第39話:約束「どうしよう......」
「へん、今日のあいつの泣きっ面が目に浮かぶぜ」
「とは言ってもお前とあいつ、トーナメント表見たら準決まで当たらねえじゃねえか。あいつお前とあ当たるまでに負けるんじゃねえか?」
「確かにね、あの下手くそっぷりったら......ぷくくく」
「その場合、賭けはどうなるんだ?」
朝、生徒たちは体育館に集められていた。学校指定の青いジャージを着た男子生徒4人組が多くの生徒が話している中、同じように駄弁っていた。その中心にいる人物は理事長の息子である、荻野。そして柚月に賭け勝負を挑んだ後藤であった。その横には、メガネをかけた
「まあ、その場合は先に負けた方の負けだな。直接潰せねえのは残念だが、賭けは俺の勝ち。これで綾瀬さんとも時東の野郎は縁が切れるって訳だ。俺たちのチームが1回戦負けはないだろうからな」
「ま、あいつの無様な勇姿を見届けてやりたいところだが、生憎、俺と省吾はサッカーだからな。精々、透と一緒にあいつが負け犬になる様子を楽しんでくれ」
肩を竦めながら荻野は後藤に言い放った。
最近、柚月は調子に乗っていて、非常に気に入らなかった。
気に入らないという理由は、荻野自身は前から遊んでいたおもちゃが気づけば持て囃されているということを不快に感じたからだ。ただ、なんとなくそれだけ。
そう感じていた荻野はどこかで柚月に上下関係をしっかり教えておいてやろうと思っていた。
しかし、その役目は、後藤に譲ることにした。なぜなら後藤も自分と同じように柚月が気に入らないやつの一人だからだ。後藤の場合は至極単純に思い人を取られたから(実際にはとられていない)ではあるが。
「はい、静かに!これから開会式を始めます!まず、生徒指導の宮本先生からお話があります!」
前の壇上で先生がマイクを使って、体育館に並ぶ生徒たちに向かって話を聞くように促した。これにより球技大会が始まろうとしていた。
(そういえば、あいつの姿が見えねえな......?どこいった?)
後藤は生徒指導の先生の話を聞き流しながら憎むべき相手、柚月の姿を探したが、多くの生徒が集まる体育館では見つけることができなかった。
◆
「ごほっごほっ......」
あり?体がだるいぞ......?そして頭が痛い。今何時だ......?あ〜まあいいや、もう少し寝よう......しんどい......
コンコン。
ん?誰だ?こんな時間に?もう少し寝かせてくれ。寒い......
「お兄ちゃん?珍しく起きてこないと思ったらまだ寝てるの!?もう、学校行く時間だよ?寝坊だよ!!」
「ん?う〜ん、みず......き?」
「え?お兄ちゃんどうしたの!?」
水月が俺の様子に疑問を持ち、慌てて近づいてくるのがわかった。そして俺が被っている布団を軽く引き剥がして、そのまま俺のおでこに手を付ける。
あ、つめたくて気持ちいい......
「うわ!ちょっと熱くない?熱あるじゃん!体温計持ってくるから待ってて!」
その後、俺は水月が持ってきた体温計による熱を測ることになった。測った結果、やはりというべきか熱があった。
体温は38度1分。幸いと言うべきかそこまで高熱ではなかった。今日1日安静にしていれば、すぐに治るだろう。
「じゃあ、今日は学校休んでしっかり寝とくんだよ!おかゆとお薬。それにポカリもここおいておくから!私はもう行くからね!」
水月はそう言うと俺の部屋を出て行った。そしてすぐに玄関が開けられる音とともに「行ってきます」という声が下から聞こえた。俺のためにわざわざ遅刻ぎりぎりまでおかゆを作ってくれたらしい。つくづくできた妹だぜ......
「あ〜。久しぶりに風邪ひいたかも......しんどい。もうちょい寝よう......」
あれ?なんだか忘れている気が......ダメだボーッとする。寝よう。おかゆは後で食べよ......
俺はそのままもう一度意識を手放した。
────
プルルルルル、プルルルル、プルルルル
「っ!」
突然鳴り響いた携帯の音に目が覚めた。あー頭痛い。そう言えば熱あったんだっけ。誰だよ寝てたのに......
俺は既に鳴り止んだ携帯電話を手に取り、ロックをスライドして解除した。時刻は9時40分と表示されている。水月が家を出て行ったのが恐らく、8時過ぎごろ。1時間半ほどあれから寝ていたことになる。
その間に不在着信が6件、溜まっていた。先ほどの着信で目を覚ましたがそれまでに何度か掛けてきていたようだ。しんどくて気づかなかったのだろう。
不在着信の相手は、白斗、それに綾瀬さんからもきていた。
なんだ?学校休んだから心配してくれてんのか?それにしては熱烈なコールを受けてるな。まだ、少し体はしんどいが一応掛けなおそう。
俺はそのまま着信履歴から白斗の番号へ折り返しコールした。そして呼び出しの電子音が聞こえて3コールほど。
『も、もしもし!?』
『ごほっ、もしもし、白斗か?すまん、どうした?』
『どうしたって!お前学校は!?なんで来てないの!?』
『え?学校?悪い、今日熱出てさ。休みだって担任から聞いてない?それに今って授業の時間じゃ......?』
俺から掛けておいてなんだが、今授業中のはずだ。なんで電話出れたんだ?
しかし、俺の疑問はすぐに解消されることになる。
『はあ!?お前、今日球技大会!ってまじか!熱!?』
球技大会......球技大会!?
『あああああっ!?』
くそ!急に大声出したから頭痛い......
『忘れてたのかよ!!』
『悪い......熱にうなされて完全に忘れてた......どうしよう......』
『と、とりあえず、一試合目は後20分で始まるから、誰か臨時で出てもらうことにするわ!』
せっかく、この日のために練習したのにな......ってあれ?なんで練習したんだっけ?ってそうだ!賭け!!綾瀬さん!
『こ、この場合賭けってどうなるんだ?ごほっ』
俺は焦りを隠しきれずに白斗に聞く。体温もそれに応じて上がってきているように感じる。
『それは......不戦敗かも......さっき後藤のやつが大声で柚月が逃げてたら俺の勝ちだって騒いでたし、それに綾瀬さんともこれで付き合えるみたいなこと周りの連中に巻き込んで話してたな。噂も結構広がってるし、もしかしたら公開告白的なことするかもしれんな、あいつ......』
『ま、まじかよ。でも綾瀬さんは嫌だって断るだろ?』
『それがな......面倒なことにそんな単純なことじゃなんだよな......後藤ってああ見えて結構人気あるからな......一部の女子からは結構好かれてるんだぜ。あんなヤンキーみたいな格好して余計に株が上がったと言うか......』
あ、あれで株が上がるのか......女子はわからん......俺は変な噂ばかりだと言うのに......
『それでその女子たちからはあんまり綾瀬さんのことよく思われてないんだよな。あの容姿もあって妬みもあるみたいで。だから、付き合うならまだしも、公開告白で断るなんてことになれば......』
『い、いじめられる?』
『そうなる可能性は高いかも知れん』
まじか。頭痛いのにまた一段と痛くなった。ヤバイ、正常に物事を考えられん。
『まあ、いざとなればどうにかってあ、ちょっ!』
『ごほ、白斗?』
なんだ?急に声が聞こえなくなったぞ?
『ちょっと、あんた、熱あるの!!?大丈夫?』
そして次に聞こえてきた声は白斗のものではない、高いアルトボイスの声だった。
『綾瀬さん!?ごめん、俺は大丈夫......ごほっ』
『大丈夫じゃないじゃない!......それに話は聞いてたわ!別にあんたは気にしなくてもいいわよ。どうせ告白なんかされても断るし』
『でもそれじゃ綾瀬さんいじめられるかも知れないだろ!?』
『別にいいって言ってんの!今までもちょくちょく嫌がらせみたいなことあったし。そんなこと一々気にしてらんないわよ。それより、あんた無理しないでちゃんと休んで風邪治しなさい!』
綾瀬さんは自分のことより俺のことを心配してくれている。だけど、この綾瀬さんは少し強がっているようにも感じた。
『ごほ、ごめんありがとう。綾瀬さん、もう一度白斗に変わってくれる?』
『......分かったわ』
『もしもし』
『白斗、悪い、どうにか後藤との試合まで勝ち進んでくれ。順調にいけば準決勝だから昼からだろ?』
『そうだけどって、お前まさかくるつもりか?』
『このまま約束を破るわけにはいかないしな。試合始まるまでに薬飲んで寝て気合いで治すから!それまで頼んだ!』
『......分かったよ!任せとけ!でも無理だけはするなよ!』
『後、綾瀬さんには黙っといて!心配かけたくないし......』
『また、貸しが増えるな?』
電話の向こうで白斗が笑ったのが分かった。どうやら黙っててくれるらしい。仕方ない。今度何か奢らせていただこう。
俺は電話を切ると、興奮してさらに痛くなった頭を抱え、水月が作ったおかゆを無理やりでも胃に詰め込んだ。そして風邪薬に解熱剤を飲み、ポカリをがぶ飲みした。これで汗かきまくって熱を下げる!
俺は汗のかいた服を脱ぎ、厚着に着替えてからそのまま布団に入り、眠りに落ちた。これでどうにか下がってくれ。頼む。
そう祈るしかなかった。
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