第2話

 今度は一人で教室に戻ってきた。

 教室にはすでに残っている生徒はおらず、私のカバンだけがポツリと残されていた。

 そして教室についてすぐ。心臓のバクバクが今になって襲ってきた。告白なんてされるとは思っていなかったし、そんな前から私のことを好きだった人がいたなんて思っても見なかった。


 ──告白。


 嘗て自分もしたことのあることだ。ホンの数週間前の出来事。あの時は、みんながいたからというのもあるけど、自分一人だったらそんな勇気を出すことはできなかったかもしれない。


 それにフラれていたら。そんなことを想像してしまうと今の幸せが嘘なんじゃ無いかとさえ思えてきてしまう。


「……やめよ」


 私は、自分の席に座り、かぶりを左右に振ってから机に突っ伏した。


「柚月……早くきて……」


 そしてそのまま目を瞑って時間が過ぎるのを待った。


 ◆


 しばらくして、何やら気配を感じた。

 誰かが私のことを見ている。そんな気配だ。


 はて? 私は何をしていたっけ? うーん? 


「あっ!!」


 私は勢いよく顔を上げた。忘れていた。柚月を待っていたのに、寝てしまったんだ……。

 どうしよう、柚月から連絡来てたら……先帰っちゃってたら……。

 しかし、そんな心配は杞憂に終わった。


「おはよ」

「っ!! お、おはよ……」


 私の前の机に柚月が座っていたのだ。

 突然の挨拶に反射的に挨拶を返す。


「ずいぶん、気持ちよさそうに寝てたんだな。ここ……」

「?」


 柚月は自分の顔の口元を指差した。私に何かを伝えようとしているようだ。


「っ!? 〜〜〜っっ!!!」


 私は柚月が伝えようとしていたことを理解し、顔を逸らした。

 そしてそのまま自分の顔の口元を拭った。


 よ、よだれの跡……最悪だ……。


「ゆ、柚月いつからそこにいたの?」

「え? 30分前くらいかな」


 私は教室の前にかけられている掛け時計の時刻を見た。

 時刻はすでに午後7時前になっていた。この教室に戻ってきてから実に二時間ほど寝ていたことになる。


「お、起こしてくれればよかったのに……」

「気持ちよさそうに寝てたからさ? なんか見ていたいなって思って」

「ッ! ば、ばかっ!!」


 恥ずかしげもなくそんなことを言う柚月は、優しく微笑んでいる。


 ちょっと、待ってということは寝顔まで見られたってこと?

 うぅぅぅ……恥ずかし過ぎる……。


「桜、帰ろうか?」

「は、はひ……」


 しばらく、私は顔を赤くしたまま、まともに柚月の顔を見ることができなかった。




 すっかり暗くなった帰り道。

 文化祭のシーズンは終わり、期末テストも丁度、この間終わった。

 そして次のイベントと言えば、もちろん、クリスマスだ。


 恋人になってから過ごす、初めてのクリスマス。

 テストなどもあり、まだ恋人らしいことは何もしていない。精々、こうやって学校を一緒に帰っているくらいだ。


 というか、クリスマスってどうすればいいんだろ? プレゼント? クリスマスプレゼントの定番といえば……なんだろう? ネックレスとか?

 いや、でもまだ付き合って一ヶ月ちょっとだし、そういう高いのは、重いのかな……? あんまりいい値段するともらった方も困るよね?

 で、でもじゃあ、付き合って一ヶ月ちょっとの彼氏に何をあげればいいの!?


 恋愛なんて今までロクにしてこなかった私は、そういった恋人イベントには疎い。参考にしているものと言えば、少女漫画くらいだ。


 はっ!?


 そう言えば、どこかで読んだことがある。

 あれも確か、付き合って一ヶ月ちょっとで彼氏の誕生日を迎える話だったはずだ。


 主人公の女の子は、付き合いの短い彼に何をあげればいいかわからず、迷っていた。

 そして悩んだ挙句、彼氏に上げたものは……


『私が誕生日プレゼントです』


 ボッ!!!


 私は全身の血が顔に集中していくのがわかった。今が暗くてよかった。こんな顔絶対に柚月に見せられないよ……。


 それに……いやいやいや、ないよ。絶対ないよ。ムリムリムリムリ。自分をプレゼントなんて絶対できない。


 想像しただけで恥ずかしいし……第一、私にはその行為はハードルが高過ぎる。

 つい最近まで触ることもできなかったのに、そんなこと……。

 でもいつかのその相手が柚月だったら私は嬉しいな……。


「〜〜〜〜〜〜ッ!!!」


 って何考えてるの!?

 ダメだから!! と、とにかくクリスマスプレゼントの案に『自分』はなし!!!


「桜? さっきからどうしたの? 袖引っ張るから首が苦しいんだけど……?」

「……ご、ごめんなさい!?」


 私は慌てて、掴んでいた袖を離した。


 私は普段一緒に帰る時、柚月の服の袖を掴んでいる。

 これは今まで男性に触れなかった私に対する、柚月からの配慮だった。


 そして私は先ほどから妄想が先行するあまり、柚月の袖を引っ張り続けていたらしい。


「それで何か、悩み事? さっきから無言だったから」

「え? いや、えーっと……」


 どう言おうか迷った。

 クリスマスプレゼントに何が欲しいか聞くのも一つの手だと思う。でも、せっかくなら当日まで何をあげるか、サプライズにしておきたいとも思った。


 その前にそもそもの話、クリスマスの日、まだ誘われてない……。

 まさか、予定が入ってるんじゃ……。


 私は不安に駆られた。

 でも、せっかく恋人になったんだから、予定くらい聞いてもいいよね……よね?


「えっと、柚月は25日どうするの……?」

「25日? あ、ごめん、その日はちょっと家族と用事があるな……というか毎年その日は家族とって決まってるから」

「……そうなんだ」


 その言葉に私は落胆を隠しきれなかった。


 そうだよね……予定あるよね……。バカみたい。勝手に期待して勝手に浮かれちゃった。

 はぁ……。私も今年もおじいちゃんとおばあちゃんと過ごそう。

 クリスマスって元々そう言う日だしね。うん、間違ってない。

 でも……。


(柚月と過ごしたかったな……)


 だけどそんな私を柚月はジッと見つめた。


「でも、24日は桜と遊びたいと思ってるよ」

「ぅぁっ……!!」


 声にならない声が出た。


 そうだ、イブだ。私は完全にイブの存在を忘れていた。

 え? 待って? 今、柚月はなんて言ったの?


「聞こえなかった? 俺は桜と一緒にいたいって言ったんだけど?」

「あぅ……」


 どうやら私の心の声は柚月に筒抜けだったらしい。

 恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい……!!!


「それで桜はどう?」


 ずるい。わかってて聞いてる。

 柚月は意地の悪い笑みを浮かべながらこっちを見ていた。

 なんだか、主導権を握られてばかりだ。


 私だって、やるときはやるんだから!!


「わ、私も柚月と一緒に過ごしたい!! ……です……」

「ありがとう、嬉しい!」


 柚月がそれにとびっきりの笑顔で返してくれた。

 その笑顔に当てられて私は、またもや赤面した。


 柚月ってこんな性格だったけ? なんだか爽やかになってない?

 もう……!! ますます、好きになる……。


 でもこのままやられっぱなしなのは癪だ。


「ほら、行こ? おいてくぞ?」


 柚月は私を見て前を歩いていく。


 あっ!!

 いいこと思いついた。


 私は柚月にバレないように柚月に近づいた。


「えいっ!!」

「……ッ!?」


 柚月は私のした行動に目を見開いて驚いた。


 やった。成功だ。私の勝ちっ!!


「さ、桜!? これ!?」


 ふふ、慌ててる。慌ててる。


「柚月の手、暖かいね?」


 私は柚月の左手に自分の手を重ねたのだ。そして指の合間を縫うように一本一本絡ませる。


「っ!!!」


 面白い。あたふたとする柚月が愛おしくてたまらない。


 なんだ、全然触れる。柚月なら大丈夫。柚月になら、永遠に触れ続けられる。

 思い切ったことしたけど、やってよかった。


 だってこんなカワイイ柚月が見れたんだからっ!!


 そしてそのまま指を絡ませたまま、柚月に家まで送ってもらった。



 ***


 みなさん、お久しぶりです。

 なかなか更新できずに申し訳ございません。

 楽しんで頂けたでしょうか。


 新作を書きましたので宣伝のつもりで書かせていただきました。

 下記が新作となります。


『大好きな幼馴染を振り向かせるため、偽装カップルになりました』


 https://kakuyomu.jp/works/16816452219001833111


 読んでいただけますと幸いです。より、やる気が出ますので何卒!!



 ちなみに話の途中にあった、「柚月ってこんな性格だったけ? なんだか爽やかになってない?」

 という桜の心の声は、作者の私の声でもあります。

 なんか知らないんですけど、めっちゃ爽やかになってしまった印象です。


 なんというか、初めてこんなにイチャイチャしたの書きましたが、ちゃんとできていますかね?

 甘々になっていれば嬉しく思います。

 書いていたら楽しくなったので、こちらの方ももう少し、更新頻度を上げていこうと思います。


 引き続き、すてーたすをお楽しみください!!

 あと、新作の方もよろしくお願いします!!









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