第14話:夏の終わりに「あら、ごめんなさい」

 夏の終わりはどこか切なく感じる。これは万国共通、誰でも感じることだろう。え?そんなことない?じゃあ俺だけが今そう感じている。


 明日で夏休みは最後の日を迎える。水月との買い物から戻った俺は、この夏休みのことを思い出していた。正確にはステータスが発現してから、今日までのことをだ。今年の夏は色々あった。といってもほとんどが道場に篭りっきりだったが。


 最後の方には、学校の女の子と会う機会が多かった気がする。それも皆、超が付くほどの美少女たち。学校でも人気の高い女子たちだ。

 帰りに水月とも会話していて、今日のあの店員さんはクラスメイトであることを話すと驚いていた。

 それを聞いた水月は疑問に思ったことを俺に言って来た。


「でも、あの人夏休み以降、会ってないんだよね?お兄ちゃんって気づいてないんじゃない?」


 その通りだろうな。あんな反応学校じゃ見られない。クールな綾瀬さんしか俺知らないしな。俺も言うタイミング逃しちゃったし、学校始まったら驚かれるだろうな......



 そして家に帰った俺は、これからのことを考えていた。武術はある程度何でもできるようにはなった。とりあえず、何か極めておきたいがそれには中々ハードな練習が必要だろう。それに、これまで習ったものはどれも家に一人でいては練習がしにくいものばかりだ。また、何処かのタイミングで道場には行きたいと思う。毎週土日どちらか一日くらいは行くようにしようかな。そんなに遠くないし。


 俺は自分のステータスを眺める。


 名前:時東柚月ときとうゆずき

 年齢:16歳


 基礎能力

 筋力:303

 体力:321

 精神:300

 知能:265

 器用:364

 運 :22


 エクストラ

 ステータス:LV.3

 料理   :LV.4

  ┗ 焼きそば職人:LV.3

 裁縫   :LV.2

 掃除   :LV.3

 武道   :LV.5

  ┣ 弓道 :LV.4

  ┣ 空手 :LV.4

  ┣ 柔道 :LV.4

  ┣ 剣道 :LV.4

  ┣ 合気道:LV.5

  ┗ 居合道:LV.4


 称号

 ロリコン  

 シスコン


 +メッセージ


 明らかに焼きそば職人だけ浮いているが、気にしない。今の所、家で上げれるのは料理くらいか。まあ、料理も始めてからなんだかんだ言って楽しいのは間違いない。世界の三つ星シェフだったらやはり、LV.MAXなのだろうか。そこまで何かを極めたらきっと楽しいだろうなとそう思った。俺もいつかそこまで極めてやる。当面の間は料理のレベルを上げてみようか、少しその方向で考えてみることにした。称号?そんなものは無視だ。


 ここで俺は一つ明後日の始業式にあたり大事なことを思い出した。そう、体の大きくなった俺に合う制服がないのだ。これはやばい。今までのを着たらピッチピチですごいことになる。初日から大注目間違いなしだ。別に目立ちたい訳ではないのでもちろん、小さいのは着ないが。


 制服って今からでも調達できるのだろうか。そこで俺はリビングでテレビを見ている母さんに聞いてみることにした。


「母さん。俺体大きくなったけど、制服どうしよう?どこかですぐ買える?」


 その質問に対し、意外な答えが返ってきた。


「ああ、ゆずちゃんの制服なら新しいの買ってあるわよ。クローゼットにかけてある」


 なぜに?俺が帰ってきてから日にちが経っていないのに。そんな疑問は尽きないが、どうやら母さんは俺が体が大きくなるのを見越して新しい制服を買っていたらしい。予知能力者か?


 馬鹿正直に聞いて見たら、「ゆずちゃんのことだもん。何でもわかるよ」とのことだった。ますます、分からなくなったが追求するのも怖いので気にしないことにした。それにしてもここまでとは、将来のお嫁さんが苦労しそうだ。俺が結婚できればの話だけど。


 だけども一つ問題があった。制服は買ってくれていたのだが、カッターシャツを買うのを忘れていたらしい。それだけならと思い、俺は「明日自分で買いに行くよ」と母さんに伝えた。


 そしてデイリーミッションの瞑想を1時間終えた俺は、清々しい気持ちで、猛烈に筋トレをした。とりあえず、腕立てと腹筋ができなくなるくらい頑張りました。数は数えてません。多分500回ずつくらい。それだけやっても筋力は2くらいしか上がらなかった。

 やっぱり体を動かすのが一番ステータス向上で楽しいよね!




 翌日。

 夏休み最後の日が始まった。この日も昨日同様に朝食を作った。今日は和食。ご飯に味噌汁、焼き魚にほうれん草のおひたしとそんなに難しくないメニューだ。朝から健康的な朝食を終え、俺はカッターシャツを買いに外へ出た。


 とりあえずはカッターシャツを買いに昨日も行ったショッピングモールへ行き、紳士服が売っている店に赴いた。そこでは特段何事もなく、目的のものを買うことができた。


 そして今日の目的はもう一つある。カッターシャツを買うだけならお昼からでもよかったのだが、今日は図書館にも行こうと思っていた。なぜに図書館?と思うかもしれないが、今日は静かな場所で勉強したい気分だったのだ。それも思いっきり。知識を伸ばそうと思った。来年には受験も控えているこの身。本当であれば、夏休みの期間、2年生向けの補習なども開かれていたのでそれに参加すればよかったのだが、強制ではないため、今回は参加しなかった。


 それよりも俺にはやるべきことがあったからだ。この夏に行った自身の改造は決して無駄ではなかったと思う。体は大きくなったし、護身の技術も身につけた。何より気持ちが前向きになったからだ。

 と話がそれたが、流石に受験するなら宿題くらいしかやっていないというのはあまりよろしくない。せっかく、自分の知識が数値化して見えるんだ。これを利用しない手はなかった。


 それに妹にはどうも筋肉バカと思われているらしいからな。心外な。勉強だってできるとこ見せてやる!知識だって極めることに限りはないはずだ。めちゃくちゃ頭良くなってやんよ!



 図書館に着くと、そこはクーラーで非常に涼しく、暑い外とは隔絶された世界のように思えた。入った途端に流れるシンとした空気もまたそうさせるのかもしれないと思った。


 図書館には、俺と同じく勉強をしている学生であろう姿が結構、多く見える。夏の暑い中、クーラーが際限なく冷やしてくれるこの空間は受験生にとってもありがたいのだろう。

 残念ながら、一人用の席はどこも埋まっていたので仕方なく、大机の席のうちの一つを見つけ座った。


 まず、何からしようか。数学だな。俺はカバンから参考書を取り出すと目の前に広げた。やっぱり数学は苦手なのでいつも逃げがちだったが、精神力が鍛えられたおかげかそんな逃げ腰精神もなくなった。それから集中するのは早かった。いつもなら30分するとすぐに集中力が切れていたのだが、そんな様子もなく、2時間ほどぶっ通しで数学の勉強を行った。これも精神パラメータのおかげだ。精神パラメータ万歳。


 だが、あまり根を詰め過ぎてもよろしくないことは分かっている。もうそろそろ、お昼の時間だが、その前に少しばかり小説を読むことにしようと思う。カバンから読みかけの小説を取り出した。そのタイトルは「夢の中で会えたら」というSF恋愛小説。恋愛ものなんて、思春期の男ならあまり読まないかもしれない。正直俺はどんなジャンルでも読み漁るので、この手の本を男が読んで恥ずかしいとは思わない。気になっていた続きから読み始めた俺は、夢中になるのに時間はかからなかった。

 しかし、集中力が上がったことへの弊害か、小説を読むことでさえ集中し過ぎてしまった。ほんの少しだけ読むつもりだったのに完結へ向けて激走してしまったのだ。気づけばお昼を取るには遅すぎる時間。1時間ほど小説を読んでいたことになる。

 しかし、ただ小説を読むだけの経験ですら俺の血肉となっているのが分かる。これでも知能パラメータは上がるのだ。国語勉強しているようなもんだ。


 本を読み終えて、お腹が空いたことに気づいた俺は、財布だけ持って外に出た。貴重品は特にないし、鞄だけ席に置いて席から離れている人も珍しくはない。なので何かを取られるという心配はあまりなかった。


 そして近くのコンビニで弁当を買い、図書館に戻ってきた。ちなみに図書館は2階建となっており、1回のスペースはいろんなものが展示されており、ベンチもある。飲食も可能となっているのだ。暑い外で食べるよりかはいいと思い、中の涼しい場所でご飯を食べた。


 そして遅めの昼食から戻ると自分の席に違和感を感じた。正確には自分の席にではない。自分の隣の席にだ。


 そこには一人の女性が見覚えのある小説を読んでいた。

 その小説は間違いなく、俺が先ほどまで読んでいた小説だった。

 なんで俺の小説読んでんだ?この疑問から声をかけるのは当然のことだった。声をかける前に、その女性を観察した。息を呑むような透明感のある、清楚という言葉が全くもって似合う、知らない綺麗な女性だった。


 俺は、少しの勇気を出し、その女性に声をかけようとした。しかし、俺が声をかけることはなかった。なぜなら、その女性は俺が近づくと、顔を上げこちらの顔を凝視してきて一言を放ったからだ。


「あら、ごめんなさい」


 声でさえも透き通った綺麗なものだった。

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