第38話
「珠希は、最終戦……もちろん出るんだよな?」
「……ま、そうだな。一応戦力だし」
湊の言葉に頷きを返す。
「決行は一週間後。各々の幹部が最高戦力を整え、一日のうちにあの大陸国家を落とす。速攻で片付けてお前らを地球に返す」
珠希の瞳には決意が現れている。
「そうでござるか。残念ながら、拙者たちはあの首輪のせいで、まだまだ安静にしないといけないでござる」
「あぁ、万全なら俺たちだってお前と一緒に乗り込むんだがな……」
康太と大輔が悔しそうに唸る。
「だが珠希。気をつけろよ」
「あぁ、あの城はある意味で地獄だ」
「………どういうことだ?」
マリウスが眉を潜め、淳也がメガネのブリッジを指で推し上げた。
「………珠希、俺とマリウス、そして淳也は首輪の影響があったが、囚われていた時のことは大体だが覚えている」
湊が言葉を紡ぐ。
「気をつけろ。あの王は何かに取り憑かれているあれは、人間がやることではない」
「聞けば聞くほど今からぶん殴りに行きたくなる話だな」
「あぁ、クラスメートの女性陣の方は大丈夫なのか?」
「安心しろ……いや、安心しろって言い方はおかしいと思うけど、記憶もねぇし、然るべきものまで復活済みだ。ウチの支援組舐めんな」
「……それはある意味恐ろしいでござる。初めての証まで復活させるでござるか……」
ちなみにそれを開発したのはミリーナが珠希に寄せる愛の為した技である。それが思いもよらぬ所で役に立った。
「……それじゃ、そろそろ俺は帰る。エーテルにも挨拶しとかないと行けないしな」
「おう、じゃあな珠希」
「気をつけてな」
「安心しろ。次会うときは帰還する時だ」
と言って、珠希は五人の前から姿を消した。
「「「「「………なんだあの去り方。めっちゃ異世界」」」」」
「エーテル様。珠希様がご訪問なさりました」
エーテルの私室にエーテルが姫だった頃から付き従っているバトラーの声に返事を返す。
ガチャりとドアが開く音がすると、そこから一人の少年が姿を現した。
勿論、珠希である。
一応言っておくが、別にエーテルを毒牙にかけようという意味ではない。まずエーテルはそもそも14歳であり、本能的に珠希が口説く対象から外している。
「すまないな、急にお邪魔したりして」
「いえ。珠希様でしたら大丈夫です。こちらにおかけになってください」
「失礼する」
引かれたイスに珠希が腰を落ち着けると、目の前のエーテルも腰を押し付けた。
「まず、ありがとう。クラスメート達を受け入れてくれて」
「いえ、お礼には及びません。私たちが魔王様に受けた恩をこうして、珠希様を通じて返してるだけですから」
クスリ、とエーテルは綺麗な顔を綻ばせる。
「それに、恩がなくても、私たちはきっと受け入れます。珠希様はとてもお優しい方ですから」
「………そうか?」
「はい!きっとそうです!」
ふんす!と胸の前で両手をぐーにして熱説するエーテル。それを見て珠希は年下の妹を見ているようで自然と笑みを浮かべた。
「……そうか。お姫様がいうなら、そうなんだろうな」
「はい!だから自信もってください!」
「お嬢様。お茶菓子が入ります」
珠希を案内してくれたバトラーが、ティーポットとクッキーを持ってやってきた。
「……これは?」
珠希が目の前に運ばれるお茶菓子に目を丸くする。
「……その、実は私たちってあまり喋ったことないじゃないですか。これを機に、仲良く出来ればな……と」
恥ずかしそうにはにかむエーテル。その笑顔を見ると、珠希は自然と心を許せるように感じた。
(……これが王としてのカリスマってやつなのかな)
「そういうことなら、是非頂こうか。実はこっちに来てからクッキーは一度も食べてなくてね」
と、珠希はひとつ掴んで口に放り投げる。程々の甘さと、フルーツの甘い味が口内を襲った。
「……うん、凄く美味しいね」
「はい、お口にあったようで何よりです」
そして2人は、まるで仲の良い兄妹のように日が沈むまで話をした。
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