綺麗に割裂かれている。

 君の襞はで脳裏に描ける、しかしつぶらが要るものである。


 内と外に毀れた、上手くもならない言い訳を模様している糞にも満たない汚物の私たちを、綺麗に見えるかどうか、優劣ともとれるみてくれの輝きは、ただの偶然と必然により分けられる。

 皿に盛られた生首から紡ぎ出された言葉たちは色と形を保ち、その一瞬の出逢いの意図、おり合わせる縁に至る。偶然が結び合わさり形成されるこの世界の鎖は、至極死期の錦と成る。

 四季色彩の死期折々の感情が荒れ狂う、春の嵐にも醸すことを、誰彼も待ち草臥れた雑草の一つに過ぎないというのに。

 ただ出会ってしまった安上がりの偶像たち、可愛くて可哀そうな路地裏の子猫たちに愛を擁いて。


 還ろう、孵ろう

 それ以上紡いでは無駄であろうから


 つきのものたちへ:擬題

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