第74話:文化祭での出来事⑧
一体いつから……
俺はベットの上で固まったまま、気まずそうにしているみんなを見ていた。
「もういつからそこにいたの?」
桜もいつからいたかまでは分かっていなかったようだ。
「ご、ごめん! 覗くつもりはなかったの! ただ、桜と柚月が心配で……」
そう言って初めに言葉を発したのは橙火だった。
「そっか、心配してくれたんだね。ありがと」
「……桜ちゃん。大丈夫ですか?」
「ああ、その……聞いたぜ? 大変だったみたいだな。怖かったろ?」
「……」
橙火を皮切りにその後、紫や紅姫も桜の心配する言葉を発した。その顔はみんな真剣そのものだ。そしてそのどれもが桜の事情に踏み込んで良いのかわからないといったような表情だった。
空気が再び、重くなるのが分かった。
「──私は、大丈夫!」
だけど桜はそんな重い空気を吹き飛ばすように、パッと明るく元気な姿を見せた。
みんなは桜が男性恐怖症であると知っている。故に、先ほど怖い思いをしたばかりなのにこんな表情を見せる桜に戸惑っているのがわかる。
「え? えっと……桜ちゃん?」
「ん?」
「その本当に大丈夫なんですか?」
「うん、大丈夫になったよ」
「??」
紫は再度、桜に問いかけるも帰ってきた答えに納得していない。まるで質問が通じていないと感じているようだ。
「えっと、東雲さんだっけ? あなた男性恐怖症で男の人と一悶着あったって聞いたけどどうもないの?」
そこで今まで黙っていた茜がストレートにみんなが気になっていたことを聞いた。茜は別にみんなと特段、仲が良かったわけではないため、あまり躊躇していないように感じた。
「うん。男の人はもう大丈夫」
それでも桜の返答は変わらない。おうむ返しのように。
「だって、柚月に告白したからね」
「「「「ん?」」」」
「え?」
おかしい。その回答はおかしい。文脈つながらないぞ? 桜が男の人が大丈夫になった理由としてそれはおかしい。
「さ、さ、桜ちゃんなにを!?」
「あれ? てっきりみんなもうこくは……わ!?」
「ちょ、お前、ちょっと黙ってろ!!」
「へえ〜そうなんだ。ふ〜ん」
「……なるほどね」
それぞれがそれぞれのリアクションを見せている。この場合、俺はどうリアクションすることが適切なのだろうか。
桜の発言を聞いて慌てているのはみんな同じだが、特に紫と紅姫の焦りがハンパない。だって、俺に告白した二人だもの。
あれ? これ自分でいうのすっごく恥ずかしい。あ、暑くなってきたぞ……
みんな俺を差し置いて和気藹々と戯れている。なんだか疎外感。というか待てよ、今ここにいる五人のうち三人に告白されている……?
そして勘違いでなければおそらく、茜も俺のことを。
あれ? ということはまさか……?
それを意識した途端、俺の顔から火がでそうになるくらい熱を帯びた気がした。
こんなことあるのか?
いやいや、まだ自意識過剰という線もあるけど……
いや、待て待て……こ、これは……いやでもうーん……
「ってことで柚月」
「っひゅあ!?」
「何慌ててんだよ?」
考え事をしているところに紅姫に急に話しかけられたものだから変な声が出てしまった。落ち着け、冷静になれ。
「あたしら、桜が心配だからみんなで一緒に帰るからよ。柚月も気をつけて帰れよ」
「じゃあ、柚月さん。また明日です」
「じゃあね、柚月!」
「気をつけて帰りなさいよ」
「柚月。今日はありがとう。また明日」
そう言って五人はみんなで楽しそうに保健室を出ていった。
ナンダコレ……?
◆
文化祭一日目の午後は、結局、何もできなかったな。クラスのみんなには悪いことしたかな。シフトさぼっちゃったし……
それにしても。
「いろいろありすぎだろ、今日……」
空を見上げれば、澄んだ空に星々が綺麗に瞬いていた。紅姫とのことを思い出してまた顔が熱くなる。
すっかり外は寒く、はいた白い息は空へと消えていく。
「誰かに選ばれるほど、俺ってできた人間じゃないんだけどな」
誰にも聞かれない言葉を吐いて捨てる。
そして俺は一つの現実に直面している。
「っ!」
「ああ、すみませんってああ!!」
考え事をしていたせいか、注意が散漫になっていた。曲がり角で誰かとぶつかってしまった。その拍子にその人が持っていた資料などが地面に散らばる。
「す、すみません!」
俺は慌てて謝ると落ちた資料をかき集めた。
「助かったよ。ごめんね、寒いのに」
「いえいえ、こちらが悪いんです。ぼーっと考え事してて」
「悩みがあるっていうのは良いことだね」
悩みなんて一言も言ってないけど、目の前の男の人はまるでお見通しであるかのように濁った目でそう言った。
暗がりでわからなかったが、よくよく見るとその人はかなり太っていて不健康そうに見える。太っているのにやつれているように見えるというなんとも矛盾した様子だ。
それにお世辞にも体臭はあまり良いとは言えない。冬場であるのにちょっとツーンとした匂いがする。
だけど俺は見た目だけでその人を判断しようとは思わない。俺だって人にあれこれと言える人間ではなかったからだ。
それでもこの人の見た目は大抵の人からしたら、受けは悪いだろう。しかし、不思議と発するその言葉には優しみが籠っているように感じた。
「ご、ごめんね。こんなブサイクに変なこと言われて困ってるよね。だけど、一つだけ言わせて」
「?」
なんだろうか。唐突に。
「自分の選択に後悔だけはしないようにね。それだけだよ。資料拾ってくれてありがとう」
おそらく30代後半のおじさんはそれだけ言うと、ドスドスと去っていった。最後に「そうじゃないと僕みたいになるよ」と言い残して。
あの人も自分の選択に後悔した時があったのだろうか。変な人だったけど不思議な人だった。
「後悔ね……」
俺はおじさんの背中を見送り、自宅への帰路へついた。
家に帰ってから、夕ご飯を食べて風呂に入って俺はすぐにベットで横になった。いろんなことが重なりすぎて今日は疲れた。
腕の怪我も気づけばもう治っていた。
「すてーたす」
慣れた様子でいつものようにそう呟く。
名前:時東柚月 ときとうゆずき
年齢:16歳
基礎能力
筋力:399
体力:417
精神:401
知能:356
器用:472
運 :28
エクストラ
ステータス:LV.4
┗ スキル成長補正:LV.3
料理 :LV.7
┗ 焼きそば職人:LV.3
裁縫 :LV.5
掃除 :LV.6
武道 :LV.6
┣ 弓道 :LV.6
┣ 空手 :LV.5
┣ 柔道 :LV.5
┣ 剣道 :LV.6
┣ 合気道:LV.7
┗ 居合道:LV.5
音楽 :LV.6
┗ ピアノ:LV.6
球技
┗ バスケ:LV.6
ダンス :LV.7
いつの間にか、全体的にすごくレベルが上がった気がする。
ダンスなんて、クロエのことを考えてこの一週間やりすぎたくらいだ。おかげでレベルは7。これだけあれば、あまり合わせる練習をしていなくても相手にどうにか合わせれるはずだ。と思いたい。
「クロエ、大丈夫かな……」
俺は小さく目を瞑りながら呟く。するとすぐに眠気がやってきた。
俺は知らない間に深い眠りに落ちていった。
そして俺は気づかなかった。
+メッセージ(CAUTION)
ステータスの端っこ。メッセージの文字が小さくピカピカと点滅していたことに。
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