第18話:ダチ「ピ、ピンク......」

 教室には俺以外にもまだ何人かちらほら残っていた。これから部活へ行く準備をしている人がいたり、友達と残って駄弁ろうとしていたり、始業式にも関わらず、学校で勉強しようという勤勉な生徒だっていた。


 俺もその勤勉な生徒のうちの一人にこれからなるつもりだ。

 さて、まず何をやろうか。とりあえず数学から1時間集中してやってみるか。あ、いや、待てよ?日本史でもやろうかな。なんか今日は歴史の人物を覚えたい気分。偶にそういうのあるよね!


「なあ、今日は散々だったな?」


 日本史っていいよね。事実、日本史の偉大な人物から学ぶことは沢山あると思う。まあ日本に限らず、先人に学ぶことはよくあること。日本史に限って言えば、俺の好きな歴史の人物は織田信長だ。


「ねえ?聞いてる?」


 彼は、偉大なことをした人物だ。例えばそうだな。ええと......あれだよ、あれ。比叡山の焼き討ち?後は、本能寺で殺されました。はい。録なことしてねえよ、信長。まあ、今の俺の日本史学力など知れているのだ。信長の知識などこの程度しかない。この夏は宿題以外では国数英しかやってなかったからな!!雑学ならあるんだけども。ちなみ織田信長は日本で最初にワインを飲んだ人物らしい。やっぱり偉大。ワインの似合う男になりたいもん。


「おーい、聞いてるかー」


「うっさい、信長」


「誰が信長だ!」


 あれ?じゃあ、あなたはだあれ?横を振り向くと、短髪の人懐っこそうな顔をしている男がいた。俺の隣の席のやつだ。名前は......


篠宮白斗しのみやはくと。俺になんか用か?悪いけど今は忙しいんだ」


「なんでフルネーム?いや、話しかけただけだけど。忙しいって、お前、開いた参考書の一点見つめてただけじゃん」


 お黙り!!考え事してただけよ!!で、話しかけただけ?なんでだ?

 俺がわからないといった顔で篠宮の顔を怪訝そうに見ていると篠宮は笑いながら話を続けた。


「いや、なあ。俺、今までお前のこと暗くて地味なやつだって思ってたんだけどさ......」


 はい。ご紹介ありがとう。暗くて地味男です。そんな正直に言われるといくら俺でも傷ついちゃう。


「今日のお前見てたら、なんかおもしれーやつだなーって思ってな。今更だけど、よかったら俺と仲良くしてくれね?」


「はい?」


 仲良く?仲良くって何するんだ?俺と仲良く?つまりそういうこと?そういう目的があるのか?こいつ......


「ごめん、お、俺はノーマルだから......篠宮とはちょっと......」


「何の話だよ!?俺だってノーマルだわ!!俺が言ってんのはダチにならないかって言ってんだよ!」


 なんて?ダチ?ダチって友達?友達ってあれか?

 一緒に海行って、はしゃいでバーベキューして、「うえーい」って騒ぐやつ?

 それとも、沈む夕日の中、河川敷でお互いを殴り合いながら、「お前の拳おめえんだよ」「ふっお前もな」ってやるやつ?

 はたまた、修学旅行の日、一緒の部屋で「お前好きなやついるのか?」「......いねえよ」「嘘つけ!教えろよ!この〜」「や、やめろよ〜」ってするやつ?

 さあ、どれ!?


「いや、お前の中の友達像がなんか偏ってるのは分かったけどよ。全部言葉にでてるぞ?強いて言えば、一番最後のやつか?お前と恋バナしたいわけではないけど」


 い、いかん。俺はまた、心の声が出てしまっていたらしい。こんなことではまた綾瀬さんに殺され掛けてしまう。気をつけねば。


「そんな、深く考えんなよ。一緒につるんだり、飯食ったり、遊んだりするぐらいだろ」


 何それ素敵。それにしても友達かー。友達いいよなー。昨日、友達できたいいなって思ってところだったんだ。友達ねー。友達!?


「いいの!?」


「お、おう。いいも何も、俺から言ったんだけどな」


 俺は目を輝かせながら、篠宮の手を取った。

 母さん、ついに友達ができました。苦節16年。辛い時もあったけど、今日まで頑張ってきてよかったなあ。あれ、目からしょっぱい何かが。


「だ、大丈夫か、お前?」


「ああ。大丈夫だ!俺たち友達だろ!?」


「なんか、お前と友達になったこと少し後悔してきたかも知れん」


 まあまあ、そんなこと言うなよ。もう少し、お手手にぎにぎしてあげるから。

 ......言っておくが、俺はノーマルだ。これ以上の絡みはない。それだけは言っておく。


「まあ、それよりも随分と変わったよな。見違えたわ、ほんと。クラスの他の連中も驚いてたぜ?夏休み何があったんだよ?」


「まあ、男ってのは一夏の経験を得て、大人になっていくものさ」


「......まじ?」


「嘘だ」


「おい」


 全く。俺にそんな経験あるわけないだろ。未だに「彼女いない歴=年齢」だぞ。


 そんなこんなで白斗と友達になった俺は、しばらく話して、連絡先を交換した。初めてできた友達に高揚したのかも知れん。また、白斗はクラスにいつも仲いいやつがもう一人いるらしい。そいつも今度、紹介してくれることになった。

 そうしてから白斗は「部活に顔出しに行くわ」と言って教室を出て行った。中々に有意義な時間を過ごしてしまったようだ。友達ってすばらしい。ちなみに白斗は弓道部に所属しているとのことだ。弓道なら俺もできるが、白斗の実力もあまりわかっていなかったため、特に何も言わなかった。今度、部活の練習場見せてもらおう。


 いやーそれにしても一日で友達ができるとはな。もしかしたら100人できちゃうかも?それは調子乗りすぎか。


 さて、白斗も行ったことだし、勉強をしますか。俺は開いていた日本史の参考書を読み始め、集中をし始めた。

 1時間くらい経った頃だろうか。まだ教室には他の生徒が少しだけ残っている。しかし、いつもなら俺をバカにしてくる荻野達も今日は何も仕掛けてこなかった。まあ、お昼の時間でもあるし、俺に時間を使うのはもったいないのだろう。


「そういえば」


 俺はメッセージウインドウを開いた。そこで通常ミッションを確認する。


 +メッセージ(NEW)

 

 通常ミッション(学校)

  勉強

   数学を勉強する  [0/1]

   英語を勉強する  [0/1]

      ・

      ・

   日本史を勉強する [1/3] 報酬が届いています。

      ・

      ・

      ・


 おお!?おお!!日本史の項目が[0/1]だったのが、[1/3]になっている。それにクリアメッセージも届いていた。報酬は知能+1

 いいね、いいねえ。これでどんどん、ステータスを向上できる。他にも勉強以外の項目もいくつかある。その中で気づいてしまう。


      ・

      ・

    友達を作る   [1/3] 報酬が届いています。

      ・

      ・


 ふおおおおおお。友達が作るなんていう項目もあったのか!これは、沢山作らなければなるまい?ここも恐らく、[0/1]だったのがクリアしたことによって[1/3]になったのだろう。しかし、これ何の報酬がもらえるのだろうか。気になったので確認してみた。

 その報酬は、器用+1と運+1だった。2つも+1がもらえるなんて嬉しいね!ん?後、称号もあるな。「友情」これってなんか意味あるのか?まあ、今は置いておこう。


 他にも勉強以外のミッションに何があるか眺めているとまた、誰かに声を掛けられた。


「なあ?」


「......」


「なあってば!」


 ん?なんだ?また、友達申請か?モテる男ってのは辛いねえ。俺は声を掛けてきた、人を見るためにゆっくり顔を上げた。

 そこにいたのは、金髪にピンクのメッシュ。ギャルだった。


「あ、あれ?狭山さん!?」


「お前、ボーッとしすぎだろ......」


「ご、ごめん。考え事してたんだ。それで、俺に何か用かな?」


「いや、帰りに偶然この教室で見かけてな......。それにまだ名前、聞いてないって思ってさ」


 どうやら、狭山さんは、特に用事はなかったようだが、俺の名前をわざわざ聞きにきてくれたようだ。狭山さんは、俺の前の席の人の机に乗っかかり座って足を組んだ。


「ッ!?」


 何してんだこの人は!?スカート超短いんだぞ!?そんなことしたら、また禁断の花園が開かれてしまう!!だ、ダメだ。視線が吸い込まれていく。あそこはブラックホールか!?


「んあ?お前、何固まってんだよ?」


「ななな、何でもないよ?」


 どうやら俺がその艶かしく、クロスする足の向こうを見ていたことはバレていないらしい。この人は無自覚なのか?危険だ......とりあえず、下は見ないようにして話そう。


「まあ、いいけど。それより、名前は?ってどこ向いてんだ?」


「気にしないで。そういえば、まだ言ってなかったね。えっと、時東柚月って言うんだけど」


 俺は、手を口元に持っていき、軽く咳払いをしてから、自分の名前を名乗った。


「ふーん、じゃあ、柚月って呼ぶな。あたしのことは知ってそうだけど一応。狭山紅姫な。紅姫って呼んでくれ」


 こ、この人もいきなり下の名前ですかい?たった今、一人目の友達ができた俺にとって、女子との会話はまだまだ未知数。会話程度ならなんてことないが、呼び捨てはなあ。


「えーっと、じゃあ狭山さんで......」


「......紅姫」


「え?」


「紅姫でいいって言ってんだろ!後、ちゃんとこっち見て言え」


 怒られた。どうやら、呼び捨てにしないとダメらしい。しかも、明後日の方向見ていたことが気に入らなかったのか、俺の頭を掴んで、無理やり正面に向かせられた。何か威圧感を感じる。


「......紅姫」


 俺はボソッと少し、照れながらも彼女の下の名前を呼び捨てにした。正直、狭山さんの顔も見ていられない。別に酷い顔とかそういう意味ではない。彼女もまごうことない、美少女だ。友達すらいなかった俺が、女の人の顔をまじまじと見ながら話をするなんて、ハードルが高すぎた。でも、この威圧感には逆らえなかった。


「なんだ、できるじゃねえか!できるんなら最初っからそうしろよな」


 有無を言わせない圧力があったから、泣く泣くそうしただけなんですけども。冷や汗をかきながらもどうにか、この課題を乗り越えたらしい。

 そして俺が呼び捨てをした途端、彼女からは威圧感というか、彼女の纏っている空気は柔らかくなり、彼女から笑顔がこぼれた。


 ああああ。あかん。かわいいぞ。

 思わず目を逸らしてしまった。



「じゃ、あたしはもう用事あるから行くわ!」


 本当に自己紹介だけが目的だったんだな。

 そして彼女は座っていた机から勢いよく立ち上がった。そこでまた、ひらりと翻った短いスカートの中身を俺は目撃してしまった。


「ピ、ピンク......」


 学習しないバカとは俺のこと。例によって、また彼女の下着の色を口にしてしまった。俺はいらぬことを溢す、この口を手で塞いだ。

 彼女の様子を見ると、顔を赤く染め上げ、拳を握り、ワナワナと震えている。

 はい、きました。これはお約束のパターンです。

 俺は自分のやらかしたことを冷静に分析し、次に起こる事態を予測した。


「やっぱり、変態じゃねえか!!」


 パシンっと教室に綺麗な音が響き渡った。そのビンタは避けようと思えば避けれたものだったが、反省の意味を込めて甘んじて受けさせていただきました。体を鍛えても顔へのビンタはやっぱり痛かった。


 そして、彼女はそのまま顔を赤くしたまま、背を向けて教室を出て行こうとした。


「べ、紅姫!ごめん!」


 俺はまた先送りしないようにここで彼女を呼び止めて謝罪した。


「今度。今度また見たら、これじゃすまねぇからな。覚えとけよ」


「ああ、本当にごめん!」


「ふん」


 彼女はそのまま耳まで赤い状態で教室を出て行った。

 はあ。なんで俺はバカなんだ。それにしても、狭山さんこそ、あんな短いスカート履いているっていうのもあると思う。ありゃ見えちゃうぜ。と少しの愚痴をこぼした。今度からは見ても絶対に口に出さないようにしよう。そう心に固く誓った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る