【最新刊発売記念！新章１巻試し読み大増量！】厨病激発ボーイ／原案・れるりり（Kitty creators）、著・藤並みなと

第二章 優勝するのはホワッツカラー!? 第一話

「おれたちは、正々堂々、全身全（ぜん）霊（れい）、この熱く滾（たぎ）る命を懸（か）けて──」

「ゴージャスでエキサイティングなパフォーマンスを、ここに誓うぜ！」

　どこまでも高く青い空に応援団長二人の選手宣（せん）誓（せい）が響き渡（わた）ると、わああっと全校生徒の歓（かん）声（せい）と拍（はく）手（しゆ）が沸（わ）き起こった。

　皆神高校体育祭の開幕だ。

　プログラム一番、応援合戦。

　ドンドンドンドンドン……と大きな太（たい）鼓（こ）の連打とともに、両応援団が入場する。

　今年は、文化祭で使用されていた大型パネルが体育祭でも設置されるという初の試みが為（な）されていた。

　画面には「プログラム①　応援合戦」という文字が表示された後、校庭に現れた団員たちの姿が近くのカメラからの生（なま）中（ちゆう）継（けい）で映し出される。おお～、表情とかわかりやすいね！

　赤組はみんな黒の学ランに赤いハチマキを身に着け、団長である野田君は加えて赤いタスキと腕（わん）章（しよう）付き。

　なんだかやけにカッコよく見えるのは、いつもの赤白帽（ぼう）を被（かぶ）っていないからだろうか？　赤組団長が半分白い帽子を被ってたら微（び）妙（みよう）だもんね。にしても、新（しん）鮮（せん）……！

　一方白組は白の学ランに白いハチマキで、厨君はそれプラス青いタスキと腕章。

　厨君も白ラン、凄（すさ）まじく似合っていて、周囲から黄色い声──どころか興奮しすぎてゴリラみたいになった鼻息交じりの奇（き）声（せい）すら沸き起こっていた。どーゆーテンション!?

　応援団の女子は基本、それぞれの組のカラーを基調にしたチア衣（い）装（しよう）を着ているけど、中には学ランの子もいる。学ラン女子もいいよね！

　あと、虎之助君だけは長ランの前が開いてサラシを巻いた素（す）肌（はだ）が見えて、背中には『絶対優勝白軍無（む）双（そう）』って文字が書かれていた……趣（しゆ）味（み）全開だな。

　まず白組はしゃがみ込んで、赤組の応援からだ。

「フレーフレー、あ・か・ぐ・み！」

　長いハチマキをはためかせた団長の良く通る号令に合わせて、太鼓が打ち鳴らされ、掛（か）け声とともに空手のような型を披（ひ）露（ろう）する団員たち。

　キレがあってよくそろってて、カッコいい！

「『アイライブ！』で鍛（きた）えたリズム感を見せてやるぜ！」とか言ってた高嶋君も、鮮（あざ）やかなバチさばきを見せていた。

「炎（ほのお）の色は何色だー!?」

　野田君の叫びに、赤組の生徒たちが「赤ー！」と声をそろえて叫び返す。

「スパイダーマンは何色だー!?」

「「「「「赤ー！」」」」」

「スーパーマンのマントは何色だー!?」

「「「「「赤ー！」」」」」

「破（は）裏（り）拳（けん）ポリマーは何色だー!?」

「「「「「赤ー？？？」」」」」

　たぶん特（とく）撮（さつ）ヒーローなんだろうけど趣味に走りすぎだよ！

　野田君は息を吸い込むと、ひときわ大きな声で問いかけた。

「──おまえらの血は、何色だーっ!?」

「「「「「赤ー！」」」」」

　ニュアンス変わってない？

　続いての白組も、見事な演（えん）舞（ぶ）を披露。

　七夕祭り以来の虎之助君の太鼓は、相変わらず大迫力だった。

　またこちらはチアリーダーが多く、華（はな）やかな印象……厨君が団長だからかな？

　転校当初のフィーバーは去ったけど、未（いま）だになんだかんだモテているらしい。情報通の美（み）咲（さき）ちゃんによると「何はともあれハイスペック！」とのこと。

「ペガサスの色はホワッツカラー!?」

「「「「「白ー！」」」」」

「サンダーはホワッツカラー!?」

「「「「「白ー！」」」」」

「スポットライトはホワッツカラー!?」

「「「「「白ー！」」」」」

　赤や黄もあるけど……。

「ノンスタイル石●はホワッツカラー!?」

「「「「「白ー！」」」」」

　弱そう！　●田さんは大好きだけど！

「富（ふ）士（じ）山（さん）のトップはホワッツカラー!?」

「「「「「白ー！」」」」」

「──トップが似合うのは、ホワッツカラー!?」

「「「「「白ー！」」」」」

　ここで赤組も再び立ち上がり、野田君が声を張り上げる。

「勝利をつかむのは、何色だー!?」

「「「「「赤ー！」」」」」

「「優勝するのは、何色だー!?

ホワッツカラー!?」」

「「「「「赤ー！」」」」」「「「「「白ー！」」」」」

「「聞こえねーぞ！」」

「「「「「赤ーー！」」」」」「「「「「白ーー！」」」」」

「「もう一回！」」

「「「「「赤ーー！」」」」」「「「「「白ーー！」」」」」

　負けじと自分のチームカラーを叫（さけ）び合う生徒たち。

　ボルテージが大いに上がったところで、ドドン！　と太鼓が鳴り響（ひび）き、大きな拍手が起こる中、応（おう）援（えん）団が退場していった。

「──お疲（つか）れ様。一気に盛り上がったね！」

　席に戻（もど）ってきた野田君をねぎらうと、「おう！」と親指を立てて返される。

「……あれ、おれの赤白帽は……？」

「え、ここに置いてたの？」

「ああ、団員たちから応援合戦の間は外してくれって言われて……」

　キョロキョロとブルーシートを見回す野田君。

　私も一（いつ）緒（しよ）に捜（さが）したけれど、この辺りには見当たらなかった。

「ま、いっか。ピンク、見つけたら確保しといてくれ！」

　そう言い残すと、野田君はぴゅーっと走っていった。

　赤白帽、どこ行っちゃったんだろう？

　そういえば、高嶋君も戻ってきてないけど……と思った時。

『いよいよ始まりました、皆神高校第七十七回体育祭！　七十七！　なんだか縁（えん）起（ぎ）のいい数字だし、最高の祭りになる予感！　ちなみに空良ちゃんの誕生日は七月十七日です！』

　マイクを通して馴（な）染（じ）みある声が響き、キラキラしたアイドルソングが流れ出す。

　そうか、今年もアナウンス係やるんだ！

　高嶋君も大（おお）忙（いそが）しだな……でも隙（すき）を見て空良ちゃん情報を流すな！

『今年は大型パネルも設置され、熱（ねつ）闘（とう）する選手たちの姿を臨場感アップでお届けします。それではプログラム二番、百メートル走！　恒（こう）例（れい）のレース直前インタビューをしてみましょう～画面にも是（ぜ）非（ひ）ご注目ください！』

　大型パネルが中（ちゆう）継（けい）に切り替（か）わり、スタート地点に並ぶオレンジ系の金（きん）髪（ぱつ）の男子や赤（あか）髪（がみ）の長身男子の姿が映し出された。

　虎之助君、一人でめっちゃ真面目（まじめ）にラジオ体操第二の動作をやってる……。

『準備万全ですね、松丸選手』

『押忍（おす）！　三（さん）中（ちゆう）のスピードスターとはオレのこと。走（そう）死（し）走（そう）愛（あい）、走り屋の名にかけて、先（せん）輩（ぱい）でも遠（えん）慮（りよ）なくぶっちぎるぜ！』

　ちょっ、虎之助君、カメラに向かってガン飛ばさないの！

『これは同じヒーロー部の九十九選手への宣戦布告か!?　そうです、勝負の世界に先輩も後輩もありません！　九十九選手からも一言どうぞ』

『おもしろい……五（ご）中（ちゆう）のガゼルと呼ばれていたオレに追いつけるかな？』

　今度は顎（あご）を上げた九十九君の全力の悪（ワル）顔（がお）が映し出される。

　さっきから治安悪いな、この放送！

　にしても彼の毎度懲（こ）りずに強がれるところは、さりげにメンタル強いと思う。

『バスケ部期待のルーキー、上（うえ）杉（すぎ）選手。意気込みは？』

『都大会ベスト４（フオー）は狙（ねら）いたいですね』

『バスケの意気込みは聞いてねーし！』

　爽（さわ）やかにボケるサラサラの茶（ちや）髪（ぱつ）男子に高嶋君がツッコむと、周囲から笑いが起こるとともに、「上杉、やる気だせー！」と一年生席からヤジが飛んだ。

　あ、あの子、実行委員の……。

「え、ヤバ、イケメンじゃね？　あたし好みなんだけど？」

　すぐ横からそんな声がして振（ふ）り向くと、クラスでも華（はな）やかで目立つ女子グループのリーダーである神（かみ）尾（お）樹（じゆ）愛（え）流（る）さんが、長い睫（まつ）毛（げ）を瞬（またた）かせながら友達の肩（かた）を揺（ゆ）すっていた。

「あはは、樹愛流、節操なさすぎー！」

「さっきは厨二葉神（かみ）っつってたじゃん」

「うっせー。誰（だれ）か知らない？　一年？」

「そーそー、上杉彗（けい）。一年で一番モテるらしい。期末はクラス一位だったって」

　そう答えたのは、神尾さんと同じ四人グループの一人、河（かわ）村（むら）璃星（あきほ）さん。明るめの艶（つや）やかな髪に赤いリボンを編み込んだ体育祭アレンジが、すごく可愛（かわい）い。

「え、アキ、詳（くわ）しいし」

「年下好みだったんだ？」

「違（ちが）うって。あたしは宝塚先輩推（お）しだし！　上杉は同中だったの」

「マジで？　紹（しよう）介（かい）してよ」

「ムリムリ、顔知ってるだけだし。それにあいつ、チャラそーだよ～」

　そんな会話を聞くともなしに聞いているうちに、パアン、とピストルの音がして、レースが始まった。

　飛び出したのは虎之助君。これは速い！　続いて上杉君、九十九君、そして見覚えはあるけど名前が思い出せない男子……あ、モブ４（フオー）の田（た）中（なか）君？

「彗くーん」と響く女子の声（せい）援（えん）。本当に人気あるんだな。

　野田君と厨君も応援団を率いて、選手たちへエールを送る。

『熾（し）烈（れつ）なトップ争い！　先にゴールテープを切ったのは──虎（とら）、じゃない松丸選手ー！』

　やったー、すごいすごい！

　虎之助君はイメージ通り、スポーツ得意みたい。九十九君もうん、いつも通り……。

「いけいけ赤組ー！」

「白、負けるなー！」

「キャー、芳佳様ー」

「厨先輩いいいいいフンガフンガ」

「イケメン爆（は）ぜろイケメン禿（は）げろイケメン滅（ほろ）びろ……」

　飛び交（か）う応援と歓（かん）声（せい）、時には怨（えん）嗟（さ）のぼやきを聞きながら、競技係の仕事に向かう。

　非モテ同盟『ルサンチメン』は今年も健在なんだな……。

『続いては、パン食い競走です』

　私は莉夢ちゃんとテープを持つ係として、ゴール地点で待機していた。

　あ、次は野田君の出番だ。

　スタートの合図と同時に弾（だん）丸（がん）のように飛び出した野田君は、あっという間にパンのところに到（とう）着（ちやく）し、右の拳（こぶし）を突（つ）き上げてジャンプする。

「シュワッチ！」

　ひとっ飛びでパンを紐（ひも）から食いちぎると、勢いそのままにダッシュ。

　うーん、速いなあと感心していた次の瞬（しゆん）間（かん）。

　野田君の体がバランスを崩（くず）した。

　え……!?

　転んだ、と息をのんだ刹（せつ）那（な）、野田君はとっさに地面に両手をついて、そのまま鮮（あざ）やかに前方倒（とう）立（りつ）回転してシュタッと着地するや、何事もなかったかのように走り出す。

　校庭にどよめきが沸（わ）き起こる中、一位でゴールした。

「何、今の……？」

「転びかけた！　いや～ヒヤッとしたぜ」

　自分でもビックリした様子で目をパチパチさせながら、去っていく野田君。軽（かる）業（わざ）師か！

　でも怪（け）我（が）がなくてよかった、と胸を撫（な）で下ろしながら手放したゴールテープを拾って、元の場所にしゃがみ込んだところで──

「野田先輩、カッコいい！」

「ヤバいよね～。彼女いるのかな？」

　不意にそんな女子たちの声が耳に入って、仰（ぎよう）天（てん）した。

　野田君が、モテてる……!?

　……そっか、今日は赤白帽（ぼう）がないし、団長だし。

　さっきから大（だい）活（かつ）躍（やく）だから、普（ふ）段（だん）の言動を知らない下級生からしたら輝（かがや）いて見えるかもね……でも彼女って、いるわけないでしょ、野田君だよ!?

　とはいえこれをきっかけに告白とかされちゃったりして……そしたら、どうするんだろ──

「シスター・瑞姫、テープ！　次が来るぞ！」

　莉夢ちゃんに呼ばれてハッと我に返ると、いつの間にかゴールテープを下に落としていた。動（どう）揺（よう）しすぎでしょ、私！

　そんなに彼がモテるのが意外だったか。失礼な話だな……ごめん、野田君。

　心の中で謝りながら、テープをぎゅっと握（にぎ）り締（し）めた。