第38話:意図「やっぱりなんでもねえ!」
「こ、これは...... !!!」
俺の手に収められた赤色の小綺麗に畳まれた一枚の布を両手を使って広げてみると、あら不思議。少し、透け感のあるレース生地に真ん中には小さなリボン。そこには紛うことなき、女性用の下着があるではありませんか。
ななな、なんてハレンチな!けしからん!!!今時の女子高生はこんな下着を!?
俺は初めてまじまじと見る女性の下着につい、鼻息が荒くなってしまった。いつも家で目にする、家族のものとは興奮度は段違いである。
そしてその興奮作用のせいか分からないが俺の目の前には二つの羽の生えた何かが舞い降り、こちらを見て問いかけてくるのであった。
『エロいだろ?黙ってそのままポケットに入れちまえよ』
『だめよ!ゆづき!!エロくて欲しいのはわかるけど、ちゃんと持ち主に許可を得なきゃ!!』
『うるせぇ!!これはなぁ!人類の希望なんだ!!』
『ダメ!!人類の希望なら尚更!!盗むなんて最低な行為よ!!そこは土下座でもなんでもして、お願いするべきよ!!』
一方は悪魔で、もう一方は天使。二つの幻想がパンツをどうするかで言い争っている。しかし、どちらもパンツをもらう前提の話である。俺はもうこのパンツに魅了されていた。
「はっ!?」
『『わああああああああ〜〜〜〜』』
待て待て待て。男、柚月。冷静になって落ち着け。危ないところだった。どうにか天使と悪魔を脳内から追い出すことに成功した。こんなところを紅姫に見られてしまえば、俺は終わる。文字通り、終わる。
「はあ〜。わりい、お待たせ......!?」
「あ......」
終わった。どうやら神は俺を見放したようだった。
「......」
「......」
しかし、俺も男。覚悟を決めようじゃないか。男ならば言い訳はしまい。
「すみません、このパンツください」
ミシャという音と共に何かが俺の顔面に突き刺さった。
◆
「「ごめんなさい......」」
俺は今は黄夜と一緒に紅姫に怒られている。先ほどから続く、綺麗な土下座スタイルで。
俺の顔面はもう腫れすぎて前が見えないくらいになってると思う。視界がぼやけます。
なぜ黄夜も一緒に怒られているかというとこの発端は黄夜によるものだからだ。
紅姫が食器を持って台所へ向かった後、俺も手伝おうとしたが、黄夜に呼び止められた。
「兄ちゃん、今日はありがとな......それにしてもまさか、兄ちゃんが姉ちゃんの知り合いだったとはな〜。あんな楽しそうな姉ちゃん久しぶりに見たかも」
「そうなのか?」
「普段バイトばっかりで友達と遊んでるところあんまり見たことないからね。だから兄ちゃんにはお礼しないと」
黄夜は寝ていた布団から
「はい、兄ちゃん!目瞑って、手出して!これ、今日のお礼!あ、俺、トイレ行ってくるから!ゆっくり堪能しててよ!」
そう言われ、黄夜の指示通り従うと俺のに手は何やら布のようなものが詰められていた。これが例の布だったわけである。
「ほんっとうに反省してんだろぉな?」
先ほどまで羞恥故か、怒り故か顔を真っ赤に染め上げていた紅姫の耳は未だほんのり赤が残っていた。
「反省してます.......許してください......」
「姉ちゃん、そろそろしんどい。寝かせて」
この野郎!!こいつ、俺を置いて逃げるつもりだな!?
「っち!黄夜、あんたはいい。さっさと布団に入んな」
「あんがと、姉ちゃん!じゃあ、兄ちゃん頑張って!!」
黄夜は土下座スタイルを解除するとそのまま立ち上がり、布団のところまで歩いて行った。その際、こちらに顔だけ一瞬振り返り、笑顔とピースサインをしたことを俺は見逃さなかった。
「て、てめっ!」
「おい」
「は、はい!」
黄夜に物申そうとしたとき、冷たい視線が降り注ぐ。俺が土下座スタイルを崩してしまったからだ。
「はあ......今日は、もういいよ。遅くなったし、さ、さっきのことはもういいから帰んな!」
「......!!」
しかし、そこから来るのは刺々しい罵倒ではなかった。若干の照れを混ぜ合わせながら、紅姫は俺を許してくれるのであった。その顔に俺は何も言えなくなってしまった。
「何見てんだよ?」
「い、いや、悪い。帰るわ」
「?」
俺はそう言って荷物を手に取り、立ち上がった。そして布団で横になる黄夜に一言声を掛け、狭山家を出るのであった。
「ふぅ」
すっかり夜の空には星たちが瞬いていた。時刻は21時前。さて、ここからは荷物もあるし、ゆっくりと歩いて走って帰るとするかな。そうしないと顔の火照りを冷ませそうになかった。
そうして歩き出そうとした時、後ろの俺が出たはずのドアがもう一度開いた。
「ん?」
そこには先ほど一方的にお別れしたはずの紅姫が出てきたのであった。
まさか俺をお見送り?あ、いや、まだ怒りが収まってないとか......?
「今日は、あんがと」
「は、え?」
俺はまさかお礼がくるとは思っておらず、間抜けな声を出してしまった。
「ふっ......なんだよその声!黄夜のことだよ!」
紅姫は少し笑いを我慢しながらお礼の理由について話してくれた。
「柚月のおかげで助かった。だから、ありがとう」
紅姫は丁寧なお辞儀で再度、お礼を言った。
真摯な態度でお礼を言う、紅姫を他所に俺は、「ギャルに頭を下げさせている。なんだか悪いことをしている気分......」と俺は脳内で訳わからないことを考えていた。
そして頭を振り、邪念を捨て去る。
「いいよ、気にしなくて!元はと言えば、俺が黄夜にバスケ教えてもらってたことがそもそもの原因だし」
「そ......あんた、優しいんだな」
紅姫は顔を上げると、目線を逸らしながらそう言った。
「......」
「......」
再び気まづい無言が流れる。さっきのこともあって話しづらい雰囲気だ。
は、早よ帰りたい......
「あ、あのさっ!」
「?」
紅姫は何か言いたそうに、だけど言いづらそうにモジモジしている。なんだろうか?
「そ、そんなにあたしのパンツ見たいのか?」
「......」
はい?
パンツ見たいかって?そんなものはYESだ。ええ、是非とも見たいですとも。見せてくれる?
しかし、そうは答えられない。というか質問の意図はなんだ?
「っ!やっぱりなんでもねえ!おやすみっ!」
俺がどう答えるか解答に迷って無言でいると、紅姫もその無言に耐えられなくなったようだった。バタンと勢いよく閉められた扉を見つめる俺は未だ、その質問の意味を考えていた。
◆
あれから、学校もサボらずくるようになった、紅姫とはちょくちょく廊下で顔を見合わせることとなった。学校ではあまり関わらないかと言えばそうでもなく、よく話しかけてくる。その度に白斗や桃太がいじってくるのはもちろんのこと、他の生徒からも好奇な目線を向けられるのであった。
そしてなぜか、紅姫のクラスメイトのギャル友達?からもいじられる始末。俺はというとバイトに明け暮れている紅姫にもクラスに友達がいたことに安心していた。紅姫はその度に文句垂れていたが。
さらにはそんな様子をよく見かけるようになったからか、反対の隣のクラスからも一ノ瀬さんと東雲さんがセットで話しかけてくるようになった。
そしてクラスでは隣にいる綾瀬さんはもちろんのこと、なぜか水原さんからもよく話しかけられることが増えたように思う。
そうしたことで男子からの殺意をより感じるようになった。
そして、「はやく後藤に球技大会でぶちのめされろ」なんて言う声もよく聞こえてきた。明らかに俺は女子より、男子に嫌われているようである。
その最たる筆頭メンバーは、やはりというべきか後藤が属する荻野たちからであることは視線を通して感じた。
そんな目まぐるしく変わっていく人間関係に俺は多少の疲れを感じずにはいられないながらもバスケの練習は怠らなかった。
そして時間は過ぎ去り、明日は球技大会である。
日曜日はさすがに一人で練習しまくったが、月曜日からは黄夜がまた練習を見にきてくれた。俺の実力はというと、練習した成果か、プロの動画を見たおかげが素人が1週間練習したものとは思えないほどの動きとなっていた。
体力は元々ある。そこは心配していない。問題はシュート能力やハンドリングと言った技術に関する部分。
これも黄夜の予想を大きく超えて、もはやミニバスとは言え、選抜に選ばれる黄夜に1対1では負けないようになっていた。身長差を考慮してもだ。
黄夜は始めたばかりの俺に抜かれたことをかなり悔しがていたが、すぐに超えてやると息巻いていた。
そんな今の俺のステータスはこうである。
名前:
年齢:16歳
基礎能力
筋力:372
体力:401
精神:373
知能:332
器用:434
運 :26
エクストラ
ステータス:LV.4
┗ スキル成長補正:LV.3
料理 :LV.5
┗ 焼きそば職人:LV.3
裁縫 :LV.2
掃除 :LV.3
武道 :LV.5
┣ 弓道 :LV.5
┣ 空手 :LV.4
┣ 柔道 :LV.4
┣ 剣道 :LV.4
┣ 合気道:LV.5
┗ 居合道:LV.4
音楽 :LV.3
┗ ピアノ:LV.5
球技
┗ バスケ:LV.6
称号
ロリコン
シスコン
パンツハンター
バスケの上がり具合が異常である。1週間でこのレベル。これがどのくらいかというと以前、後藤のステータスを見た時に確認したステータスと比較してみよう。
奴は中学の時、バスケをやっていた元バスケ部員だ。体育の時間、俺が見てもうまいなあと感じているレベルにはうまかった。
その後藤のバスケのレベルは4であった。
そして俺はその後藤を大きく上回るLV.6。これは......勝てるんじゃないだろうか。
もちろん、あれから体育でバスケもあった。だが俺は今の実力を秘密にするために試合には出ず、シュートの練習ばかりをしていた。だから、俺の実力はあの賭けが始まった時のものと思われていることだろう。
さて、いろんな人から応援もしてもらっていることだし、明日は十分に見返させて頂くことにしよう。
俺は少しワクワクする心を押さえながら、電気を消し、就寝についた。
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