第二章 優勝するのはホワッツカラー!? 第三話

 打ち鳴らされるだいと、ひびわたがいの音色。

 いよいよ本日の目玉競技、せんだ。

 全校男子生徒が出場し、体育祭でもくつの盛り上がりを見せるこの種目は、得点配分も大きく、赤白の勝敗をうらなう重要な一戦といえた。


 まずは二年生のみが参加する個人戦。

 四人一組の男子たちが、一騎対一騎でハチマキをうばい合っていったのだが──


『勝者、赤!』『勝者、白!』『勝者、白!』『勝者、赤!』『勝者、白!』『勝者、赤!』


 まさに一進一退のこうぼうり広げ、その勝負は完全にかく

 校庭が熱気とかつさいに包まれる中、ついに決戦は大将──両応援団長の騎馬に委ねられることになった。


「行くぞみんな!」

「「「おう!」」」

 野田君の馬は高嶋君、九十九君、景野君という、気心の知れたメンバーだ。

 一方の厨君は……

「ぶちのめすぞ!」

「「「お゛お゛ー!」」」

 ……なんかデカい!!

「ラグビー部員で固めたようですわね……」

 ゴクリとつばを飲み込むアリスちゃんの説明に、そうきたかと舌を巻いた。

 馬になっているのは高校生ばなれした堂々たる肉体を有する、見るからにくつきような男子ばかりだ。厨君、何が何でも勝ちを取る気で来てる……!


「はじめ!」の合図が出ると当時に、マッチョな男子たちがとうの勢いで飛び出した。

「「「うおおおおおおおお」」」

「ひるむな!」

 野田君の言葉に高嶋君たちも真っ向から応戦するが、厨君がつかみかかった両手を野田君が受けたせつ、敵の勢いに押されたのかグラリと騎馬がれる。

「!」

 とつん張りとうかいは防ぐが、野田君の気がそれたそのいつしゆんに、勝負が決まった。

 厨君が高々とかかげた赤いハチマキ。

『勝者、白!』という先生の声。

 野田君が、負けた……! しかも、こんなに電光石火で。

「悪いな、おまえら。こっちはワンチームだ!」

 くやしそうに顔をしかめる野田君たちに、厨君はほおを紅潮させ、びしりと言い放った。



「──まだまだ! 団体戦でせつじよくを果たすぞ!」

「「「「「おお~」」」」」

「ナンセンス! 白組がパーフェクト・ヴィクトリーだ!」

「「「「「おお~」」」」」

 両軍から地鳴りのようなたけびが上がり、再び法螺貝がぶお~っと鳴り響いた。


 全学年入り乱れる団体戦は、大将がハチマキを取られた時点で勝負が決まる。

 ゆえに厨君は、一番奥に移動して、完全防衛の構え。野田君も安易にっ込むことはせず、攻守どちらにも回れる自軍の中ほどに位置を取り、まずはせんきようをみることにしたようだ。

 そんな中、積極的に戦場に飛び出して暴れ回る白の一騎があった。


「特攻隊長・松丸虎之助、参る!」


 好戦的なみとともに突っ込んでいった虎之助君は、いつさいぼうぎよかえりみない強気なめで敵にいどみかかり、破竹の勢いでハチマキを奪っていく。

「松丸のやつ、やるじゃないか」

「このままじゃ戦力がけずられる一方だな……大和」

「ああ。──おれが出る!」

 野田君が前線に飛び出すや、一気に味方が活気づいた。

「赤はおれに続けー!」

 向かってきた白の騎馬をまたたく間にげきして、野田君がえるや、「うお~」と仲間たちからときの声が上がり、てきじんからは悲鳴が上がった。

「野田だ、野田が出たー!」

「まだ野田とは戦うな! 一度引けー!」

 さっきまでは白が優勢だったのに、戦況は一変。

 潮が引くように後方に下がっていく白の騎馬隊の中、ちゆうまでは引き返しながらもくるりとまた向き直り、野田君をむかったのはオレンジ系きんぱつの一年生。


「兄貴、オレはずっと、あんたと戦ってみたかった!」

「いいかくだ、虎之助。いざじんじように、勝負!」


 つかみかかってははらいのけ、手をばしては身をかわし……激しい攻防の末、ハチマキを奪い取ったのは、野田君だった。

ちくしよう……!」

「虎之助、おまえはまだまだ強くなる──」

 強敵をち取って、さらき立つ赤組。

「よし、このまま大将を討ち取るぞ!」

「大和は正面からなら絶対負けねえ! 横と背後を守れ!」

「全軍とつげきー!」


 勢いにのった赤の騎馬隊は、野田君を筆頭にまるで海を割ったモーセのように、およごしになった白組の陣形をえぐっていき、とうとうさいおう部までたどり着いた。

「大将自ら前線に立ち、チームを率いて攻勢アタツクに出るえんげつの陣……」

 守ろうとする味方のを引かせて、進み出る厨君withラグビー部隊。

「大将が討ち死にするリスクが高いゆえ常識外れだが、大将があつとう的に強い場合は士気がアップしてチーム全体の攻撃力がね上がる。お前にはピッタリの陣形だな、野田」

「知らん! だがお前をたおせるのはおれたちだけだと思ったからな。今度は──勝つ!」


 再び、大将同士の一騎打ち。

 今回は野田君たちも敵のパワーを織り込み済みなためか、しようげきを受けても揺らぐことなくむしろガンガン攻めていく。

 厨君たちの方は防戦一方となり、着実に野田君たちが追いめていた。


 ──その二騎だけを見れば、だけど。


かくよくの陣だ!」

 野田君たちが交戦に入るや、陣営のすみひそんでいた中村君の号令がひびいた。

 同時に赤の突撃によって真っ二つに割れたようにみえた白の騎馬隊が、ばやく縦に伸びて赤の騎馬隊を左右からはさみ撃ちにしていく。

「野田、お前は強い。だが、これは団体戦だ!」

「何……!?」

 野田君がまゆをひそめた次の瞬間、背後から伸びた手が、彼のハチマキをかすめ取った。


「チェックメイト」


「──ブラック!? なんで……」

 り向いた野田君は、目の前の光景に言葉を失う。

 彼の背後にひかえていたはずの味方は、ほぼせんめつされていたのだ。


「真正面からおまえを討つことは難しい以上、ハチマキをうばうためには背後を守る騎馬をはいじよする必要があった。そして、松丸虎之助が暴れていれば、おまえは必ず偃月の陣で来ると思っていた……」

 眼鏡を逆光させながら、とうとうと語る中村君。

「松丸虎之助はデコイ……おまえたちは、ここまでゆうどうされたのだ」


    ☆★☆


「ああ~クソクソクソクソクソ~!」

 おうえん席にもどってきた野田君は、頭をきむしってもだえしていた。

 完敗してしまって、そうとう悔しかったようだ。

「──だが、まだ勝負は終わってない! 最後に勝つのは赤組だ!!」

 うん、今年は種目順も変わって、騎馬戦がラストじゃなくなったんだよね。


「オレはうすうすわなの予感はしてたけどね」

「……やっぱ大和の奴、なんかおかしいんだよな……」

 知ったかぶりをする九十九君をスルーして、そうつぶやいたのは高嶋君。

「野田がおかしいのはいつものことでしょ」

「いや、そーいうんじゃなくて……いつもの大和なら、あの個人戦、いくら力負けしても、とっさに持ち直して対応したと思うんだよ。あんなあっさり負けるはずがない」

 へえ……野田君のことをよく理解してる高嶋君が言うなら、そうなのかな?

「でも、体調悪いとかではなさそうだよね?」

「ああ、元気っちゃ元気なんだけど……」

 千メートル走が始まったグラウンドに向かって「がんれ、赤ー!」と声を張り上げるおさなじみを見ながら、高嶋君は不可解そうに首をひねる。

 野田君が、いつもとちがう、理由……?

 しゆんかん、ハッと一つの考えが頭にひらめく。

「ねえ、もしかして──」

 私の意見に、高嶋君は「それかも!」と指を鳴らし、すぐさまスマホでどこかに電話をかけた。

「もしもし? 大至急、たのみたいことがあるんだけど──」



 最後から二番目の種目、移動式玉入れ。

 相手チームのかごを背負ってげる係は、それぞれの副団長がやるらしい。

 つうの玉入れと違って、赤と白が入り交じって、グラウンドを走り回る敵将が背負った籠に玉を投げ入れるので大混戦だ。

「どこ行った!?」

「投げろ投げろ!」

「──うりゃあ、ガトリング・ファイヤー!」

 すごい勢いでうでを回転させ、次々に赤い玉を投げつける野田君。

 私も籠を背負った虎之助君をねらって投げるけど、すばしっこくてなかなか入らない。

 でも今日は虎之助君以上に、高嶋君のしゆんびんさに目を見張った。

おう──イノセント・ワールド!」

「見切った!」

 莉夢ちゃんがほうり投げた大量の白の玉も、カッと目を見開いてすべてよけきる高嶋君。

「ククッ、今日この種目に限って言えば……」

 ドヤ顔で九十九君が言い放つ。

生憎あいにく、高嶋のスピードは宇宙一でな」


 ──『オレにも策があるんだよね』

 開始直前、そう言って九十九君が高嶋君の籠にり付けたのは、空良ちゃんのポスターだった。

『ここ、これは……「アイライブ!」総選挙の優勝記念にキャラデザ担当の神アニメーターうらまつさんがき下ろした、世界に五枚しかないスーパープレミアポスター! おまえ、どうしてこれを……!?』

ことが当てたのを借りてきた』

『マジか! 美琴ちゃん、おにつよだな!!』

『──空良ちゃんをだんがんにさらしたくなければ、最後まで逃げ切ることだ』

『!? そんな……こんなひとじちみたいな真似まねしなくても……!』

 顔色を変えた高嶋君に、九十九君はニヤリと悪そうなみをかべて告げた。

『この種目を落としたら、まず間違いなく赤組の総合敗北は確定だ。だが、おまえが彼女を守りきさえすれば、望みは残る……ウィンウィンの関係ってやつさ』


 ……果たしてそれはウィンウィンと言えるのか不明だったけど、とりあえず高嶋君は本来以上の力を発揮しているので、作戦としては間違っていないのだろう。


「愛する空良ちゃんを、傷つけてたまるかあああああ!」


 そんなこんなで、見事赤の勝利となった。

 相変わらず、空良ちゃんがからむととんでもないパワーを発揮するな、この人……。

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