第4話:毎日の成果「俺」

 それから夏休みが半分ほど過ぎていった。始めの頃は付いていくのがやっとだった練習も徐々に慣れていき、今ではまともに参加できるレベルまでできるようになったのだ。


 じいちゃんも、日々進歩していく孫に驚きと戸惑いを隠せないようだった。

 夏休みの半分でほぼ全ての武道をある程度できるようになったのだ。驚かないほうがおかしい。

 様々な武道を習っていたせいで一つ一つの練度はそこまで高くはないはずだったが、ステータスによる恩恵か、どれも常人とは思えない成長を見せていた。


 そして毎日毎日地獄のような特訓をこなしながら、10日ほど経った時のことだった。

 僕の体にも変化が見られた。

 この短期間にも関わらず、身長が10センチほど伸びたのだ。異常である。元々161センチしかないチビの僕が10センチ伸びて171センチ。遂に夢の170センチ台まで到達してしまった。その時は涙を流して喜んだ。体重も40kg台だったのが、今では56kgまで増加した。それでも身長に対してまだまだガリであることは否めない。

 じいちゃんは驚いていたが、ばあちゃんは「成長期だえ」と言って、何事もないかのように接して来た。


 また、パラメータも順次上がっていっている。今の僕は、一番最初に比べて、ステータスが5倍くらいになっていた。


 名前:時東柚月ときとうゆずき

 年齢:16歳


 基礎能力

 筋力:84

 体力:92

 精神:104

 知能:50

 器用:67

 運 :8


 エクストラ

 ステータス:LV.1

 料理   :LV.2

 裁縫   :LV.2

 掃除   :LV.2

 武道   :LV.3

  ┣ 弓道 :LV.2

  ┣ 空手 :LV.2

  ┣ 柔道 :LV.2

  ┣ 剣道 :LV.2

  ┣ 合気道:LV.3

  ┗ 居合道:LV.2


 +メッセージ


 これが今の僕のステータス。あのチャンピオンと比べるとゴミみたいなもんだが、そもそも比べる相手が間違っている。

 ちなみなんか色んなの覚えたら、エクストラを「武道」としてまとめれるようになった。

 そして全体的にステータスが向上したのは何も武道の練習だけでこうなったわけではない。


 僕は自分の努力した証が目に見えることが分かってから、頑張ることが楽しくて仕方なくなったのだ。

 そして既に僕はこの時点でステータスジャンキーになっていた。つまりはステータス向上が毎日の喜び、趣味と化していた。こいつどこまで伸ばせられるか、自分をどんなスーパー人間にできるか、それが生きがいになったと言っても過言ではない。そして、僕はいつかあのチャンピオンのような高みへとたどり着くことを目標としている。

 もちろん、欠かさず、デイリーミッションもこなしている。


 そしてパラメータを伸ばす上でわかったことがある。それは正しい行いをすることだ。

 何も一日一善を目指しているわけではない。

 正しい行いというのは、そのパラメータを伸ばす上での努力のことだ。

 例えば弓道。むやみやたらに弓を構えて適当に放ってもパラメータの上がりはあまり良くない。教わった通りの正しいフォームで行うことによって、その強化値も良い方向へとプラスされていくのだ。

 僕はこのステータスを使って、正しい方法というのを学ぶこともできるということが分かった。


 つまりは、効率のいい筋トレを行うために試行錯誤し、一番パラメータの上がりがいい方法が出るまで何度でも何回でも試すのだ。

 そうして一番成果のいい方法を見つけ、実践し続ける。これが一番効率が良い。


 しかし、このステータスを得られるようになっても他の人の強さがわからない。そこで今の自分を測るため、じいちゃんに頼んで、軽い模擬戦相手を用意してもらったのだ。


 その模擬戦の内容は柔道。

 相手は僕と同じように最近始めたばかりの初心者。それでも僕と明らかに体型が違って、向こうの方が有利に思える。

 相手は身長180センチほどある。体重もその分重そうだ。

 普通は体重別にするのだが、今回は新人同士の模擬戦ということで体重分けは行なっていない。


 じいちゃんもいくら僕の成長が早いと言ってもここまで体格の違う相手にうまく立ち回れるとは思って居なかっただろう。


 しかし蓋を開けてみれば。


 圧勝という文字が僕に降り注いでいた。実際に降り注いだわけではないが、凄く気持ちよかったのでそう表現した。


 このステータスの効果は計り知れない。これほどの体格差の相手であってもいとも簡単に投げ飛ばす事ができたのだから。柔道の値だけでなく、筋力のパラメータも作用してのことだろう。


 とにかく、今の僕は体格の差くらいでは埋めようのない実力が備わっていることが分かった。



 ◆


 それから更に数日立ち、もう夏休みも残り5日を残すところとなった。

 やはりステータスの恩恵とも言える異常な成長度にじいちゃんは途中から何も言わなくなっていた。


 そしてこれが現在のステータス


 名前:時東柚月ときとうゆずき

 年齢:16歳


 基礎能力

 筋力:277

 体力:297

 精神:300

 知能:204

 器用:196

 運 :16


 エクストラ

 ステータス:LV.2

 料理   :LV.2

 裁縫   :LV.2

 掃除   :LV.2

 武道   :LV.5

  ┣ 弓道 :LV.4

  ┣ 空手 :LV.4

  ┣ 柔道 :LV.4

  ┣ 剣道 :LV.4

  ┣ 合気道:LV.5

  ┗ 居合道:LV.4


 +メッセージ


 なんとステータスがLV.2に上がっている。運を除くパラメータの平均が200を超えた時だろうか。その時にレベルも上がった。どうやら一定のステータスを得ることでレベルが上がるらしい。


 そしてあのボクシングマンほどではないが何やらもそこそこ人外に片足を突っ込みつつあるようだ。

 しかし、このパラメータは上がれば上がるほど、上昇率が落ちてくる事が分かった。それをより極めようと思えば、より多くの練習を行うしかないということだろう。継続は力なり。

 ちなみに例えば剣道一つにしてもこのLV.だけであれば、それほど高くないように思える。

 ボクシングの世界チャンプはLV.MAX。あれがいくつでMAXなのかは未だに分からないが予想は10かな。そして今の剣道のLV.でも俺はそこそこ戦えている。


 しかし、このLV.には裏がある。おなじ剣道でも例えば相手のパラメータを見た時、俺よりLV.が1くらい上でも勝つ事ができる。それは「武道」でまとめられているステータスが高いほど、下にぶら下がる能力も向上するということが原因だ。

 なので武道の下にぶら下がる能力の一つを向上させることによって上の武道のLV.は上がり、その恩恵は他の全てにも与えられるという事だ。すばらしい。


 ちなみになんでこのことが分かったかというと模擬戦をした生徒の一人のステータスを見る事ができたからだ。今では月に二度まで誰かのステータスを見ることができる。一応後1回は置いている。


 それにやっていて気づいたが、俺はやはりじいちゃんの孫ということか合気道との相性がいい。これが一番能力を上げやすかった。それにしてもバランスよく上げることも大事ではあるが、どれか特化させておく方が良い気もする。

 やはり一つの能力を極めた相手には勝つ事が難しくなるような気がするからだ。

 器用貧乏にならないように、まずは合気道から極めていこうかと決意した。


 また、この合宿と言える日々の中で新しい出来事があった。それは緊急ミッションというもの。よりゲームっぽくなったな、おい。目の前に急にメッセージが表示された時は何事かと思った。


 緊急と言っても、別に緊急性はなしに等しかった。「模擬戦の相手を倒せ」だとか「一本取れ」だとかそんなんだ。その時々に発生するミッションだな。もちろん、これをクリアすると報酬がもらえる。より困難なミッションをクリアするほど、それに付随して報酬も上乗せされるということだ。格上相手を偶然倒せた時なんか、筋力、体力+10とかあったんだぜ?めちゃくちゃ嬉しかった。

 多分ステータスのレベルが2になってから出るようになったんだと思う。ステータスのレベルが上がるまで誰かと戦ってもそんなの出なかったし。


 そして俺自身の見た目も夏休み前とは明らかに異なっている。

 人間どうすれば、夏休み一月ちょっとでここまで人間が変わるだろうか。

 自分で見ても気持ち悪いと思う。


 なぜなら、その体は元々、161センチ、42キロしかなかったのだ。

 もう貧弱も貧弱。まるでもやしだ。どうやって生きて来たのか振り返ってもわからない。


 それが今や、174センチの64キロまである。

 一月で10センチ以上の成長は成長期というには言いすぎた成長だった。

 身長なんて13センチ伸びてるし、体重も22キロだ。人間体重が一月で1.5倍になったら体に異常をきたすと思う。

 いや、既にきたした結果こうなっているのか。

 腹筋?そらもうバッキバッキよ。

 ついで他の部分もムッキムキである。程よい程度にね。決してゴリゴリではない。


 おかげで全ての服や靴、下着に至るまで買い直すことになった。どの服も元の持っていたいたものを着ればぴっちぴちどころではない。無理。まず入らない。


 着る服がなければ買いに行くこともできないが、ありがたいことに今は便利な世の中。人間の叡知の結晶、インターネットなるものが存在している。

 家に居ながらにして服を適当に見繕い、注文した。

 もちろん、今まで身長、体格のせいで着ることの叶わなかった服を大量に購入......とまでは行かなかった。お金ないしね。


 今は夏だし、適当なサイズの合う、Tシャツなどを買った。


 そして俺は変わった体つき、顔つきを前に顔を覆っていたうっとおしい髪を切ることにした。

 体格に似合わなさすぎるその長い髪型を見た女性の美容師は、始めぎょっとしていたが、髪が短く、さっぱりしたところで態度は軟化したように思えた。

 顔が隠れるほどの長い髪の毛でボサボサだった時の俺は明らか陰気な感じが漂っていた。それだけにこんなに爽やかに仕上げてくれた美容師さんの腕は流石だと思った。髪切る技術教えてもらえないかな?スキルに刻みたい。


 そして明日には実家に帰ることになっているが、今日は練習をおこなっていない。最後の練習の挨拶は昨日既に済ましているのだ。

 では、なぜ今日は帰らないのか。

 答えは簡単だ。今日のこの町で夏祭り、花火大会が開催されるからだ。田舎ではあるが中々の規模を誇り、隣町からの見物客も決して少なくはない。


 うちの家からじいちゃんがその祭りで露店を出すことになっているので今日は練習がなく、俺も手伝いをするっていうことだ。

 夏中にはじいちゃん達に世話になったからせめてものお礼のつもりで頑張ることにした。


 ちなみに一人称は俺にした。せっかく見た目も一新された訳だし、もう少し堂々と生きようという気持ちの現れでもあった。

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