第63話:ラピスラズリ①/勝負の結果「俺の勝ちだな?」

「え?5秒台......」

「嘘だろ?」

「測り間違いじゃ......」


 俺がゴールし、タイムがコールされてから周りからはそんな声が聞こえた。戸惑いの声だ。俺にも相坂みたいに黄色い声援が欲しかったのだが......


 俺は相坂の方を見ると、その顔は悔しさに表情を曇らせていた。そして俺の視線に気づいたのか、キッとこちらを睨みつけた。

 俺はすぐに視線を外したが、内心はかなり勝ち誇っていた。正直言って気持ちよかった。しかし、すぐに他人を下に見る様な気持ちは恥ずべきものと思い、反省した。


 その後、もう一度、相坂の方を見ると周りにいた女子に慰められていた。なんでやねん!!嫉妬だった。


 そして、その後も俺が女子に声をかけられることはなく。


「時東君!君、そんなに足早かったんだね!!」

「よかったら陸上部へ来ないかい?歓迎するよ!」

「俺、今から入部届とってくるっ!!」

「来年のインターハイは楽しみだな!!」

「俺のバトンをお前に託すぜ!!」


 男にばかり声をかけられるのはなぜか。しかも、そのほとんどが陸上部であるように見受けられる。

 おい、そこ勝手に入部届出そうとするな!!


 本当にむさ苦しい。体育でみんな汗掻いてるのに集まってこないで!!俺にも女子の成分を......


 そう思い、三度相坂の方を見ると、今度は先程と違う表情でこちらを見ていた。それは俺を哀れむ様な表情で「フッ」と鼻で小さく笑っていた。


 許さん。



 ◆


 私、佐藤瑠璃さとうるりは昼休み、一人でお昼ご飯を食べていた。このお昼ご飯は朝、早起きをして自分で作ってきたお弁当だ。

 お昼休みはいつも決まって一人。そもそも、お昼でなくても私に話しかけてくる人はいない。

 いてもいなくても変わらない存在。それが私であった。いや、むしろ地味女だなんだと避けられている、そんな感じだった。


 基本的に私は誰とも関わろうとしない。毎日周りでぎゃーぎゃーと騒ぐ、クラスメイトたちを私は席から眺めているだけであった。

 別に羨ましいと思っているわけではない。

 ただ、何も考えず、あーやって友達と騒ぐことができたらそれはそれで楽しいことだろうと思う。



「あっ、ごっめ〜ん!」


 私が自席で一人ご飯を食べていると、クラスの女子がふざけあってこちらの机に倒れかかってきた。そしてその拍子に私が食べていたお弁当がぶち撒けられ、中身が地面に散乱する。


「あっ、わざとじゃないんだ〜」

「もう、藍香あいか、ふざけすぎー!」

「佐藤さんに謝んなよ〜?」


「すみませんでしたー!!」


 ゲラゲラと笑いながら全く反省する素振りもないその女子三人組のうち、二人に促されて、私のお弁当を台無しにした張本人が形だけの謝罪を行う。


「......別にいいわ」


 どうでもいい。気にしていない。そんな意味を含んだ返答だった。それは私の本心であり、これ以上、気を遣われるのも哀れまれるのも好ましくなかったからそう冷たく言い放った。


「何よ、その言い方っ!ふん」


 そしてぶち撒けられたお弁当を片付ける手伝いもせずに、悪態だけついて、グループの元へ戻っていく。

 そして、その三人は私の方を見て何かジェスチャーを行い、笑っていた。


 加害者の分際でえらく、不遜な態度ね。


 きっと私のことをバカにしているのだろう。

 そんなことを感じ取りつつ、私は床に広がる、おかずを手で広い、元のお弁当箱へ入れなおした。そしてポケットティッシュで床を拭く。


 その様子を見て手伝ってくれる生徒はこの教室にはいなかった。




 私はお弁当を処理した後、お手洗いに向かった。そして個室に入り、そこに座り込む。別に用を足しきたわけではない。


 ただ、思わぬ形で注目を受けたのであの教室に居たくなかっただけだった。

 そうして貴重なお昼休みをトイレの中で過ごしていると、女子トイレに入ってくる集団の声が聞こえた。


「佐藤ってさ、本当に地味だよね〜」

「さっきの態度見た?......別にいいわ、だってさ!ぷぷぷ、地味なくせにお高くとまっちゃって滑稽よね!」

「あんな地味な女いるだけでなんか、教室の空気悪くなるよね」

「ああ、なったらおしまいね。女捨ててるもん」

「クラスの男子も佐藤だけはないって言ってたね」


 ギャハハハハハと私がいることも知らずに好き勝手を言う女子のグループ。先程の私のお弁当を台無しにした女子の集団であった。どうやらメイクを直しにトイレに来たようだ。メイク道具をガチャガチャと鳴らす音が聞こえた。


 はぁ。いつからこの学校はこんな低俗な猿どもが増えたのかしら。

 そう思わずにはいられなかった。

 そうしてしばらく、そのグループの悪口に耳を澄ましていると、急に慌てたように話し出す。


「ああ、そうだ。そういえば、もうすぐテストの結果張り出されるんだった!」

「急がなくちゃ!」

「ホントだ!スカイ君も来てるかな?」

「来てるでしょ!あの、3組の人と順位勝負するんでしょ?」

「見に行かなくっちゃ!」


 そう言って慌てて、トイレから出ていった。


「そうね。忘れてたわ。テストの結果、私も見に行こうかしら」


 どうせ、見に行くまでもなく順位は決まっているだろうけど。


 誰も居なくなったトイレで個室から出てきた私は手を洗い、テストの順位が張り出されることになっている、廊下の前に向かった。



 二学年用のテスト順位は貼り出された、その廊下は多くの生徒で混雑していた。みんな同じく自分がどこにいるのかが、気になっているのだろう。


 私は、その多くの人の中、どうにか掲示されている順位表を見ることができた。


 平均点は、「384点/700点」だった。そして、これは私の点数でもある。

 つまり、私の順位は、「172位/344位」であった。


 今回も無事、中央値をとることができた私は、少し安堵のため息をついた。


 それも束の間。何やら周りがかなり騒がしくなってきた様子だった。


 あれは......?時東君と......誰だったかしら?



 ◆



 あの陸上での勝負事から数日が経ち、ついにテストの総合順位が張り出される日を迎えた。

 張り出される時間はお昼休みの時間だ。

 人によっては少し、緊張しながらその時を迎えることになるだろう。


 実はと言うと俺も少し緊張していたりする。それはもちろん、単純に今回大きく伸びた点数でどこまでいったかが気になっているのもある。しかし、それだけでなく、相坂との勝負もあるからだ。なんとなくだが、相坂には負けたくないと思ってしまった。命令という罰ゲーム?もあるわけだし、あの手の輩は何を命令してくるか分かったものではないからだ。



「よっしゃー!柚月、いこうぜ」


 昼休み、白斗が俺にテストの順位を見に行くように誘われた。後ろには桃太もひょっこり付いている。


「行くかー」


「あ、ちょっと緊張してる?」


「まぁ、少し?」


 桃太と白斗にからかわれながらも目的の場所へ向かう。


「それにしても態々全体の順位張り出さなくてもいいのにな。俺絶対公開処刑だぜ?」


「まぁ、白斗は仕方ないよね。でもすぐに順位見つけられるからいいじゃん!」


「なんでだよっ!?」


「だって、下から数えた方が早いからだろ?」


「ぐっ!言い返せない!!」


 こんな調子で今度は白斗を弄りながら廊下を歩いていく。そんな時、廊下にある、掲示板に張り出された一枚のポスターが目に入った。


『来れ!星城学園ベストカップル!!』


 なんだこれ?


「ああ、もうすぐ学園祭だもんな」


「そういえばそうだね。今年もこのコンテストに出る人いるのかな〜?」


 白斗と桃太の話を聞いて少し、思い出した。そういえば、この学園祭にはミスコンなるものが存在している。とはいっても、ミスター、ミスのそれぞれ個人ではなく、カップルで競うものだ。


 本当のカップルで出場するものもいれば、カップルでなくても出場するものもいる。

 優勝者には、なんと学食の食券が一年間無料となる、特典がついてくるのだ。


 去年は、ほぼぼっちで毎日を過ごしていたのでこんなお祭り騒ぎには参加せず、一人、教室で過ごしていたことを思い出した。

 くっ。胸が痛いっ......!!


「いや〜こんなの恥ずかしくて出れないよね!」


「まぁ、ベストカップルだからな」


「ね?あ、白斗の場合は相手もいないでしょ」


「ひでぇ......」


 そう言って、去年のことを思い出していた俺を置いて、白斗と桃太が先へ進んでいく。俺も我に返り、それに遅れないように慌ててついて行った。



 テスト順位が貼り出されることになっている廊下に行くと既に人ですし詰め状態だ。そこにはあの相坂の姿もあった。

 周りに女子たちが群がっているので非常に目立っている。


「あっ。今からみたいだね!」


 そして桃太の声と同時に先生がやってきてそこに順位表を貼り出した。


 一斉に群がる生徒。どうにか白斗たちをそこにたどり着いて自分の順位を探した。

 今回の自分の点数は7教科合計621点だった。惜しくも平均90点には届かなかったかが、以前のテストから比べたら大躍進であった。


 そして順位と共に合計点も記載されているので、上から順番に自分の点数を探す。


「お?あった!順位は......22位!」


 よっしゃ!夢の二桁順位!

 一気に順位を上げたことにより、喜びのあまりもう一つ確認しなければいけないことを俺は忘れていた。


「時東くんよぉ〜?順位見た?」


 明らかにニヤつきながら俺を呼ぶ声が聞こえた。声の方向へ振り返るとそこには相坂がこちらに向かってきていた。

 まるで生徒の波がモーゼの十戒のごとく、道を開ける。


「俺の勝ちだな?」


 相坂は高らかにそう宣言した。

 俺は慌ててもう一度、順位表を見る。


 そこには。


 13位 相坂空 643点


 そう記されていた。




 負け.....た?


「これでお前は俺の言うことをなんでも一つ、聞くことになる。さぁ、何を命令しようかなぁ」


 前と同じように俺の肩に腕を回して、態とらしく、命令を考えるフリをする。この感じはおそらく、最初から決まっていたのだろう。


「早く、言えよ」


 相坂を急かすが、「うーん?」と演技し、中々言おうとしない。

 勝手に約束されたことではあったが噂が広まってしまった以上、多くの生徒がこのことを知っている。そして、今周りにいる生徒たちも俺たちのこの件について、行方を見守っている。こんな中、断ることなんてできそうもなかった。


「はい!決まりましたー!注目!!」


 相坂はそう言って態と周りの注目を引く。


「時東君には学園祭のミスコンに出てもらうことにします!!!」


 ......はい?


 相坂の発言に周りが湧く。

 そして相坂は周りに聞こえないように俺に耳元でささやく。


「俺も出るからよ。お前に思いっきり恥かかせてやるよ」


 やけに自信満々なセリフであった。


「ちなみに、ミスコンには俺も出ます!!パートナーは、5組の藍香ちゃん!みんな応援よろしくなー!!」


 相坂の声にみんなが沸き立つ。相坂のパートナーとなる女子も結構な美少女で五大美女に次ぐ、評判だが性格が悪いという話もよく聞く女子であった。


「そんでもってお前のパートナーはこっちで決めさせてもらおう。じゃあ、そうだな......」


 相坂は周りを見渡す。この場で俺の相方となる相手を決める様だ。しかし、俺に拒否権はない。でも、相手が断ったらどうするんだ?


「おっ!じゃあ、お前はそこの地味女と一緒に出ることな!」


 ニヤリと嫌な笑みを浮かべた相坂が指を指した方には、不自然なくらいに伸びた前髪で表情が見えない、分厚い瓶底眼鏡をかけた、かなりの地味な女子だった。


「......クロエ?」


 そう、それは間違いなく、屋上で俺に本を返した女子。クロエであった。



──────


思ったより、長くなってしまいました。

テストの勝負は負けてしまいましたね。しかし!柚月の勝負はここからです!



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