第58話:大事な目的「正座」
「正座」
「はい......」
どうも!二日連続、妹に説教をくらっております、不甲斐ない兄の柚月でございます!どうしてこんなことになっているかというと、俺が自分の部屋に美少女たちを連れ込んで、キャハハ、ウフフな展開をしていたからであります!!
正確には俺の性癖を暴露されただけなんですけど。
「あの人たちは誰?なんであんなに服がはだけてるの?なにしてたの?」
質問地獄!!俺は今現在、自分の部屋の前で正座させられております。
「あの人たちは学校の友達で......服がはだけているのは胸の揉み合いをしていたからで......お、俺は見てただけです!!」
「ふざけてるの?」
詰みじゃん。本当のこと言っただけなのに詰みじゃん。
これ以上、どう言い訳しようか迷っていたところ、俺の部屋のドアがゆっくりと開いた。
「あ、あの!誤解なんです!!柚月くんは何もしてません!!」
「......あなたは?」
「あ、私、一ノ瀬紫っていいます!よろしくお願いします!あ、なんてお呼びすればいいですか?妹ちゃんですか!?」
扉の隙間からヤケにテンションの高い自己紹介を始める一ノ瀬さん。
「え、ええ......水月って呼んでください......」
あまりのテンションの高さに若干引き気味の水月。一ノ瀬さん恐るべし!あれ?一ノ瀬さんってこんなキャラだったっけ?
「その!話は聞かせてもらいました!柚月くんの言っていることは本当です!」
「......本当ですか?」
「ええ!詳しく話をさせてもらいたいのでこちらに来てもらえますか?」
「え?お兄ちゃ......兄の部屋にですか!」
「はい!」
「わ、分かりました」
え?何?説明って何?俺の部屋で一体何するの?あれ?俺は?俺は入れてもらえない?
「じゃあ、そこで待ってて、変態お兄。正座で」
くっ!?やっぱり入れてもらえなかったようだ。しかも正座で待っていろって!?厳しすぎない?俺の部屋なんだけど......なんだコレ。
そこからしばらく俺の部屋で行われる何かの説明に耳を傾けるもなぜか楽しそうな笑い声が聞こえてきた。そして偶にドタドタと騒がしさも感じた。
なんだ?一体なんの話をしているんだ!?き、気になる......
俺は耳をそーっと扉に近づけて澄まそうとした。バレれば怒られるかもしれないが好奇心には勝てなかった。
そして冷たい木の扉に耳を引っ付けた瞬間!
「いった!!!」
いきなりドアが開いたのだ。おかげで俺の顔面にトビラアタックが決まってしまった。
「何してるの?お兄」
「え?いや、なんでも......」
「ふーん。とりあえず、立って」
「は、はい......」
何されるんだろうか。怖い。恐怖に震える。
「とりあえず、事情は分かったから、その......許してあげるわ!」
「......お?」
「で、でも勘違いしないでよね!紫ちゃんたちが来ていたこと黙っていたのは別なんだからね!」
紫ちゃん?おいおい、マイシスター。いつの間に一ノ瀬さんとそんな仲良くなったんだ?部屋で一体何が?くそう。聞きたい。
まあ、とりあえず、誤解は解けたらしい。よかった。
「それと......」
なんだ?急に押し黙って。顔を少し赤らめてどうした?暑いか?
「さ、さすがにあの趣味はないわ......」
「......え?」
「隠すならもうちょっと分からないとこに隠しときなよ......そ、それだけだから。あ、後!!紫ちゃんたちもみんなご飯食べていくことになったからよろしく」
それだけ言うと、水月は下へ降りて行った。
なんだか焦っていたな。それにしても隠すって何が......
......え?え?え?何が?ま、まさか!!!
俺は慌てて自分の部屋に入った。そこには4人とビリビリに引き裂かれた本の残骸。
「ああああああ!?」
なんてことを......
俺の悲鳴に女性陣は気まずそうにしている。
どうやら一ノ瀬さんたちは俺の誤解を解くために馬鹿正直に俺のエロ本のことを水月に話してしまったらしい。
そんなバカな......一緒に暮らしているんだぞ......これからどんな顔をすれば......ってそれはこの4人も同じか......
俺はその残骸の一部を手に取る。みんなは俺と目を合わせようとしない。
いいよ......もう。オイラ、この子たちとはお別れするから......
俺は手につかんだ残骸に目を向けた。そこには。
『縛られたいあなたにとっておきの×××』
×××にはテレビでお馴染みのピー音を入れてみよう!
あ、あれ?こ、これは......
「ま、まさか勉強机の参考書に紛れてもう一冊も置いてあるなんてなぁ......」
「さ、さすがにそれは引く」
「あんた、Mだったのね......」
「わ、私ならどんな趣味にも対応してみせます!!」
泣いた。誰か俺を殺してくれ。
◆
一つ言い訳をさせてもらおう。俺は別に特殊な性癖を持っているわけではない。あれは偶々なのだ。本当に偶々。そんな欲望があったのでは決してない。
グツグツと煮えたぎる鍋の中身をかき回しながら、誰にでもない、自分に言い訳をする。
あの惨劇は水月がしたものらしい。実を言うともう一冊の方はまだ途中までしか読んでいなかった。その本には緊縛の内容以外のものがあったらしい。
それは、妹モノ。終わったよ。家族として終わった。俺はつまり、家族を、実の妹を性の対象として見る変態と認定されてしまったようだ。
水月はそれを見るなり、顔を真っ赤にして破り捨てたというのが真実であった。
キッチンから見えるダイニングテーブルでは水月を含めた5人が楽しそうに会話に花を咲かせていた。
いいなあ。俺も混じりたい。いや、無理だ。変態の俺には鍋をかき回すがお似合いなのさ。
「お兄ちゃんまだー?」
ああ、こんな俺でも変わらず水月は話しかけてくれる!!!元気出てきた。もう最高に美味しいの作っちゃお。もうすぐできるけど。
「まだ、もう少し。待って!」
「はーい」
そして煮込むこと10分。ついに完成したカレーを俺は、ご飯を盛った皿にかけていく。
「これで、よし!」
6人分の完成だ!
俺はできたカレーライスをそれぞれ、みんなの前に持っていく。もちろんサラダも忘れずにだ。自家製ドレッシング付き。
「ああ、腹減ってきたぜ!!」
「う、うん!すごく美味しそう!」
「いい匂いです!!」
「へ〜これがカレーっていうのね!!」
「どう?すごいでしょ!!」
おお!好印象だ。よかった。これで先程下がるに下がりきった好感度を戻すことができればよいのだが......あれ?一人カレー知らない人混じってない?それに水月。まるで自分が作ったかのような言い方だな。
「「「「いただきまーす!」」」」
みんなで合掌する。
そして俺はスプーンに掬われた俺の努力の結晶たちが彼女たちの艶のある口に持っていかれるのを見守った。
「うまっ!!なんだコレ!!」
「おいしい......こんなの初めてかも!」
「こ、これがカレー!!!今度、作らせることにするわ!!」
「......こんなの卑怯です。完全に女としてのアドバンテージを失いました......」
よっしゃ!!よかったー。紅姫と東雲さんからは非常に良い評価だった。綾瀬さんは......分からん。多分喜んでる。そういえば金持ちの家だったっけか?一ノ瀬さんはなんでか泣きながら口に頬張っていた。泣くほどうまかったんだな。
そしてあっという間にみんなはカレーを平らげていった。もちろん、サラダとドレッシングも大好評であった。
「いや〜それにしてもこんなに料理うまいとはな〜」
「うん!すごい美味しかった!見直したよ!」
「ねえ!また作ってよ!!」
「あのコクの秘密は一体......」
いや〜よかった!本当によかった!一時はどうなることかと思ったけど、カレーにここまで効果があったとは!!料理頑張っててよかった!!
「うんうん!美味しかった!こんなことなら昨日の茜ちゃんもくればよかったのに〜」
ピシィと空気が張り詰めた気がした。
完全にみんなの記憶から抜けていたのに......何?なんでそんなこと言っちゃうの?
「水月ちゃん。ありがとう。今日一番大事な用事を思い出したわ」
「ああ、そうだったな!危ないところだった。危うくカレーに誤魔化されるところだったぜ」
俺の修羅場はまだまだ続くようです。
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