第31話:やっぱり「ひっ!?」
いやーよかったよかった。綾瀬さんの調子も戻ったことだし、週末のコンサートに女友達を誘うというミッションも達成することができた。もっと言えば、綾瀬さんのチャットIDも入手することができた。これは大きい。女友達のIDが未だ嘗て、俺のチャットアプリに存在していただろうか。いや、ない。(反語)
そんな俺の寂しい携帯事情に一筋の光が差し込んだのだ。ここからどんどんと増えて行くに違いない!!今のところ、一人は友達になったのにID交換してないだけだし!!
俺はこんなことを考えながら夜の道を走っていた。今日は放課後、綾瀬さんを送った後、いつも通り、晩ご飯作ったり、勉強したり、筋トレしたりしていたのだが、どうも体が昂って仕方なかったのだ。
よくよく考えてみれば、あれは普通にデートに誘ったに等しい。俺はそんな初めての体験からなぜか今からドキドキしていたのだ。まるで遠足の前日の小学生のようだ。
そんな昂りを抑えるべく、俺は夜も深まってきたこの時間にも関わらず、親に「走ってくる」と言い残し、家を出たのであった。
秋の夜の風は心地よく、この上がったテンションを少し冷ましてくれた。冷ました頭で考える。日曜日、綾瀬さんはどんな格好で来るのだろうか。クラシックピアノのコンサートということで正装とか必要なのだろうか。い、いかんぞ!俺、正装はともかく、そんなおしゃれな服持ってない!!
いや、待てよ。前に水月と買い物したやつがある!!これはこの時のためだったのか!!帰ったら水月をよしよしするとしよう。
「ふう」
河川敷を少し走ったところで休憩がてら息を整えるために歩いた。すでに目標の5キロは走り終えている。そろそろ家に帰ろうか。しかし、涼しいと言っても喉が渇いてしまった。どこかコンビニに寄ってドリンクでも買うことにしよう。
俺は河川敷から家の方面に降り、近くのコンビニに足を運んだ。
「いやっしゃいませー」
俺は店内に入るとそのまま、ドリンクコーナーに来てスポーツドリンクを手に取るとレジまで運んだ。
店員さんがそのまま渡されたドリンクをレジに通し、金額を提示する。
「151円です」
俺は財布から小銭を出すためにポケットに手を突っ込んだ。
ん?財布?ない!?ってそもそも今日持ってくるの忘れたんだった!はずかし!
「ははは......」
俺はそのまま笑いながら店員さんの顔を見た。そこで初めて店員さんと目が合ってしまった。
「あ......」
「あ......」
そこにいた店員さんはウチの学校の制服の上からコンビニの制服を羽織っている。金髪にピンクのメッシュ。濃いメイクをした狭山さんであった。
「えっと.......ここで何してるの?」
「何って、見てわかんないのか?バイトだけど。お前は?これ、買わねえの?」
「あー、ごめん。財布忘れた......」
その時の狭山さんの視線は完全に残念なやつを見る目であった。視線が痛い。
「はあ、しょうがねえな。ちょっと待ってろ」
待つって?狭山さんの前で俺は首を傾げた。
「いいから、外で少しの間待ってろよ!」
「は、はい......」
狭山さんのあまりの迫力にビビってしまったわけではない。多分。気づけば後ろに人の列ができていた。仕事の邪魔しちゃったな。ごめん。
それから10分ほど俺はコンビニ駐車場で狭山さんを待っていた。すでに汗は冷え、若干寒いまである。早く来ないかな......とその時、誰かが近寄ってくる気配を感じた。
「悪い、悪い!思ったより客が途切れなくってよ。退勤に時間かかっちまった。ほい、これ」
狭山さんは俺のもとへ来ていきなり、何かを投げてきた。俺は辛うじて反応して両手で投げられたものをキャッチすることができた。手に収まっていたのは先程買おうとしていたスポーツドリンクであった。
「金、ねえんだろ?それ貸しだかんな?」
狭山さんは屈託のない笑顔でそう言いながら、コンビニの前にある黄色でポール型の車止めに片足を載せながら缶コーヒーを開けた。
「っ!?」
俺はその光景に思わず、顔を逸らした。
「?」
あ、危ない!!狭山さん、無防備すぎだって!あなたの短いスカートでそんな体勢になったら中見えちゃうの!!今度見たらビンタじゃ済まないって言ってたからな......何があるんだ?はっ!?これってもしかして巧妙な罠では?
くそ!!狭山さんめ!!悪魔みたいな人だ!人の純情な心を弄んでいるのか!!いいだろう。受けてたつ!!
俺はそのまま視線を元の位置に戻し、開眼した。長いソックスを履いていれば絶対領域と言われていたであろう場所はなぜこうも男の心を鷲掴みにしてしまうのか。自由研究の課題にしたくらいだ。
しかし、これでは明らかなガン見である。そうなれば当然、狭山さんも気づく訳で......
「おい......お前、どこ見てやがる?」
視線を上に戻すと修羅がいた。
「ひっ!?」
「はあ。ったく。そんなんだからお前学校でも変な噂立つんじゃねえか。人のスカート覗いた変態って」
「うっ」
心に突き刺さります。やめてください。だって事実ですもの......
「それに聞けば、他の女の子泣かせて、また別の女の子に抱きつこうとしてビンタされたらしいじゃねえか。それに今日は、また違う子を罵倒したって聞いたぞ?その子はショックすぎてかなり落ち込んでたらしいな?お前女の敵か?」
ま、待ってくれ!!また最後なんか増えてる!!多分状況から判断するに綾瀬さんのことだろうけど、違うからね!?そんなじゃないからね。
俺は必死でその辺の噂の内容を狭山さんに説明した。もちろん、全て誤解であるということを。
「ふーん。まあ、アタシのパンツみたのは事実だけどな。今も見ようとしてたし」
「ごめんなさい」
そりゃもう、土下座したね。コンクリートであろうと関係ないよ。人間、悪いことをした時は誠意を見せるのが一番さね。
「まっ、とりあえずは信じておいてやるよ。悪い、アタシこの後もバイトあるからさ!また、今度な!」
狭山さんはそういうと止めてあった自転車に跨り、颯爽と去って行った。さっきの件、本当に信じてもらえたのだろうか。
というか、狭山さん。やっぱりエロい。だってチャリに跨がる時に見えちゃったもん!!え?色?そりゃ、情熱の色でしたよ。
あれ?そういえば、もう22時だけど、まだ次のバイトあるの?高校生なのに大丈夫なの?その辺。
俺はそんな疑問を抱えつつも家までの道をまた、走って帰るのであった。そして帰ってから母さんに遅いと叱られた。高校生は22時までには家に帰ろう!
◆
翌日。俺の噂は七十五日程度では全く収まってくれそうにない具合に拡散されて行っている。なんだかSNSでも広まってるらしいよ!!桃太が教えてくれた!!やっぱり友達を持つって素晴らしいね!俺も始めようかな?SNS。
その噂。以前までに引き続き、昨日狭山さんが言っていたこともやっぱり追加されていたらしい。なんかもう、ここまでくると他人の視線が気持ちいいぜ!!そんな変態な俺とも変わらず、一緒にいてくれる白斗と桃太に感謝だな。
まあ、この噂。そこまで俺が気にしていないのには理由がある。その噂の発端となった当事者とはどれも和解というか、誤解が解けているからだ。きっと彼女達は俺のことを真面目な好青年だと思ってくれているはずだ。多分。変態ではないはず......あれ?具体的に誤解といたの東雲さんしかいないな。
「ねえ、アンタ大丈夫なの?」
クラスの席について、隣の綾瀬さんが開口一番に心配してきてくれた。きっと噂のことだろう。
「大丈夫だよ。他の人に別に何思われてもいいよ。友達とかがわかってくれてればいいから。綾瀬さんも俺がそんなことするなんて思ってないでしょ?」
「......さあね?」
綾瀬さんは意地の悪い笑みを浮かべながら顔を逸らした。よかった。昨日なんだかんだあったけどもうすっかり元気になってくれたみたいだ。やっぱり笑顔の方がいいね。
周りは噂通りでない、俺と綾瀬さんが話す様子に少し、騒ついている気がする。だって「え!?なんで!?」とか「あの噂って嘘だったの!?」って聞こえるからね。
おい!!みんな!!綾瀬さんとはこの通りだぞ!!この良好な関係をどうせなら拡散してくれよ!!よろしく頼んだ、SNSよ。
それからもクラスでは俺と綾瀬さんの様子をみて噂を信じる派と信じない派に真っ向に分かれていた。よかった。あの噂を信じていない人がいて。ちないにこの派閥というのは白斗や桃太から聞いた話であった。
そして今は体育の時間。今日授業の内容は男子はバスケであった。女子は隣のコートでバレーだ。やっぱ女子が隣にいるとやる気が俄然変わるよね。5割増だわ。
そう言えばもうすぐ、球技大会がある。内容はサッカーかバスケだったな。ちなみに俺はどちらも苦手といって差し支えないほどの実力である。元々運動もできない俺は、球技に関しては特にダメだった。卓球もあんなもんだったしね。
それは身体能力が上がった今でも変わらない。こういう球技は初心者でもある程度センスってもんがいると思う。白斗は別にバスケ部であったわけでもないのに関わらず、レイアップシュートは綺麗に決めることができている。普通のシュートだってフォームは様になっている。
それに比べ俺はなぜか、シュートをしたらボールが真上に飛んだ。ある意味、これもセンスあると思う。
そして授業中に俺は、ボールを持って攻める荻野のディフェンスをしていた。荻野は相変わらず、なんでもできる。さっきも見ていたらかっこよく3Pシュートを決めていた。観客の女子がキャーキャー言っていた。くそ、羨ましい。
そんな荻野とはなんだか久しぶりに正対したような気がする。
「よお、久しぶりだな」
「ん?ああ、久しぶり」
「なんか、最近えらく調子乗ってるみたいじゃん」
久しぶりに話しかけられたと思ったら、やっぱりそういう感じのことなのね。荻野は俺が変わって2学期が始まってからいじってくることはなかった。それでも表に出していないだけで、俺に対する鬱憤は溜まっていたのかもしれない。俺何もしてないのに理不尽だよね!
「やっぱり、お前気に食わないわ」
「うぉ!」
俺はそのまま気に食わない宣言とともに無様に抜かれ、荻野に鮮やかにシュートを決められた。
何だってんだ、一体。荻野もそうだが、なんだか取り巻きも俺を睨んでいる気がした。そんなに俺が変わったことが許せないのかね。もう!
俺はその後も真上にシュートを放ち続け、今日の体育は終わりを告げた。
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