第3話
昼休み、私は柚月と一緒に昼食を食べに食堂へと来ていた。
あの学祭の公開告白によって私たちの関係は学生どころか、校内の職員にまで知られることとなった。
そのおかげで食堂へ行くといつもおばちゃんに「お熱いねぇ〜ひゅ〜」と声をかけられる。毎回だ。
最初は恥ずかしくて二人とも赤くなってしまっていたが、今は慣れたものである。それにおばちゃんたちはいつも何かをおまけでサービスしてくれる。
恥ずかしい思いもしているということで私たちもそれを受け入れていた。
ちなみに今日は天ぷらうどんに海老天を一つプラスしてもらった。
「柚月のかしわ天も美味しそう」
「一口食べてみる?」
「え? いいの?」
「いいよ、ほら」
「あ、あ〜ん。ふぅん、おいしいっ!」
出汁が衣によく染みており、口いっぱいに広がった。
「ね、私もお返し!」
「え? 俺も?」
「いいから」
今度は私が海老天を箸で摘んで柚月の口元へと運んでいく。
そして柚月はそのまま頭の方を一口かぶりついた。
「どう? おいしい?」
「めっちゃうまい」
柚月が優しくそう言った。
喜んでもらえたようでよかった。柚月の笑顔を見るだけで私は元気に慣れる。
もうすぐ始まる大会でもいい結果が残せそうな気がした。
「二人ともよくそんなみんなの前でイチャつけるな」
「全くだよ。見せつけられるこっちの身にもなってほしいね」
私たちの横から篠宮くんと八坂くんがそう言った。
「「あっ……」」
私と柚月の声が重なる。周りを見ると二人だけじゃない、他の生徒たちも私たちのことを生暖かい目やなんだかイライラしたような目で見ているのがわかった。
それを意識した途端、顔から火が出るように熱くなってしまった。
それは柚月も同じようで顔を赤くしていた。かわいい。あ、いかんいかん。
「お熱いことはいいことだけど、そうしていて足元を救われないようにね?」
「ああ。柚月を狙う暗殺者は多いからな」
「俺って命狙われてたの?」
「自覚ないのか? あれだけのハーレムを築いておきながら……」
「いやいや、俺は桜一筋だから」
そう言われ、また顔が熱くなる。
それと同時に嬉しさが込み上げる。
「柚月……嬉しいっ!!」
感情が抑えられなくなり、私は柚月に抱きついた。
「ちょっ!? 桜!?」
「嬉しいっ!」
「はは、よしよし」
「「ごちそうさま」」
また、篠宮くんと八坂くんの声が重なる。そこには慈愛に満ちた視線も加わっていた。
「「はっ!?」」
また自分たちの世界にのめり込んでしまっていたようだ。
周りの視線が痛い痛い……。それでも自信のなかった私がこうやって柚月に選んでもらえた事実を再確認できたことが嬉しくて仕方なかった。
「インキャの癖に調子乗りやがって」
そのタイミングで近くの席から冷たくそう聞こえた。
むっとしてそちら見るとニヤニヤとこちらを見る輩が数人。
そこには見たことのある姿もあった。
この間、私に告白してきた、工藤くんだ。
私は思わず、そっちをムッと睨んだ。
「いやいや、東雲ちゃんに言ったわけじゃないからね」
「ほんとそう! そんなやつやめといた方がいいと思うけどな〜」
「そいつ前までめっちゃ暗かったらしいじゃん」
次々に出る、柚月への悪口。それに堪らなくなり私は文句を言おうと立ち上がった。
「ちょっ──……柚月?」
声を出してすぐに柚月が私を手で制した。
「気にしなくていいよ。それより、もう食べ終わったし行こうか」
柚月はこちらに優しく微笑んで席を立った。
「インキャがビビってんなぁ〜」
「あんなのが彼氏とか情けな」
「絶対俺たちの方がいい男だわ〜」
「俺だったらあんな彼氏別れるわ」
「お前男じゃん」
「ほんとだ。ギャハハハハハハ」
聞きたくない耳障りな声が私をイラつかせる。
柚月が夏休み前まで今と全然違う姿をしていたのは知っている。
惚れたのは確かに変わった姿の後だけど、私は彼の心に惹かれたのだ。
男嫌いの私が初めて心を許した相手。それをバカにされることなんて我慢できなかった。
「あ、桜!?」
私は柚月の手を振り解いて、悪口を言っていた奴らのもとへ戻った。
「アンタたちなんかに何がわかるの!? アンタたちみたいに他の人の悪口しか言えない奴らなんかより、柚月の方が百倍いいんだからッ!!」
私の叫び声が騒がしかった昼時の食堂を静かにさせる。
「いやいや、それはないわ。そんなビビってるだけの男のどこがいいの?」
「それならさ、こっちの孝也の方が絶対いいから。なっ?」
孝也と呼ばれた男子、工藤くんが前に出る。
「そんなインキャより俺の方が絶対楽しませられるからさ。別れて、俺と付き合えよ」
工藤くんの言葉遣いに少しだけ驚いた。
普段の部活の時や前の告白の時は、ここまで傲慢な感じではなかった。
友達と一緒にいるところはいままで見たことがなかったけど実はこっちが彼の本性なのかもしれない。
「い、嫌ぁ……」
以前と違う態度に驚き、もしかして前に二人きりになった時、危なかったのではないかという思いがよぎった。
その事実に恐怖してしまい、声が出なくなる。
「なぁっ!」
弱気になった私を見て、工藤くんは何を思ったのか、手を伸ばしてきた。私は体が硬直してしまい、思わず目を瞑った。
「ぁ」
少し経っても何も起こらないことに違和感を覚え、目を開けた。
そこには、柚月の姿があった。
「ごめん、桜」
「ぇ?」
一言、後ろにいる私に向かって小さくそう呟くとすぐに正面にいる工藤くんやその取り巻きに正対する。
「本人が怖がっているって分からないのか? そんなこともわからずによく付き合えだなんて言えるな」
「ああ? お前は黙ってろよ」
「東雲も見る目ないよなぁ。あんな奴選んじゃうんだから」
「だな。それかどうせ、何か東雲の弱みを握って付き合ったんだろ? そんなの俺は認めないからな」
違う。そんなんじゃない! 私が柚月を好きになったのは……そんなんじゃない!!
声を出したいのにまだ恐怖の余韻が残る。私は柚月の背中に張り付くだけで精一杯だった。
「弱みなんか握ってないけど……じゃあ、どうすれば認める?」
「ああ?」
「どうすれば、俺たちが正真正銘の恋人だって認めるか、聞いてるんだ」
本当であれば、そんなもの誰かに認めてもらう必要なんてない。だって私たちはお互いが好き同士。それなのに部外者があれこれ勝手に言ったことに反応するなんてバカなことだと思う。
だけど、柚月は無視することなく対話を続けた。そこには強い意志を感じた。
「ああ〜そうだな〜じゃあ、俺と勝負して勝てば認めてやるよ」
「勝負だな。わかった。内容はお前に任せるよ。何でも俺は負けないから」
「ッ! 後悔すんなよ。じゃあ、勝負は放課後。弓道場に来い」
「わかった。その代わり俺が勝ったら、桜に謝ってもらう」
「はぁ? まぁいいぜ」
そうして彼らは周りの目も気にすることなく、食堂から出て行った。
あいつらがいなくなった後、私は柚月を見た。
「……柚月どうして?」
柚月は私の問いに優しく微笑んで頭を撫でた。
「ごめん。俺のことはどうでもいいけど、桜のこと思うと我慢できなかった。それに勝手に勝負することになってごめん。ああでもしないといつまで経っても面倒な奴らに絡まれると思ったから、あえて勝負を吹っかけられるようにしたんだ」
「そうじゃない。なんで私に謝るように言ったの?」
「桜を怖がらせたから。それに俺のことはいくらバカにされてもいいけど、桜の目が曇ってたなんてことを認めるわけにはいかないから。ちゃんと桜が俺のことを見てくれて選んでくれたんだってことを証明したいからかな」
柚月はもう一度、笑顔になった。
私はまた顔が赤くなる錯覚を覚えた。いや、熱い。
自分のためでなく、私のため。その言葉がなにより嬉しかった。
「後は単純に相手の得意競技で鼻っ柱へし折った方がこれ以上絡んでこなくなるかなって思って」
意外と腹黒かった。それでもそんな柚月の一面を見ても私の好きが治ることはない。
それにそれも私を思ってのこと。難癖が続く限り、今日みたいにまた恐怖してしまうこともあるかもしれないから。
それにしても柚月って弓道できるの?
私の不安はより一層増した。
─────────
お久しぶりです。
なかなか更新できず申し訳ないです。
例に漏れず新作を公開したため宣伝のため、続きを書きました。
新作は下記ですのでよかったらお読みいただけると幸いです。
https://kakuyomu.jp/works/16816452219947289060
「清楚系地味子だった元カノが小悪魔系ギャルになってお隣に引っ越してきた件。」
それとすてーたすのIFですが、思うところがあり、ここからはできるだけ毎日、または二日に一度のペースで更新してまいります。
既に久しぶりの更新となるため、読者様も離れてしまっているかと思いますが、それでも読んでいただければ幸いです。
また、次は相談になりますが、すてーたすVer2についてです。
社会人版のすてーたすです。
これに関しても今更、需要ねーよってなるかもしれませんが、どうですかね?
需要あれば、出して行こうと思っています。
IFが終わり次第になるかと思いますが、近いうちに。
ご意見あれば、コメントでもください。
なければ、ボツということで。
それでは引き続きすてーたすをよろしくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます