第59話:修羅場2ndシーズン「!!!!?!???」

「それで?柚月にか、彼女はできたのかしら?」


 はい?彼女?ナンノコト?さっぱり心当たりがない。いや、昨日の水原さんことか?別に彼女とはなんでもないんだが......なんでも......?

 ここで思い出して顔を赤くしてしまう痛恨のミス。


「や、やっぱりそうだったんだ......」


「う、うそです!そんなの聞いてません!!」


「い、いや本当に知らない!彼女なんていないよ!」


「とぼけても無駄だぜ!だってあたしたちは見てたんだからな!!」


 見てたって何をだ?まさか水原さんとのキ......なわけない。あんな夜遅くに警察で聴取受けた後にみんなが見ているなんてあり得ない。であるならばなんだ?


「あ、あの屋上のことよ!ラブレターで呼び出されてたんでしょ!?そ、それであんたはその告白に応じるって......」


 ラブレターってあれか!クロエの!!俺、告白に応じるなんて言ったか?いいや、言ってないぞ。なんで俺がクロエからの告白を応じたことになってるんだ!?


「いや、それは誤解だよ!そもそも告白なんてされてないから!」


「嘘です!あの時、あのメガネの女の子が言っていました。情熱的なを過ごしたって!!つまりはそういうことなんですか!?やっぱり不埒です!」


 壮大な誤解が生まれているようだ。思い出してみよう。確かあの時、屋上ではクロエになんて言われたんだっけか?確かに愛の告白だの情熱的な、なんだの言われた記憶はあるが......しかし、それをなぜみんなが知っている?


 まあいい。今はこの誤解を解かなくてはならない。


「はあ......確かにクロエに屋上に呼び出されたけど、告白なんてされてないよ。あれは揶揄われただけだ。それに情熱的ななんとやらも。あれはただ、貸してた本を返してくれただけなんだよ。だから俺とクロエにはそれ以上もそれ以下もない!」


「呼び捨てなんだ......」


 あの......東雲さん食いつくとこそこなの?しかも、あれ本名かどうかわからないからね?


「ふーん......」


「ほんとかどうか怪しいもんだぜ......」


 本当のことだからこれ以上聞かれても答えようないんだけどな......


「あれ?というかなんで俺責められてるの?俺が誰に告白されて、仮に付き合おうが別にみんなに関係ないんじゃ......」


「え!?」


「あ!?いや、その......」


 俺の言葉に一同に焦り出す。なんだこの反応は......?みんなの顔を改めて見渡すとどこかキョロキョロと視線が泳いでいる。


「あっ!分かった!!そういうことか!!」


「な、何が!?」


「べ、別にそんなんじゃねえからな!!」


 ふっふっふ。そんなに照れなくてもいいのにな。なんだ、そんな簡単なことだったのか。俺って結構、恵まれてるんだなぁ。


「つまりみんなは俺が心配なんだな!!!」


「「「「は?」」」」」


「だって友達がどんな人と付き合うかって気になるって言うじゃん!変な人に捕まったらとかって考えててくれたんだろ?な?」


「バカなの......?」


 部屋の端の方で聞いていた水月が小さくこぼした。バカとは何事だ。失礼な奴め。そうして再度、みんなの方を見る。


 な、なんだ?その残念なやつを見るような目は!?


「まっ、いっか......」


「そうだな」


「うん......」


「これはもしや、すごい積極的に行かないと何も気付いてくれないのでは?」


 なんのことを言ってるんだ一ノ瀬さん。


「まあ。屋上の件は許してあげる」


 許された。というかさっきから言うように別に許す、許さない関係ないんじゃ......


「次はそうね。昨日はなんで水原さんが柚月の家に来てたの?それに着替えだって......」


「おい、その話詳しく聞かせろよ」


「私も気になります!!」


「わ、私も!」


 次々に名乗りをあげる美少女たち。この流れはまだまだ嫌な予感しか続かない。ここは冷静になれ!冷静になるんだ、柚月!冷静に切り抜けてみせろ!!


 軽く深呼吸を加え、心を落ち着かせる。


「べ、別に何もないよ。偶然、水原さんと会って話してたら雨降ってきたから着替え貸しただけ。本当にそれだけだから!!」


「本当?水月ちゃん?」


 ちょい!?なんで水月に聞くの!?俺ってそんなに信用ないの!?


「本当ですよ」


 ほっ......よかった水月。お前は偉い子だ。やればできる子だと知っていたさ。そうだとも。昨日はそれだけしかなかったんだからな!!!


「あ、でも私が帰ってきた時、裸の茜ちゃんといちゃついてましたね。押し倒されていました」


「!!!!?!???」


「ぁ......」


「っ......」


「ぅぅ......」


「マジかよ......」


 爆弾をぶち込んできた。核兵器だ。核の嵐がこの平和な時東家に吹き荒れた。四者四様の驚きを見せていた。


「あううう......」


「一ノ瀬さん!?」


 急に泣き出す一ノ瀬さん。どうして!?どうしてそうなるの!?泣きたいのは俺の方なんですけど!?


「み、みんな聞いて!!あれは事故!事故なんです!!本当なんです!どうか聞いて下さい!!!」


「「「「......」」」」


 返事がない。ただの屍のようだ。



 ◆


 修羅場から解放された翌日。俺の精神力を以ってしても非常に疲れた。どうにかあらゆる手を尽くして、誤解を解くことができた。とは言っても最終的には水月の協力があったからだ。自分で爆弾落としておいて、見ていられなくなったからか自ら、回収して行った。


 あんなことがあった翌日の学校はかなり憂鬱だった。願わくば今日一日くらい平和な日が訪れんことを願うばかりだった。


 できれば、みんなとは顔を合わせたくはない。気まずいと言ったらありゃしない。一ノ瀬さんや東雲さん、紅姫は別のクラスだから不用意に廊下を彷徨かない限りは出会う確率はぐっと下がるだろう。

 問題は綾瀬さんだ。同じクラス&隣の席。今日一日この難関を乗り切れるか?


 俺が教室に入って席へ着く頃には既に綾瀬さんは隣の席に座っていた。ここで挨拶をしないっていうのも変な感じだ。あくまで自然だ。自然に行こう。


「お、おはよう。綾瀬さん」


「......」


 無言がきつい。


「橙火」


「え?」


「橙火って呼んで?」


 朝の爽やかな笑顔が俺に向けられる。背景がなんだかキラキラと輝いて見える!?

 なんだ?どうしてこんなに笑顔?逆に恐怖を感じる......


「橙火......」


 小さくボソリと呟く。


「ん?どうしたの?柚月?」


「い、いや。なんでもない!!」


 女子の考えてることが分からん。いや、分かったらこんなことになっていないか。


 隣の不思議な橙火の様子を見つつ、今日一日が始まった。それからも今日という一日はおかしかった。


「おう!柚月!便所か?あたしも一緒に行こうか?」


 なぜか紅姫の連れション発言に始まり。


「ゆ、柚月!私のことも桜って呼んで!!!」


 東雲さんの呼び捨てして発言。これは橙火と同じだな。


「私のことも紫でお願いします」


 一ノ瀬さんにも呼び捨てをお願いされる。更には。


「あ、あの!よかったらお弁当作ってきたんです!一緒に食べませんか?」


 一ノ瀬さん......紫にお昼ご飯を誘われた。しかもお弁当付き。なんだこれは?一体何を考えている......?その様子を恨めしそうに見る視線がいくつかあったのは気付いた。


 こうして屋上で紫とお弁当を食べることになった俺。まわりにはカップル多し。落ち着いて食べてられねえ......


「あれだけ美味しい、お料理を作れる柚月さんのお口には合わないかもしれませんが......」


 紫が作ってきてくれたお弁当箱を開ける。そこにはタコさんウインナーに綺麗な形の卵焼き。唐揚げなど男子の好きなものばかりが詰め込まれていた。もちろん、彩にも気を使い、ミニトマトやインゲン豆。金平人参なども入っていて健康的だと感じた。


「い、いただきます!」


 そういえば女の子のお弁当食べるなんて初めてだな。そう思い、唐揚げを一つ端で掴み、口の中に放り込んだ。

 そしてゆっくり噛めば、溢れ出てくる肉汁。冷めているというのに絶品と呼べる唐揚げであった。


「うまいっ!」


 思わず口に出る。その言葉で小さく紫がガッツポーズをしていたのが分かった。


「よかったです!!もっとこれも食べてみてください!!」


 お、おおう......これは、これは!?

 周りのカップルたちが人目も憚らず、やっているリア充御用達の行為!!!


 あーんではないか!?


 い、いいのか?俺がこんなことをしていいのか?

 念のため、周りを見る。しかし、俺たちのことを気に留めているものなどいない。みんな好きにいちゃつきまくってるのだ。キ、キスだと!?中にはそんなことをしているカップルもいた。屋上恐るべし。


 再び、俺は目の前の卵焼きに視線を移した。ゴクリと喉の音がなる。

 こうなったら覚悟を決めて......


「パクッ!」


 卵焼きを口へ入れた。出汁の風味が広がる。いい出汁使っておりますな。


「おいしい」


「やった!」


 紫は俺が感想を言うとまた喜んでいた。まあ、俺の感想一つでこれだけ喜んでくれるならいっか。あれ?それにしても、その箸、間接キスでは......?なんだか恥ずかしくなってきた......

 紫はそんな俺の心情を知らずしてかその箸で自分の作ったお弁当を美味しそうに食べていた。かわいいなと思った。


 その後も紫と雑談を交わしながらお昼ご飯を食べ終えた。




 そして今日という一日が終わる。


「はぁ〜なんだか疲れた......」


 特段、何か精神的に来ることはなかったのだが、やたらみんなが積極的に絡んできてた。なんだったんだか。


 まあ、これでとりあえず、平和に終わったかな!!


「お前が、時東柚月か?」


「ん?誰だ?」


 俺は呼ばれた方を向くため、振り返る。そこには長身にスラッとしたスタイルのいいイケメンがいた。こいつは......確かスカイって言ったか?モデルをやってる。俺になんのようだ?


「俺と勝負しろ」


 俺の平和が崩れ去る音がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る