第28話:ろくでなし「て、天才ですから」

 そしてまた、月曜日がやってきた。みんな大嫌いの月曜日だ。俺も嫌いだ。

 正直に言うと、東雲さんの誤解は解けたが学校へはあまり行く気が進まなかった。なぜなら、その他大勢の生徒の誤解は未だ解けていない。俺は変態の人でなし扱いされているのだ。しかし、行かないという選択肢はない。今日という日でそんな誤解ともおさらばするのだ!水月と別れた俺は、校門へ向かった。


 校門へ近づくと後ろから、誰かが近寄ってくる気配を感じた。


「おっす、柚月!なんだ?朝からテンション低いな?」


「おはよう、白斗。お前は朝から元気だな」


「まあな!ちょっといろいろあってな!それよりも......」


 朝から俺とは真逆のテンションで接してくる、白斗は顔を近づけて小声で続きを話しかけてきた。


「お前の噂、どんどん広がってるぞ?」


 マジかよ......これ本当に今日で誤解解けんのかね?俺の胸中は不安でいっぱいになった。


「まあ、気にすんなよ!人の噂も四十九日って言うだろ?」


 それを言うなら七十五日だ。しかし、噂がお亡くなりになってくれたならそれでも構わない。


 そうして俺と白斗は下らないやりとりをしながら、校門を潜っていった。

 でもこんなやりとりも友達っぽくていいな。やっぱり友達っていい。嫌な気分が和らいだ気がした。


 玄関に入って靴を履き替えた時だった。


「あ......」


「お......」


 そこには一昨日友達になったばかりの東雲さんが立っていた。そして向こうもこちらに気付いて目が合う。お互いにどうしていいか分からず、固まってしまった。俺は初めての女子友達に対する接し方が。東雲さんはきっと、まだ気まずいのかもしれない。


 それを見た白斗は、「あちゃ〜」といいながら額に手を当てている。

 こいつなんか勘違いしているな?そういえば、東雲さんの誤解を解いたこと言ってなかったか。まあ、このまま勘違いしてるのも面白いけど、せっかく友達になったんだ。挨拶くらいしよう。うん、それが普通なはずだ。


「東雲さん、おはよう」


「......!お、おはよ」


 東雲さんは挨拶を返してくれると照れ臭そうにすぐにその場から去っていった。そんなやり取りを見ていた、白斗はポカーンと口を開けてアホ面をしていた。面白かったのでそのまま、置いて俺も教室へ向かった。


「ちょ、待てって!!」


 置いていけなかった。


「お、お前......何をした?」


 そんな人を犯罪者を見るような目で見るな。普通に挨拶しただけだぞ。

 未だ、白斗は俺が東雲さんと挨拶したことが信じられないといった様子だ。


「だから、何も無いって。普通に誤解といて友達になっただけ」


「と、ともだちぃ!?友達って相手はあの、東雲さんだぞ?」


「別に普通だろ、友達くらい」


「いや、普通じゃねえだろ!お前、友達いなかったじゃん!!」


「うるせぇ!!!」


 やめろ、その口撃は俺に効く。

 まあ、白斗が言いたいことは俺も分かるよ。非常に男嫌いで有名って聞いてたからな。そんな彼女がまさに天敵である、男の俺と友達になっているなど何の冗談かと疑いたくなるのも当然だ。しかし!!これは事実である。記念すべき、初めての女友達である。


 結局、教室までの道すがら頭を抱える白斗を無視しながら歩いていった。しかし、その間も女子達が何やら噂話をしているのが耳に入った。


「聞いた?あの、ろくでなし変態エロースのやつ、東雲さんにも手を出したんだって!」


「あ、それ知ってる。金曜日に玄関のところで友達が見たって言ってた!東雲さんにいきなり抱きついて思いっきりキツいビンタ喰らってたんだよね!」


「そうそう!それ!ああ〜もったいないよね〜。せっかく見た目は爽やかになったのに中身は前みたいなむっつりの変態のままだなんて」


「流石にナイよね〜」


 神よ。俺が何をしたと言うのですか?噂は収束を見せるどころか、より訳の分からん付加価値が付いている。俺が抱きついた?なんでそんなことになってんだよ!!しかもどこかで聞いた不良漫画みたいなあだ名がついてる!!


 俺は、白斗に慰められながらも教室に入った。教室での視線がまた、冷たいのなんのって。これだから月曜日は嫌いなのだ。


 俺はその冷たい視線の中、自分の席へ着く。俺くらいになるとこの視線が心地よくなってくるのだ。これも瞑想の賜物。ビバッ!精神力!!


 だが隣を見ると、本当に俺って犯罪犯したんだっけ?と勘違いしてしまうかと思うくらい、とびきりキツい視線を受けた。今ならメデューサに睨まれて石になってしまった人の気持ちが分かると思う。


 だが、俺も負けていられない。俺はそんな視線に屈しないのだ!!俺が隣の彼女、綾瀬さんを見つめ返すことにした。すると彼女は驚いたように慌てて視線を外す。心なしか、少し顔が赤かった気がした。ふっ。勝った。


 しかし......今日も1日なんだか疲れそうな予感......


 ◆


 時は進み、今は4限目。英語の授業。次で昼休みだ。お腹が空いた。

 しかし、授業っていうのは以前まで本当につまらない出来事でしかなかった。だが、今の俺は新しい知識をその身に蓄えられるだけで、それはもう、嬉しかったし、楽しかった。つまり、より授業を楽しめるようになったってことね。


「......KITO!」


「Mr.TOKITO!」


 更に言えば、今日に限っては授業中ならクラスメイトからの侮蔑の視線を受けないで済むのでこの時間は一石二鳥だった。


 その時、ツンツンと横からペンで俺の脇腹を綾瀬さんが突いてきた。


「ん?何?」


「アンタ、指されてるわよ?」


 何に?確かに今、あなたに刺されてます。ペンで。普通、芯の出ない方使わない?痛いよ、そっち。


「Mr.TOKITO!!」


「......はいっ!!」


 俺は突然張り上げられた声に驚き、立ち上がった。クラスの連中がクスクスと笑う。指されてるってのは、先生の事だったか。


「呼んだら、すぐに返事をしなさい!それでは、この例文を読み上げて、訳してみなさい」


「......はい」


 ああ、やだな......英語は苦手だった。以前もこんな感じで英語の先生に当てられ、単語も全然分からず、全くうまく発音もできずでクラスのいい笑いものだった。


 だが、今の俺ならば。


「At the moment, our species appropriates fully one-quarter of the food that all of the world's plants produce and much of all the World's fresh water.」


 うんうん。滑らかに、ネイティブに発音できたのではないだろうか。これもスピードラー......もとい、ステータスのおかげというものだ。うん。ちゃんと毎日英会話を聞いてたからね!!


 そんでもって、次は訳か。


「現在、私たちの種は、世界中の植物が生産する食物の4分の1と世界の水の多くを完全に占有しています」


 ※翻訳サイトを使って訳しています。間違ってるかもしれませんが、ご容赦ください......


「よ、よろしい。座りなさい......」


「はい」


 俺は席に再び着くと、周りがやけにざわついているのが分かった。なんだ?何か訳が間違ってたのか?だが、そうではないことが隣の綾瀬さんの反応から分かった。


「い、いつの間にあんたってそんなに英語できるようになったわけ......?発音も綺麗だったし......」


「......お、おう?」


「だって、この前までめちゃくちゃだったじゃない!どうなったら、そんな風になるのよっ!」


 そうは言われましてもね。毎日聞いてただけだけどね。りょうくんも聞き流すだけでいいって言ってた。ステータスの恩恵もあるだろうけど。まあ、こう答えておこうか。


「て、天才ですから」


 その瞬間、綾瀬さんが冷めた顔になる。


「は?変態の癖に......」


 癪に障ってしまったようだ。だからそれは誤解なんだってば......


 こうして、英語の授業も無事?終えることができた。そして待ちに待った昼休みの時間だ。白斗と桃太を誘って購買にでも行くか。


 俺は、カバンから財布を取り出した。その時、カバンに入っていた封筒が財布を取り出した拍子に綾瀬さん側の机の下にフワリと落ちた。


「あ......」


 これでは取れない。綾瀬さんのスカートの中が見えてしまう。綾瀬さんは俺が落としたそれを気付いていないようだ。

 ど、どうしよう。


「柚月〜購買行こうぜー」


「いこうぜー」


 白斗と桃太が俺を誘いに来てくれた。しかし、あそこに落ちた、アレをそのままにする訳にはいかない。俺は、白斗と桃太に先に行って、パンを買っておいてもらうことにした。


 そして綾瀬さんに話しかけようとした時、その視線に綾瀬さんが先に気づいてくれた。


「何?」


「えーと、ごめん。その机の下にあるもの取りたいんだけど......」


 綾瀬さんはそれを聞くと、無言で机の下に手を伸ばし、封筒を取った。

 そして、その封筒を興味深そうに見ていた。封筒から中に入っていた紙が裏向きに2枚飛び出していたのだ。


 綾瀬さんはそのまま、封筒を反対側に裏向け、入っていた紙の詳細を見た。


「......はっ!?え!?え!?嘘!?なんで!?これ!!!!!ど、どこで手に入れたの!!!」


 こんなに興奮した状態の綾瀬さんは初めて見たかもしれない。

 そこには、若葉さんからもらったコンサートのチケットが2枚、封筒から顔を覗かせていた。

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