第二章 優勝するのはホワッツカラー!? 第二話

 日が高くなるにつれ、気温はどんどんじようしようして、夏みたいな暑さになってきた。

 強い日光に、はだが焼けないといいなあといのりながら、にんさんきやくのスタート地点に向かう。

「まず真ん中の足から、1,2,1,2……ですわね?」

「うん、ちょっと走ってみよっか、移動はなしで」

 ペアのアリスちゃんと息をそろえてその場け足をしていたら、となりから落ち着いた美声に話しかけられた。

「あら、貴方あなたたちが相手なんですね」

「可愛いこうはいが相手でも、手加減はしないよ」

 朝篠宮会長と、宝塚副会長! ジャージ姿でも青空をバックにキラキラと輝いて見えるうるわしさだ。これは強敵の予感。

「ちょっとアキ、紐きつすぎなんだけど?」

「え、ほんと? ゴメン。でもあんまりゆるいとほどけるし……こんな感じでどう、樹愛流?」

 あ、神尾さんと河村さんもいる。神尾さんたちも強そうだな……。


「位置について、用意──」

 パアン、と音がはじけ、アリスちゃんと肩を組んで「1,2,1,2……」と足を運ぶ。

 鳴りひびく「天国とごく」のBGM。おうえん団の声援と、生徒たちのさわぎ声。

 わわ、会長たち速い! 息ピッタリでかろやかにトップにおどり出る。

 私たちも負けていられない──と思った時、ドンと体にしようげきを受けて、足がもつれた。

「きゃあっ」

「痛っ……」

 てんとうした私たちの横を神尾さんと河村さんが駆けけていく。

 追い抜かれざま、せつしよくしてしまったっぽい。

「ごめん、アリスちゃん、立てる?」

「ええ。瑞姫ちゃんこそ……」

だいじよう。せーので起きよう。せーの!」

 呼吸を合わせて立ち上がり、「1,2,1,2……」とつぶやきながらなんとかゴールした。

 結果は、一位が朝篠宮会長ペア、二位が神尾さんペアで、私たちはビリ。残念。

「瑞姫ちゃん、ひじから血が……大丈夫ですか!?」

「平気、ただのり傷だよ。消毒してもらってくるね」


 救護コーナーに行くと、テントの下のブルーシートには中村君が横たわっていた。

「えっ、どうしたの。大丈夫?」

むらさきあく……パープル・ヘイズに神経系の毒をらったらしい。血清をせつしゆしたため、じきに復活するはずだ……」

 首筋を氷のうで冷やしながら語る中村君。

「中村君、ねつちゆうしようになっちゃったみたい。今日は日差しが強いもんね」

 そばにいた、ふわふわした長いかみの美少女・ちゃんが説明してくれる。

「なるほど、紫の悪魔ってがいせんか……」

「聖瑞姫はせんとうぜんわん部を負傷したのか。ロザリーに〈癒しのヒーリング子守歌・ララバイ〉をほどこしてもらうがいい」

「ひじ、痛そうだね。傷口は洗った?」

「洗ってきた。消毒してもらえる?」

『救護係』のわんしようをつけた菜々子ちゃんにバンソーコを貼ってもらっていたら、「聖ちゃん」と河村さんが近づいてきた。


「ごめん、あたしたち、ぶつかっちゃって……大丈夫?」

「うん、ちょっと擦っただけだし、気にしないで」

 私の言葉に、河村さんはホッとしたように表情を緩める。

「よかった~。この後の出番にもえいきようとかなさそう?」

「うん、全然。──河村さんはこの後、何か出るの?」

「玉入れに出るよ~。聖ちゃんは?」

「私も玉入れと部活たいこうリレーと……あ、ムカデ競走で係やるから、そろそろ行かなきゃ」

「そっか、聖ちゃん、実行委員やってるんだっけ。がんってね」

「ありがとう。菜々子ちゃんも、りようありがとう!」

「うん。いってらっしゃ~い」

 二人にバイバイして、その場を立ち去った。

 河村さん、今まであんまり話したことなかったけど、いい人そうだな。



 午前中の競技がすべて終わった時点で、得点は白がやや優勢。

「なあ大和。お前、もしかして熱とかないか?」

 校庭にいたシートの上に部員みんなでお弁当を広げながら、心配そうにまゆを寄せる高嶋君に、野田君はキョトンと大きな目を見開く。

「別に、いつも通りだぞ」

「ならいいけど……なんかかんがあるっつーか、大和が何もないところで転びかけるなんて、めずらしいから」

 確かにさっきはドキッとしたな。その後のリカバリーっぷりにもおどろいたけど。


「本当になんともないんだな、野田?」

「ああ。おれはいたって元気ハツラツ! だぜ」

 大きな口でおにぎりをほおり、もぐもぐゴックンする野田君に、厨君は安心したようにフッと破顔した。

「そいつは何よりだ。バッドコンディションのお前に勝ったって、意味がないからな」

「勝つのはおれたち、赤組だ。午後で逆転して、絶対優勝してやるぜ!」

 バチバチ火花を飛ばし合う二人。

 気温だけでなく、勝負熱もヒートアップしていくようだ。


    ☆★☆


 午後の部も、応援合戦からスタート。

 まずは白組が、そうだいで勇ましい音楽に合わせてダンスをろうする。

 某仲良し姉妹の映画の続編のテーマ曲。

 統制が取れたはなやかなダンスに感心していたら、サビのところから厨君がマイクの大音量で絶唱し始めて、一気に周囲がごつかんに変わった。

 氷ほうさながらのこおり付きっぷりはある意味すごい臨場感だけど……。

 白組団員たちはきよの表情。おそらくいくら止めてもだったのだろう。

 オオーウオオーウ……と流れるバックコーラスが、全校生徒のなげきに聞こえた。


 やがて雪に見立てたような白いポンポンをもって踊っていたチアリーダーたちが、一か所に集まっていく。

「勝利のがみは、俺たち白の味方だぜ!」

 厨君が指パッチンをすると同時に、バッと散ったポンポンの中から水色のドレスを着た美しい雪の女王が登場し、おお~っとき立つ生徒たち。

 あの女王役、中村君!? 応援団じゃないのに、友情出演か……。

 大画面に映し出されたうるわしい女装姿に、男女ともテンションを急回復する中、

「白の子らに──光あれ!」

 人差し指で天をさして響きわたった低音とともに、団員たちが無数の銀テープを放ち、さらに大きなかんせいが上がった。


 一方の赤組は、高嶋君のじんとう指揮で「アイライブ!」の音楽に合わせて、赤いポンポンを持った団員たちが全力のオタ芸をする完全なお笑い路線。

「フウ~~フワッフワッフワッフワッ」とあやしいけ声とともにしんけんそのものの顔つきでキレのありすぎるりを見せつけ、ばくしようが巻き起こる。

 ちなみにパネルに流れているのはアニメ「アイライブ!」のライブ映像……これ、ただのおうえん上映会になってない!? 何を応援してるんだよ!?

 ──からのメドレーで次に流れ出したのは、ニコ動でおみのだんまくソング「真●なちかい」。またなつかしいな!

 団員の熱気あふれるダンスとえ歌にみんなでびようをして、サビは赤組全員でぜつきよう

 頬を紅潮させた野田君が、大声を張り上げる。


「最後に笑うのは、おれたち赤組だーー!」

「「「「「おおおおおおおお!」」」」」



 ……と赤白の対立が大いに盛り上がったところではあるけれど、次の種目は得点には関係ない部活対抗リレー。

「一時休戦、みんなで団結して、ヒーロー部の実力を見せてやろうぜ!」

 野田君の呼びかけに「押忍おす!」とせいよくガッツポーズをする虎之助君。

 残りのメンバーは「お~」とゆるく応じる。

 運動部がそれぞれのユニフォームを着用し、ボールやラケットなど部活にまつわるものをバトンにしてリレーするこの種目。

 ヒーロー部は運動部なのか文化部なのかよくわからないけど、野田君のたっての希望で参加することになっていた。

「ヒーロースーツを用意できなかったのは無念だが……!」

「いらないいらない」

 くっ……とくちびるをかむ野田君に首を振る部員たちは、だん姿。これが活動着だからね。


 ちなみにバトンを何にするかっていうのは色んな意見が出て、ちゆうまでは高嶋君のキングブレード(高機能ペンライト)が形もちょうどいいし有力候補だったんだけど、まさかのベンジャミンになった。

 決定打は九十九君がつぶやいた「あ、ベンジャミン・バトン……」って一言。

 そういえばそんなタイトルの映画があったなって盛り上がって……結局ダジャレである。

 走る順番は、元ネタのだんだん若返るというあらすじにちなんで、誕生日が早い順にすることにした。


「位置について。用意──」

 はじけるじゆうせいと同時にけ出す第一走者たち。

 ヒーロー部のトップバッターは高嶋君だ。

 部活ごとに装備の有利不利があるものの、サッカー部に続いて六人中二位という好順位!

「──九十九!」

「ぶにゃ~ご」

「うわ、暴れるな、ベンジャミン!」

 二番手の九十九君もベンジャミンをなだめながらけんめいに走って、なんとか二位をキープ。

 いい感じ! 次は──

「中村!」

「来るのだ、ケット・シー」

 バトンを受け取れるテイクオーバーゾーンの一番奥、ギリギリはじっこでベンジャミンを渡されるや、キリッとしたまなしで走り出す中村君。

 だけど、ああ~……水泳部、テニス部、陸上部、けんどう部に次々とかれてあっという間に最下位転落。

 なお、各部のバトンはサッカーボール、ビート板、ラケット、ほうがん竹刀しないである。剣道部は防具もつけてるから、ハンデがすごい。陸上部も重そうだ。


「くっ……ギルディバランが……かつてなく暴走を……ゼエゼエ」

「中村君、あと少しだよ、がんって!」

「聖、瑞姫……ゼエゼエ、このせいじゆうを……お前にたく……ゲホゲホッ」

 校庭半周しただけでバテバテの中村君からねこを受け取って、私もダッシュする。

 うわ、ベンジャミン重いよ~。

 全力で走るけど、前の走者とのきよは縮まらないどころか広がってるかも。

 もともとスポーツは得意じゃない上、ほかの運動部は男子ばっかりだしな~、きつい!

 ハアハアと乱れる呼吸、ドッドッと暴れる心臓、後ろに流れていく景色。

 ほどなくして、テイクオーバーゾーンの一番手前に待機するすらりとした男子の姿が見えてくる。

「──ごめん、厨君!」

「ドンウォーリー!」

 息を切らしながらベンジャミンを差し出すと、たのもしい言葉とともにサッと引きがれた。目の前の背中がみるみる遠ざかる。

 厨君はグングンと風を切ってスピードを増し、剣道部、そして陸上部をも追い抜いた。

 すごいすごい、ごぼう抜き! そして次はあの人──

「野田、頼むぞ!」

「任せとけ!」

 バビューンともうスピードで飛び出した野田君は、次々に前方の選手を抜き去ると、あっという間に二番手までおどり出る。

 さすが野田君、べらぼうに速い!

 いよいよ一位まであと一歩、というところで次の走者は──


「莉々夢!」

「うむ、たいである」

 ゆううなずいてベンジャミンをうでいた莉夢ちゃんは──フリルとレースがふんだんにそうしよくされた黒のゴスロリドレス姿だった。ちーん。

 しゃなりしゃなりと移動する彼女の横を、ドドドドド……と選手たちが駆け抜けていく。


「こら木下、もうちょっと活入れて走りやがれ!」

「やかましいのう……わらわあせをかくのがきらいなのじゃ」

 莉夢ちゃんがようやくアンカーの虎之助君のところにとうちやくするころには、すでに他の選手は全員ゴールし終わっていた。


「──くっ、すまない……おれがもっとリードできていれば……!」

 野田君はひざまずいて、くやしそうに地面をたたいたけれど……。

「いや、どうしたってビリでしょ」

「ドレスだからな……」

「そもそも本気で勝つつもりなら、ベンジャミンもないよな」

 他の部員たちはのきみしらっとした様子で、かたをすくめたのだった。


 みんなジャージにえ直して、続いての種目は障害物+借り人競走。

 あ、高嶋君が走ってる~、とおうえん席で見物していたら、お題を拾ってからキョロキョロしていた彼が、私と目が合うなりこっちへ直行してきた。

「聖! 来てくれ、お前しかいない!」

 グイッと手を引かれて、ゴールへと連れていかれる。

 え、何、『女友達』? 『「アイライブ!」が歌える女子』とか!?


 ゴールで見せられたお題は『理系女子』。

「別に私しかってわけでもなくない?」

「手をにぎってもだいじような女子がいないんだよ……」

 そっちか!


「聖瑞姫!」

 席に帰るちゆうで、今度は中村君の指名を受ける。

「お前は確か磨羯宮カプリコーンの守護のもとに生誕した宿命だったな。ともに来い!」

 なんのこっちゃと思いつつ、再びグラウンドを半周する。

 お題は『やぎ座』だった。

「ハアハア……お前のおかげで試練をとつ、ハア、できたぞ……礼を言おう、ふーふー」

「どういたしまして……ハアハア」

 中村君とだからそんなにスピードが出てるわけでもなかったんだけど、さっきから走ってばっかりだから息が上がった。


「聖さん!」

 応援席にもどって一息つかないうちに、またまた名前を呼ばれて顔を上げると、なんと今度は宝塚副会長。

「『園芸部』ってお題なんだけど、いつしよに来てもらえる?」

 お、おう……。

「はい」と頷きながらも私がためらったのに気づいたのだろう、宝塚副会長はふっと悪戯いたずらっぽいがおひらめかせると、近くに来た私をひょいっと横抱きにした。えええええ!?

「ふっ副会長!?」

「おつかれみたいだから、こうやって運ぶね。──君は私にすべてをゆだねていればいい」

 つやのある中性的なボイスでささやくと、私をお姫様抱っこしたまま、グラウンドをけていく。

 キャアアアアアアと周囲から巻き起こるかんせいと悲鳴。

 なんだこの少女まんみたいなシチュエーション……!

 どこまでイケメンなんですか副会長! れてまうやろー!?

 だが女だ。


「引っ張りだこではないか、シスター・瑞姫」

 無事ゴールした後、ぽ~っと夢見心地ごこちで歩いていたら、莉夢ちゃんにそうぐうした。

「うん、こんなに条件がいつしまくるって、すごいぐうぜんだよね……」

「……そうじゃのう」

 莉夢ちゃんはふふっとふくみ笑いをすると、グラウンドに視線を向ける。

「おや、まただれぞがこちらにやってくるようじゃぞ?」

 えっとり向くと、九十九君が一直線にとつしんしてきていた。

 まさか、また……!?

「──木下! これ書いたの絶対おまえだろ!」

 まなじりをり上げた九十九君が見せた紙には、『抱かれたい男』と書かれていた。

流石さすがじゃ九十九零、これを引き当てるとは! さあさあ、本能のおもむくままに、思いかんだ男のところへ向かうのじゃ。グフフフフ……」

「ふざけんな! ノーゲームだこんなの!」


 ふとグラウンドに目を向けると、厨君が「ナンセンス!」と毒づきながら中村君をおんぶして猛ダッシュしていた。

 なるほど一緒に走るより速そうだけど……厨君もなりふり構わなくなってるな。

 ゴールで明かされたお題は『学年首席』だった。

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