第57話:人繋ぎの大秘宝「「「「はあはあはあ......」」」」

「ちょっと二人とも、流石にそれは柚月に悪いわよ!」


「そうだよ......それに勉強しないとテストどうなっても知らないよ?」


 紅姫と一ノ瀬さんの二人が物色を始めようとした時、綾瀬さんと東雲さんが阻止してくれた。

 あ、危ない。助かった......まあ、物色されたところであのクローゼットには近づけさせなかったが。たとえ禁断の扉を開けられたところで普通に探しては見つからないところに置いてあるのだ。多分大丈夫だ。


「そ、そうだぞ。二人とも。ほら、勉強、勉強!」


「はーい ......すみません......」


「ちぇ......つまんね......」


 俺が二人に続いて勉強を促すと不服そうな顔をしながらもまた、机に向かい始めた。


 プルルルルル。プルルルルル。

 ここで机の上に置いてあった俺の携帯電話が鳴る。4人の視線が全てそちらに向いた。

 俺は慌てて携帯電話を手に取った。別に見られて困ることはないが、なんとなくだ。

 こういう時に大体鳴らしてくるのは、水月だと予感した。


「ごめん、ちょっと出る」


 そう言って俺は、携帯を持って、部屋の外へ出て通話ボタンを押す。画面に表示されていた名前はやはり水月であった。


『もしもし?』


 俺は電話に出ながら階段を降りて下に行く。電話ついでに終わったら何か飲み物でも持って上がろうかと思った。


『あ、お兄ちゃん?今からスーパー寄ってから帰ろうと思うんだけど何かいる?』


『い、今から!?』


 それはまずい!もっと勉強して帰ってくると思ってた。女子を4人も家に上げていることがバレたら......確実に面倒なことになる!!


『ん?今からだったらなんかまずいの?......あ、まさか!また女の人連れ込んでるんでしょ!?』


『そそそ、そんなわけねえだろ!?昨日の今日で。昨日あれだけ言われたら流石に次の日は連れてこないよ』


 昨日は母さんと水月に根掘り葉掘り聞かれた。別に連れてくるなとは言われなかったが、追求が大変だったのだ。


『ふーん、まっいっか!そういえば、久しぶりにお兄ちゃんのカレー食べたいから作ってよ!今日お母さんとお父さん遅いらしいからさ!』


『あ、ああ!それくらいいくらでも作ってやるよ。だけど結構込んだ材料いるからいっぱい買ってきてもらう必要あるけどいいか?』


『はーい!分かったよ。何がいるの?』


『えっとまずは......』


 俺は材料をどんどん言っていく。水月は電話の向こうでメモを取っているようだ。


『......かな。後は、トマト缶』


『トマト缶?そんなの使うの?』


『ああ。必要だ。よろしく頼む』


『分かったよ!じゃーね!』


「うおおおおおおお!」


 ブツッと電子音が耳に到達したと同時に二階へダッシュした。

 今から水月が帰ってくる!!それまでに4人を帰さなければ!!幸い、スーパーでの買い物でいろんなスパイスを頼んだ。探すのにも時間がかかるはずだ。実は以前使った残りがまだ家にもあるのだが、これは時間稼ぎ。決して買ってきたものを無駄にはしないので許してほしい。


 そして二階の自分の部屋の扉を勢いよく開ける。


「悪い、みんな!今日はここまでだ」


「「「「あっ......」」」」


「......え?」


 扉を開けた向こうには、4人があるものを持って見ていた。それは俺がクローゼットの奥深くに隠していた人繋ぎの大秘宝だった。


 血の気が引くとはまさにこのことである。今の俺は顔面蒼白だろうよ。

 終わった。何もかもだ。


「こ、これは違うのよ?私は止めたの!止めたんだけど......」


「あ、ずりいな、橙火!お前一番ノリノリだったじゃねえか!!」


「そうですよ!私が発掘してきた、これに興味津々だったではありませんか!!」


「だ、誰が興味津々よ!!」


「まあまあ、みんな落ち着いて......」


「あ、桜ちゃん逃げようとしてもダメですよ!!桜ちゃんもガッツリ見ていたので共犯です!!」


 カオスだ。カオスが形成されてしまった。そして同時に俺の性癖が皆に伝わってしまった。不幸中の幸いと言っていいのか、見つかった本はまだ、のものだった。いや、エロ本が見つかった時点で普通もクソもないがそれでもが見つかるよりかはマシだ。あ、エロ本って言っちまった。


「まあ、柚月。流石に女子を呼ぶ部屋にこんなもの置いとくのはどうかと思うぜ?」


 だから隠してたんですけど!?


「た、確かにね......その......こういうのは成人になってからね......」


「そ、それにしてもあんたがこんなのが趣味だとはね......見損なったわ!!不潔よ!!」


 くぅ。寄ってたかっていじめないでくれ......男ならこれくらい誰でも持ってるんだ!分かってくれよ......


「ああ、橙火ちゃん!ダメですよ!確かにこういうえっちなのはよくありませんが、中身が巨乳ものだったからって僻んではいけません!!」


「な、な、な!?誰が貧乳よ!!私だってねえ!よ、寄せればBくらいはあるわよ!!」


「それ本当か〜?ちょっと触らせてみろよ」


「い、いやよ。や、やめて!こないでー!!んっ!」


「ちょっと......そのくらいにしときなよ......」


「はあはあ......そういうあんたはどうなのよ!!そりゃ!!」


「あ、ちょっと!だめぇ!!」


「ほほう。ベニちゃんも中々いいものお持ちですね?」


「あ、こら!てめぇいつの間に!!あっ!」


 桃源郷だ。桃源郷がそこ広がっている。俺のことなど忘れてみんな胸の揉み合いを行っている。ヤバイ。刺激が強すぎる。

 というかこういうのって普通、修学旅行とかのお風呂イベントで発生するもんじゃない?あ、パンチラ......



「「「「はあはあはあ......」」」」


 そして数分間その乱闘が目の前で行われ、ようやく収まった。

 服も乱れているし、息遣いも荒い。非常にエロい。チャージしていた鼻血が一気に解放されてしまった。


「あ、あのみんな?」


 ごちそうさまでした。そう言いそうになるのを押さえた。

 俺が4人を呼ぶと一斉にこちらをキッと睨んだ。


 なんで!?なんで俺が睨まれるの!?


「あんたのせいよ......あんたがあんな本もってるからぁ......」


 半泣きの綾瀬さん。他の3人との間に広がる格差に絶望してしまったようだ。

 しかし、それはないんじゃない?俺どっちかというと被害者なんですけど......


「まあまあ、橙火ちゃん。落ち着きましょう。柚月さんが巨乳好きかどうかはともかく、柚月さんも男の子です」


「そうだよな......エロ本くらい大目に見てやらねえとな......」


「男の子だもんね......ちょっと引いたけど......」


 東雲さん。最後の一言が一番きつい。それより、早く、服直してくれないかな?正面を向けないじゃないか。


 だがここで俺は更なる地獄へ突き落とされる。


《ただいまー!お兄ちゃん帰ったよー!え!?あれ!?何この靴の量!?しかも女子!?》


 終わった(本日二度目)。水月が帰ってきてしまった。そしてすぐに2階へ駆け上がってきた。

 あーなんの言い訳も思いつかない。どうしよ。なんかもう半分諦めモードだった。


「お兄ちゃん......?下にあった大量の靴は何......?」


 ゆっくりと扉が開けられる。そして俺は後ろを振り向くと水月と目があった。水月は目が合うとすぐに俺の奥にいる4人を見つめる。しかし、まずい。忘れていた。みんな服がはだけている。


 そしてもう一度、俺を見つめる。


「......」


「......お兄ちゃんちょっと?」


「はい......」


 呼び出しをくらってしまった。俺は振り返らなかった。無言の4人を置き去りにして部屋を出る。


 そして廊下。


「部屋でなにしとったんじゃ、この変態お兄!!!!!!!!」


 もうどうしよ。



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