第33話:理不尽な賭け事「うおおおおおおおお!」
「ほーん、それで昨日、一ノ瀬さんと東雲と一緒に帰ってたのか。何事かとまた良からぬ噂で持ちきりだったぞ?脅してるとか」
「その良い加減、噂やめない?俺にどんだけ悪評つけたいのよ、この学校のみんな」
「ははは、確かにそうだよね。なんか噂の出所みたいなのあるのかなあ」
今は体育の時間。昨日から2日連続で体育である。今日はサッカーなのだが、今は俺も白斗も桃太もグラウンドの端っこに座っている。決してサボっているわけではない。体育は2クラス合同で行っている。そのため4チームできるので2つのチームが休憩、または練習ということになるのだ。あんまり休憩しすぎると怒られちゃうけど、さっき練習したから平気だもんね!
「それにしてもいいよな」
「ああ、いい」
「もう、二人ともあんまり見過ぎちゃダメだよ」
俺は白斗の言葉に同意した。それを窘める桃太。
俺たちはサッカーが行われているグラウンドを見ている。正確にはその奥。女子も同じく体育の時間であり、今日はソフトボールをやっている。
「やっぱり、女子の体操着っていいよな。なんだかいつもと違って」
「わかる。でもソフトボールってイマイチだよな。やっぱりバレーのほうがいいわ」
「それな」
「全く!そんなこと言ってるから変な噂立つんだよ?」
ぐうの音も出ないとはこのことか。前に狭山さんにも言われたばかりではないか。すてーたすのおかげで見た目が変わったりポジティブになったりはしたが、元来の性格である、むっつりまでは治らなかったらしい。すてーたすをもってしても治らないとはなんて頑固なむっつりだ。
「その通りだ。なんか最近お前美少女たちと絡んでること多いだろ?だから余計にな。変なことを言わない方が身のためだぞ?」
お前に言われたくない。
「変なことしてる半分くらいはお前と共犯関係にあると思ってるけど、そこのところどうだ?」
「ぐう」
あ、ぐうの音出た。本人も何かと心当たりはあるらしい。確かに俺と絡むようになってからコイツも変人扱いを受けつつある。俺のせいでもあるとは思うが、元来コイツはこういう気質だったのだろう。それが俺との付き合いで露見したということだ。許せ、白斗。一緒に変態の道を進もうではないか。
「まあ、確かに白斗の言うこともあると思うよ。柚月変に目立っちゃってるから。一ノ瀬さんに東雲さんに綾瀬さんに狭山さんまで。この学校を代表する美少女たちだもんね〜。憧れてる人とかも多いから嫉妬とか凄そうだよ?」
確かにここのところ、噂の中心に立っている俺の周りには必ず、彼女たちがいる。それを良く思わない連中の仕業なのだろうか。
あ、ちなみに彼女たち学校を代表する美少女軍団は揃いも揃ってみんな2年生だ。そのため、周りからは奇跡の世代と呼ばれている。どこのスポーツ漫画だ、おい。
「あ、次僕たちの試合みたいだよ」
そんな話をしていれば早いもので交代の時間となった。
今AチームとBチームが終わったので、俺たちCチームとDチームで最後の試合だ。
敵チームボールから始まった。いきなり前線ではボールが行ったり来たり、激しく争っている。
俺はというとグラウンドの端っこに待機している。なぜなら俺は球技が大の苦手。グラウンドは広いので少しくらいぼーっとしていても問題ないのだ。ゴール付近で待たせてもらおう。
「おい」
そんな俺に声をかける輩がいた。
なんだ、俺の休憩時間を邪魔するやつは?
明るい茶髪にピアス。これはこれは、最近デビュー仕立ての後藤君ではありませんか。授業サボっちゃいけませんよ?
「お前最近まじで調子乗ってるよな?」
おおん?なんでそんな喧嘩腰なのよ。確かに前ほどあなたたちにいじられなくなったけど。それが関係してんのか?
「なんか用かよ?」
「最近、綾瀬さんと何話してやがる?」
綾瀬さん?ああ、コンサートの件かな?あれから授業中でも良く、クラシックについて話をされる。あまり俺は詳しくはないが、最近始めたピアノの影響でそういう話を聞くのも好きになりつつある。
そして分かったことがある。綾瀬さんは自分が好きなことを話す時、すごく得意げになるのだ。いつものクールな表情とは違い、それがまた可愛い。
でその綾瀬さんと俺が話していることがコイツは不満と......?分からん。
「それが?なんか関係あるのか?」
俺は全く持って喧嘩を売っている気はなかった。本当に疑問を述べただけだった。だけど後藤は違ったらしい。
「やっぱりまじで調子乗ってるなやがるな、てめえ!」
後藤は体育の時間だというのに俺の胸ぐらを掴んでくる。
やや!これはいけません!先生!!助けてください!!
俺は周りを確認し、先生を探す。
けど、どこにもいない。おい、どこいったんだよ!授業放棄か?
後藤は手を離すつもりがないようで、次にはいつ拳が飛んでくるとも限らなかった。流石に他の生徒がいる手前、堂々とそんなことをしないと思いたいが。しかし、俺もいつまでもこうやって胸ぐら掴まれてるのも嫌だ。
だから俺は、その手を右手で掴んでねじり、体をひねってそのまま相手の背中側に腕を押し上げた。ハンマーロックって技だ。
「いつつつっ」
後藤が少しの痛みを感じたところでそのまま手を離し、押した。
「くっ」
「今はやめとけって。俺武術習ってるから多分負けねえぞ?」
別に相手を侮っているわけではない。相手のステータスを覗かせていただきました。単純に筋力だけでも俺の半分以下。そしてステータスを見る限り、相手は特に武術や格闘技をやっているわけではなかった。
後藤は俺に反撃されたのが余程悔しいのか、こちらを睨む。そして、ハッと何かを思いついたような顔をした。
「おい、時東俺と勝負しろ!!」
「勝負?」
何のだ?喧嘩......はしたことないけど、多分負けないぞ?いや、喧嘩を買うつもりないけど。
「ああ、球技大会だ。今度の球技大会で俺と勝負しろ」
「同じクラスだってのにどうやって勝負すんだよ」
「球技大会はバスケとサッカーどちらかだ。バスケを選べば2チーム出られる」
なるほど、別チームで出場して戦うってことか。
「それで俺に何のメリットが?」
勝負しろって言われてもそれを受ける義理はない。別に逃げてるんじゃないんだからね!!
そういうと、後藤はいやらしい笑みを浮かべた。
「お前、最近いろんな噂流れてるよな?」
「!?」
俺はその言葉に他の人でも分かるくらい表情が変わったことだろう。
「俺はその噂を流している出所を知ってる。お前が勝てば、その出所を教えてやるよ。ちなみに俺じゃねえからな」
なんですと!?やっぱり桃太の言った通り、誰かが俺の噂を流しているようだ。本当に後藤、お前じゃないだろうな?
「分かった。受ける」
「へへ、その代わりだが」
「まだなんかあるのか?」
「当たり前だろ!お前が勝ったらと言った。もちろん、俺が勝ったら俺のいうことを聞いてもらう」
後藤のいうことって......はっ!?まさか貞操の危機!?
俺がドン引きした顔で後藤を見ていると後藤もそれに気づき、慌てて次の言葉を発した。
「な、何勘違いしてやがる!!俺が勝ったら、綾瀬さんに近づくな!それだけだ。いいな、男に二言はねえからな。もし勝負をしなかったらお前の噂がもっと酷いことになるかもな」
なんて理不尽な勝負事だよ。やっぱりお前じゃねえの、噂流してるの。違うにしろ、後藤に近しい人物というのは間違いなさそうだ。なんか絞れそうだけど。
後藤は言いたいことを終えると俺から離れていった。
はあ。仕方ない。綾瀬さんとは再来週にコンサートに行く約束もあるし、負けるわけにはいかない。あれ?俺、球技苦手じゃなかったか?まずい......
そんなことを考えているとずっと向こう側にあったボールが味方が奪ったのかこちらに向かっている。
ボールを奪ったのは桃太だったようだ。体が小さいだけあってすばしっこさを見せている。そして白斗にパスをした。白斗は俺とは違った。
あいつ弓道部なのになんであんなに球技得意なんだよ。めちゃくちゃ軽快に動いてる。
そしてそのまま白斗が猛烈な勢いのドリブルでこちらに迫ってきた。
「お?柚月いいとこに!いくぞ!ほれ!」
「え?お?あ?」
白斗は何を思ったか俺にパスをしてきたのだ。やめてくれ!ボールは友達じゃないんだ!!
しかし、変にボールが来ないように動いた結果、それを予期して白斗がパスし、偶然にもフリーなり、抜け出てしまう。完全な一対一だ。
「な?くそ!!」
先ほどまで横にいた後藤は焦るように後ろから追いかけてくる。
「柚月、いっけえー!!」
桃太が遠くから掛け声をかける。気づけばサッカーコートの横でソフトボールをやっていた女子たちも休憩なのか、俺たちの試合を見ていた。
こうなったら!!やってやる!俺だって女の子にカッコいいとこ見せてやる!!見てろよ、後藤!俺に勝負を仕掛けたことを後悔させてやる!
「うおおおおおおおお!」
俺は思い切り足を振りかぶり、ゴールの方向へ向けてボールを思いっきり蹴った。はずだった──
「あれ?」
力強く放たれた黄金の右足は見事、宙を蹴った。そしてあまりに勢いをつけすぎたため、そのままバランスを崩して俺はその場に尻餅を着くように転んだ。
「......」
「......」
周りは唖然と俺を見ている。味方チームの人も、敵チームの人も女子でさえも。ボールが悲しく、俺の横をコロコロと転がっている。あああ。穴があったら入りたいとはこのこと。
「ぷっ!くふふふ。あはははははは」
「なんだあれ!?だっせえええええ」
「あははは、あれはないね」
そしてやや空白があってから、味方からも敵からも女子からも爆笑が巻き起こる。
ふふふ。みんな笑ってる。みんなが笑い合えば、きっと戦争ってなくなるんだよね。
今日は一つ、世界を救ってしまった。
─────────────────────
すみません、コンサートの日付を来週から再来週に変更しました。
ご了承ください。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます