第81話:勝負の二日目⑥/後半


 そしてしばらく、投票の時間が続き、結果発表に移る。


『皆様、大変長らくお待たせいたしました。全校生徒、及び、教職員の方々による投票の集計が終了いたしました。それでは、結果の発表の前に本日のコンテストにご参加頂いた皆様をお呼びいたしましょう。どうぞ!!』


 司会のアナウンスにより、コンテストの参加者、六組が壇上に姿を再び現した。


 ◆


『参加者の皆様、今回は素晴らしいダンスをありがとうございました。どのダンスもペアで息の合った、甲乙付け難いすばらしいものでした』


 俺とクロエを含め、六組のペアは司会に促され、壇上へと再び登場した。そしてその六組の生徒に向かって賛辞が贈られた。


『では、前置きは、この辺にしておきましょう。それでは発表いたします。第54回、星城祭。カップルコンテスト優勝者は──』


 舞台上が暗転し、司会がタメに合わせて、ドラムロールが鳴る。










『時東・佐藤ペア!! 得票数、594票!! おめでとうございます!』


 発表と同時にクラッカーが鳴り、スポットライトが俺とクロエに当てられた。

 全校生徒と教職員は合計でも、大体六百数十名だったはずだ。つまり、実にその9割が俺たちに入れられていたという計算になる。

 マジか。


『では、優勝した、時東・佐藤ペアのお二人は前へどうぞ』


 司会者に促され、俺とクロエはマイクスタンドが建てられたステージ舞台中央へ歩を進める。


『えー、時東さん。今のお気持ちはどうですか?』


『いえ、驚いています。まさか、優勝するとは』


『初めは一人で踊ると言った時はどうなることかと思いましたが、佐藤さんとの息の合った、美しいダンスは目を見張るものでした。ペアの佐藤さんに伝えたいことはありますか?』


 司会からの言葉に俺は少しだけ焦りを覚える。どうもこの司会者は俺とクロエが恋人同士だと思っており、愛の言葉を引出したいらしい。

 ただ、参加時のアンケート蘭にあるチェック項目に「恋人ではない」とチェックしたはずだったのだが。やめて欲しい。こんなところで司会者根性を引き出すのは。


『これも全部佐藤さんのおかげだと思います。佐藤さんのおかげで優勝することができました。できれば佐藤さんに聞いてあげてください』


 そして考えた末に俺が出したのはその質問の全責任をクロエに受け流すことだった。

 いつもおちょくられているため、日頃のお返しとそして今日遅れたことに関するお返しとして、そう言ったのだった。


『えー、では佐藤さんにも聞いてみたいと思います。今のお気持ちはいかがですか?』


『ええ。とても晴れやかな気分です』


『ありがとうございます。時東さんからは照れていたのか、佐藤さんへのお気持ちを聞くことはできませんでしたが、佐藤さんはペアの時東さんにお伝えしたいことありますか?』


(おい、司会者。変な解釈を入れるな)


 心の中でツッコム。全校生徒に対して妙な勘違いが入るのも厄介だと思い、焦った。しかし、クロエも同様に答え辛い質問だろうと思い、あたふたする様子を楽しむことに切り替えることにして見守った。


『時東くんに伝えたいことですか……そうですね……』


 少しの間が空く。ここで俺に妙な感覚。嫌な予感を告げる第六感。シックスセンスというやつか。一筋の汗が流れた。


『では、この場をお借りして伝えさせていただきます。私、佐藤瑠璃は──』


 ま、まさか? う、嘘だろ?


『──時東柚月さんが好きです』


「……」

 

 言った。言いやがったぞコイツ……こんな大舞台で!? どんな強心臓!?

 クロエをひくついた顔で見ると、してやったりな顔をしていた。


『──付き合ってもらえるかしら?』


 そして俺に向かって再度そう言った。


 一瞬シーンとして空気が場内に流れた。そしてほんの数秒後。

 黄色い悲鳴とともに一気に場内が騒がしくなった。


 黄色い悲鳴は主に女子生徒から。男子生徒からは阿鼻叫喚とも言える叫び声が聞こえてきた。


 そしてそれと同時に席の一部が非常に慌しくなっているのが見て取れた。あれは、橙火たちが座っている場所だ。


『……わたくしとしたことが……面食らってしまいました。これは公開告白!! これに対し、時東さんはなんと答えるのでしょうか?』


 おい、司会者。マジでやめてくれ!!


 今会場の流れは明らかに告白に対する返事を聞く雰囲気になっている。そしてそれはOKを出せと、お前も好きと言えという雰囲気だ。


 何て言う!? どうする!? 目の前に向けられたマイクを見つめる。そして口をゆっくりと開こうとしたその時。


「待ってください!!」


 壇上に突然の乱入者。

 しかも五名。


 なんだこれ……


 その顔はどれも見覚えのあるものだった。


『おおっとこれは!? 突然の乱入者だー!! さながら式場で新婦をさらっていく、納得できずに別れた元カレの如く、五名もの女性が登場したー!!!!?』


 司会者ノリノリすぎんだろ、おい。


 そして皆どこか覚悟を決めた表情をしている。

 ま、さかな……?


 そしてマイクもなしに全校生徒に聞こえるくらい大きな声で言い放った。

 


「私は柚月さんが好きです! 付き合ってください!」


 初めに口にしたの紫。

 恥ずかしそうにだけど元気よく、あの日とは違う告白をした。


「私にとって柚月は、ヒーローだよ。好きです。付き合ってください」


 続いて桜が優しい笑みとともに、自分の気持ちを言葉にする。


「あたしも柚月が好きだ! 付き合ってくれ!」


 紅姫は紅姫らしく、真っ直ぐな言葉で俺に伝える。


「あの日のこと、忘れないよ。絶対に私に夢中にさせてみせるから。好きです。付き合ってください」


 茜がいつもとは違う、落ち着いた表情でそれを言葉にした。


「私、柚月の頑張る姿が好き。私も頑張ろうって思えるから。好きよ。付き合ってくれる?」


 そして最後に橙火が初めて見せる素直な気持ち。


「さぁ、誰を選ぶのかしら?」


 ほんのり頬を赤くした瑠璃が同じようにみんなと並ぶ。


 ああ、なんだこれ……

 全校生徒の前で告白大会とは。


 全ての生徒が見守る前でこれか。聴き慣れた声でヤジが飛んでくるのがわかる。ヤジと言っても冷やかしみたいなものだ。


 ふぅ。と一息つく。


「お、俺は──」


 俺は諦念のため息をついた後、覚悟を決め、その人の名前を口にした。



────


次でラストです。

本日、21時過ぎに更新いたします。

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