第三章 腐海に眠りしパンドラの箱 第一話
押し開けたドアの中は、真っ暗。
両親はいつも通りの休日出勤で、午後十時を回っても、帰っていない。
パチンパチンと
さっきから引っ切り無しに
どうせクラスの連中が、体育祭とその打ち上げの余熱に任せて他愛もないメールを延々と送り合っているのだ。
しばし通知をオフにしようとスマホを手に取った彼は、クラスのグループのすぐ下に、ここ数年起動していなかったトークグループの新着表示があることに気付いた。
いぶかしみながらも、タップする。
Wing『神月、野田の赤白帽
盗んだ、という
呼びかけられた相手からの返信は、その二分後に届いている。
神月『その名は二度と呼ぶな』
神月『盗んでないし。落ちてたのを保管してただけ』
Wing『落ちてたんじゃなくて置いてたんでしょ? あいつが
そこまで読んだところで、ちょうど新しいメッセージが着信。
神月『痛い
ああ……と、共感と
わずかにためらった後、彼もメッセージを入力、送信する。
『
Wing『それな。自分も神月を責める気はないし。むしろよくやったw』
すぐさま返信が来て、ホッとすると同時に何とも言えない
口元を
『痛くて見てられないよね。
Wing『あいつらがなんかやる
神月『マジで
***
「お前たち、そんな装備で
「「「「「大丈夫だ、問題ない」」」」」
野田君の呼びかけに、声をそろえて返答する部員一同。
エ、エルシャダイ……! また懐かしいなパート2。
場所は部室の前。
みんなマスクとエプロン、
今日はヒーロー部創立およそ一周年、ということで、節目の
「ファーストアニバーサリーでやることが大掃除って……」
「寒くなると水仕事は
ぼやく厨君に、実感がこもったコメントをする九十九君。
「じゃあ、
ドアを開けて、野田君を先頭に、ぞろぞろと中に入っていく。
みんな体育祭の準備で
「久しぶりに見ると、すげー散らかってるっスね……」
「エントロピーは増大する……」
虎之助君が
慣れてしまって気づかなかったけど、いつのまにか床にも
さて、どこから手を付けたものか……。
「掃除の基本は上から下、奥から手前だけど、まずは溢れてる物を全部入り口前に集めよう」
部室に入って四分の一ほどのフローリングスペースに新聞紙を広げながら、そんな指示を出したのは九十九君だ。
「収納場所がないから散らかるんだよ。収まりきらないものは捨てるか、各自持ち帰ること」
なるほど、さすが日常的に家事をやってるだけあって、ツボをわかってる感じ。
ちなみに彼が愛用している
てなわけで、
「なに、これ……」
小さな手帳が落ちていたので開いてみたら、
『見つめたオマエの
なんかヤバい詩が書いてあった。
「ああ、それは俺のポエム帳だ」
「見つけてくれた礼に、読む権利をやろう。自分で言うのもなんだが、
「いりません」
「おっ、
「あのクイズ大会では竜翔院が
「フッ、
「これは……七夕フェスタの時に配ったビラだな」
「
「あの時の兄貴と
「こっちは去年の文化祭の劇の台本だね。オレの馬の名演、部長に絶賛されたっけ。ただ
「わ~、懐かしい。一位が取れてすごく
ついつい思い出話に
「うわ、お宝発見♪ んー、どこがいいかな~」
「高嶋君、見つけたポスターを
「えーと、次は線Cを山折りにして……」
「野田君、雑誌の付録のロボを組み立ててる場合じゃない!」
「くっ、やはりこの絵師は、神……!」
「莉夢ちゃん、BL読み始めない!」
油断するとすぐみんな遊び始める。
「つーか木下、お前、どんだけ私物を持ち込んでんだよ!」
虎之助君が
「ふん、仕方あるまい、今日だけは
「てめーも働け!」
大量のBL本の
野田君がゴミ捨て場から拾ってきた品らしい……なんでもかんでも拾ってくるんじゃありません!
そして、そんな腐海の一番奥から姿を現したのは、小型の段ボール箱。
「なんだっけ、これ?」
「あ、あれだ、『なんでも箱』。前は忘れ物や置き場所がない物、持ち主がわからない物はとりあえずここに入れることにしてたんだよ」
高嶋君の説明に、そういえばそんなのあったなと一同、
BLの山に
私はカラーボックスを担当。動かしてみたら裏側に
あの時ちゃんと
「このガラスも空良ちゃんの心のように
「
顔をしかめる高嶋君に、九十九君がリュックから青い布を取りだして
「マイクロファイバークロス。水拭きだけで
「拭いても拭いても消えないこのシミは、よもやこの部屋の以前の持ち主の
「壁のシミは
「零、サッシの
「そういう時はこれ──マ●イ棒! 割りばしの四分の三に古着を巻いて輪ゴムで留めただけだけど、細かい
リュックから便利アイテムを次々と出しながらよどみなく応じる九十九君に、「おお~」と周囲から尊敬の
「すごいぞパープル、掃除の達人!?」
「よっ、家事のエキスパート!」
飛び
「まあお前たちとは
「ギャアアアア、なんだこれなんだこれ!?」
取り乱しながら九十九君が床に投げつけたのは──
「なんと……」と莉夢ちゃんが目を丸くする。
「以前、
「お前、好き放題やりすぎだろ!」
☆★☆
そんなこんなでトラブルはありつつも、九十九君のオカン力に助けられながら一通り掃除は
あぶれていたものも、捨てるものと持ち帰るものに分類し、すっきり整理
「あとは、これだけか……」
部員たちの視線が集まる先には、『なんでも箱』が置かれていた。
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