第2話:能力の上昇「僕変わりたいんだ!」

 先ほどの急に見えるようになったステータス画面。僕はその画面を最小化したことも忘れ、数学の宿題にふけっていた。別にデイリーミッションを意識してでのことではない。偶々、数学をしようと思っただけだ。


 僕は特に勉強ができるわけではない、故に宿題一つするだけでもかなりの労力を消費してしまう。

 そしてようやく終えた宿題とは別に、僕は続けて勉強を行う。別これは僕が勤勉で努力家というわけではない。ただ単純に目の前に期末テストが迫っているのだ。

 1学期中間テストで散々な結果だった僕は、お小遣いを減らされてしまった。だからこそ、この期末テストではある程度の点を取って、失われたお小遣いの復活を試みなければいけないのだ。

 まあ、使い道と言っても漫画を買ったり、趣味のコーヒー豆集めくらいなんですけどね。


 しばらく集中していたが、ふと先ほどのステータス画面が気になった。何気なしに念じてステータス画面を開く。



 名前:時東柚月ときとうゆずき

 年齢:16歳


 基礎能力

 筋力:16

 体力:11

 精神:18

 知能:16

 器用:16

 運 :2


 エクストラ

 ステータス:LV.1


 +メッセージ


 一体何なんだろうな〜とこの画面を眺めているとあることに気づく。


「え!?」


 目を凝らして、何度か見直しても結果は変わらない。

 そう、知能の値が伸びているのだ。最初このステータスが出た時は、確か......15だったはずだ。それが今は16に伸びている。


 つまりはだ。今僕が勉強したことによってこの摩訶不思議な僕を構成する値が伸びた、ということだ。

 しかし、だからなんだというのだ。結局は屁のツッパリ。値は上がっているが、賢くなったとは微塵も感じない。

 でもこれってもともとの値が低いだけなのでは?と疑問が湧いた。


 これは比較対象がないと自分がどの程度なのかわからない。


 ついでだが、デイリーミッションの方も見てみた。


 デイリーミッション

 毎日コツコツがんばりましょう。


 −腕立て伏せ [0/100]

 −数学の勉強 [2/1] − cleared

 −瞑想    [0/1]


 おや?数学の部分がクリアになっている。この感じからするとどうやらこれは時間のようだ。瞑想1時間もしろってか。そんなことやってられっか。まあ、でもデイリーミッションというくらいだ。終わったらなんか報酬とかありそうだ。とりあえず、一旦置いておこう。


 この考えに至ったところで、晩御飯に呼ばれたのでリビングに降りることにした。


 リビングでは仕事から帰って来た父さんが椅子に座ってカレーを待っていた。今日は残業はなかったらしい。


 しかし、この男。自分の父親には見えない。その見た目はアラフォーにしては若く、高身長に程よく鍛えられた筋肉、整った顔つき。昔はさぞモテたであろう。今もワイルドかつダンディなのでそういったのが好みな人には今もモテているだろう。

 それは母さんも同じで若作りで美人の部類に入る容姿だ。


 そして目の前に座っているのは、僕の妹である、水月みずきが座っている。

 水月は中学三年生で僕の2つ下である。そのかわいらしく、守ってあげたくなるような容姿から学校ではおモテになっているらしい。


「もう、お兄ちゃん!冴えない面してないでご飯よそってきてよ!」


 と家では全然守りたくなる要素がない。むしろ僕より身長も高いので僕が守ってもらうべきである。


 父さんも母さんも、そして妹までも皆容姿がよい。

 僕は一体誰の遺伝子を受け継いでいるのやら。一瞬、母さんの浮気を疑ったがそれはない。何せこの夫婦、未だラブラブなのだ。それはもう、うっとおしいくらいに。


「はい、風月かずきさん。あ〜ん」


「あ〜ん」


 親のイチャつくものほど子供の精神衛生上よろしくないものはない。

 さっさと食べてまた部屋に戻ろう。


 カレーを矢継ぎ早に駆け込もうとした時、点いていたテレビから歓声が聞こえた。どうやら、今夜はボクシングのタイトルマッチを放映しているらしい。

 日本人のチャレンジャーと世界チャンピオンとの一戦だ。

 しかし、その歓声は日本人チャレンジャーが完膚なきまでに打ちのめされ、チャンピオンがK.O勝ちを決めたものだった。


 そこで先ほどのステータスを見ていた僕は思ってしまった。こんなすごい人のステータスは一体どうなっているのだろうか。


 そう思った瞬間、テレビでインタビューを受けるチャンピオンのステータスが表示された。

 そのステータスを見て僕は絶句してしまった。



 名前:ネルソン・G・キャンベル

 年齢:29歳


 基礎能力

 筋力:921

 体力:761

 精神:865

 知能:163

 器用:453

 運 :48


 エクストラ

 ボクシング:LV.MAX


 称号

 神の右腕


 馬鹿げている。化け物かこいつは!?その筋力値も他の値も。特にこのエクストラがやばいレベルマックスが一体なんのなのか今はわからないがとりあえずすごい。称号もなんかかっこいい。

 これが世界と僕との差か......

 挑戦しているわけでもないくせに僕は、戦ったみたいな感想が出た。


 しかし、これで何となく比較ができてしまった。比較する相手が超強大な相手すぎる気もするが。

 つまりはだ。僕が彼にボクシングで勝ってチャンピオンになるには、彼を上回るステータスを手に入れれば良いということだ。


 ついで父さんと母さんのパラメータも確認してみようと念じてみたが何も現れない。

 なんでだ?あ、そういうことか。ステータスに表示されている、ステータスというスキルだ。分かりにくいな。このレベルによって他人のステータスの確認回数が変わるらしい。

 念じたら、説明が出てきたわ。今のレベルだと月に一人までしか見れないらしい。いきなりテッペン見てしもたがな。もうちょっと身近な人見ればよかった。


 しかし僕はワクワクしていた。

 別にチャンピオンになりたいわけではないが、せっかく可視化ができるようになったのだ。もうすぐ訪れる夏休みを通して、ステータスを伸ばせるだけ伸ばしてみよう。そうすれば僕をバカにするクラスの連中だって、見返せるかもしれない。

 そうと決まれば、自らを改造する計画を立てる。


 部屋に戻った僕は、自分のステータスを見直した。


 名前:時東柚月ときとうゆずき

 年齢:16歳


 基礎能力

 筋力:16

 体力:11

 精神:18

 知能:16

 器用:16

 運 :2


 エクストラ

 ステータス:LV.1


 +メッセージ



 なるほど。この運という値は先ほどのチャンピオンの数値と比べてもパラメータとして上がりにくいらしい。しかもイマイチあげ方が分からん。

 やはりあげやすいのは、筋力であったり、体力や知能といったところだろうか。


 筋力は単純に筋トレでもしてれば上がりそうだ。体力は走り込みかな?

 知能はさっき勉強したことで少しの上昇が見られたし、勉強を頑張ればどうにかなるだろう。

 しかし、どれも今まで頑張ろうと思っても全く続かなかったことばかりだ。僕は本当に続けることができるのか不安になっていた。それでもやはり、自分が頑張った分だけ能力が上がるというのは、ゲームみたいでこれまでよりも頑張れる気がした。


 僕は、期末テストの勉強をそっちのけで夏休みに行うことの計画を考えた。まずは、そうだな。単純に筋力を上げたい。むきむきになりたいわけではないが、やはりガリガリの僕は、舐めて見られる傾向にある。


 先ほど、ボクシングのテレビを見ていたせいか僕は単純にどうせなら格闘技か護身術を習おうという結論に至った。

 そして思い立ったらすぐに行動をする。一つの思案を元にリビングに降り、キッチンで洗い物をする母さんに僕は告げた。


「母さん!僕、夏休みおじいちゃんとこに行く!」


 それを聞いた母さんの驚いた顔と言ったら一生忘れられないだろう。


「どうしたの、ゆずちゃん!あんなにおじいちゃんとこ行くの嫌がっていたじゃない!!それに、今更ダメよ!!」


 そう僕のおじいちゃん、母方の祖父は田舎で様々な武道を扱う道場を開いている。それは柔道に弓道、剣道に空手。合気道、居合道に至るまでほぼ全ての武道を網羅している。一番段位が高く得意なのは合気道らしいが、他も基本的に全てできるというスーパージジイだ。失礼。スーパーじいちゃんだ。


 しかし反対だった。母さんは昔僕がおじいちゃんの道場に連れて行ってもらった時、同い年くらいの男の子にぼこぼこにやられて泣いているの見ているのだ。そんな様子を見ていられなかった母さんはすぐにでも道場を辞めさせたのだった。母さんは僕のことを溺愛しすぎている。全く子離れができていないのだ。


「でも母さん!僕は体が貧弱だし、いっつもみんなにバカにされてるんだ!だから今からじゃなくて、夏休みの間だけでもダメかな??僕変わりたいんだ!!」


 恐らく、僕が母さんの意見に真っ向からぶつかったのは初めてだったのでそれにも母さんはすごく驚いていた。

 それと僕は普段、学校で受けている扱いとか悩みとかを両親には言ったことはない。思い切った僕の告白に母さんは少しのショックを受けているようだった。


 鬼気迫る僕の迫真の打ち明けに母さんは一考する。


「分かったわ......。お父さんともちょっと話してみるから。それでいいって言われた好きにしなさい」


 母さんはそう言うと父さんのいる2階の部屋へ向かっていった。



 20分ほど経っただろうか。遅いな。なんかすごく長い時間話している気がする。やっぱり父さんも反対なのだろうか。

 そう思った時、階段から足音が聞こえてきた。


 あ、終わった。

 緊張して母さんがリビングに戻ってくるのを待った。

 そして戻ってきた母さんは諦めたように言った。


「お父さんは好きにさせなさいって......」


「え!?っていうことはいいの!?」


「ただし、自分に合わないと思ったり、怪我とかしたらすぐに辞めること!いい??それだけは約束してね?」


「やったあ!母さん!ありがとう!」


 こうして僕は夏休みの期間を通して、おじいちゃんの家に、道場に泊まり込みで行くことを許されたのだった。

 そうと決まれば僕は、それまで知能を伸ばすことにした。

 伸ばすことにしたって言ってもどうせ期末テストだから勉強するだけなんだけどね。

 だけど自分の頭が良くなっていくのがわかるので、いつも以上に勉強を頑張れた気がした。


 テスト勉強をしていて思ったのだが、このステータス画面ができてから物事の吸収が格段に良くなったように感じた。

 正確には知能のパラメータが上がれば、それに伴い理解力が増したというのかそう感じるのだ。

 今までは解いても全然わからなかった、微分積分も今ならある程度、わかるようになってきた。知識の定着というべきだろうか。


 今年の夏で僕は一味変わる、そう確信せずにはいられなかった。


 そして僕は、これに夢中になっていた結果、デイリーミッションを完全に放置してしまっていた。


 その日の夜。僕は、悪夢を見た。それはランニングマシンのようなベルトコンベアの上を永遠に走らされる夢だ。走るのをやめれてばいいかと思うかもしれないがそれはできない。なぜなら後ろには数多の剣山がひしめき合っていたからだ。そもそも夢の中なので体は言うこと聞いてくれなかったのだが。


 そんな悪夢から目が覚めた時、僕の体は汗びっしょりだった。


「なんであんな夢を......」


 なぜか僕は気になってステータス画面を見た。


 名前:時東柚月ときとうゆずき

 年齢:16歳


 基礎能力

 筋力:15

 体力:11

 精神:17

 知能:15

 器用:16

 運 :2


 エクストラ

 ステータス:LV.1


 +メッセージ(NEW)


 そこにはメッセージ(NEW)の文字。そうか、日付が変わったから新しいデイリーミッションが追加されたのか。そう思ってメッセージボックスを開けた。


「な、なんじゃこりゃ」


『デイリーミッションが届きました』


 デイリーミッション

 デイリーミッション失敗により、あなたの能力値が一部下がりました。

 デイリーミッションは失敗するごとにあなたに不運をもたらします。

 気をつけましょう。


 −ランニング [0/10km]

 −英語の勉強 [0/1]

 −料理    [0/1]


 冗談じゃない!!そんなことあってたまるか!筋力、精神、そしてせっかくあげた知能まで軒並み下がっている。つまり、サボるな。そういうことらしい。

 くそ!やるしかないのか......


 と、とりあえず。毎日頑張ろう。そう心に決めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る