第7話:武術の成果「かわいい」

 結局、一ノ瀬さんと別れた後屋台に戻った俺は最後まで店を手伝うこととなった。花火が打ち上がっている最中だというのに客足は途切れることがなかった。

 最終的には材料がなくなり、そこで屋台は終了した。


 ばあちゃん曰く、途中で買い足しに行ったりして例年の倍以上の量で食材を準備していたらしいのだが、それでも足りなかった。これも料理スキルのおかげか大盛況のまま終えることができた。


 そんな焼きそばを延々と焼いていただけだったのにも関わらず、ステータスを確認すると、料理のLV.が3に上がっていた。

 そして、料理のスキルの下に新しいスキルがぶら下がっていた。


 そのスキルの名は「焼きそば職人」。これ考えたの一体誰だよ。なんで焼きそば焼く能力が単体で出来上がってんだよ。

 あまり、今後使う機会もそうないが、自分のプラスにはなったと思うことにした。

 そして先ほどの緊急クエストの報酬。これなんだと思う?

 はい。運でした。運のパラメータが3も上がっていました。これは大きい。一ノ瀬さんと再会したことで運が上がったと言う判定だろうか。


 それと後一つ。これは、あまり紹介したくないが、称号が付いていた。

「ろりこん」

 おい。誰がロリコンだよ!迷子救っただけでなんでこの言われよう!?まあ誰にも見られないのが救いだが、ステータスを見るたびに俺の心をえぐるのだった。



 ◆


 翌日。昨日の一仕事を終え、俺はじいちゃん家に泊まっていた間に与えられた部屋を掃除していた。この部屋は昔、母さんが使っていた部屋だったらしい。基本的に道場に通い詰めていたので特にこの部屋を汚したというわけではないのだが、1ヶ月近くお世話になった部屋だ。どうせなら隅々まで掃除してやろうと思った。感謝の心を忘れない。これ大事。


 ふと目を見やると本棚が視界の隅に入った。引き寄せられるかのように、その本棚を見る。基本寝るだけに使っていたので今まで気にしてなかったが、ここにはかなりの量の本がある。そこには古い書物や、母さんが昔読んでいたであろう小説などが所狭しと並べられていた。中には、よく分からない難しい本もあった。この本を読めば知識の値もいくらか高まりそうな気がする。


 パラパラと中身を流し読みしたが全く頭に入ってこなかった。一体いくらの知識の値があれば、これを理解できるか疑問だった。

 でもこれが母さんの部屋にあるってことは母さん読んだんだよね......。母さんの頭の良さを思い出し、その本を元の場所に直そうとした時、奥にある大きな一冊の本を見つけた。

 この本棚には奥側に2重で本をしまっていたらしい。

 そしてその本を手に取った。


「本というより、こりゃアルバムだな」


 少し、埃を被っていたが、比較的キレイだった。本の表表紙にはタイトルが書かれている。

「生瀬中学校卒業アルバム」どうやら母さんの中学校時代の卒業アルバムのようだ。


「そういえば、母さんの昔の話聞いたことないな」


 そう思い、血の繋がる俺から見ても若くて美人な母さんが昔どんなのだったのか興味が出た。パラパラとめくって、色んな人の顔を眺めていく。


「あー......」


 なんとなく予想通りそこには中学生とは思えない美少女が写っていた。

 やっぱり昔から母さんは美人だったんだなと納得して、今度は流し見していくと一人の少年が目についた。


「え!?これが父さん!?」


 父さんの名前がそこにはあった。というか同じ中学校で同級生だったのか。それにしても......


「似すぎじゃないか......?」


 そうそこにはまるで以前までの俺と瓜二つのそっくりな人物が写っていたのだ。一体どうすれば、こんなもやしみたいな男があんなワイルドで素敵ダンディと名高い親父になれるのだろうか。

 いや、これは俺が呼んでいるわけではないよ?人から聞いた話だ。


 でもそれには心当たりが無いわけではなかった。これってやっぱりあれだよね?

 この異常な変化は、今俺自身に起きていることに他ならないと感じた。

 これって遺伝するの?

 まあ、本当にそうなのかは分からないが、今度機会があればどこかで確認してみようか。そう思った。

 そうしてアルバムを元に戻した俺は、なんとなくスッキリとした気持ちになっていた。


 そして一通り掃除を行い、ご先祖様に挨拶をした俺は、じいちゃんとばあちゃんに見送られながら1ヶ月お世話になった家を後にした。


 ばあちゃんは「大きなって〜」と喜んでた。喜んでたならいいか。ばあちゃんには世話になった。料理もいくつか教えてもらった。

 そしてじいちゃんはまたいつでも道場に来いっと行ってくれた。そこまでこの隣町は遠くないのでまた稽古がしたくなったら遊びに来ようと思う。



 そして俺は最寄り駅から電車に乗り、自宅のある地元へ帰ってきた。

 もうすぐ8月が終わると行ってもまだまだ、暑い日は続いている。アスファルトの照り返しが激しく、うだるような暑さなのにも関わらず、街は賑わいを見せている。いつもの喧騒。1ヶ月ぶりに踏みしめた地元の地を懐かしく思っていた。


 俺はこの1ヶ月で大きく変わったと思う。もう以前のような何の努力もしない、言い訳ばかりの人生はやめにした。今はステータスという与えられた幸福を最大限に生かしてまたこの地で頑張る。そう決意を新にした。


 そんな決意を胸に帰りの道をキャリーバックを引きずりながら歩いていると何やら喧嘩のような声が聞こえてきた。せっかく良い気持ちで帰っているというのに邪魔してくれる。


 その声が聞こえる方向は自分の家へと通ずる道でもあるので、気にせず進むことにした。精神が上がったことにより、少し神経が図太くなっているのかもしれない。


「ちょっと!やめろってば!離せよ!!」


「ちょっとくらい、いいじゃねえか!遊ぼうって誘ってるだけだろ!!」


 どうやら喧嘩ではないようだ。一方的に男が女の人に対して詰め寄っているようだ。これが噂に聞くナンパというやつか。


 とここでまたもや緊急ミッション。ステータスは俺に厄介ごとも経験させたいらしい。


 +メッセージ(NEW)

 緊急ミッション

 悪漢を倒して、絡まれている女性を助けろ!



 女性の嫌がることはやってはいかんぞ。目に入ったものはしょうがないし、ミッションにも促されている。仲裁にでも入るか。


 でもあのナンパしている男ゴリゴリのイカついやつだな。体格もそこそこ大きい。「どうしよう......」と昔の俺なら逃げていただろう。しかし、武術を習った今なら勝つことは難しくても、助けることくらいならできるかもしれない。

 これは決して慢心ではない。まともに喧嘩すれば勝てないかもしれないが、自分にできることをやる。ただそれだけだ。


 そう思い近づこうとした時気づいてしまう。あの女の人どこかで見たことあるな。少しの汗がでた。

 その女の人は短いスカートに上の服は露出の多いものを着ていた。これでは、確かに軽薄そうな男も寄ってきそうなものだ。

 でも汗が出たのはそこが原因では無い。見たことのある、ギャルメイクにピンクのメッシュ。そこでナンパされていたのは、狭山紅姫だった。


「てめえ何見てやがる?」


 少しその様子をぼーっと見すぎたようだ。周りに人はいない。つまり、この筋肉ゴリラは俺に話しかけているようだ。


「ウホッ」


 しまった。ゴリラのことを考えていたら口から変な言葉が出てしまった。


「てめえなめてんのか!!」


 男は激情に駆られ、狭山さんから俺をターゲットに変えた。偶然とはいえ、これは好都合。狭山さんに手で逃げるように合図する。しかし、伝わっていないのか、彼女はその場から動こうとはしなかった。なぜに?


「危ない!!」


 そうしている内にも男はこちらに向かってきて拳を振り上げてきた。狭山さんは余所見をしていた俺に危険を知らせてくれた。

 ああ、なんでいつもこういう人って暴力的なんだろう。その身の危険とは別に頭は非常にクールだった。


 正面から殴られる。しかし、こういった場面の時にこそ有効な合気道の技がある。俺は冷静に大きく振りかぶった拳をその内側から左手で押さえ、そのまま手を引く。すると相手はバランスを崩し、前のめりになる。相手は一本足状態となるのだ。後は簡単だ。相手の掴んている方の手をもう片方の手でつまり両手で思いっきり、くるりと相手の体の内側に向けてひねる。


「いつつつつつつつ」


 そうすることでバランスを崩した相手は地面に倒れこむ。後は相手を右肩から下を押さえ、手を引っ張ることで相手は力を入れることができなくなる。

 うん、うまく成功したみたいでよかった。実戦で合気道を使うのは初めてだったが、その有用性を改めて知ることができた。


「痛い痛い痛い......」


 それにしてもやはり相手の力が強いと技もすごく掛けにくい。なるほど、俺もまだまだ練習が足りないな。でも技は家に帰っても相手がいないと練習にならないしな......。まあとりあえず帰ったら筋トレ増やそ。筋力値上げることで何かの助けにはなるはずだ。うん。


「なあ、そいつそのままでいいのか?」


「え?」


「だからそいつ......」


 ああ、忘れた。考え事してたらずっと技かけっぱなしだった。男は涙目になっている。ごめんって!泣くことないじゃん。

 いや、俺が悪い。ごめんなさい。


 俺はようやく男を解放すると、その男は肩を抑えながらこちらをキッと一睨みし、立ち去って行った。


「ざまあみろ、ばーか!」


 狭山さんは男が逃げて行った方向に向かって暴言を吐いていた。まあ、恐い思いもしたのだろうし、多少はね。俺はそれに対して何も言わなかった。

 俺でも言うかもしれないしね。


 あ、そういえば、俺、前に狭山さんのパンツ見てビンタ食らってるんだった。これは、気まずい......。

 唐突に俺の脳内には黒色の布が思い出される。いかん、いかん。

 幸いなことに多分、狭山さんも俺のことには気づいていないはずだ。あの時と大分変わってるしな。

 これは、逃げた方がいいかも。狭山さんはあっちを見ている。今のうちに......って謝ろうと思ってたのに、逃げていいのか?うーん。


「ねえ、ちょっと!」


「え!?あ、はい」


 結局考えていたら捕まってしまった。やっぱ逃げとけばよかった。

 でも悩んでいる俺に話しかけられた内容は想定外の内容だった。


「あんた、もしかしてあの時のパンツのぞいて来たやつ?なんか大分変わってるけど......」


 バレてるうううううう。なんで?エスパーか?俺の頭の上を疑問符が舞い踊る。


「そのスマホのケース。見覚えある.......」


 ああ、なるほどね。このケースのせいなのね。俺の胸ポケットに入れているスマホのケースのデザインが透けていたようだ。ちなみにそのケースは使っている人が少ないであろう、デザインだ。裏側に「努力!!!」とかいてある。こらバレますわ。


「......すみません......」


 とりあえず、謝りました。もうビンタ食らいましたからね。もう一度くらうのは勘弁だ。


「いや......でも見直した。その、助かったよ、ありがと」


 狭山さんは顔を赤らめながらも最後の方は聞き取りづらい声でボソッとお礼を言ってきた。

 恥ずかしがりながら言うその姿に思わず、俺は一言がでてしまった。


「かわいい」


「......は!?え!?何言ってんの!?」


「え!?あ、いやごめん。俺そろそろ帰ります!また学校で!!」


 気まずくなった俺は、焦り焦っている狭山さんから逃げ出すように急いでその場を離れた。


「え!?ちょっと!!」


 後ろから狭山さんの声が聞こえたが、知らぬ顔でキャリーバックを転がしながら走った。

 まあ結果オーライ。どうにか謝ることができた。

 ちなみにこのクエストの報酬は、筋力値+10でした。称号はありませんでしたよ?

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