第67話:文化祭での出来事①
あれからクロエとダンスの合わせをすることがないまま、迎えた学園祭当日。
「いらっしゃいませ、ご主人様」
俺はメイド服を着て、接客業に勤しんでいた。
「あはははは、本当にお兄ちゃんがメイドなんかしてるぅ! ウケる!!」
「おいこら、水月何しにきた」
「そんなのメイド姿のお兄ちゃんをからかいにきたに決まってるでしょ!」
「み、水月ちゃん、この人は……?」
「あ、私のお兄ちゃんだよ。今日一日こき使っていいメイドさん」
「おい……俺はお前のメイドじゃないぞ……」
水月は後ろに控えている、身長の小さなメガネをかけた女の子にそう言った。
「は、初めまして! 水月ちゃんの友達させてもらってます。
ぺこりと緊張しながらも丁寧にお辞儀するその子は水月の学校での友達らしい。
「こちらこそ始めまして。変な喫茶店だけどゆっくりして行ってよ」
「は、はい! ありがとうございます!」
そうして俺は水月と彩葉ちゃんをテーブル席に案内し、厨房へ戻った。厨房って言っても仮設だ。暗幕で区切った教室の一角に用意してある。
「おうおう、柚月。あの可愛い子二人は一体誰だ? またハーレムメンバーか、お?」
「はーれむめんばー? 何言ってんだお前? あれは妹だよ。妹とその友達」
「……お前、妹がいたのか?」
「いたけど」
「なぜ、それを早く言わない!?」
厨房で俺に絡んできたメイドその2こと白斗は俺に妹がいるとわかると否や、騒ぎ出した。うるさいやつ……
「よし、ちょっと挨拶してくる」
「なんのだよ」
「うるせぇ。結構、その……好みだ」
まじかよ。なんだか複雑だわ。友達に妹可愛いって褒められるのは悪いことではないけど、相手が白斗だとなんかやだ。
「こういうのは第一印象が大切ってな。よし、行ってくる」
白斗は身嗜みを整え、そのまま水月たちの席へドリンクを運びに行った。あいつ第一印象って言ったがメイド姿はアウトだろ。分かっていたがツッコまなかった。
「ちょっと、そこ突っ立ってないであんたも仕事して!」
「ああ、悪い……っ!」
「何よ?」
後ろから俺に声をかけたのは橙火だった。振り返って橙火を見ると、黒いスーツを着こなしていた。髪は一括りにされており、なんとも言えない色気を醸し出していた。なんでかわからないが女子の男装って結構、グッとくるな……
「あ、柚月くん。メイド姿似合ってるね」
そう言って次に俺の前に現れたのは、水原さんであった。水原さんも橙火同様に男装しており、彼女も紛う方ない美少女なので、よく似合っていた。
「水原さんもよく似合ってるよ。俺は似合ってるって言われるの複雑だけど」
「えー? かわいいと思うけどな。えい」
「っ!? 水原さん? 何故抱きついているの?」
「んー? なんとなくかな? あ、私のことは茜って呼んでね?」
急に下の名前で呼べと要求してくる水原さん。これはあれだ。今までの経験上、拒否できないやつだ。
「あ、茜……」
「うん、柚月くん!」
俺が名前を呼ぶとより一層明るい笑顔で力強く抱きついてくる。抱きつくのは結構なんだが、その……柔らかいお山二つがだな……いかん、煩悩を振り払え!!
それにしてもなぜメイド姿の俺に抱きつくんだ? 抱きつきたい要素あるか? 男のメイドだぞ? もしかして、これがメイド萌えってやつか?
「柚月!!! いつまで抱きついてんの!! 離れなさい!!」
「ええーなんで、離そうとするの、綾瀬さん! 柚月だって離れたくないって言ってるよ?」
「そうなの、柚月……?」
ゴゴゴゴゴと背景に効果音が浮かび上がりそうなくらい、すごい剣幕でこちらを睨みつける橙火。こ、怖いんですけど……
「い、いやー俺は別に……そんなこと……」
「そうだよね、柚月くん?」
「いやー……」
反対サイドからも同じような圧力を感じる。なんだこれ? バトルものの展開か?
「ぐぅ……それなら、私だって!」
「え!? と、橙火!?」
「私ももう一回!」
「ええ!! 茜!?」
俺の両腕が両サイドからガッチリとロックされてしまった。そして俺の腕を取りながら二人はバチバチと視線をぶつけ合っている。可視化できないが、多分火花が飛び散ってると思う。
なんでこんなことに……おい、他のみんなも見てないで止めてくれよ……周りにヘルプを求めるも作業をしているクラスメイトたちは我知らぬ、存ぜぬで自分たちの作業を進める。というか普通に申し訳ない。完全にサボりだ、これ……
「水原さん、柚月の腕、離したらどう? 結構苦しそうにしてるよ?」
「ふーん、綾瀬さんの方こそ離したら? 柚月くんはきっと私の方が嬉しいと思うよ。ね?」
なにこれ? なんなの? バトル始まっちゃってるよ! 両腕が引っ張られて痛いよ……
「なんで水原さんの方が嬉しいって言えるのよ!」
「あれー? そんなこともわからないのー?」
「な、何よ!?」
「そうだよね。だって、綾瀬さんのその慎ましい胸じゃ……」
「なっ!?」
「柚月くんもきっと柔らかい方がいいよね!!」
「ぅぅぅぅ、私だっでぇ……」
茜の勝ち。いや、おっぱいの話じゃ無いよ? 俺はおっぱいの大きさで優劣をつけるほど、愚かになってはいない!! いや、そりゃ、茜の方が柔らかいけどさ……その……小さいのにも需要があってだな……
と、とにかく、綾瀬さん半泣きになってるので止めなければ!!
「茜、言い過ぎだよ」
「……ごめんなさい」
俺がそういうと茜は少し、シュンとして橙火に謝った。しかし、これでは終わらない。
「ふ、ふーんだ。でも私の方がこの服装似合ってるから! 私の方がスタイルはいいからね。水原さんのはなんだか着せられてる感が強いものね」
「かっちーん。あったまきた! じゃあ、どっちが似合ってるか柚月くんに判定してもらおうよ!」
なんでこうなるの……橙火もなぜ言い返しちゃったのよ……
「ねぇ、柚月。私と水原さん、どっちが可愛い?」
「え?」
「うんうん! 正直に答えてね! 柚月くん!」
ちょっと待て、似合ってるかの判定じゃなかったの!? なんで可愛い判定になってるの!?
「「さぁ、どっち?」」
二人は俺にグイッと詰め寄ってくる。ど、どっちも可愛いよ、そりゃ……しかし、ここで求められているのはそんな答えではないというのは猿でも分かる。しかし、どちらも選べない。
どうする、柚月!? どうすればいいんだ!?
「ああー、もうこんなところでサボってないで柚月もしっかり働いてよね!」
そう言って暗幕の向こうから姿を現したのは、メイド姿の桃太であった。
か、かわいい……だと!?
典型的なフリフリのフリルがいっぱいついた服を着こなし、メイドさんがよくつけるカチューシャまでつけた桃太は完璧だった。
「ん、どうしたの? 柚月? 何か変?」
両腕を前に組んで、小首を傾げる桃太。こ、これがジャパニーズ萌え!!
完全に男の子に見えない彼はまさしく、萌えの伝道師だった。
しかし、これはチャンスだ。
「い、いや。変じゃない。完璧だ。桃太。いや、モモきゅん。君が一番可愛い。さぁ仕事に戻ろうか」
「え? あ、うん……なんだか、急にかわいいって言われると照れちゃうなぁ」
「「……」」
「えへへ」と笑う彼はすでに男の子ではなかった。男の娘であった。そうして俺は桃太……モモきゅんの肩を組みながら共にその場を脱することに成功した。ちなみに出る時にチラリと後ろを確認したが、二人とも放心状態だった。
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お久しぶりの更新となりました。
更新が遅くなり申し訳ございません。
最近は中々、こちらの方に筆がのらず、書けておりませんでした。ゆっくりにはなりますが更新していこうと思います。
それにしても久しぶりすぎて書き方がわかりませんでした。みんなこんなキャラだったっけな……
そして読者の皆様には申し訳ございませんが、こちらの作品、もうそろそろ完結が近づいてきております。こんなこと言っていいのかわかりませんが、ほぼほぼその場の勢いとノリで書いており、よりよいまとめ方がわからなくなってきてしまったので……
おそらくですが、少し中途半端な形になり、みなさまのご期待に添えられるものではないかもしれません。
なのでどこかでリメイクできたらいいなとも考えております。完結すらまだなのに、気が早いですね。すみません……
これからも応援よろしくお願いいたします。
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