第39話

 面倒なことは、早く終わらせたい。


「………………………」


「………珠希殿……」


 二週間が経ち、いよいよラスボスである王城を攻め落とそうと集まったエルフ、ヒューマン、を除く9人の幹部と1匹。


 ベルセルクが心配そうに珠希を見つめ、肩に乗っているフェンリルも心配そうに一生懸命珠希のほっぺたを舐めている。


 王の威圧。 今までオスクロルからしか感じ取れなかった圧倒的な威圧感に、ただただ気圧される。


 唯一、動じないのはーーーーー


「ほれ、お主。もっと肩の力を抜かんか」


「珠希様、肩をお揉みしましょうか?」


 嫁五号と嫁三号である。珠希は二人が視界に入った瞬間に、威圧が一気に無くなり、いつもの雰囲気に戻った。


「………悪い。ありがとう」


 当然、こうなっている原因はラスボスである相手の王についてのこと。湊達の助言にしっかりと耳を傾け、作戦を魔眼と練りに練りまくった結果が今の珠希である。


「揃っているな」


 魔王の登場に、集められた精鋭たちが膝を着く。無論、珠希も周りに倣い、オスクロルへの忠誠を誓う。


「多くは語らないーーーーー勝ってこい。以上だ」


 空気を震わせるほどの狼煙の声。そんな中珠希は一人で姿を消し、いきなりラスボスの目の前へ転移した。


 胸を熱くするお涙頂戴の展開なんていらない。


 仲間と絆を確かめ合いながら汗水垂らしながらの展開なんていらない。


 視認すら許さない、命を刈り取る死神の一撃。玉座にて偉そうにふんぞり返っていた醜き人の王は、珠希と全てを知る魔眼の前では塵芥に過ぎなかった。


 ザシュッ!と共に珠希が放った魔法による首と胴体がおさらばする。切り取られた場所から血が間欠泉のように吹き出し、肥えた体が力なく玉座の下に落ちた。


 そして遅れてやってきた幹部たち。珠希の元へ来たのはベルセルク、ルシフェラ、そして魔王のオスクロルのみ。


「……終わっている?」


「まだだ!」


 珠希が声を張り上げる。死体からは黒いモヤのような物が吹上、それが次第に形作っていた。


「……ま、まさか……」


 オスクロルの声が恐怖の色に少し染った。ベルセルクも信じられないものを見るようにモヤを眺め、ルシフェラに至っては親の仇を見るような目でモヤを見つめている。


 そう、それはオスクロルのの象徴。黒いもや、そして辺りに満ちる邪悪な王の気配。


 淫魔インキュバスの復活である。


 しかし、簡単に復活させるなどそうは問屋が卸さない。この時のために何度珠希がシュミレーションをしたか。湊の助言のおかげで知った、唯一魔王を恐怖に染め上げることにできる存在。


 そんなやつ。魔王を嫁に持つ珠希が許すはずあるわけないだろう。


「フンっ!」


『あっ、ちょ!待て、待て人間!我、まだ復活の途中だから!』


 知るか、というのが珠希の見解である。復活途中の弱っている精神体。


 完全に滅ぼすにはうってつけのタイミングである。


 珠希は合掌をすると、黒いモヤがまるで両の手で押しつぶされるかのようにペシャンコに薄くなった。


『待って!本当に待って、折角……折角この人間軍を支配し、また王の座に立ったというのに………!』


「知るか。オスクロルを狙おうとした自分の運の無さを恨むんだな」


『おのれ……おのれ異世界の勇者め…!貴様さえ……貴様さえ邪魔が入らなければ』


「地獄に堕ちろ。このクソヤリ○ン野郎が」


『おのれぇぇえぇぇえぇ!!!』


 パァン!と弾けるように黒いモヤが消えてなくなる。すぐさま珠希が魔眼で生死の確認をし、何秒か前の過去を遡り、魔眼が『死亡』と判定した。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 明日、最終回。

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