第19話:パープル②「まずい」
今日は始業式でした。私はこの日をかなり心待ちにしていました。なぜなら、少し気になっている人に会うことができる日だからです。この気持ちがまだ、好きかどうかは分かりませんが、これから仲良くなっていって、知ることができたらなと思います。
あの日、家に帰った私は、一番の親友である、
『ふーん。それで紫は、その人の事気になったの?』
『......はい。少しですが。緑もすごく懐いてましたし、何よりなんだか内面から人の良さのようなものがにじみ出ていた気がするんです』
『いいように考えすぎだと思うけどなあ......。男なんてみんな頭の中ではやらしいこと考えてると思うけど。例えばゆかりのその豊満な体を堪能したいとか』
『そ、それは偏見だと思います!桜ちゃんやらしいです!』
『なんで私なんだ!?それはともかく、男なんてみんな猿なんだから。気を付けないといけないよ?紫すぐ騙されそうだから......』
『猿って......もう!桜ちゃんは男の人を疑い過ぎですよ?無理は言いませんけど、少しは信じてあげないと......』
『......私は別に。私は紫が心配なだけだから......』
『桜ちゃん......』
『じゃ、じゃあ私お風呂入るから切るね、またね!』
こんな感じで桜ちゃんとお祭りで再会した柚月さんについて話をしました。初めは単なる報告だったのですが、桜ちゃんが途中から元気がなくなったように感じました。
私の心配はしてくれているみたいですが、やはり少しは信じてみてはどうかという問いが良くなかったのかも知れません。桜ちゃんは、中学校時代いろいろあったせいで男の人が大の苦手だったりするみたいです。必要最低限の会話程度はするのですが、それ以上関わり合おうとしません。そんな桜ちゃんに無神経にも柚月さんのことで舞い上がった私が、余計なことを言ってしまいました。今度会った時、謝ろうと思いました。
そして始業式の朝、登校したらなにやら、女子たちが騒がしかった気がします。なんでもイケメン転校生が来たとか。私は特にイケメンには興味はありませんが、周りの女子達はすごくはしゃいでいました。
そうして、そんな噂話を聞きながら、教室に向かっていると前に見慣れた背中が見えました。私はその人物に小走りで駆け寄り、声をかけることにしました。
「桜ちゃん!おはようございます」
「あ、紫!おはよ」
桜ちゃんは、いつも通り、朗らかな笑顔を見せてくれます。私は、この前の電話での内容を謝ろうと思いましが、桜ちゃんは全く気にしていないかの如く、振舞うので謝るタイミングを逃してしまいました。そうして教室に着くと何やら教室も騒がしく感じました。
「ねえ?聞いた?あのスカイ君このクラスに来るらしいよ?」
「え!?ほんと!?やったー!!」
「ケッ。イケメンがなんだよ!」
「そうだそうだ!」
どうやら噂のイケメンさんはこのクラスに転入してくるようでした。特に女子達が騒がしく、大歓迎のムードを漂わせていますが、それに反発するかのように一部男子でも騒がしくなっていました。
「なんだか、すごい人が転入してくるみたいですね」
「ふーん、紫も興味あるんだ?」
「いえ、私はそういう人苦手で......」
「紫は、祭りの人一筋だもんね〜」
「か、揶揄わないでください!ま、まだそういうのではありませんよ!桜ちゃんの方こそどうなんですか??」
私は、口に出してから後悔しました。桜ちゃんは私のこととなると揶揄ってくるのですが、自分に関する男性の話題は嫌がります。桜ちゃんからふられた話題とは言え、男性の話をふってしまうなんて失敗しました。
だけど、桜ちゃんはあっけらかんとして「私は男無理だから、イケメンとか関係なし!」と言っていました。その姿はいつも通り元気な姿だったので安心しました。
そして、始業式も無事終わり、生徒同士の人混みの中、自分たちの教室へ戻りました。
だけど、その戻る途中、前方に見覚えのある後ろ姿が見えました。
「あ!!」
それは、間違いなく、柚月さんのものでした。気づいたら声を出していました。周りに視線を感じながら、俯いて教室へ戻ることとなってしまいました。恥ずかしかったです。
そして教室に戻ると先生から転入生の紹介がありました。
「
その挨拶はかなり無愛想なものでしたが、女子達は一斉にキャアキャアと甲高い声を発しました。確かにお顔はかなり、整っていて綺麗な顔をしています。身長もスラッと高く、モデルさんというのも頷けるスタイルでした。
そして彼は、先生に席を案内され、その席はなんと私の隣でした。隣になった彼に私は挨拶をしました。
「相坂君。よろしくお願いしますね?」
「......」
相坂君はこちらをちらりと一瞥した後、挨拶を返してくれることはありませんでした。何か嫌われるようなことをしてしまったんでしょうか。流石に無視というのは落ち込んでしまいます......
そうして、LHRも課題の提出などで終わり、今は諸連絡を受けています。
私は、今か今かとLHRが終わるのを待っていました。なぜなら、柚月さんのところへお話ししに行こうと思っていたからです。彼は確か3組。隣のクラスだったはずです。
ああ、でも会って何話せばいいんでしょう!?久しぶりです?元気でしたか?うう、うまく話せるかな......ああ、緊張してきました。でもそんなのは会ってから自然と言葉がでてきますよね?きっと......
そうしてチャイムが鳴って、終わった瞬間。私は準備をして教室を出ようと思いました。
隣の相坂君の席にはクラス中の女子達が群がっていました。そして質問を投げかけています。私はその光景を横目に「大変そうだなあ」と思い見ると、その集団の隙間から彼と一瞬、視線が合ってしまいました。その冷たく射抜くような視線はなぜか心を鷲掴みされたようにも感じました。
私は視線を逸らしてから頭を振り払い、気にしないようにして教室を出て行こうとしました。
当然、それに気づいた桜ちゃんは私に声をかけます。
「あれ?紫もう帰るの?あ?部活?」
実は私、料理部に所属していたりします。とは言っても料理部の活動は不定期。今日は別に部活に行こうと言うわけではありません。柚月さんに会いに行くのです。これは桜ちゃんにも言ってませんでしたが、言えば揶揄われると思い、なんて誤魔化そうか迷いました。ここは聞かれた通り、部活と答えるのが得策でしょう。
「は、はい。部活へ行きますよ」
「ふーん、そうなんだ。じゃあ、私も部活に顔だしてこようかなー」
た、助かりました。どうにか誤魔化せたようです。ちなみに桜ちゃんは弓道部に所属しています。一度、矢を射るところを見せてもらいましたが、すごく格好いいんです!
と、それは置いておいて、急がないと!あの人が帰っちゃうかもしれません!
「えっと、じゃあ私行きますね?」
「はいはーい、またねー!」
そうして桜ちゃんと廊下で別れた私は、隣の教室へ向かいました。隣の教室も既にLHRが終わっており、皆さんそれぞれ教室を出て行っていました。私はドアの影から教室を見渡すと、柚月さんの姿を見つけることができました。「やった」と心の中で喜んで声を掛けに行こうと思いましたが、彼は何やらお隣のお友達とお話をしているようです。むむ、残念です。しばらく待っていましたが、まだまだかかりそうだなと思い、私はいったん教室へ戻ることにしました。
教室に戻ると相坂君のまわりにはまだ人が群がっていました。私の席も隣なので誰かが座っています。私がいなくなった後に座ったのでしょう。私は仕方なく、桜ちゃんの席を借りることにしました。そろそろ、お昼時。お腹も空いてきました。
そうだ!
私は、料理部が使っている家庭科室へ行こうと思いつきました。お昼時なので料理部が使っている冷蔵庫にある材料で何か作ろうと思いました。それで柚月さんに食べてもらうのです。私は天才かも知れません!!
思い立ったが吉日。教室に戻ったばかりでしたがすぐに家庭科室へ向かいました。ちなみにその間に柚月さんが帰るなんてことは全く考えていませんでした。
私は家庭科室へ着くと、早速、材料を確認します。そして、最初は何かお弁当などと考えていたのですが、彼の好き嫌いがわかりません。それならと思い、クッキーを作ることにしました。これなら、大体の人には食べてもらえるでしょう。仮に渡しに行って帰っていたとしても後日、お渡しすることができます。私は手早く材料をそろえ、手慣れた手つきで混ぜ合わせていきます。
そして40分後。ついに焼き上がりました。まだ、教室に残っているといいのですが......私は出来上がりを確認もせず、急いで2年3組に向かいました。
その途中、顔を少し赤らめた、派手なタイプの女子生徒とすれ違いました。あの方は確か、狭山さんといいましたか。私から見てもかなりの美少女です。彼女も3組に何か用事があったのでしょうか。
「わわっ!」
とここで考え事をしていたら、3組の手前、つまり私たちの教室である4組の教室から誰かが出てきて、ぶつかってしまいました。
私はその場に尻餅をついてしまいました。作ったクッキーをラッピングした袋も一緒に落としてしまいました。
すると私にぶつかった人物は、そのクッキーの袋を拾い上げました。私が顔を上げてその人物を見ると、その方は、今日転校してきた、相坂さんでした。
「あ、すみません」
私は立ち上がり、謝りましたが、彼はクッキーの袋を凝視しています。
「あ、あの?」
「これ、何?あんたが作ったの?」
「えっと、クッキーです。私が作りましたけど......」
「ふーん」
すると彼は何を思ったのか、ラッピングを開け始めました。
「あっ!」
「何?くれんでしょ?」
そして全く、悪気のないそぶりで入っているクッキーを手に取り、口に持っていきました。
「ああ!!」
彼は私の悲鳴にも臆することなく、クッキーを味わっています。そして一言。
「まずい。よくこんなもん人にあげられるね」
「あっ......」
彼はそう吐き捨てると、持っていたクッキーの袋を渡しに押しつけ、去っていきました。
残された私は、呆気に取られていました。信じられません。どうしてこんな酷いことができるのでしょうか。私は別に彼にあげようと思っていたわけでも、感想をもらおうと思っていたわけでもありません。彼のあんまりな態度に気づけば目には涙が浮かんでいました。
そしてそんな悪いタイミングで私は声を掛けられてしまいました。
「あれ?一ノ瀬さん?どうしたの?」
この声は柚月さんだ。その優しい声を前に、私は振り返ることができませんでした。今振り返ってしまえば、泣いていることがバレてしまいます。
私は、嗚咽を押し殺し、振り返らずに答えました。
「ご、ごめんなさい。なんでもありません。では......」
「え!?ちょっと!!」
ごめんなさい。今のひどい顔を見られたくありません。私は、柚月さんの静止を振り切り、一目散にその場から走り去りました。
そして翌日。私は体調を崩して学校を休んでしまいました。結局、今週は柚月さんとちゃんと話すことができませんでした。
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