第35話:特訓その2「先生......バスケがしたいです......」
「お兄ちゃん何泣いてんの?」
「ダメだわ。最近涙脆くって......」
「は、はあ?ああ、漫画読んでるのね。あ、私その漫画知ってる!」
「まあ、有名なやつだからな」
「終わったら貸してよ!」
「ダメダメ!これは球技大会まで何度でも読み直すんだから!」
「なんでよ!ケチ!」
とまあ、こんなやりとりを夜に妹とした訳ですよ。黄夜に教えてもらったあの後、俺は中古の漫画が売っているショップにチャリを漕いだね。形から入るとはまさにこのこと。全巻購入させていただきました。
いやー、すばらしい。なぜ今までこれを読んでこなかったのか。俺は今無性にバスケがしたい。したくてたまらないのだ。明日も学校ではあるし、もう夜も11時を超えている。こんな時間に外でダムダムなど近所迷惑もいいところだ。しかし、やりたい。
「そうか!」
そこで俺は思いつく、朝超早起きしてあの公園に行けばいいのだ。そして早朝から練習を行う!そうすれば完璧だ!もしかしたら晴子ちゃんもきてくれるかもしれない!!
「ふう」
とまあ、明日の計画をたて、一息。そして俺は改めて自分のステータスを確認した。この
「!!」
そして俺は自分のステータスを確認して驚き、戦いた。
名前:時東柚月
年齢:16歳
基礎能力
筋力:359
体力:376
精神:336
知能:332
器用:416
運 :25
エクストラ
ステータス:LV.4
┗ スキル成長補正:LV.3
料理 :LV.5
┗ 焼きそば職人:LV.3
裁縫 :LV.2
掃除 :LV.3
武道 :LV.5
┣ 弓道 :LV.5
┣ 空手 :LV.4
┣ 柔道 :LV.4
┣ 剣道 :LV.4
┣ 合気道:LV.5
┗ 居合道:LV.4
音楽 :LV.3
┗ ピアノ:LV.3
球技
┗ バスケ:LV.2
バスケ上がってんじゃん!!と思ったのも束の間、本当に俺が驚いたのはそこではない。スキルをよく見てもらおう。ステータスのLV.が上がっている。そしてさらにその下位に謎のスキルが増えているではありませんか!!
「スキル成長補正」いやもうね、見るからに素晴らしそう。そうとしか表現できませんわ。こんなん、絶対有能スキルやん。こいつはきっと俺のスキルのレベルをより効率よくあげてくれるものに違いないと思った。
俺は明日が来ることをウキウキしながら布団に入った。
「......」
興奮のあまり寝付けない。とそこで俺は黄夜も言っていた通り、プロの動画を某動画サイトで見ることにした。アメリカのプロ集団のものだ。
「やべえ!!」
結局俺は、できもしないそのスーパープレイ集に更なる興奮を覚え、朝まで完全に目が冴えた状態だった。
翌朝。それでも俺は4時に体を起こし、筋トレと朝の学習を1時間ほど行う。いつものメニューにバスケを入れれば、その他のものは前倒しになることは必須。いつもより1時間早くの行動だ。
そして5時を迎え、俺は昨日、黄夜と練習した公園に向かい、基礎から練習を始めるのであった。
◆
「ふぁ......」
「なんだ、柚月、眠そうだな。夜更かしでもしたのか?珍しい」
「確かに珍しいね!柚月って意外と授業も寝たりしないで真面目聞いてるのに今日はずっと眠そうだったね!」
「まあな......ふぁぁ......」
「あんたのことだから、また筋トレでもしてたんじゃない?」
俺は今、昼休みに自席で購買で買ったパンを食べている。周りにいるのは、白斗に桃太。そしてなぜか綾瀬さん。あれから自席で食べる時は綾瀬さんもなぜかご一緒にしている。
そしてどう言うわけか、綾瀬さんには俺が筋トレバカに見えているらしい。そんなのあの送り届けた時に軽くしか話してたつもりはなかったんだけど、よく覚えているのなと感心してしまった。
俺は綾瀬さんの非常に美味しそうなお弁当を見つめる。見ただけでわかる。このお弁当は超が着くほど高級だと。それでも卵焼きなど家庭的なものも入っているがそのフォルムはなんというか美しい。黄金に見える。それに加えてローストビーフなど一般の家庭のお弁当箱の中に入ることのない食材が豪華絢爛と言わんばかりに入っている。
「?何よ?」
「いや、美味しそうだなって。お母さんの手作り?」
「違うけど......」
綾瀬さんはどこか気まずいと言った表情を見せた。言いたくないことでもあるのだろうか。まあ、この話題はやめておこう。
「おいおい、何余裕こいて綾瀬さんとしゃべってんだ?練習しなくていいのか、時東?」
と綾瀬さんと話しているところに絡んでくるのは後藤であった。いつも一緒にいる、荻野は自席に座っており、この場にはいなかったが後藤とは別のその取り巻きの一人でもある、潮田が一緒だった。潮田はメガネをかけていてひょろ長い。荻野班のインテリ担当のようだ。
「くふふ、そういってやるな後藤。前の体育でも見たがコイツはサッカーもバスケも死ぬほど下手なんだ。元バスケ部に君にはどう足掻いたって勝てやしないさ」
「ハハハハハ、まあそうか!綾瀬さんもこんな情けない奴とは一緒にいない方がいいぜ?」
「ハア?私が誰といようと勝手でしょ!」
綾瀬さんはピシャリと氷点下まで下がりそうな冷たい声で後藤に反論する。しかし、後藤はそんな綾瀬さんの明確な拒絶に対して気付いてないのか、俺に向かって話を続ける。
「ふん、どうせ時東が何か弱みを握って綾瀬さんを無理やり一緒に居させてるんだろ?」
後藤はわざと大きな声で俺にそういい放つ。今はお昼休み。クラスメイトもみんなこっちを見ており、わざわざそのクラスメイトに聞こえるように言ったようだった。
「え?綾瀬さん、脅されてるの?かわいそう......」
「いやー、でも流石にそれはないんじゃない?」
「でも変な噂多いし......」
クラスの反応は多種多様。まあ、後藤のことを信じている奴が大半かな?クラス内カーストでも後藤>俺なわけだしね。
「おい!それはないんじゃないか?」
「そうだよ!」
しかし、そこに白斗と桃太が反論してくれる。なんていい奴らなんだ......
「だから、みんな聞いてくれ!俺はコイツと賭をするんだ!!」
しかし、後藤はそんな白斗と桃太を手で制し、黙らせる。そして後藤の一挙一動に注目が集まる。なんだ、こいつ。演説慣れしてやがるっ!!
「球技大会、俺のチームとコイツのチームで勝負して勝った方が言うことを聞くというものだ!俺はこの賭に勝って、綾瀬さんを自由にするっ!!」
クラスはその一言でざわつき、今日の昼休みは幕を閉じた。
◆
「はあ......なんでこんなことになるかね......」
「兄ちゃん、ため息なんかついてどうしたんだ?」
「ん?いやーまあ?」
「なんかよくわかんねえけど元気出せよ!ほら今日も練習すんぞ!!」
「おう!よろしくお願いします!先生!!」
放課後、俺は昨日、黄夜と約束した通りまた公園で練習を見てもらっていた。黄夜は俺の謎の上達ぶりにかなり驚いていた。昨日までドリブルすら覚束なく、レイアップすらできなかった俺が、ある程度できるようになっている。1日での異常な成長に俺でさえも驚愕を禁じ得ない。
「スキル成長補正」こいつは素晴らしすぎる。こいつは1日で俺を鈍臭いヘタクソ野郎から素人に毛が生えたレベルまで押し上げてくれた。朝練をした効果も大きいと言っていいだろう。
昼休み俺と後藤との賭がクラス中に広がってしまった。こうなってしまった以上、俺は賭に勝つしかないのだ。元々勝つつもりでやる気ではあったが、俄然燃えてきた。今に見てろよ、このヤロー。
「こら!ボーッとしてないで練習するぞ!兄ちゃん!!」
「はい!先生!!」
俺は先生にどの程度できるようになったか見てもらった後、本格的に先生の組んだメニューをこなすことにした。驚くことに先生は俺専用にメニューを組み上げてきたのだ。何者だ、この少年。
そのどれも始めはハードなフットワークによるものだった。
「はあはあはあ......」
それから1時間と30分。俺は先生が横でシュート練習をする中、ひたすらシャトルランのように公園で短い距離を何度も往復で走らされ、その後はディフェンスの基本姿勢や足を動かす練習。数多の基本動作練習。これの繰り返しだった。鬼畜すぎない?このちびっこ。フットワークしかしてないぜ?もう汗だく。
うう......黄夜先生......バスケがしたいです......
「兄ちゃん、案外根性あるな!俺でもこんなメニュー逃げ出しちまうぞ」
「おい」
「まあ、冗談はさておき、レイアップでも練習しようか」
ここでようやく先生からお許しが出て、基本シュートの一つであるレイアップを練習する。既にほぼできるようにはなっているが、何分練習を始めてまだ1日。反復練習は必要なのだ。ちなみにレイアップとはボールを持ってそのままリングへ向かって短い距離でシュートを行うことである。
「ほおーやっぱ兄ちゃん、やるなあ。昨日はてんでダメだったのに、もうここまでになるとは!思ったよりもセンスあるのかもな!!」
「ありがとうございます!先生!!」
そうやって黄夜に練習を見てもらい、日も暮れてきたところで今日は解散となった。黄夜先生には自宅でもできるハンドリングを方法を教えてもらった。まじで教えるのうますぎない?ほんとに小学生?
黄夜がいなくなった公園。小学生は帰るのに妥当な時間だとは思うが、俺は高校生なのでまだまだ練習していくことにした。再び、黄夜に教えてもらった基本練習を行い、膝に手をついてリングを見上げるとふと脳裏に昨日、夜中に見た動画の光景が思い浮かぶ。
それは、アメリカのスーパースターたちがカッコいい派手なダンクなどをしているものだ。俺の今の身長は175cm。正直に言ってダンクなどできる身長ではない。しかし、今の俺のこの筋力ステータスを以ってしてならば、もしかして......
「いけるか?」
俺はボールを置き、軽くその場で数回、跳ねてから今まで出したことのない、本気の跳躍をリングに向かって行った。
「うお!?」
自分でもびっくり。飛びすぎた。リングを掴みに行ったが、伸ばした手は余裕でリングを超えて、肘の辺りまでリングに来ている。そしてそのまま、俺はリングを掴み損ね、地面に墜落。
「っつうー......」
背中を思いっきり打ち付けるのだった。球技大会前に怪我でもしたら洒落にならん。そう思い、今日はそこで練習を引きあげて家に帰った。
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