第一章 繁忙プレパレーション! 第三話
「野田大和の着眼点は悪くなかった。紅白の
会議の翌日の放課後、校庭で立て看作りの最中、無念そうにそんなことを話す中村君。
「確かに赤白にこだわる意味はないよね。うどんとそば、アナログとデジタル、インスタとツイッター……」
ベニヤ板にボンド水を
「
「スーツと和服、学ランとブレザー、夢女子と
「──それにしても、野田君はともかく厨君まで応援団長になるなんて、意外だったな。個人主義なイメージだったし、リーダーシップはあっても、自ら進んで集団を率いるタイプには見えなかったから」
遠くから
「いくら負けたのが
「そうなんだ……でも、それを言ったら九十九君も、すごく変わったよね」
「そう?」
「うん。会ったばっかの
「……!」
「あ、あくまで初期の印象ね!」
九十九君がショックも
「でも、どんどん
「オレはそんな善人じゃないよ。……別に、
「え、何?」
「な、なんでもない」
ぼそりと付け加えられた声は聞こえづらくて、
「ぐっ、ぐおおおおおお……クソ、抜けない……ゼエゼエ」
うめき声がして
「これが
「あ~、無理するなよ、危なっかしい。ここはオレの力を貸してやろう……ふんっ、ふぬっふぬぬぬぬ……くうーっ……マジで
「何かしらの
「私もやってみていい? ……んっ、んんっ…………ほんとだ、全然動かない」
みんなで
「申し訳ございません、資材の校内の在庫はこちらに出ている分で全部でしたわ」
先ほど配られた角材の量が足りないみたいだったから、
「すぐに追加を注文しまして、三日後には届くはずなのですが……」
「とりあえず、できるとこまででいいから進めておいてくれるかい?」
「うん、わかった」
「わたくしの発注ミスですわ。ごめんなさい……」
「全然問題ないよ」
しょんぼりするアリスちゃんの肩をぽんぽんしていたら、向こうから「すみませ~ん」と数人の生徒が近付いてきた。
「ムカデ競走の練習スペース、今日のこの時間は1‐Cが予約してたはずなんですけど、1‐Bと1‐Fも予約したって言ってて」
「練習は同時に二クラスまででしたよね。お待ちください、ただ今確認しますわ……」
手にしていたファイルをめくり、紙面に目を走らせていたアリスちゃんの顔色が、サッと
「申し訳ございません、ダブルブッキングしていたみたいです」
「えーっ、せっかくメンバーの予定合わせたのに」
「マジか~」
「どうする? ジャンケン?」
「……校舎裏にもスペースはあるから、悪いけどジャンケンに負けたクラスはそこで練習してもらえますか?」
景野君の提案を受けて、ジャンケンで勝敗を決し、
──かと思うと、また別の生徒の呼び声が響いた。
「いたいた、生徒会の人! 入場門のことなんだけど……」
「はい、ただ今参りますわ」
アリスちゃんたち、
☆★☆
体育祭が近づくにつれて、私たちも
「よし、選手
作業場となっている会議室のパソコンの前でグッと
「そっちは何してるの?」
「『
眼鏡のブリッジを押さえながら答える中村君。借り人競走のお題作りか。
「なになに、『前世が
「なん、だと……!?」
引いた
「『同じ部活の人』『AB型』『イニシャルがM』『冬生まれ』……この辺は
安心していたら、莉夢ちゃんがハッと息をのんだ。
「九十九零、そなた……さては借り人競走に選手としてエントリーしておるな?」
「だ、だから何? 別にネタバレしてても、勝敗にはさして
何かやましいことでもあるのか目を泳がせる九十九君に、莉夢ちゃんは頬を紅潮させながら「そうか、そうか」と大きく
「そんなに厨二葉と走りたいのか……!」
「──ちげーよ!!」
「その作業が一段落したら、もう一度立て看作りの手伝いに行ってもらえますか? 制作が
「わかりました」
同室でたくさんの書類に目を通していた朝篠宮会長から指示を受けて、四人で校庭へと向かう。
「……あれ、あの子……」
向こうもこちらに気付いた瞬間、気まずそうに首をすくめ、「さて」と明るい調子で立ち上がった。
「
えー、と残念そうな女子たちを
「……
「まあ、すぐ仕事に
校庭に行くと、厨君と虎之助君が他二人のメンバーとリレーの練習をしているのが目に入った。
「熱心だね」
通りすがりに声を
「あっちのリレーは絶対野田が出てくるだろ。個別のタイムじゃ
厨君の目には静かだけど熱い
「そうだ中村、
「フッ……了解した」
お気に入りのケーキ屋さんを提案されて
「あっ、いいっスね! オレも行きたいっス」
「オーケー松丸、おまえにも
練習に戻っていく彼らと別れ、私たちも立て看制作をしている一角へと足を運ぶ。
「よくぞ来てくれました! 全然人足りなくてさ~」
先にいた実行委員から、そんな言葉とともに
立て看にはすでに下絵が
白組は、
狼の周囲には黒の
「なるほど、フェンリルか……悪くない
「〈
「ロキはいいよね。
色を塗りながら
狼の絵の上には、ビシッとスローガンがレタリングされていた。
〈SHOW THE SPIRIT〉
「このスローガンも絶対二葉が考えたな……」
「うん、それっぽい」
一方の赤組は、火の粉を散らした不死鳥の絵。
こちらも白組同様、美術部と思われる絵心のある人たちが実力を発揮していて、色が付けば
余白があるから、ここに入るんだろうけど、まだ決まってないのかな?
「──お疲れ! すげー、カッコよくなりそうだな!」
とりあえず背景は全部終わって、あと一息かな……とずっと
見ると野田君が、
「野田君、何、その筆?」
「スローガンを書くためのアイテムだ」
「え、赤の文字は野田が書くの?」
目を
「赤組のみんなに届くよう気合を込めるから、おれに書かせてくれって
「そうだったんだ……でも、筆ってことは、一発勝負?」
「しくじって台無しにするとか、
「任せとけ!」
不安になる私たちに頼もしくそう
「おれのモヂカラ見せてやる……一筆奏上!」
そんな
〈
「どうだ!?」
「おお~、
「ふむ……燃え盛る炎の
そういえば去年の体育祭のスローガンも、野田君が書いたって言ってたっけ。
「野田がこんな漢字を知ってるなんて意外だけど」
「智樹と色々調べて考えたんだ」
へへん、と野田君が胸を張った時、「大和ー」と高嶋君の呼び声が
「
「わかった、なるべく急ぐ!」
「筆、そのままでいいよ。洗っておくから」
「ありがとうピンク、頼んだ!」
ダーッと
「体育祭、楽しみだなー!」
……なぜ
響き渡る声と集まる注目に、顔が熱くなるのを感じながらも、ウキウキが
「そうだね」
──さて、もう
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