内界の廟

 そつと触ったものは身を凍らせ すんと小さくなる いたみだけがソコにのこります。これが感情というやつなのでしょう。

 冷たくも燦然と仄めく、棘の酔うな粘りを、羽根と零した唯の魂が取り憑いてしまっただけの、もの。

 ああ、でもそれは離したくはない。かの人への思いの束ねに縁る。然しいつか廃れてしまうでしょう。

 

 今も未だ震え怯えては楚々と抱くのでしょうが、もう信じられないほどに堅く鋭く、私を嫐るように切りつけて、その見開いた眼差しでいつか狂うのでしょう。もうすぐにでも この身は張り裂けんばかりです。


 それならば私も貴方も何処へゆくのか。誰か看取ってくれるのでしょうか。

 目先も底も、知り得るものは此処にはいないのです。流暢で大らかな大地が風花としろく塗り替えられ、その根底に季節を巡らせ花も実も埋め尽してしまうと。すべてに宿る魂は何処かとおくへと消え去るとも云う、これは誰が、信じたく、ありましょう。

 逃れようもなく死て見得なければわかりかねる。私は、潔く暗視することなど出来ようもない。けれど畏れ多い光の滂沱の先に何が待ち構えて居るのか。ただ惛惛こんこんと、身に蓋を越え、ときに視を重ねゆく。

 

 いつか どこからか冷たい死が褥に横たわること。明白であったと、とも燦燦にきて。

 私が産んだ子らが同じ思いを抱くことは必然であっても、などと無軌道も身勝手なもの。そう思いたい私の我が儘の元なのです。

 されどわたくし、これにて多少の安楽を抱けるのですから、口先化かしして、ゆるしておくんなまし。


 私が齎す思いの凡てであっても、その細き眼差しも熱き腕も、もう既に有り得ない事柄に身を沈ませるよりは、この心の拠所でしか生きれない、私も貴方も、

 平穏無事に愛を囁きあいしめて此処に置いて、ならば隠し持ち射て内内に灯す。このひとときの幸せを忘れる前に、決して無くさないように、

 

 「御一緒に。ねえ、死んでは頂けませんか? 」

 

 そおと胸に沈ませましょうよ、何時ぞやに吐き出した錆びた合い口(匕首)をコトダマに漏らし滑らし、逸走、一層に散らして欲しいのです。しまいまで藍に溺れて 哭き濡れる紅の秘をいただきに輝かせて、共に最期の明日を迎えましょう。未来が明るいうちに、シ舞い込んでしまいましょう。

 

 愛に溺れて逝く、薄明に抱かれながら 地平を散らしていく朱彩アカダミ。

 雅な金泥きんでい白泥びゃくでいに塗れる。だましだましの偽薬(嘘)を喰らい、最後に魅せる気色(経路)が、彼方の霞で有ることを男と女は根底から知っていて直、共にあいせしめ、未来を垣間魅せては瞳を閉じる。

 いつの世もまた信じられている、愛の偽りを知る。浮かんでは沈む小舟のように私の心は漂うまにまに、ただ光を求めて。何処までも続く流れに恐れ慄きつつ因果の片刃を踏みつけながら暗がりを好んで進む。その不可逆を信じたいから。一度きりの道を軽く往きたいと願う。

《陽とヨ》の廓に詰まる終止符を、常々分岐の廟に射ちたいと思う次第です。

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