第34話:特訓「タダより怖いものはないって姉ちゃん言ってた」
さて俺は球技全般が苦手である。今度球技大会で出場することになったバスケはもちろんのこと、サッカー、野球、バレー、テニス、バトミントンに至るまでほぼ全てが苦手だ。唯一まともにできると思っていた卓球でさえ、この前荻野に負けてから自信をなくしてしまっている。
俺がなぜここまで球技系統が苦手かは中学の頃に遡る。当時からチビで暗くて隠キャだった俺は体育の時間、よく陽キャに馬鹿にされたものだ。挙げ句の果てには女子の前で大恥を欠かされることもあった。これが後にトラウマとなり、苦手意識を植え付けていることに他ならない。
それはステータスを手に入れた今でも克服できていないトラウマの一つなのかもしれない。
そんな俺は今日も、大観衆の前で大恥を欠いてしまった。しかし、昔に比べてどうってことない。やはり、今は精神のステータスが安定をもたらしていることが大きい。ならば過去のものもと思いたいが、過去に経験した苦い経験までこのステータスは補ってはくれないのであった。
だけど、今日は俺は決心する。いつまでもこのトラウマに悩まされるのではなく克服しようではないかと。他のことはできたんだ。球技だってできるはず。そう思い、放課後家に帰った俺は、すぐにスポーツショップへ向かい、ボールを購入するのであった。
俺は基本的に形から入る人間である。
いつもあまりお金を使わない俺は、お正月のお年玉とか含めてまあまあの貯金がある。親にお小遣いをもらって生きているため偉そうなことも言えないので、今度また機会があれば、バイトもしてみようと思った。これもいい、ステータスの向上材料になると思う。
話は戻るが、形から入る、つまり今回バスケをする上で必要なものを一式買い揃えてやった。
初心者のくせに生意気だが、こればかりは俺のやる気につながるので仕方ないと思って欲しい。
バスケを練習する場所には最適な公園がある。そこはバスケットリングも複数置いてあって誰でも無料で使うことができるのだ。
また、スポーツショップから家に帰ってすぐに着替えて公園へ向けて出発した。今まさに俺はバスケ少年だ。
公園にはリングが4つ設置されている。そのうち3つはそれぞれの大人数のグループで使われていた。ちょうど1つ空いているのでそこを使わせてもらおう。
リングにの近くまできた俺がしゃがみ込み、買ったばかりのスニーカーの紐をギュッと強く結んだ。思わず頬が綻ぶ。
やはり新しいものというのはいいものだ。そのスニーカーはバスケットシューズとしても使われており、スニーカー愛好家からもかなりの人気の種類のシューズだった。伊達にバスケの神様が履いていない。俺も神なった気分だ。ごめんなさい、調子に乗りました。
靴紐を結び終えた俺はとりあえず、シュート練習からすることにした。
ボールを手に取り、リングへ向かって放る。しかし、ボールは弧を描きながらもリングにかすりもしない。
他のコートで練習をしていた人たちが休憩のためかこちら見ている。そしてその俺の様子を見てクスクスと笑っていた。
しかし、俺のメンタルは強め。その程度効かぬ。
結局、笑われながらもシュートを1時間打ち続けたがたまにマグレで入るくらいで一向に上達した気がしなかった。
俺は休憩がてらにスポーツドリンクを買って、自分のステータスを確認する。
名前:
年齢:16歳
基礎能力
筋力:343
体力:356
精神:366
知能:302
器用:408
運 :25
エクストラ
ステータス:LV.3
料理 :LV.5
┗ 焼きそば職人:LV.3
裁縫 :LV.2
掃除 :LV.3
武道 :LV.5
┣ 弓道 :LV.5
┣ 空手 :LV.4
┣ 柔道 :LV.4
┣ 剣道 :LV.4
┣ 合気道:LV.5
┗ 居合道:LV.4
音楽 :LV.3
┗ ピアノ:LV.3
球技
┗ バスケ:LV.1
称号
ロリコン
シスコン
「ふう......」
ここまでしてようやくLV.1だ。ここまでってまだ大してやってないけども。だけどこれ以上なぜかLVが上がる気がしない。どうも俺の中で想像するシュートと俺がしているシュートが違っている気がしてならない。違ったやり方でやってもそれ以上は上手くならないだろう。そう思った。
「よし」
そうは言っても練習あるのみ!俺に残された時間が少ないのだ。
来週にはもう例の球技大会がやってくる。これから毎日とりあえずは、こうやって暗くなるまで練習しよう。
そうしてまた俺は笑われながらもシュートをひたすら打っていった。
またそれから20分ほどたった頃だろうか。
「うわ、兄ちゃん下手だな」
小学校高学年くらいの男の子に声をかけられた。一人で立ってこちらを見ている男の子は短髪で少し髪の毛が茶色っぽく、キャップを横向きに被ってヤンチャそうな印象を受けた。
「えっと......何か用かな?」
「いやー、他のコート空いてなくてさ。ここ兄ちゃんだけだから、俺も一緒に練習させてもらってもいいかなと思ってさ!」
「え?あ、はい。どうぞ」
「さんきゅー!じゃあ俺もここで練習させてもらうな!」
それからまた、俺は少年と相席状態でシュートを打ち続けた。少年のシュートは綺麗だった。シュートだけでなくドリブルもうまく、コートに仮想の敵を置いて避けるようにスムーズにドリブルしている。
俺はそんな様子をドリンクを飲みながら見ていた。自分と少年の違いを見比べようと思ったのだが......分からん。はあ、仕方ない。俺は自販機でドリンクをもう一本買って少年に近づいた。
「おーい」
「ん?兄ちゃん?なんだ?」
少年は俺の声に反応すると汗だくでこちらに振り向いた。
「これ。あげる」
俺は先ほど自販機で買ったスポーツドリンクを少年に渡す。
しかし、自分で言っておいてなんだが、もう少し言い方どうにかならなかったかね。これでは不審者そのものです。知らない人からものを貰ったらいけないぞ?渡してる俺が言うのもなんだけど。
「おお!兄ちゃんサンキュ!あ、でも......俺知らない人から何か貰っちゃいけないって言われてるんだった。さては、兄ちゃんさては、後で多額の金を要求するつもりだな?急に何かくれる人はそういう悪い人だって姉ちゃん言ってた!!」
「いやいや、誤解だって。お金なんて取らないから!頑張ってるところ見たからタダであげようと思って!」
「......でもタダより怖いものはないって姉ちゃん言ってた」
君のお姉さんはすごいしっかりしてるのな。それを守る君も。
「まあ、そんなこと言わずに受け取ってよ。それよりさ、少し困ってることあるんだけどいいかな?」
「あ、やっぱり何か請求するつもりだ!!体か!?体が目的か!?」
「待て待て!!どこでそんなセリフ覚えた!それに声が大きい!」
俺は慌てて少年に詰め寄り、小さい声で話すように指示する。いや、これじゃあ、本当に何かしようとしてみたいだ。誤解です。
「えっと、実は来週の球技大会に向けてバスケの練習してるんだけど中々上達しなくってさ」
「ああー。兄ちゃん下手くそだもんな」
ぐっ。子供は正直だな。痛いところをズバズバと遠慮なく言ってくる。
「ま、まあな......だからさ、君見ててすごく上手だったからよかったら教えてくれないかな?」
「俺がー?まあいいよ!ジュースもらったしー」
少年は俺が渡したジュースを開けてグビッと飲みながら言う。
「ほんと!?ありがとう!えっと名前なんて言うの?」
「俺の名前?俺の名前は
「俺は柚月ね。よろしく、黄夜!」
「俺すぱるただからな!しっかり付いてくるんだぞ!先生と呼んでもいいぞ!」
黄夜はそう言うと胸を張り、えっへんというポーズを取った。少し小生意気ではあるが可愛げのある少年だ。
そんなこんなで俺は先生こと黄夜に基本から教えてもらうことになったのだ。
黄夜曰く、俺にセンスというものは皆無な模様。素人がとりあえずシュートから始める当たりダメダメだとのことだ。
そう言うわけで、俺は今黄夜の前でダムダムとドリブルの練習をさせられている。
「そこ!しっかり反対の腕前に出して!空いてガードできるように意識するんだぞ!!」
周りの視線がまあ痛いこと。小学生に教えられる高校生だからな。そう見られても仕方あるまい。プライド?そんなものは俺にはない。
そして、意外にもこのやんちゃ坊主教えるのがうまい。
「そうそう!なんだ兄ちゃん!意外に飲み込み早いじゃん!」
「え?そう?照れるな」
「まあ、まだまだ下手くそなんだけどな。ドリブルしか練習してないし」
調子に乗ってすみません。どうやら黄夜は飴と鞭の使い方がうまいようだ。一瞬で飴に釣られてしまった。
「ととっ!やべ!もう7時前じゃん!早く帰んないと姉ちゃんにドヤされる!兄ちゃん、教えて欲しいんだったら明日も同じ時間な!それと帰ってもドリブルの練習はしとくんだぞ!後はプロの試合とかテレビで見ても面白いぞ!じゃあな!」
黄夜は五月雨のようにそう言うと自転車のカゴにボールを置き、一気に漕いで遠くの方へ見えなくなっていった。
街灯があるとは言え、公園も暗くなってきた。先生もいなくなったことだし、俺も帰ろう。
そうして今日の特訓1日目は終わりを告げた。球技大会まで残り8日。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます