第27話:試練「あああああーーー」
まずピアノを教えてもらうと言っても俺は、音楽が全く分からない。学校での授業でしか楽器を触る機会もなければ、音符ですら読めるか怪しい。俺の普段の生活の中で音楽に触れるということは全くと言っていいほどないのである。せいぜい、スマホで好きなアーティストの楽曲を聴くくらいのものだ。
そんな素人の俺がプロの人に対して、教えてくださいだあ?何言ってんだコイツ。まさにそんな視線を水月から浴びせられている。調子乗ってすんません......。母さんはそれでも優しげな表情ではあった。
「じゃあ、まずは鍵盤の音階、ドから順番に覚えていこうか!」
「はい!」
元気よく応えたはいいもののこれてって中々恥ずかしい。まるっきり教えかたが小さい子に教える感じである。いや、俺がドの位置も分からないから仕方ないんだけどね。流石にこんな様子の兄を見ていられないと思ったのか、水月はいつの間にかフェードアウトしていた。
ドの場所を教えてもらい、順番に音階を駆け上がる。まあ、これくらいはすぐに覚えることができる。
そして30分もすれば、片手で簡単な童謡くらいなら弾けるようになっていた。先生の教え方がうまいということもあるだろうが、まあぶっちゃけ童謡くらい本気出して覚えようとすれば、難しいものではないと感じた。
それでも若葉さんは「すごい上達がはやいね」って褒めてくれた。
そして更に1時間ほど付きっ切りで見てもらったことで、クラシックの初心者には定番の曲、「エリーゼのために」を弾けるようになっていた。もちろん、両手を使って。
これには若葉さんも本気で驚いていた。普通、ドの位置も知らない初心者がこんな短時間で弾けるようになることはないとのことだ。それに全くもって読めていなかった楽譜も今はしっかりと読めるようになっている。
俺が思っている以上に、ステータスの恩恵がすごい。昔の俺だったらこんなの何日経とうが覚えれてなかっただろう。器用のパラメータも著しく伸びていることだろう。後で確認しとこ。
ここでお昼の時間となった。思ったより集中していたのか、12時は既に回っており、若葉さんのお腹が鳴る音で初めて時間を確認した。若葉さんは恥ずかしそうにその頬を赤く染めていた。大人の女性に対して、この感想はどうかと思うが言わせてもらおう。かわいい。
せっかくだからここは俺が料理を作って、若葉さんにも食べてもらおう。せめてものお礼だ。
その前に少しばかり、今のピアノの成果を確認しておこう。
ステータスと心の中で念ずる。
俺は自分のステータスを眺める。
名前:
年齢:16歳
基礎能力
筋力:331
体力:343
精神:345
知能:282
器用:402
運 :25
エクストラ
ステータス:LV.3
料理 :LV.4
┗ 焼きそば職人:LV.3
裁縫 :LV.2
掃除 :LV.3
武道 :LV.5
┣ 弓道 :LV.5
┣ 空手 :LV.4
┣ 柔道 :LV.4
┣ 剣道 :LV.4
┣ 合気道:LV.5
┗ 居合道:LV.4
音楽 :LV.2
┗ ピアノ:LV.2
称号
ロリコン
シスコン
+メッセージ
むふ。むふふふふふ。
音楽が新しく増えている。このパラメータを見るだけでなぜかにやけてしまう。やっぱり新しいことができるようになるということ、その成果が目に見えるということは嬉しいことだ。
そして、料理や音楽にも通ずることなのだが、この器用というパラメータ。やはり、何か物事を実践するにあたり、器用さというのは大事な要素らしい。こいつもどんどん伸びていく。ついに400の大台に乗った。つまりめちゃくちゃ器用。そしてそのおかげで先ほどのピアノでも非常に役立ったと言うわけだ。物覚えという点では知能のパラメータも決して、無駄な要素ではないはずだ。
それはそうと今日のお昼ご飯だ。
俺は遅れてキッチンに向かい、母さんに今日のお昼を作ることを伝えた。母さんもそろそろお昼と時間を伝えに行こうとしていたようだ。そして母さんは俺に作ってもらうつもりだったのか、お昼の準備はノータッチだった。
今日のメニューはどうしようかなー。そうだあれにしよう。
そうしてキッチンに立ち。料理を始める。
テーブルには、いつの間にか水月も座っており、母さんも若葉さんも座っていた。まだ、今から始めるところだから、そんな早くから座ってなくてもいいのにな。そして若葉さんはキッチンにつく、俺を驚きながらも見ていた。
「柚月くん、料理までできるの!?す、すごい......」
「そうなんです!お兄ちゃん、お料理、上手なんですよ!!それはもう、レストランで食べるくらいの美味しさです!」
えっへん!そんな効果音が聞こえて来そうなくらい胸を張って俺のことを紹介してくれた。そして機嫌もいつの間にかよくなっていた。
照れるな、おい。いくらなんでも褒めすぎじゃないか?レストランって、まだそんなレベルではないと思うけども。よーし、お兄ちゃん頑張っちゃうぞ!!
ということで気合いを入れ直し、俺は調理を進める。
鷹の爪とニンニクを切り、フライパンでオリーブオイルで炒めたら、次にエビを炒める。冷凍ではあるが、ホタテ、イカなどの海鮮ミックスを加え、更にあさりも入れて炒める。そこに白ワインも加え、軽く蒸し焼きにする。
その間にも沸騰させた鍋に麺を潜らせ、茹でておく。
そして、先ほどの蒸し焼きにしていたものの汁気がなくなったところで、トマト缶とローリエを加えて、塩胡椒で味を整え煮る。
最後に茹でた麺を絡めて軽く炒めれば、ペスカトーレの完成だ!
「こ、これ全部柚月くんが作ったの!?美味しすぎる......」
「ん〜おいしい〜」
「流石ゆずちゃんね〜」
大絶賛でした。よかったよかった。あ、おいしい。でも家庭でする料理も中々限界があるからどこかで少し本格的に教えてもらえるところないだろうか。ってこればっかりはどうしようもないか。どこか料亭に修行しにいくしかない!冗談だけど。いつか、できたらいいね。
「ああ、もうなくなっちゃった......」
「ですよね!なんだか美味しすぎてこれ以上食べたら太っちゃうってわかるんですけど口が求めちゃうんですよね!」
みんなも食べ終えたようだし、ここでデザートを用意しよう。そんな大したものでもないけど。
昼間なのにニンニクを使ってしまったので、少しでも匂いを消すために、自家製ヨーグルトに擦ったりんごを混ぜ合わせたものにした。
この心遣いにも気づいてもらえたのか、かなり喜んでもらえた。
「ああ、うちに連れて帰りたい......こんないい子滅多にいないよ......蒼さんだめ?」
「ダ・メ!!」
母さんが完全に拒否してくれたが、あの目は本気だった。若葉さん怖いよ。連れ帰ったら何されるんだろう。想像するとぶるると身震いしてしまった。さっきのは気のせいじゃなかったようだ。
若葉さんは今日は一日オフらしい。久しぶりにこちらに帰って来たそうで、ゆっくりできるのも今日だけとのことだ。そして若葉さんは午後のティータイムで何かを思い出したのか、ごそごそとカバンの中を漁りだした。
「はい、これ!」
それは、若葉さんのコンサートのチケットだった。俺が無知だったのだが、この人かなりすごい人らしい。国際的なコンクールにも何度も入賞しており、基本的にはウィーンに住んでいるらしい。俺、ウィーンまで連れて帰られそうになってたのか。
そしてその人が日本で開催するクラシックコンサート。倍率も恐ろしいことになっており、入手はまず無理。金にものを言わせなければ一般ピープルには不可能だった。
しかし、そんなチケットが5枚ある。
「蒼さん、ごめんなさい。5枚も融通してもらったんだけど、もらった後で気づいちゃって。2枚だけ日付が違うの......」
そこに記された日付は3枚は再来週の土曜日、そして残りの二枚は一日後の日曜日の日付だった。
うちは四人家族。つまり、一人はハブられると言うわけだ。家族なのにハブられるのかわいそう。
「うーん、そうねー。せっかくなら家族四人で行きたかったけど、ここはバラバラでいくしかないか。後の2枚は、うーん。同じ人がもう一回行ってもいいんだけど......」
「あ、そうだ!こうしたらいいんじゃない?」
「あら、水月ちゃん。何かいい案があるの?」
水月が何かを思いついたらしい。あれ?なんでこっち見てニヤついてんの?
「それは、後半の2枚はお兄ちゃんに友達の人誘ってもらっていけばいいのよ!」
待てい!!俺に友達などおらん!!というのは昔の話。今はいるんだなこれが。しかしクラシックを一緒に聞けるような友達に心当たりはなかった。
白斗と桃太は興味ないだろうなあ。
「ああ、それはいい案ね!確かに、柚月くんだったらモテるだろうし、女の子の一人や二人誘って是非、見に来てね!」
チケットは2つしかないので二人は誘えません。
それにただでさえ、クラシックなどという高尚な趣味に友達を誘うなんて難易度高いのに、女の子ですと?それは流石に無理じゃないか......?と考えていたら何やら母さんがブツブツ言っている。
「ゆずちゃんが女の子と......女の子と......そうよね、ゆずちゃんも年頃だもんね......」
母さん怖いよ。母さんそんなキャラだったけ?というより今まで俺が女の子となんやらって話全くなかったからこんな母さんを初めて見ただけか。子離れ大丈夫か、これ。嫁姑問題はやめてね?
「じゃあ、それで決定!お兄ちゃん再来週までに誰か女の子誘っとくんだよ〜?絶対だからね!もし出来なかったら駅前のカフェのハイパーデラックスパフェ10回分奢ってもらうから」
女の子を誘うことは決定したらしい。ちょっと待て、あのパフェ1個1万だろ!?しかも一人で食うサイズじゃねえぞ?貴様の腹はブラックホールか!?
でも一度言い出したら絶対に聞かないよな......
誰か誘うしかないか。こういう時の妹は恐い。
しかし今の所、俺に誘えるような相手はいない。と少し考えたところで脳内に最近関わった何人かがちらついた。
水原さん。綾瀬さん。狭山さん。一ノ瀬さん。東雲さん。
水原さん。普段から優しい彼女は誘えばもしかしたら行ってくれるかもしれない。しかし!そんな仲ではないので流石に却下。
綾瀬さん。殺されかけた。殺害予告も受けている。ダメだ。恐いもの。鈍器で殴られそう。無理だ......
狭山さん。パンツがエロかった。興奮した。無理だ......
一ノ瀬さん。同じ学校だが、夏祭り以来会えていない。そして俺と彼女の間には妙な噂が立っている。そんな俺が彼女を誘えば、また変な噂が立つかもしれない。む、難しい!
そして最後に東雲さん。彼女は友達である。これいけるんじゃないか!?折角友達になったんだし、誘うくらいいいよね!?いや、待て。落ち着け、柚月。彼女とは友達になったばかりだ。これではなんだか下心があって近づいたみたいになるぞ?彼女は非常にデリケートだ。どうしよう......一緒に行ってくれる可能性があるのは彼女なんだが......迷う。
くそう。考えてもまとまらない。この人たちくらいしか、最近女子と関わってないぞ?しかも全員、超がつくほどの美少女。そんな子といけたら楽しいだろうな。美少女揃いなだけに、どの人物も非常にハードルが高い。
まあ、好感度的に可能性が高いのは、一ノ瀬さんと東雲さんか。あれ?でも良く考えたらこれって実質デートのお誘いじゃね?ヤバイ。そんなこと意識しちゃったもんだからヤバイ。先ほどまで走り高跳びくらいに感じていたハードルの高さが棒高跳びくらいまで上がった。
あああああーーー。
その後、若葉さんはしばらく、コーヒーを堪能した後、帰って行った。母さんはなんだか元気がないように感じた。水月は楽しそうにしていた。
はあ。どうしよう、ほんと。
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