第3話:反骨精神「あ、黒......」

 期末テストが終わり、テスト返却の日がやってきた。

 今回の出来は決していいと呼べるものではないが、普段からあまり良くない成績の僕にとっては、十分な点数であったということだけは言っておこうと思う。

 いつもなら赤点を取っていた教科も今回は全て回避し、全体的に1.2倍くらいの点数になったとだけ言っておこう。

 まあ、普段どんだけ悪かったんだよという話だが。


 そしてテスト後、そんな僕のステータスにも変化が訪れていた。

 そうエクストラが増えたのだ。

 これが今の僕のステータスになる。



 名前:時東柚月ときとうゆずき

 年齢:16歳


 基礎能力

 筋力:34

 体力:20

 精神:24

 知能:29

 器用:25

 運 :4


 エクストラ

 ステータス:LV.1

 料理   :LV.2

 裁縫   :LV.1

 掃除   :LV.1


 +メッセージ


 あれから僕はデイリーミッションを毎日欠かさずにこなした。腕立てに腹筋にランニング。勉強系に料理、裁縫。掃除に洗濯なんていう項目も存在した。しかし、家事したらエクストラスキルが何やら増えている。そんなものまでスキルに体系化されるらしい。そしてデイリーミッションの恩恵だが、こなしたミッションの種類によってその能力値が+1されるというものだ。例えば、ランニングをこなせば、体力が+1される。デイリーミッションに関係なく、頑張っても増えるが、これをやらないという手はない。というより、やらなければペナルティが待っている。僕にサボることは許されないらしい。

 後は、ミッションによっては新たなスキル取得にもつながったりする。掃除とかがまさにそうだ。


 まあ、普段していないことをすることが如何に辛いかは身をもって知れた。これからはコツコツ頑張っていこうと思う。


 頑張れば、頑張るほどステータスは上がる。そしてデイリーミッションをサボればその分ステータスが下がってしまう。本当によくできてるよ、ちくしょう。どうやら謎のステータスは僕を毎日頑張らせたいらしい。

 これがステータスを与えられた者の呪いか。上がる喜びを持つとと同時に下がる恐怖をも背負わなければならないとは......。しかし僕は決めたんだ。生まれ変わると。


 ステータスのことを考えていると、クラスではわいわいと夏休みの予定についてみんなが話していた。期末テストも終わったのでもうすぐ夏休みだ。

 僕にも計画があるので楽しみな気持ちはわかる。


「それで、夏はどこいく〜?」


「やっぱり、海でしょ!」


「いいねえ〜!」


「じゃあ、クラスのみんな誘っていこうよ!」


 荻野のグループが楽しそうに話している。水野もその中に含まれており、夏の計画を立てているようだった。


 このクラスは割とみんな仲がいい。荻野を筆頭に彼らのグループのメンバーは誰とでも仲良くできるのだ。

 みんなと言ったがこれには語弊がある。だって、僕は誘われていないからね。

 そのほかにもちょくちょく誘われていない子はいる。物静かな子や僕みたいな隠キャはこういうイベントには誘われない。


 でも海か。いいな。確かに水原さんの水着姿とか見て見たいけど。それでも今の僕には遊んでいる暇はないんだ。

 自らを厳しく律するものだけが到達できる高みに僕は挑む。


 そんなことを考えて水原さんたちを見ていたらまた、その視線に気づいた荻野に絡まれた。


「お前、やっぱり茜こと見てたよな?ははーん、お前も海行きたいのか。どうせ茜の水着姿でも想像してたんだろ?」


「え、気持ちわるーい」


「こんなやつとか絶対誘わないでよ?」


 全くもって何も言っていないのにも関わらず、荻野が僕の悪評を広めようとしてくる。それに関して、周りの女子たちも僕に侮蔑の言葉を吐き捨てる。


「もう!みんなそんなこといっちゃダメだよ?えーと、君もよかったらくる?」


「ご、ごめん。やめとく」


「茜、やっさしい〜!でもいかないってさー。ドンマイ茜!」


「もう!そんなんじゃないからね!そっか、じゃあまた気が向いたら声かけてね?」


 優しい水原さんは笑顔で僕のことも誘ってくれた。しかし、僕がそれを断るとふと冷たい表情になった気がした。しかし、周りが囃し立てたことによってその表情は元の明るいものに戻った。気のせいだったのかな。


 しかし、周りの奴らは相変わらず、僕のことをバカにしているな。

 ふふふ。いつもの僕なら非常に凹んでいたことだろう。しかし、今僕にはそんなものまるで聞かない。必ずだ。必ず見返してやる。だから今のバカにするような言葉は全て、僕の反骨精神を育てるのに一役買ってもらうことになるのだ!!


 しかし、確かに精神が上がっている実感があるな。前からバカにされても気にしないようにはしていたが、やはり凹むこともあった。しかし、今はやる気に満ち溢れている。これは精神パラメータが上がったことによる恩恵かもしれない。

 あれ?バカにされて喜ぶなんてドM専用のパラメータじゃないか、これ?


「あんた、あれだけバカにされて悔しくないの?」


 とここで隣の席に座る、黒髮クール美少女が声をかけてきた。

 彼女の名前は綾瀬橙火あやせとうか。なんかかっこいい名前だ。

 彼女は特にグループなどに属することはなく一人でいることが多い。一人でいるが、その容姿も相まって人気者であることに変わりはない。


「はは、まあいつものことだし......」


 もっとも悔しいという感情など超越した。今の僕はポジティブの塊だ。


「情けないやつ......」


 どうやら彼女にまでどうしようもないやつだと思われたらしい。いや、これは元々か。

 まあ、兎も角もうこの教室にいる必要もないので僕は教室を後にした。


 その時スマホが震えたのを感じた。ポケットから取り出して確認すると、妹からのチャットだった。帰りにアイスを買ってこいと言うもの。自分で買えばいいじゃん。そう思いながら返信をしようとスマホを打ちながら廊下を曲がろうとした時、誰かとぶつかって、尻餅をついた。


「あいたたたたた」


「いったー!なんなんだよ、もう!!」


 目の前にはギャルがいた。派手な金髪にピンクのメッシュに濃いメイク。まつ毛バサバサだな。こいつは、別のクラスの有名な美少女ギャルこと狭山紅姫さやまべにひめだな?

 なんか苺っぽい名前をしている。

 そしてあろうことか持っていたスマホは僕の手を離れ、ある部分に滑っていく。

 僕はそのスマホが滑っていった方向を見た。


「あ、黒......」


 思わず、見たままの感想を口にしてしまった。

 なんとアダルティーなものを......

 とそんな僕の視線は秘密の花園に釘付け。僕のスマホはなんと彼女のスカートの中に滑っていったのだった。

 そして不幸にもそんな視線、そして呟きに彼女は気づいてしまい、スマホを取り上げ、足を閉じた。

 ああ、残念......

 そして彼女は、顔を真っ赤にさせて一言。


「このっ!変態が!!!」


 バシッと渇いた音が響いた。罵りに加え、おまけのビンタ付きだった。しかも投げられたスマホも僕にヒットした。

 狭山さんは僕にキレイな紅葉型をつけると走り去ってしまった。


 このスマホがあの場所に......ごくり。

 偶然とはいえ、良い物を見た。しかし、流石に僕も悪い気がしてきた。今度謝ろう。

 でもビンタされても内心全く動揺がなく、むしろ喜びさえ感じる。やっぱり僕はドMなのかもしれないと自覚した。


 ◆


 時間の流れとは早いもので、ついに終業式も終わり夏休みが始まった。

 じいちゃんの家は隣町に存在している。この辺の地域はある程度栄えているのだが、隣町はいかんせん田舎だった。


 そして僕は早速おじいちゃんの家に泊まり込む準備を行い、遂にその道場のある大きな屋敷とも呼べる家の目の前に立って居た。


 しかし、僕は中々、中に入れずにいた。以前この道場に通っていた時には道場に通う同い年の子にボコボコにされ、逃げるようにしてやめてしまったからだ。電話ではおじいちゃんに歓迎されていたが、もしかしたら昔からいる門弟には「今更何しに来たんだよ」と非難の目を向けられるかもしれないと思っていた。


 それでもここを進まなければ、何も始まらない。

 まずは家の方のチャイムを鳴らす。すると中からドタドタと慌ただしい音が聴こえてくる。


「あら、ゆずちゃん!よく来たわね!いらっしゃーい!!」


 そう。僕の母方の祖母である、伊勢銀子いせぎんこが出迎えてくれた。非常に歓迎されており、その様子から見て取れるように母さん同様、孫である僕を溺愛している。


「ばあちゃん、久しぶり!じいちゃんはどこにいる?」


 僕は道場にいるであろう、じいちゃんの居場所をあえてばあちゃんに聞いた。


「あの耄碌もうろくじじいったら、かわいいゆずちゃんが来るっていうのにも関わらず、道場に篭りっきりよ。今日はあのじじいの嫌いなナスの料理にしてやるわ!!」


 やはり道場にいるらしかった。それにしてもナスはやめていただきたい。僕もじいちゃん同様ダメージを受けてしまう。


 僕はばあちゃんと他愛ない話をした後、荷物を部屋に置いて道場に向かった。


 じいちゃんは今日のこの時間帯は弓道場にいるらしい。

 他の門弟の視線を覚悟しながら僕は、その弓道場に足を踏み入れた。


 そこには何人かの生徒が、静かに集中して矢を放っていた。

 心技体。その全てを地でいく人物が一番奥で矢を射っていた。

 他の生徒さんとは違う雰囲気がそこには存在している。素人目からしてもそうなのだから、身近な人はより凄く感じるかも知れない。


 そして僕はその人物が数本射るのを見守った後、声を掛けた。


「じいちゃん、久しぶり!」


「おお、柚月か!よく来たな!」


 そこには威厳を保ちつつも久しぶりに再会する孫に対する喜びが見て感じて取れた。


 じいちゃんにはなんでまたこの道場に通う気になったのかを予め、電話で話してある。

 既に道着に着替えて居た僕はじいちゃんに教えを請いながら、早速弓道の基本から教えてもらうこととなった。


 教えてもらうと言っても僕は初心者。いきなり弓を引かせてもらえるなんてことはなかった。

 弓道には「射法八節」という基本動作が存在している。その8つの基本動作をじいちゃんから丁寧に教えてもらいながらゆっくりとでも着実に練習を行なっていった。結局初日はそれだけで潰れてしまったのだけど。




「ふああ〜〜〜」


 今現在、僕は風呂に浸かっている。それはもう田舎のでかい屋敷らしいでかい浴場だった。

 そんな大浴場で今日の疲れを滲み出しながら、成果を確認した。


 名前:時東柚月ときとうゆずき

 年齢:16歳


 基礎能力

 筋力:35

 体力:22

 精神:27

 知能:30

 器用:28

 運 :7


 エクストラ

 ステータス:LV.1

 料理   :LV.2

 裁縫   :LV.1

 掃除   :LV.1

 弓道   :LV.1


 +メッセージ


 どうやら、基本的な動作だけでもスキル取得に効果はあるらしかった。

 そして、やはり運動を行なったおかげか筋力、体力ともに向上している。そしてやはり武道というわけで精神も向上したようだ。


 明日は1日かけて、空手と柔道を習う。また、基本仕込みになるだろうがそれは覚悟の上だ。

 その日は風呂を上がった後、豪勢なばあちゃんの手作り料理に舌鼓を打ち、眠りについた。

 しかし、目を閉じる前に思い出してしまう。今日のデイリーミッションやってねえ。

 体中筋肉痛の中、涙を流しながら、腕立て伏せを行うのだった。

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