第56話:勉強会「じゃ、じゃあ俺も......」
「それでこれが、こうなって......こう......がががってなって、びゅーんってして、こうなるわけよ!」
「いや、全然分かんねえよ......どうすんだこれ......お前説明下手すぎるだろ......」
「そうそう、これを代入するの!そしたら右辺が......」
「な、なるほど?つまり、これが因数分解ですね?」
「いや、違う......」
どうしてこうなった?
「があああああ、分かんねえ!!おい、桜!こいつと代わってくれ〜〜〜」
「あ、ちょっと待ちなさい!!今、大事な部分なんだから!!」
「ダメですよお。桜ちゃんは、私を教えるのに精一杯なのです!さあ、桜ちゃん!
「いや、今は二次関数の勉強なんだけど......それと
「どうしてこうなった!!!!??」
俺の目の前には4人の美少女。今は俺を含めた5人で勉強会を開いている。目の前に迫る中間テストに向けて、俺たちは学生の本分である、勉強に勤しんでいるのだ。
別に勉強会が嫌だったわけではない。友達と勉強会をするなんていうのは初めてのことだし、嬉しく思う。それがこんな可愛い子たちなら尚更。
しかし、その勉強会を行っている場所が問題だ。俺の家である。しかも、俺の部屋。もちろん、俺の家はお金持ちでもなければ、馬鹿みたいに広い部屋というわけでもない。広さは8畳ほど。そんなところに5人もいれば、それはもう狭く感じるよね。
しかも、初めて部屋に入れた友達が男子ではなく、女子。しかも4人。由々しき問題である。あれ?そういえば、俺白斗と桃太と友達だけど、遊んだことない。悲しい現実に気づいてしまった。今度遊びに誘ってみよう。
それに何がまずいかって、2日連続だ。2日連続で女子を家に連れ込んでいる。連れ込んでいると言う表現は適切でないな。
さらには複数人。昨日の水原さん一人でさえ、母さんと水月に問い詰められたと言うのに、複数人とな?あー、ダメだ。嫌な予感しかせん。
まあ、なんでこんなことになっているかというとだな。次の回想へどうぞ。
あれは6限目の授業が終わってすぐのことだった──
その日俺は1日中、水原さんに話しかけられた。そのおかげで同時に1日中、ある男の視線を独り占めしてしまったわけだ。いやーモテるって辛いね。穴が空きそうなほどの眼力で見つめられちゃあ、俺だって照れちゃうわ。まあ、冗談は程々にして。
なんでこんなにも積極的に俺に話しかけてくるかは見当がつかない......というわけでもない。思い出せば顔から火が出るかの如く恥ずかしくなる。俺はウブなんだ。許してくれ。
そう、あの時のキスだ。俺の勘違いでなければ、水原さんは俺に好意を持ってくれているんだと思う。第一、好きでもない相手にキスなんかするか?
自分で言っててくっそ恥ずかしい。勘違いだったら死ねる。
正直言おう、こんなに真っ直に好意を向けられたのは初めてなので俺は戸惑っている。それに気づいた時、どう接していいのか分からないのだ。
なんか、当たり感触のない会話しかできなかった印象。俺ってつまんねえ男だな、畜生。
それでも水原さんは楽しそうに話しかけてくれた。その笑顔を見るだけで大抵の男子は体力が回復するだろう。それくらいの癒しの波動は出ていたと思う。
水原さんは放課後、バイトということで帰った。テスト期間だと言うのに大丈夫かと思ったが、それほど成績は悪くないらしい。まあ、本人もバイトも勉強も両立すると言っているので、俺が止めることでもないだろう。あれ?俺ってお母さん?
そして、俺も支度をして帰って勉強しようと思っていたところ、白斗と桃太に話しかけられた。
「おっす、帰りか?」
「今から、ファミレスで勉強しようと思うんだけど、柚月もくる?」
テスト期間に入ったため、白斗も桃太も部活は休み。俺はこのお誘いにテンション爆上がりだった。
おおおおお!!ファミレスで勉強会!!!なんて学生らしいイベントなんだ!!!友達と勉強会をする。俺のやりたいことリストの一つだった。それが今、達成されてしまったのだ!!
「いい!!!それいいね!!行く!!」
「な、なんか大袈裟だな、お前......」
「ま、まあ、喜んでいるならいいんじゃない?」
と言うわけでファミレスへレッツゴー!とは行かなかった。
「待ちなさい!!」
俺たちが教室を出ようとしたところ、今日1日沈黙を守っていた綾瀬さんが声を張り上げ、自席で立ち上がった。
「な、なにか用?」
なんとなく、機嫌が悪いことを察知した俺は、恐る恐る、話しかける。
「私も行くわ!!」
「え!?」
「私もその勉強会に行く。いいわよね?篠宮?」
「え?あ、ああ。お、俺は別にいいぜ?なあ、桃太」
「う、うん。綾瀬さん学年1位だもんね!」
う、うそん。なんだか嫌な予感しかしないぞ?
綾瀬さんの迫力に押され、白斗も桃太も即同意した。
ま、まあ。なんで機嫌悪いかは分からないけど、別に何かされたわけじゃないし、大丈夫だろう。多分。
「なら、行きましょ」
そうして4人で廊下を出た瞬間である。
「ああ!!ゆゆゆ、柚月さんではありませんか!!こ、こんなところで会うとはき、奇遇ですね。ここ、こんなこともあるんですね!!」
「ちょっと、紫......流石にもうちょっと落ち着きなよ......」
俺に話しかけてきたのは一ノ瀬さんと東雲さんだった。何をそんなに慌ててるのだ?それより、奇遇?隣のクラスなんだから、会うこともあると思うけど......東雲さんは落ち着いているが、二人ともなんだか白々しい。
「えっと、一ノ瀬さん?どうしたの?」
「えええ、えっとですね?柚月さん。この後、何かよ、予定はありますか?」
「あ、ああ。クラスの友達とファミレスで勉強会するんだ」
「へ、へえ〜それは奇遇ですね。わわわ、私たちも勉強会しようと思ってたんですよ!!ね、さ、桜ちゃん!!」
「え、ええ。そそそ、そうなのよ!よよよかったららら、いしょにどう?」
いや、あんたもかい!!落ち着いてたように見えて、いざ話すとドモリが半端なかった。何をそんなに緊張しているのか.......
それにまた奇遇って。テスト前だから普通でしょうが......何か二人ともなんだか怪しい。綾瀬さん然り、何があった?
「ああーこんなところにいやがったか、柚月!いやー、こんなところで出会えるなんて奇遇だなー」
さらには紅姫まで登場してしまった。なんだってんだ一体......しかも棒読み感が半端ない。
「やや?これはこれは、紅ちゃんではありませんかー?これからみんなでテスト勉強するんですよー。よかったら紅ちゃんもどうですかー?」
「ああーそれはナイスアイデアだなー。よし、あたしも一緒にお邪魔させてもらおかなー」
一ノ瀬さんも急に棒読みになり、紅姫を誘う。しかもえらく、芝居がかかっている。
これはみんな一緒に勉強するパターン?それはいいんだけど、白斗たちにも聞いてみないと......
「あ、そう言えば、俺、用事を思い出したんだった!」
「僕もだ!ごめんね、僕たちはまた今度にするよ!」
え!?そんな急に用事できる!?しかし、女子4人の中で1人だけ男が混じってするのもなんだか変な目で見られそうなので俺も今度にさせてもらおう。そう思い、断りを入れようとした。
「そうなのか!?じゃ、じゃあ俺も......」
「じゃ、いきましょ」
「え?」
俺の方はガシッとしっかりホールドされており、その場から動くことができなかった。
「じゃあ、皆さん、ごゆっくり〜」
「が、がんばれよー」
「ま、待って!白斗!桃太ーー!!」
白斗と桃太は一目散に廊下を駆け出し去っていった。
そして俺はゆっくりと後ろを振り向く。
そこには不敵な笑みを浮かべる、4人の姿があった。一体何されるんだろう......勉強だよね?
──と言うわけで、このメンツで勉強をすることになったのである。
それにしてもなぜファミレスじゃなく俺の家かって?それは向かっている途中、昨日の水原さんが俺の家に行ったという話が綾瀬さんから広がり、他の子達も行ってみたいという話になったからである。ちなみに後で詳しく聞かせてもらおうと脅された。
そして俺の家について、俺の部屋で勉強することとなった。幸いなことに水月も同じくテスト期間で、今日は学校で勉強して帰るとの連絡が入っていた。
一体何をされるか少しばかり不安ではあったが、如何せん思ったより普通にテスト勉強が進んでいる。
それに綾瀬さんが頭がいいことは知っていたが、意外にも一ノ瀬さんはあまり勉強ができないということを知った。結構、できそうな見た目なのに......って見た目で判断するのは悪いな。
それにしても落ち着かない。いつも自分がいる部屋......パーソナルエリアに女子が、しかも4人もいる。そわそわする。
俺の部屋は、まあ一般的な家庭の男子の部屋を想像してくれ給え。そりゃあ、もういろいろ見られたらまずいものあるよね。危険だ。あれは、核よりも危険な存在だ。見つかってしまえば、死ねる。だから俺は家ついた瞬間に一瞬で片付けた。クローゼットの中までは流石に見られないはずだ。
「ああー勉強も飽きてきたなー」
「確かにそうですね!私も飽きてしまいました!ということでここは恒例のお部屋物色!させて頂きましょう!」
「おお!いいな!それ!」
......大丈夫だよね?
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