第二章 優勝するのはホワッツカラー!? 第四話

 そしてとうとう体育祭の最後の種目、スウェーデンリレーがやってきた。

 後ろの走者ほどきよが長くなり、第一走者が校庭半周、第二走者が一周、第三走者が一周半、第四走者になると二周も走るらしい……個人的には絶対出たくない競技だ。

 得点表は少し前からかくされているが、かなりの接戦であると予想される。

 まずは女子のリレーが行われ、朝篠宮会長と宝塚副会長をようする青チームが逆転勝利を果たした。女子の順位は青、赤、白、黄。

 なお、この四色はゼッケンの色で、赤組が赤と黄、白組が白と青である。


『さあ、大トリの男子リレーだ。勝つのは赤か白か黄か青か!? 各チームのトップバッターがスタート地点に並び立つ! 赤はサッカー部部長・あおやま、赤なのに青山とはこれいかに!? 白は白組副団長・松丸、〈とつこうとら〉はここでも一旗あげられるか!? 黄はバスケ部部長・たかなし、漢字は違えど空良ちゃんと同じ名字でもうれつうらやましい! 青は水泳部エース・とう、チャームポイントはぼうあたま……いずれもしゆんそくまんてんぞろいだー!』

 高嶋君のアナウンスにも熱がこもる。

 ……でも、まだアレが届いてないんだよね……早くしないと、終わっちゃうよ……。


「位置について。用意──」

 パアン、とひびじゆうせいしんけんまなしで飛び出す選手たち。

 みんな速くてほとんど差はないけれど、その中でも最初に第二走者にバトンをつなぐのは──虎之助君! すごい、今日はだいかつやくだな。

 続いて赤、と思いきやバトンを落としてしまった! 転がったバトンをあわてて拾い上げ、白、黄、青の背をけんめいに追いかける。


 第二走者、黄が白を抜いてトップに立ち、大きなかんせいと悲鳴が上がる。

 って赤が転んだー!

 すぐに立ち上がってまた走り出したけど、前三人に大きくおくれをとってしまう。


 第三走者では順位は変わらないまま、各チーム間の差が開いていった。

 ただいま黄、白、青、大分おくれて赤……頑張れー!


『黄のバトンは早くも第四走者、陸上部部長・いけへとわたされました。少し遅れて白も白組団長・厨へ……続いて、テニス部部長・が青のバトンを受け取った! 赤はまだ遠い……赤組団長・野田が険しい顔でバトンを待つー!』


 どうしよう、間に合わないのかな……と周囲を見回した時、「お姉ちゃん!」と少年の声が響いた。

 校門の方から走ってくるのは、高嶋君の弟、りよう君!

 体育祭は生徒以外の観覧はできないことになっているのだが、高嶋君に呼び出されて、わざわざ家から来てくれたのだ。


「これ、兄ちゃんに頼まれてた予備のやつ!」

「ありがとう!」

「む、聖瑞姫、それは……!」

「よもや最終兵器リーサル・ウエポンとうちやくとな……?」

「え、何何、何が届いたの?」

 きようしんしんのみんなに応じるゆうはなく、私はグラウンドぎりぎりまで近づくと、諒太君が持ってきてくれたソレを、思いっきり放り投げた。


「野田君ー!」

「!」


 り向いた野田君が、大きく目を見張り、パアアッと顔をかがやかせる。

「あ、あれはまさかー!?」と虎之助君の大声が響く中。


 あざやかな青空をバックに、赤白ぼうが、キラリと日光を浴びて宙をった。


「サンキュー、ピンク!」

 それをジャンピングキャッチして、ばやくウルトラかぶりする野田君。

 しゆんかん、わあああああと歓声が上がる。

『厨選手、トップにおどり出たー! ただ今の順位は白、黄、青、赤!』

 厨君すごい! でも、もうこんなに差がついてるなんて……!

『さあ、ようやく赤の第三走者もアンカーのもとへ。トップとの差はすでに四分の三周。今バトンがわた──うおおおおお!?』


流星の歩幅メテオ・ストライドー!!!」


 バトンが繋がれたせつ、そんなさけびとともにすなけむりが巻き起こり、まるでカタパルトのような勢いで野田君がすっ飛んでいった。はっっっや!


「うおおおおおおおおおおおおおおお」


「部活たいこうリレーの時も速かったが、あれとはかくにならないほどの速度だぞ……!?」

「目の色が変わっておるのう……」

「赤白帽でパワーアップするわけ!? なんなんだ、あいつ!」

 今まで出し切れなかったエネルギーが、ここにきてばくはつした感じ……!?


『赤速い赤速い、〈ピオリム〉かはたまた〈ヘイスト〉か、ほうでもかけたようなきようの走りでグングンと差をめていき、とうとう青をいた! あっという間に二周目とつにゆう! 勢いは止まらない、黄色の背にもとうの勢いでせまっていくー!』


 あまりのスピードにぼうぜんとしていた生徒たちも、野田君が二位に追いつくころには我に返って、おおさわぎになる。

「なんだアレ、化け物!?」

「やべー!」

「小池、こらえろー!」


『野田選手、黄色も抜いたー! これは神速よりもなお速い、もはや〈縮地〉の領域か! ゴールまで残り半周、トップの厨選手ももう間近!』

「うりゃああああああああああ」

 野田君、気合のたけびとともに、厨君に追いついた!

「──スチューピッド!」

 と思いきや、厨君、ここにきてまたスピードアップ!

 野田君もらいつき、横並びの大接戦だ。


『野田選手、さすがにつかれが出てきたか、しかし速い! 厨選手も素晴らしい走り! 団長対決勝つのはどっちだ。大和、厨、二人ともがんれー!』

「いけいけ野田ー!」

「厨、頑張れー!」

「野田、抜かせー!」

「負けんな、二葉ー!」


 決死の表情の二人がゴールをけ抜けたのは、ほぼ同時に見えた。

 二人ともあせだくになり、ゼエゼエと息を切らしながら、判定を待つ。


『ゴール前後の映像を、コマ送りで見てみましょう。みなさん、画面にご注目ください』

 高嶋君のアナウンスとともに、大型パネルに先ほどの二人の姿が映し出された。

 ピッ、ピッ、ピッ……と一コマごとに抜きつ抜かれつ、白熱のり合い。

 ゴール直前では、完全にかくで、シルエットが重なっている。

 だが目をらしてみると──ウルトラ帽の角がほんのちょこっと、先にゴールに届いていた。


『──勝者、赤!』


 アナウンスが流れるや、うおおおおおおおと地鳴りのようなかんせいき起こり、野田君がグッとこぶしき上げた。

 かと思うと、グラリとその体がかたむく。


『大和!?』

「野田!?」

「野田君!?」


 おどろいてみんなで駆け寄ると、とっさに支えた厨君のうでの中で、野田君は大きな口を開けて、くか~っといきを立てていた。

「エネルギー切れ……?」

きよくたんだな……」

「どこまでもクレイジーなやつだぜ……」

 平和な顔でねむりにつく野田君に、みんなだつりよくしながらも、むねで下ろしたのだった。


    ☆★☆


『今年の体育祭、総合優勝は──白組です!』


 わあっと沸き起こるはくしゆかつさいに包まれながら、ほこらしげに優勝旗をかかげる厨君。

 男子リレーでは赤が勝利したものの、きんで総合得点での逆転はできなかったのだ。

 ただし、MVPには大いに全校を盛り上げた野田君が選ばれた。──閉会式になってもまだばくすいしてて、賞状は高嶋君が代わりに受け取ってたけどね。


 体育祭が終わった後も、実行委員は片付け作業がある。

 テントをたたみ、色んな用具やブルーシート、などを所定の場所へとしまって……。

「あとは、ここだけか」

 ヒーロー部員たちが見下ろすブルーシートには、野田君が大の字になっていまだに眠りこけていた。

 あのだいふんとうに敬意を表して、とりあえず救護コーナーに運んでギリギリまで休ませてあげようってことになってたのだ。

「つくづくアンビリーバボー……あそこまでやられたらもう、くやしい通りしてブラボーって感じだぜ」

「大和は敵が速ければ速いほど、自分も速くなるんだよ。でもって逆境の時ほど燃えるみたいで、底力が引き出される」

 深々とため息をついた厨君に、高嶋君がしよう交じりに説明する。

 骨のずいまで少年まん気質か!

「野田大和にとっての赤白ぼうの効果も興味深いな。いわばブースターのような存在なのか?」

「ヒーロースイッチみたいなものなのかもね」

 クイッと眼鏡を押し上げる中村君、かたをすくめる九十九君。

「……ほんと、ハチャメチャな人だね……」


 ゆっくりとおなかを上下させて、気持ちよさそうに微睡まどろむ野田君をながめていたところ、「お姉さま、こっちですわ」とアリスちゃんに連れられて、朝篠宮会長が近づいてきた。


「今日はありがとうございました。──皆さんのおかげで、とても良い体育祭になりました」


 長いくろかみらしながら、やわらかながおと真心のこもったこわでお礼を言われて、じんわりと心地ここちよい達成感が広がっていった。

 アリスちゃんも、満足そうに微笑ほほえんでいる。

「体育祭、頑張るぞー……むにゃむにゃ」

「今終わったんだよ」

 野田君の寝言に九十九君がツッコみ、どっと笑いがあふれた。


 昼の暑さはやわらいで、秋らしいすずやかな風がはだを撫でていく。

 鼻先をかすめる、グラウンドのつちぼこりにおい。

 オレンジを帯び始めた日差しに照らされる顔はどれも、ろうはにじみつつもすがすがしい表情をしていた。


 みんな、お疲れ様!

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