第40話:ティップオフ/前半戦「まだあわてるような時間じゃ無い」
「くそ、もう始まっちまうな......」
「白斗仕方ないよ。ここまで来れただけでも十分だと思うけど......」
「まあ、あいつがこれねえ分やるだけやるか!」
「だね」
結局のところ、柚月は試合直前になっても姿を現さなかった。当然だろう。昨日から今日にかけて熱が出たなら、今が一番のピークのはずだ。そんな状態で学校に来れるとはあまり思わなかった。
あの電話の後、学校でも噂の美少女たちが一様に柚月のことを聞いてきた。もちろん、俺は風邪で休みだと伝えた。一ノ瀬さんも東雲さんもすごく心配していた。綾瀬さんもそうだが、なにより一番落ち込んでいたのは、狭山さんだったかもしれない。しきりに「あたしのせいだ......」と言っていた。彼女との間に何かあったのかもしれない。
というか、あいついつの間にこんなにハーレム築いてやがんだ!?贅沢なやつだなまったく。
しかし、彼女たちもイマイチまだ柚月への気持ちは特に定まっていないように思える。好意的なのは間違い無いが、イコール、異性として好きとまではいっていないのだろう。これはあくまで俺から予想ではあるが。
まあ、それはそれで面白いからいいんだけども。これからが楽しみである。
話は逸れたが、柚月の代役としてクラスの元バスケ部のやつを代理として連れてくることに成功した。元バスケ部と言ってもベンチだったらしいが、それでもみんなで協力しあい、運も味方したのか対戦相手がそこまで強くなかったのでここまでくることができた。
俺も、桃太もそこそこ球技は得意なのも幸いした。
そして準決勝。これからあの後藤率いるチームと戦うことになる。後藤のチームは後藤以外は潮田、現役のバスケ部1人に元バスケ部2人というずるいチーム構成である。後藤も元バスケ部にあたるが、元選抜にも選ばれたほどの実力者だったようだ。
かなりうまかった。多分俺たちは勝てないだろう。それでも柚月と約束したし、それなりにやろうと思う。
「それじゃあ、始めます」
先生がコートの真ん中に立ち、レフェリーを行う。外野というか応援席からは「キャー頑張ってー!」だの「淳くーん!」だの「かっこいい〜!」だの黄色い声援が主に後藤に送られている。
あいつ意外と人気あるんだよな......
そんなことを思っていると後藤は俺と目が合い、にやりと笑った。
「結局、あの負け犬こなかったな。まあ、どうせ来たところで賭けは俺の勝ちだろうけどな」
俺は柚月と電話した後、後藤に交渉した。柚月抜きでも俺たちが勝てば賭けを勝ちにしてくれと。後藤はよほど余裕なのかその交渉を快諾した。
「まあ、できるだけやってやるよ」
俺がそう答えると後藤はまた、いやらしい笑みを浮かべた。
そしてセンターサークルに2人集まり、ティップオフ。ジャンプボールで試合が始まった。ボールは後藤チームから始まった。
俺たちはディフェンスの構えを取る、しかし後藤にボールが渡った瞬間、俺はいとも簡単に横を抜かれてしまった。
「くそっ」
そして振り向いた時にはすでに後藤はシュートモーションに入っており、華麗なジャンプシュートを決めていた。
「キャー淳くん素敵〜!!」
外野から黄色い声援が飛び交う。後藤もそれに余裕を持って応えていた。同じクラスメイトのチームなんだからこちらも応援してくれてもいいのにとは思った。
それからも俺たちは経験者が多い、後藤のチームのディフェンスを崩すことができずに中々シュートは決まらず、後藤達はチームワークも抜群のパスワークを見せ、どんどん点差が出て行った。そしてハーフタイム。
今回の球技大会は10分の2クォーター制。最初の10分が終わってしまった。点差は26対6。ボロ負けである。
もう少しなんとかなると思ったがここまでとは。悪いな、柚月......
「ちょっと、ごめん、どいて〜〜!!」
こちら側のベンチは少しお通夜ムードが漂っていたがそれを振り払うかのように観客をかき分けて一人の人物が声を出して入ってくる。
「ごめん!遅れた!」
人の隙間から姿を現したのは、汗だく姿の柚月だった。
◆
「ごめん!遅れた!」
俺は体育館で試合を見ている、他のクラスの生徒の間をかき分けてどうにか試合中のベンチへたどり着くことができた。
昼、目が覚めて熱を測った時には37度1分まで熱は下がっていた。解熱剤が効いたようだ。まだ微熱だが、コンビニで高そうな栄養ドリンクを2本キメてきたため、ややハイになっている。
これがランナーズハイか!!
「柚月!お前、大丈夫なのか?」
「大丈夫!?」
白斗と桃太が心配して俺の元へ来てくれた。他のメンバーも同様に集まってくれて声をかけてくれる。その中には、綾瀬さんもいた。
「!あんた熱は!?」
「下がった!だから大丈夫!ちゃんと約束守るよ!」
「え?いや、でも......」
「大丈夫だから!」
俺は今まで出ていてくれたうちの一人のメンバーと交代し、後半から出ることになった。
その様子を見て、後藤達は何やら驚いているようだったが、すぐにいつもニヤケ面に戻った。
「それでは後半戦を始めます!」
「おいおい、今更来てももう試合決まったぜ?それにお前が来たところで戦力になんねえだろ!」
後藤が笑いながら話しかけてくる。その言葉に応援している他の生徒たちも同様に笑って、口々に俺と後藤のことを話す。
「まあ、本人が来たのはおもしろいけどな〜」
「でもあいつあれだろ?すっげえ下手なんだろ?」
「淳くんやっちゃえ〜!」
「もう勝負にならないと思うけど、淳くんのかっこいいところもっとみたいな〜!」
いや〜清々しいくらいのアウェイ感。
「柚月!」
「柚月さん!」
「あ!柚月!頑張れ!!」
それでも俺のことを心配して応援してくれる人も中にはいてくれた。東雲さんに一ノ瀬さんに紅姫。みんな心配そうな顔をしている。紅姫はそれでも明るく、応援の声を出してくれた。
そして一際心配の眼差しを送る、綾瀬さんが見守る中、後半、俺たちボールで試合は始まる。
よっしゃあ、やる気湧いてきた!!
ボールが俺の手に渡り、時計が進み始めた。
「まだあわてるような時間じゃ無い」
俺は白斗たちにそう声をかけた。若干白斗笑ってないか?まあいいや。
そして白斗にパスをして、ボールが俺に戻ってくる。目の前にはディフェンスで腰を低く落とす後藤がいる。
俺はボールを手に取った瞬間流れるような動きで後藤の右側にドライブを行う。
「なっ!?」
思わず声が漏れた。そんな感じだろう。俺のドライブは鋭く後藤の横をすり抜けた。
そしてそのままレイアップに持っていく。まさか相手の他のメンバーもそんな簡単に抜かれるとは思ってなかったのだろう。ヘルプはまったく来なかった。
そして見事に後半の先制点を奪取した。これで26対8。後18点。
「くそ、まぐれだろ!」
後藤はそう悪態をつき今度はオフェンスに回る。そして俺を抜こうとドリブルを突いた。
「っち!」
しかし、俺は後藤に簡単に抜かせるつもりはない。低く落とした気迫の籠るディフェンスで後藤の進行方向を遮る。そして後藤は抜けないことが分かったのか、味方のメンバーへパスを回した。
「あっ!」
そこへ白斗がうまいことカットしてくれた。その瞬間、俺も走り出し、速攻が成立する。相手も一人ディフェンスが戻ってきていたので2対1だ。相手は少しリング側まで下がってディフェンスをしている。ジャンプシュートはないと思っているのだろう。
しかし!甘いっ!
俺はそのまま白斗からのリターンでボールを受け取ると3ポイント手前の線で止まる。そしてそのまま自然な流れでシュートを放った。そしてそのままボールは綺麗な弧を描き、リングへ吸い込まれる。
「うそだろ!?」
後藤が後ろから声を上げる。それを筆頭に応援していた生徒たちも少しザワザワとしてきた。これで26対11。
その後も相手チームがシュートを放つがリングに嫌われ、俺たちボール。俺にボールの手にボール渡りハーフラインまでボールを運ぶ。後藤は今後こそ抜かれないように下り目でディフェンスしている。まだ後藤との距離はある。
だが、まだまだー!!
俺はハーフラインを跨いだところで停止。シュートモーションに入る。
「は?」
そしてそのまま放ったシュートは何事もなくもう一度リングを潜り、スパっと気持ちの良い音が鳴り響く。後藤も他の敵のメンバーも、味方たちでさえもアングリと口を開けている。
こういうシュートは相手の心にくるんだよね〜。NBA見て学びました。すごく気持ちがいい。まあ、こんなのは1回決まったらいい方。マグレ撃ちさ。これで26対14。
「え?嘘だろ?」
「あいつ下手だったんじゃ?」
「淳くんファイト〜!」
「やば、ちょっとカッコよく見えてきたかも.....」
観客の声援が大きくなってきた気がした。俺側にも次第に応援の声がちらほらと聞こえるようになった。
「調子に乗りやがって!!」
後藤は俺に連続で決められたのがよほど気に入らないらしい。
「後藤、悪いけど、こっからだぜ?」
俺はいつもこちらを見てにやけてくる、後藤に意趣返しのつもりで微笑み返す。それを見て後藤は余計に怒ったようだ。
俺だってストレス溜まってんだかんなー!!好き勝手暴れさせてもらうとしよう。
「おい、柚月。すげえな!でも大丈夫か、体?」
「問題ナッシングッ!!」
「なんかやけにテンション高いな......」
ああ、俺は今、ハイになっている!!誰も俺を止められないぜ!!
「くそがっ!」
「おっ?」
ここで後藤にボールが渡ってから、俺を左から抜こうとした。俺はそのまま左にスライドしようとしたが、敵チームの他のやつにぶつかる。これはスクリーンだ。俺の進行方向を後藤の味方が壁になる形で邪魔をするのだ。そしてその間に後藤は俺を置いて左から抜け出る。
「ふん!」
そしてそのまま後藤は慣れた手付きでレイアップに持っていく。こちらの味方チームではその勢いを止められない。
「だがしかしっ!!」
俺は後ろからスクリーンを抜けた後、後藤を追いかけて、後藤の手から離れたボールを後ろから弾き飛ばした。
「なんだと!?」
ボールはそのままボードに当たり、桃太が確保する。
「甘い!甘いぞ!後藤!!」
すでに俺のテンションは最高潮。ボルテージも上がっているぜ!
そしてそのままパスを味方でうまく回し、白斗が得点した。
これで26対16。ついに10点差に追いついた。ここまでくると周りの雰囲気は一変してくる。
「時東!やるじゃねえか!」
「すげえなアイツ!」
「かっこいい......」
「時東って変な噂多いけどかっこいいよね!」
「ファイト〜!」
「キャーーーーー柚月さんかっこいいです!!!!」
「ゆ、ゆかり?」
「っしゃあ、そのままいけー!柚月ー!!」
残り6分。十分に追いつけそうだ!
俺は尋常では無い汗を流しながら、ディフェンスに戻った。
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