第2話

 ああ、ダメな子と思われたでしょうか。

 なんだか私ばかりが緊張して、ドキドキしているんじゃ無いでしょうか。


 そんな不安に襲われながらも私は柚月さんの後ろへついていきます。


「あ、ここのカフェなんてどう?」


 そう言われて初めて顔を上げました。


「あ、ここですか?」


 そこはSNSで有名になっているおしゃれなカフェ……でなく、昔ながらの喫茶店といった風貌でした。


「ふふ」

「どうしたの?」


 思わずわらってしまった私に柚月さんは不思議に思ったかのか様子を聞いてきました。


「いえ。なんとなく意外だなと思いまして」

「意外?」

「なんだか柚月さんってなんでも器用にこなすイメージがあるんです。なのでこういう時はおしゃれなSNS映えしそうな場所に行くものと思ってました」

「がっかりした?」


 柚月さんは少しだけ不安そうにそう聞きます。

 確かに私が言った言葉だけだとまるでSNS映えしなくて残念がっているようにも聞こえてしまいます。

 自分でそれに気づいた私は慌てて否定しました。


「ち、違うんです。私、SNS映えしそうなおしゃれなところとかの方が実は苦手で……。こういうレトロっていうんですか? 昔ながらの感じのお店の方が好きなんです。だから連れてきてくれて嬉しかったです」

「そっか。ならよかった」


 柚月さんはそう言って微笑みます。

 その笑顔だけで私はさっきまで抱えていたネガティブな思考が吹き飛びました。


「なんとなくだけど、こういう方が紫に合うのかなって思って。連れてきて正解だった。俺もこういう方が実は好きだったりするんだ」


 柚月さんと趣味思考が合った。それだけでまた私の中で嬉しさが込み上げます。


「とりあえず、入ろうか」


 そうして私と柚月さんはそのお店に入ります。


 店内は外装のイメージとほぼ変わらず、木造りでレトロといった感じでした。

 そして席について、何を頼むかメニューを見ている時でした。


 ぐぅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜。


 強烈な音が私と柚月さんの二人の空間に響き渡ります。

 私は羞恥で顔が熱くてどうにかなりそうでした。


 恥ずかしい……。そういえば、起きた時間も遅かったからお昼ご飯もまだでした。はしたない子と思われたのでは無いでしょうか……。


 まだ顔が熱を帯びている中、俯いてどうにかやり過ごそうとします。

 どうか……。どうか気づきませんように……っ!!


 しかし、柚月さんはそれを許してくれません。


「もしかしてお昼食べてない?」

「えっと……はい……」


 私は俯いたまま答えます。


「何か頼む?」

「あ、えっと……」

「俺の前では無理しなくて良いよ。素の紫を見せて欲しいな」

「〜〜〜〜っ!!」


 キラッと効果音が出そうなくらい眩しい笑顔を向けられまた顔が灼熱に包まれます。

 なんでそんなキザなセリフがほいほいでてくるんですかっ!!

 私がどれだけ冷静を装おうとしても柚月さんはまるでわざとか、というくらいに私を籠絡してきます。

 恐るべし、柚月さんスマイル!!


 というか、素の私なんて見せられるはずがありません。

 普段学校ではできるだけボロを出さないように過ごしています。そのおかげ? か時より男子生徒から聖母だなんだともて囃されることがあります。まず、渾名だけでも恥ずかしいのに聖母だなんて……。


 だけどそれは本当の私ではありません。

 本当の私はもっとだらしなくて、頭も悪くて仕方のない人間なのです。今日の遅刻だってそうです。

 柚月さんとは付き合えましたが、時折不安になります。自分では釣り合わないのでは無いかと。


「どうしたの、紫? 早く頼まないの?」


 そう言われ、我に帰ります。


「い、いえ。それではこのオムライスにしようかと思います」


 私がそういうと柚月さんはさっと店員さんを呼び、すぐ注文してくれました。

 やっぱり惚れているからでしょうか。その動作一つとっても格好良く見えてしまいます。


 そして注文してからしばらくして、オムライスがやってきました。

 それはオーソドックスなタイプのもの。ケチャップライスが綺麗に卵に包まれて、中央にはケチャップが垂れています。


 なんだか、懐かしいです。昔、祖父がやっていた定食屋で出していたオムライスのような。

 そして私はオムライスを一掬いして口へ運びます。


「……」

「えっと、紫?」

「あっ……」


 私としたことがまたぼーっとしてしまいました。さっきからこんなことばっかり。私は気を取り直して、思っていたことを口にします。


「いえ。おいしいです。ただ思い出してしまって」

「……何を?」

「亡くなってしまった祖父が作っていたオムライスをです。またあの味が食べたいなって。……ってすみません。こんなことここで言うなんてこのお店にも失礼ですね。あ……映画の時間ももう直ぐです。急いで食べますねっ!」


 こんなこと言ったって柚月さんを困らせてしまうだけと思い、私は誤魔化すようにオムライスを平らげました。


「っ!? ゴホッゴホッ!!」


 その後、慌てて食べ過ぎてむせてしまい、柚月さんに心配されるのでした。



 そしてついにやってきました映画の時間。

 ふっふっふ。

 これまで失敗してきた私が汚名を挽回する時なのです。


 私が今日見る予定の映画のチケットを予め買っておいたのです。

 それを彼に告げた時の驚いた顔といえば、忘れられません。

 私だってできるんです!!


 ジャンルはSFアクション。

 実は私は女の子っぽく恋愛モノというより、派手なアクションの方が好きだったりするのです。

 そこが偶然、柚月さんとも趣味が合って一緒に映画を見ようと言う話になったのでした。

 ちなみに恋愛ものが苦手というわけではありません。私だって偶には見ますよ?


 チケットを予約していて得意げになっていた私でしたが、柚月さんは柚月さんでポップコーンやドリンクの購入まで流れるように行い、私をエスコートしてきます。

 ぐぬぬ。手強いですね。彼に甘えてばかりではダメなんですが……。


 そしてスマホで予約していた私がいざ、チケットを買おうと購入機で画面を操作しました。


「え? あ、あれ? なんでですか!?」


 しかし、そこに表示されていたのは、私たちが見る予定だった恋愛映画ではありませんでした。


「ゆ、紫? えーっと……」

「嘘……私、そんな!! ちゃんと予約したんですけど……」


 そこにはSFアクションではなく恋愛映画のタイトルが表示されていました。


「うぅ……」


 また、失敗……。なんだか私、今日はダメみたいです……。

 柚月さんももしかしたら内心呆れているかもしれません。


 ですが、落ち込む私の頭に彼の大きな手がポンと置かれます。


「ちょうど、紫とこの恋愛映画見たかったんだ。今日は一緒にこれ見ようか」


 ああ、もう。この人は……っ!


 結局、今日はなんだか柚月さんにダメなところばかり見せているような気がしました。

 でも柚月さんはそんな私を何度でも優しく受け止めてくれます。


 そんな柚月さんと見た恋愛映画はまた一段と私に決意をさせます。

 次のデートこそ、柚月さんを甘やかしてデレデレにさせて見せます!!



 ──────


 後書き


 紫編結構難しい。


 どうもいつも拙作をお読みいただきありがとうございます。


 新作を出すたび中々読まれず、モチベーションも中々あがりませんが、早いところこちらを完結させれるように頑張ります。


 よければ、読んでやってください。


『寝取られ体質な俺たちはそれでも恋愛を諦めたくない』


 https://kakuyomu.jp/works/16816452221463214443


 それでは、引き続き、すてーたすをお楽しみください!!





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