厨病激発ボーイ プライド超新星

第一章 繁忙プレパレーション! 第一話

 ふわりと甘くしびれるかおりが鼻をかすめて、通学路沿いの生けがきを見上げると、小さな星を集めたようなオレンジの花がいていた。

きんもくせい……秋になったんだな」

 七夕祭りに合宿、プールにラップ大会にドラマさつえい……。

 数えきれないほど色々なことがあったせんれつな夏をついおくして、少しだけしんみりした気分で歩き出す。

 しかしそんなかんしようも、ぽこぽこした羊雲と青空の下にそびえたつみの校舎に近付くに従って、かき消されていった。

 ドンドンドン……と、聞こえてくるのはたいの音。

 なんだろう? という疑問は、校庭の一角に並んだ生徒たちの姿を見て解決した。

「フレーフレー、あ・か・ぐ・み!」

 体育祭のおうえん団の練習をしてるらしい。

 そしてその先頭に立って声を張り上げてるのは──


「まだまだ声量が足りないぞ! もっと、もっとだ……おまえの限界を、えてみろおおお!」


 君!?

 くりくりした大きなひとみの、可愛かわいらしい顔立ち。き活きとよく動くがらたい。やたらに熱い台詞せりふ。頭には赤白ぼう

 どこからどう見ても、高二になっても地球を守るために日々しゆぎようはげみ続ける永遠の少年、行動力と正義感のかたまり、我らがヒーロー部の部長にしてレッド・野田大和やまとだ。

「おれたちのとうで、地球を丸ごと燃やしくしてやろうぜ!」

 って野田君、うっかりヒーローというより悪の組織みたいなこと言っちゃってるよ!?

 そしてそのかたわらで太鼓をたたいているのは──


「武道館ライブのアイライバーを見習おうぜ。そんなへなちょこじゃちゃんたちに届かないぞー!」


 きんぱつにヘアピン。はなやかで人好きのする顔立ち。すらりとびたたい

 芸能事務所にいてもかんないアイドル系イケメンなのに二次元しか愛せない、何かと器用で友達思い、コミュ力も高いのにリアル女子の前では「あばばばば」、知れば知るほど残念感が深まる重度のオタク──ヒーロー部イエロー・たかしまとも

 どうやら赤組は野田君が応援団長、高嶋君が副団長になったらしい。


「ククッ、なるほど、そういうわけか……」


 不意に後ろからふくみ笑いが聞こえて、り返ると、ヒョウがらアウターを着た背の高いあかがみ男子がしたり顔でうでを組んでいた。

 ド派手な服装やマニアックなものを好むことで「人とはちがった自分」を演出したがるサブカル系、かげの支配者のごとき言動をり返しつつも、家では姉たちに頭が上がらず幼いていまいのお世話や家事に明け暮れるいじられ黒幕──ヒーロー部パープル・九十九つくもれい

「おはよう、ひじりサン」

「おはよう。そういうわけって、どういう意味?」

「〈あいつ〉が応援団をやるなんて、いったいどういう風のき回しかと思ったんだ。でも、野田が赤組の団長と知って、なつとくしたわけ」

 もったいぶったようにそう話しながら、九十九君が指さした先に見えたのは、白組の応援団。彼らを率いているリーダーは──


「ワンモアタイム! 頭から行くぞ。フレーフレー、し・ろ・ぐ・み!」


 オリーブ色の髪。するどそうぼうとうのようなはくせきばつぐんのスタイル。

 日本人ばなれしたぼうゆうしゆうな知能と運動神経をあわせ持つハイスペック帰国子女、だがその実態は【†せつ †】というアレなハンドルネームとアハンなノリでおん過ぎる歌を世界に配信するナルシストな歌い手──ヒーロー部グリーン・みくりやふた

「厨君が白組団長!?」

「去年の体育祭では、野田に敗れたからね。あの負けずぎらい、ずっとリベンジの機会を待ちわびていたんだろう」

「よっぽどくやしかったんだね……でも、こうなると白組の副団長はまさかなかむら君──」


「オラオラオラ! 全然気合がたらねーぞ、ビッとしろやオラ!」


 じゃなくてとらすけ君か!

 上級生にもしゆくすることなくバチを振るってえんを上げている彼は、逆立てたオレンジ系の金髪に三白眼。

 ヤンキーにあこがれ高校デビューするも、根はピュアで真面目まじめな熱血少年、こく無欠席で成績は上位と、素行はむしろ優等生な気のいいこうはい──ヒーロー部一年生・まつまる虎之助。


「俺はやみに生きるこうくろりゆうしよういんとう──祭りのけんそうとはえん宿命さだめにある」


 ひびいた低音に視線を向けると、先ほど思いかべていた細身の黒髪眼鏡男子が、うれいに満ちたまなしとともに変なポーズをとっていた。

 色んな意味で並外れた頭脳をほこる学年トップ、芸術方面の才能も豊かでガチの天才かもなのにみぎうでに宿してしまった暗黒神ですべてが台無し、じやがん系ハイエンドちゆうびよう──ヒーロー部ブラック・中村かずひろ

「まあ体力ゼロの中村に応援団は無理だよね」

「見くびるな! 以前も語っただろう、俺が本気の力を解放するとこの世界のバランスがくずれるため、俺はあえて自らに強いをかけ、極度に能力を制限しているのだ……」


「体育祭か……良いのう、はんの男どもがあせだくになりながらくんずほぐれつたがいの〈棒〉をにぎり合い、激しくうばい合うのじゃな……!?」


 ククククク……とよだれをぬぐいながら邪悪なみとともに登場したのは、虎之助君と同じくヒーロー部一年生のきのした。朝から何を言ってるんだこの子は!?

 両耳の下で結ばれたゆるやかに波打つ長いぎんぱつ。左目に眼帯。人形めいた色白きやしやな美少女の全身を包むのは、過度のフリルやレースでそうしよくされた黒いドレス。

おう=シュテルリーベ=ナイトメサイヤ」を名乗るゴスロリ少女であり、男同士のれんあいをこよなく愛するじよでもある、これまたすぎる後輩だ。

 ここにピンクである私、聖みずが加わって、みなかみ高校ヒーロー部となるわけだけど……

「もしかして莉夢ちゃんが言ってるの、棒取りゲームのこと?」

「うむ、その通りじゃ。……せんたかぶるのう。それぞれが4〈ピーッ〉で一体となり、騎乗●でめまくる……グフフフフ」

「やめろ! ピー音機能してないし、こっち見ながらニヤニヤするなー!」

「あっ、ピンク、パープル、ブラック、莉々夢! おはよう!」

「ふうー、朝練終わりっと……『アイライブ!』で空良ちゃんチャージだ」

「モーニン。おまえら、さては俺のゆう姿れてたな?」

「今年はオレたち白組がテッペンとるんで、そこんとこ!」

「ぐがああああ、まずい、右腕が、うずきだした……!」

 秋になっても、まだまだにぎやかな毎日は続きそうだ。


    ☆★☆


「今年はヒーロー部員の半分がおうえん団なんだね」

「おう!『赤組団長はおまえしかいない』って去年の団長から直々にたくされたからな! 絶対熱い体育祭にするぞ。しかも白組はグリーンが団長なんて、最っ高に燃えるぜ!」

 そんなことを話しながら、野田君、高嶋君、九十九君、私の四人で2‐Cの教室に入っていくと、「おはようございます」とみどりひとみの美少女が、くりいろのサイドテールをらしながら近付いてきた。

「アリスちゃん、おはよう」

「おはよう!」

「おっす」

「おはよう」

「あ、あの……」

 なぜかほおを赤く染め、もじもじしながら目をせるアリスちゃん。

「どうしたの?」

「……た、高嶋君。今日の昼休み、お時間をいただけますか?」

 アリスちゃんはしんけんな眼差しで金髪男子を見上げると、両手をぎゅっと胸の前で握りしめ、勇気を振りしぼるように言った。

「大切なお話があるんです……!」

「……!? べ、べべべ別にいいけど……」

 思いっきり声を裏返しながら高嶋君が返答し、アリスちゃんが胸を押さえながらふうっとため息をついたところで。

「皆さん、おはようございます」

 細身に白衣をまとったゆき先生が入ってきて、すぐにシヨートホームルームになった。


 アリスちゃん、どうしたんだろう……? 明らかに、様子がおかしい。

 ……もしかして、ついに告白しちゃう……とか?



 その後、高嶋君はずっと上の空。

 アリスちゃんは授業中に高嶋君と目が合うとパッと顔をそむけたり……まあこれはいつも通りなんだけど。そんな彼女の反応に高嶋君も目を泳がせて、わかりやすくどうようしていた。

 そして、とうとう昼休みになった。

「場所を変えたいので、ついてきていただけますか?」

「わ、わかった」

 きんちようおもちで出ていくアリスちゃんと、ギクシャクと右手と右足を同時に出す不自然な動作でついていく高嶋君。

 残された私たちは顔を見合わせ、大きくうなずいた。

 ──つけるしかない!


 ろうを進んでいく二人の後ろをこそこそと追っていたら、「これはいったいどんな任務だ?」と低音が響き、り向けばいつの間にかA組の二人が合流していた。

がめは感心しねーなあ」

「そういう二葉だって、ついてくる気満々でしょ」

「あっ、ターゲットが外に出るぞ!」


 そうしてたどり着いたのは、人気のない旧校舎の裏だった。

「むう、見えにくい……」

鹿、押すなって!」

「シーッ、声が大きいよ」

 私たちは植え込みのかげから、彼らの様子をこっそりうかがう。


「は、はは話って?」

「あの……とつぜんすみません……」

 声を裏返して問う高嶋君を、思いつめた瞳で見つめるアリスちゃん。


「あのじんじようでないふん……やはり告白とみてちがいないね」

「告白? 西さいおんアリスには何かざんしたい過去が……?」

「実は宇宙人だったとかか!?」

 的外れな反応を返す中村君と野田君に、厨君が「スチューピッド」とあきれ顔でささやく。

「ラブの告白に決まってるだろ」

「あ、そっちか!」

「何……あの女、そうだったのか!?」

 中村君、今まで気づいてなかったのか……。


「……でも、わたくしには全然突然のことじゃなくて。ずっとずっと前から、おもってたんです……!」

 アリスちゃんはそこまでしゃべると、ほうっといきらす。

 わああ、いいぞ、アリスちゃん、その調子! がんって!


「勝負時だな!」

「正直、やっとか、って気がするけど」

「Look who's talking.(お前が言うな)」

「よし、こいするおとよ、今こそ愛のことだまを解放するのだ……」

「もう、みんなだまって見守って!」


「なかなかん切りがつかなくて、こんなタイミングになってしまったのですが……もう、高嶋君しか考えられなくて」

 熱がこもったアリスちゃんの言葉に、高嶋君もふくめたその場の全員が大きく息をのむ。

 ついに……!

「高嶋君、どうかわたくしの──」

 あと一息!


「選挙のすいせんにんになってくださいませ!」


 陰で身を乗り出していた一同がズコーッとつんのめり、植え込みの揺れる音で二人が振り返った。

「おまえら……!」

「どうしてここに?」

「ごめん、アリスちゃんの様子がつうじゃなかったから気になっちゃって……」

「選挙って、生徒会選挙のことか?」

「そうですわ」

 体育祭が終わるとすぐ、生徒会選挙があるんだっけ。

 幸い、アリスちゃんは私たちにおどろきはしても気分を害することはなかったようで、コクリと頷くと、説明してくれた。

「わたくし、あおいお姉さまにあこがれて、ずっと前から生徒会長になりたいって想っていたんです。ただ、なかなか立候補する勇気が出なくて、こんな風にいきなりお願いすることになってしまったのですが……」

 それでもじもじしてたのか。ま、まぎらわしい……。


「そんな構える必要はないって何度も言ってるんだけどね」

 ガサッと近くのしげみから、呆れ顔の眼鏡男子が姿を現した。

かげ君もかくれて見てたの!?」

「推薦人をたのむつもりなのは知ってたけど、西園寺さんがテンパって変なこと口走らないかけんぶ──じゃなくて見守ってたんだよ」

「今見物って言いかけませんでした?」

「もともと彼がいいんじゃないかって提案したのは僕だし」

 ジト目でとがめるアリスちゃんにはそ知らぬふりで、言葉をぐ景野君。

「どうして俺?」

 極度の緊張から解放されたばかりの高嶋君が、まだ気のけた様子でたずねる。

「選挙に有利なのは実績と人脈だろう? 西園寺さんは一年間生徒会役員として働いた実績はあるけど、知り合いが少ないから、推薦人は顔が広い人物がいい。そして、西園寺さんのきわめてせまい交友関係の中でその条件に当てはまるのが、君ってわけ」

「極めて狭いって、失礼ですわよ!」

「本当のことでしょ」

 景野君にバッサリ切られて、うぐっと言葉にまるアリスちゃん。

 別にアリスちゃんがクラスでりつしてるとかではないんだけど、こういうことを頼めるくらい仲のいい人はそんなにいないんだろうな。私も同じだし。


「西園寺には空良ちゃんの激レアカードをもらった恩があるし、やってもいいけど……景野の方が適任じゃないか? 同じ生徒会で、西園寺のことよくわかってそうだし」

 そう言った高嶋君の声は、どこか彼らしくなくぶっきらぼうにひびいた。

「西園寺が会長になったら、おまえが副会長になるんだろ?」

 生徒会メンバーは、会長の指名で決まるんだよね。

 確かに、経験者で気心の知れた景野君がやるのがとう……と思ったけど。

「いや、僕は今期いっぱいで生徒会をはなれるよ」

 景野君はあっさり否定すると、「さっき言った通り……」と高嶋君に人差し指を向ける。

「推薦人は友達の多いやつがいいんだって。僕みたいないんキャは、こういうのは向いてない。人前で話すのも苦手だし……その点、君は放送委員だからマイクを通して話すのもお手の物だろう?」

 なるほど、くつは通ってる。

「景野も選挙運動には協力してくれるそうです……わ、わたくしも、推薦人は高嶋君以上の適任者はいないと思いますわ。お願いします……!」

 だんは意地っ張りのアリスちゃんからまっすぐにこんがんされて、高嶋君は目をパチパチさせていたけれど、やがてふっと力強く微笑ほほえんだ。


「──オーケー。『アイライブ!』総選挙では指がるまでウェブ投票しまくって空良ちゃんの一位にこうけんした俺の力、見せてやろう!」


 ……人選ミスってない? だいじよう


「ありがとうございます! とりあえず、選挙のことで動き出すのは体育祭が終わってからで大丈夫ですわ。おうえん団の練習も大変でしょうし……」

 アリスちゃんはそこでハッとしたように口を押さえるやいなや赤面し、急に早口になる。

「どどどどうして応援団って知ってるかって、別に貴方あなたの動向に注目してるとかではなく、生徒会として情報をあくしてるだけですからっ! それだけなのでっ!」

「アリスちゃん、どうどう、落ち着いて」

 せっかくなおになれたと思った矢先に……先は長そうだな。

「うん、まずは体育祭だよね。──実は体育祭実行委員会が今日の放課後から始まるんだけど、人手が足りなくてさ。ヒーロー部に手伝ってもらえないかな? 手が空いてる人だけでいいから」

 景野君が言うと、平静を取りもどしたアリスちゃんも「ご助力いただけたら幸いですわ」と頭を下げた。

「ヒーロー部のみなさんならおもしろいアイディアを出してくれそうですし……せっかくの体育祭なので、準備段階から力を入れて、思い出に残る活気あるイベントにしたいんです!」

「そういうことなら、協力するよ」

 かいだくする私たちに、がおになる二人。

 野田君も満面の笑みをかべながら、「よーし」と勢いよくこぶしき上げた。

「応援団と、実行委員。ヒーロー部全員で、体育祭、盛り上げるぞー!」

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